一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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そして、お待たせしました。
今後は2、3日間隔で更新していきます。

今回はドラマCDネタがあります。


第十一話。調査

 

意外かもしれないが、ナズナは基本的に訓練や遠征でもない限りダンジョンアタックに誘われることがほとんどない。

 

いつもの憎まれ口がたたったわけでも、嫌われているわけではないし、その実力も信頼されている。

だが、ナズナは少しタンクとして完成度が高すぎた。

 

ナズナの盾に打ちのめされたモンスターがぐらついた瞬間を逃さず、切り刻むか魔法を打ち込むだけ。

それだけでモンスターを倒せてしまう。

ナズナと組めば、隙を自分で作る必要も窺う必要もない。

後衛職なら、自分が狙われる恐怖もない。

 

もちろん自力でモンスターを倒さなくてはいけないのだが、そのモンスターすべてが親の仇のようにナズナ一人を狙うからそれも容易い。

 

『ナズナとの冒険は安全が保証されるが、冒険にはならない』

 

誰が言い出したかもうわからないが、ナズナのタンクとしての実力は畏怖と安心感、そしてある種の皮肉を込めてそう評価されていた。

 

「なーにが冒険にはならないだ!あーやだやだ、これだからタンクは報われねぇんだ」

 

そんなもの頼りきりにならなければいい話だし、何よりもそんだけ皮肉るくせに、ファミリアの団員たちのレベリングのために歯応えのない上層で引率をさせられるのが我慢ならない。

 

いや、それは百歩譲ってもいい。

めんどくさかったら代わってくれる人間は何人かいるわけだし。

だが、ナズナのお陰でランクアップしたものまで誘ってくれないのはなんなのか。

 

『ナズナさんに守られてばかりは嫌ッス!』

『頼りになりすぎるってのも考えものよね』

『私。あなたのように、ベートさん(大好きな人)の隣に立ちたいんです』

 

「…ちぇ、恩知らず共め」

 

見た目同様精神年齢もお子様なおっさんは、フィンやらアイズやらが仲良くダンジョンへ行ったのを思い出し、寂寥感を滲ませながら薄暗い部屋で()()()()()()()()()毛布にくるまった。

 

ナズナが今いるのは自室ではない。

ここは『懺悔室』。

まぁ懺悔室というよりは、仲間に面と向かってできない相談を、衝立越しに話すお悩み相談室だ。

元々はロキが言い出したことだったが、悪用されないようにリヴェリアが担当している。

もちろん、相談相手がリヴェリアとわかっていては相談しやすいわけがない。

 

故に彼女は『プリティーシスター・アールヴちゃん』と名乗り、衝立で見えないのを良いことに真顔(死んだ目)で『キャハ☆今日もバッチリみんなの悩みを聞いちちゃうゾ!』とか『キュピピピーン☆』とか、『キャピるーん☆』とか、心を殺して業務に当たっている。

 

正直そんな闇抱えるくらいならやめたらいいのにと思うし、その名前は正気か?隠す気ないだろ…と思わないでもないが、生来の生真面目さなのだろう。

彼女は定期的にお悩み相談室を開催しては、疲れた老人のような目で世を儚んでいる。

 

ただ、彼女とて癒しは必要だ。

そこで登場するのがナズナである。

リヴェリアはナズナを密かに相談室へと呼びつけ、好物の甘味やお小遣いによって膝枕を強要した。

 

ナズナが膝を貸す側ではなく、眠る側なのがなんとも言いがたい。

 

さらに加えて、ナズナが眠る際包まる毛布と言うのが、リヴェリアが十年近く使っている毛布だ。

癒しのためとはいえ、まるで犬に匂いを覚えさせるがごとくナズナに使用を強要し、匂いを刷り込み、寝顔を堪能するその姿はもはや歪みだ。

ついでに、何がなくとも毎朝自分の毛布をこの一室に持ち込み、ナズナが自分の毛布のところへ昼寝に来ているとニヤニヤ笑っていると言うのだから、ばっきばっきに複雑骨折した行き遅れ生娘(ヴィンテージ・エルフ)の性癖は、もはや手遅れ。

 

夕暮れ時、相談室からは不気味な笑い声が聞こえてくると言う噂が出てきているレベルだった。

 

「んー、落ち着く…」

 

ロキといいリヴェリアといい。

好きな人(家族)の匂いを嗅いで安心するナズナは、自分を取り巻く女性陣の危ない眼差しには一切気づかない。

 

それは果たして幸せなのか、不幸なのか。

呑気に夢を見るナズナにはわかるはずもないことだった。

 

 

 

 

不貞寝が本格的な午睡となり、夢の中で好物のはちみつクッキーを口に運ぼうとしたところで、ナズナは蹴り起こされた。

 

「んあ…?」

 

「起きろチビ。ロキのお守りの時間だ」

 

「あんだって?」

 

ケツを蹴られ、別に大したダメージもないくせにいたた、と腰をさそるナズナは伸びをしてから下手人を見る。

そこにいたのは不機嫌さを隠そうともしないベートだ。

 

「俺は巻き込まれるのはごめんだ。昼寝するくらい暇なら代われ」

 

彼の言葉を、半分まだ寝ている頭でなんとなく理解したナズナは、手を口元に当てて笑う。

 

「…どうせベートも暇なくせに。ダンジョン探索に置いてかれた者同士仲良くしようぜ!」

 

「うるせぇ!俺は置いてかれたわけじゃねえよ!」

 

「おやおやおやぁ?キレるのは図星の証かぁ?」

 

「このクソチビが!」

 

ベートのセリフに、一瞬ナズナの顔から表情が消える。

 

「おいおいおい、お前それフィンにも同じこと言えんのか?あいつ俺よりちっちぇぞ」

 

なお1c差。

フィンが119Cでナズナが120Cだ。

 

「はっ、さすが小さいやつは器が小せえな?下を見て安心するとか惰弱だぜ!」

 

「お、惰弱なんて難しい言葉知ってて偉いでちゅねー?下のやつってのはなぁ!多大なる安心感を与えられる貴重な人材なんだよ!ティオナを見ろ!あいつロキの胸見てたまにものすごく安心したような顔を───」

 

ごとり、と。

まるでバカな会話を続ける二人を咎めるように、懺悔室の天井の煉瓦が二つ頭に落ちてくる。

二人とも急な心霊現象に黙り混み、互いの顔を見やる。

 

「ここは貧乳の間か?まぁ確かにリヴェリアも案外小───」

 

懲りずに口を開いたナズナの頭へと煉瓦のお代わりが振り下ろされる。

ちなみに、リヴェリアはレフィーヤをしてお胸がお着痩せになる、と言わしめるほどのものを一応持ち合わせているので貧ではない。

 

まるで意思があるかのような現象に、いよいよもって肝を冷やしたノンデリ男二人は、すごすごと部屋を出るのだった。

 

「なんだよこの部屋。こえーよ…」

 

「俺は二度と来ねェからな!?」

 

 

 

 

「調べ物ねぇ」

 

本当にお守りを押し付けて消えたベートと別れ、ロキと合流したナズナは、めんどくさそうな顔を隠さずに呟いた。

 

「そ、調べものや」

 

それとは真逆に上機嫌なロキは、中天にかかる太陽のように眩しい笑顔を浮かべている。

 

「実は昨日から、うちなりに調べて回っててなぁ…今は見逃したところがないか、詰めとるところ」

 

ロキは怪物祭からの二日間、独自に東のメインストリートを調査していたことをナズナに語って聞かせる。

そんな話を耳をほじりながら適当に聞き流すナズナとロキはやがて、メインストリートを外れ、薄暗い道を進んでいく。

豪奢なホテルから安宿へ、さらには怪しげな宿へと移り変わっていく中、ロキの足が止まった。

 

「街中はあらかた調べたし、残るはここしかないなぁ」

 

二人の視線の先にあるのは、下水道へと繋がる小さな小屋だ。

率先して扉を開けようとするロキを制して、ナズナが扉の取っ手へと手をかける。

 

「…開いてるな」

 

ダンジョン内からではなく外からとはいえ、モンスターが入り込んでいることが確認されている下水道。

そこと繋がる扉の鍵が開いてるというのは、あまりにも無用心が過ぎた。

 

「とりあえず降りよか」

 

「はぁ…なんて暗い休日なんだ」

 

「まあまあ。後でご褒美もちゃーんと用意したるから、な?」

 

階段を下り、下水道へと出た二人を出迎えるのは今にも寿命がつきそうな小さな魔石灯の明かりと、水流の音。

そんな音を聞きながら、ナズナは先程の午睡を思い出して、リクエストすることにした。

 

「ならお酒より甘いのがいい」

 

「んー?ナズナはうちとの甘いキスがお望みかぁ?」

 

「………」

 

「ちょお!?無視はやめぇや!」

 

賑やかしい二人組は、やがて広い主水路へと出た。

ロキが手に持つ携行用の魔石灯の光が照らし出す道の両端には通路がある。

 

「よっと」

 

「……なにそれあざと!?え、なになに?ナズナってばそんなあざといことどこで覚えてきたん!?」

 

「うるせー!振り落とすぞ!?」

 

会話の邪魔になる程度には激しい水流から守るように、ロキをお姫様抱っこしたナズナは、ニマニマとからかってくるロキを手放すか一瞬迷うも、結局そのまま進んでいく。

 

途中魚のモンスター『レイダーフィッシュ』が襲いかかってくるも、危なげなく撃退されたり、しっかり水しぶきがロキにかからないように足の部分に鎧を展開して高さを稼いでいたり。

自分を配慮してくれるレベル7の腕の中という、世界で一番の安全圏に確保されたロキはご機嫌そのものだ。

 

横路に階段に橋。

下水道にしては入り組んだ下水道を慣れたようにナズナは探索していく。

この程度ならダンジョンと比べるまでもない。

 

「おっ?」

 

「こっから先は旧い方だろうな。新しくつくって放棄したって話を、どっかで聞いたし」

 

範囲を絞りながらも、あらかた探索して最後にたどり着いたのは、大きな錠前によって閉じられた下水道の扉よりも厳重な鉄扉だ。

糸目を薄く開いたロキは、ポツリと呟く。

 

「なんか臭うなぁ?」

 

「そうか?この下水道魔石製品の浄水柱のお陰で綺麗なもんだろ?飲めるらしいじゃねえか。俺は飲みたくないけど」

 

「ちゃうちゃう!怪しいって話や!そんなベッタベタなボケせんといてーな!?」

 

浄水柱。

紫紺の煌めきを放つそれは、等間隔で並ぶ柱の間をすり抜ける汚水を清潔な水へと変える浄化装置だ。

ナズナにその仕組みがわかるはずもないが、この技術がとんでもなく高度なものだということは理解していた。

 

「はいはい…」

 

突っ込んであげたのにその態度はなんやー!と叫ぶロキをしっかり抱き寄せると、ナズナは顔を錠前へと近付ける。

そして、躊躇なく口へ含んだ。

間を置かず、口の中からばりばりごりごりと、まるで煎餅を食べるような音が鳴り、あっさりと飲み込んだ。

 

「…へっ、オリハルコン製にしないのが悪い」

 

「うーん、この理不尽」

 

「さ、いこうぜ。とりあえずなんかあるだろ」

 

ロキを持ち直したナズナは、鉄扉の奥に広がる闇の中へと踏み出した。

 

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

2巻はたぶん短くなります。
出したいキャラがいたのと、ナズナのキャラの掘り下げにちょうどいいので地上でお留守番です。
次回番犬時代の話が少し出ます。

心に優しい評価や感想頂けるととても嬉しいです。
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