一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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ソード・オラトリアを12巻まで読んでらっしゃる方は今回の話で「ん?」となるかもしれませんが、念のため直接的なネタバレはお控えください。
まあ二次創作小説なので、問題はないと思いますが。
逆に12巻までの内容を知らないという方は、今話ではありませんが今後ネタバレがあることにご注意ください。

※あらすじにAI生成したものに加筆したイメージ画像貼ってあります。


第十三話。純白

 

そこにいたのは一人の知り合いのエルフと見たこともない男神だ。

ロキにディオニュソスと呼ばれたその神は、微笑めば異性が思わずとろけてしまうような甘い美顔(マスク)と柔らかい金髪の持ち主。

有り体に言えば、いけすかねータイプの男神だった。

 

「…ぺっ」

 

ナズナはイケメンの登場に露骨に顔をしかめ、流れるように地面へ唾を吐き捨てる。

 

「おい!?」

 

それを見咎めるように叫ぶエルフに、ナズナは親しげに手をあげた。

 

「よぉフィルヴィス。元気そうだな」

 

「あ、あぁ。あなたのお陰で私は今日も生きている…じゃなくて!私の主神にその態度はやめてくれ!」

 

「えー、俺イケメン嫌いなんだけど…」

 

「確かにディオニュソス様はカッコいいが!」

 

「うわ惚気だよ」

 

ファミリア以外のエルフには構ってほしさの憎まれ口とかではない、ごく普通の罵倒を繰り返すナズナではあるが、数人だけ仲のいいエルフがいる。

 

そのうちの一人が、目の前にいるフィルヴィス・シャリア。

白巫女(マイナデス)】の二つ名を持つLv.3のエルフの冒険者だ。

宝石のような赤緋の瞳と白い肌、濡れ羽色の美しい髪という実に美しい容姿をしている。

 

「ナズナの知り合い?こんな美人と浮気か?リヴェリアに言いつけるで!?」

 

「急に興奮するなよ、情緒不安定か?」

 

人よんで死妖精(バンシー)

ローレライと同じく、有名な伝承のある妖精であり、『死を予言する』という言い伝えがある。

バンシーが泣くのは死が訪れる人間が素晴らしい人物だったときに限るらしいが、残念。

この名前につけられた不吉な印象がどうにもついて回っていた。

 

本来なら人々を惑わせ死に至らしめるローレライとはまるで真逆だ。

ナズナは生存の象徴として、あるいはモンスターへの絶望として冒険者からは有り難がられている。

逆だったかもしれねぇ…、なんて冗談はさすがに口には出さないが。

 

なにかと対極な二人が知り合ったのは6年前。

 

27階層の悪夢と呼ばれる事件の最中だ。

闇派閥の連中が捨て身の怪物進呈(パス・パレード)によって有力派閥のパーティーを27階層で纏めて嵌め殺した事件。

階層中のモンスター、果ては階層主まで巻き込んだ敵味方入り乱れての混戦は地獄絵図と化した。

 

鮮血が染み込んだ赤黒い灰の海と、敵味方区別のつかない死体の山。

それを咀嚼するモンスターたち。

そんな光景が27階層で至るところで目撃されたという。

 

フィン曰く、この騒動は単なる隠れ蓑。

彼らは死を偽装するためだけにこれだけのことをしでかした。

()()()()()、今の闇派閥の本拠地は手薄。

もう間に合わない27階層への救援ではなく、敵への襲撃を行う。

それこそがすでに死んでいった仲間たちへの弔いであり、現在も闇派閥に襲われている誰かを助けることにも繋がると。

 

───ナズナ。君だけを27階層に送り込む。すでに間に合わないとしても、まだ助かる命はあるだろうからね

 

ナズナはそれを二つ返事で了承した。

そしてフィンたちは神々の協力のもと、見事『邪神』と呼ばれていた闇派閥の神々を数多く送還させ、闇派閥は肝を冷やすことになる。

ダンジョン内で恩恵を封印され、あの階層にいた誰よりも弱い存在となった彼らの多くは無様にモンスターに食われることになった。

 

そんな状況でナズナは。

 

『よぉ。あんた白巫女だろ?生きてるようで何よりだ』

 

『ああ、そう。仲間を助けに戻る?いいね、そういうの嫌いじゃない』

 

『パーティーは全員瀕死、目の前にあるのは気持ち悪い緑の肉』

 

『縦穴で27階層に落ちてきてみれば、まさか早々にこんな場面に出会っちまうとはな』

 

『俺の目の前に、悲劇は要らねぇ』

 

『さっさと死ね』

 

彼は、27階層で当時まだ生存していた冒険者をすべて救出して見せた。

フィルヴィスも瀕死の仲間を助けるべく、緑の肉へ立ち向かおうとしたところでその()()()()()()()()()()()()ナズナに救出されている。

 

「私は。いいや、私たちはあの時確かに救われたのです」

 

「そんなこともあったようななかったような…」

 

フィルヴィスの語る過去に、ナズナはどこか居心地の悪そうな顔をする。

フィンの無慈悲とも言えなくもない判断もそうだし、あまり真正面から持ち上げられるのにも慣れていない。

 

「つまりあん時から、闇派閥は緑の化物を飼い慣らしてたっちゅー話やな」

 

「んー、言われてみると似てる気はするけど。どうだろうな」

 

当時のナズナは、あの緑肉を爆発で消滅させたあとあの時瀕死のパーティーに持ち込んだエリクサーをぶっかけ、他の冒険者の救助に向かったりと忙しかったのだ。

約一名、ディオニュソス・ファミリアの全員を置いて逃亡したという彼らの仲間は見つけられなかったが、動くモンスターをすべて殺戮し、襲われていた冒険者たちにエリクサーをぶっかけて回っていたので、それのうちの誰かなのだろう。

後日フィルヴィスに無事だったと聞いているし。

 

以来フィルヴィスのパーティーが死にかける事件が頻発したが、幸いなことにそのすべてにナズナが間に合っている。

 

まるで()()()()()()()()()()フィルヴィスが誰かに恨まれているようだ、と感じたナズナはしばらく気にかけていたが、最近はそれも落ち着いている。

その誰かが忙しくなったのか。

あるいはただの気のせいか。

 

真相は闇の中だ。

 

 

 

 

 

話がひと段落したところでナズナが唐突に両手を打った。

 

「ああ、思い出した。あれフィルヴィスの魔法のあとか」

 

「……なんだ、あなたもあそこに行ったのか?」

 

「んー、まぁ。今さっきな」

 

訝しげな目線を向けるロキと、若干気まずそうな顔をするディオニュソスに気づかない眷族二人は、会話を続ける。

 

「お前が先に足運んでたなら処理しといてくれてもよかったんたぜ」

 

「どうやらあのモンスターは魔力に反応するらしくてな…。いくら私が魔法剣士と言えど、多勢に無勢では分が悪い」

 

「そんなもんか?」

 

どんどんと鋭くなっていくロキの目線に、観念したように肩をすくめたディオニュソスはフィルヴィスへと声をかけた。

 

「フィルヴィス。そろそろ()()の紹介もしてくれるかい?あと、ロキの目線も怖くなってきたから、事情を話すためにも移動したい」

 

「は、はいっ。()はナズナ・スカディ。何度かダンジョンで助けてもらいました。恩人です」

 

「どーも、神ディオニュソス。お初にお目にかかります」

 

都合四度。

ナズナはフィルヴィスがパーティー全滅一歩手前の危機に陥ってるところに出くわし、そのすべてを生還させている。

故にフィルヴィスは死妖精などと呼ばれているのだ。

 

彼女はあまりにも死を呼びすぎる。

それも、不自然なくらい。

 

「ああ君があの守護妖精(ローレライ)か。あまりにも可憐な乙女だったからさっきの話を聞いても気づけなかった」

 

「…男ですけど」

 

「なんだって?」

 

まじで?みたいな顔で自身の眷族の方へ振り向くディオニュソスに、フィルヴィスは頷く。

本当にこの男は見た目だけはいい。

多くの冒険者が詐欺だと叫ぶ容姿はどうやら神すらも惑わすらしい。

 

「すまない。まさか私としたことが花と見間違うとは」

 

「酔ってるんすかね?」

 

「ははは、これは手厳しい」

 

軽く頭を下げるディオニュソス相手に鼻をならすナズナは、別に冗談を言ったわけではない。

 

「いや、普通に葡萄酒の匂いが」

 

「え?」

 

ぎくり、と固まるディオニュソスに構わずナズナは匂いから記憶をたどるように目をつぶった。

 

「…ん?しかもこれは、あの歓楽街から昼間出稼ぎに来てる娼婦たちが経営する伝説の───「おおっと!私としたことが!先ほどつい豊潤な香りに誘われて、つい!葡萄酒だけ!葡萄酒だけを口にしてすぐ立ち去ったつもりだったのだが!まさか自分の衣装に香りが移っていたとは!見抜けなかった、この神の目をもってしても!HAHAHAHA!」……そっすか」

 

だらだらと冷や汗を流し、早口で捲し立てる姿に初見時の貴族然とした余裕はない。

 

それもそのはず、先ほどまで和やかに談笑していたフィルヴィスからとてつもない怒気が発せられているのだ。

その瞳にはどす黒い感情が渦巻き、拳を作ったその手が、ミシッ!と細い指に似つかわしくない音を立てる。

 

「落ち着いてくれ、フィルヴィス…」

 

「言葉は慎重に選んでくださいディオニュソス様。今、私は冷静さを欠こうとしています」

 

神の矜持で声を震えさせまいとする主神に、フィルヴィスは淡々と返す。

 

「私が、あなたの。あ、な、た、の!命令で調査としてこの路地街を奔走している間にご自身は趣味を堪能していたのですか?」

 

いや違った。

冷静な振りをできたのは最初だけだったらしい。

 

よく見ればフィルヴィスの靴に泥が跳ねたあとがある。

…たぶん走り回ったんだろうな、とナズナはフィルヴィスの苦労を悟った。

 

「い、いやぁそれはどうだろう。そうとも言えるしそうでもないとも言える。真実は見るものによって姿を変える、世の中そういうものだと思わないか?」

 

だから、のらりくらりと追求を躱そうとするイケメンに嫌がらせをしたいナズナが、さらに火に油を注ぐために口を開く。

 

「ちなみにそこ、顔がよくないと入れてもらえなくて、酒をいっぱい頼んだらいっぱいやらせてくれるって言う素敵な店で…」

 

「…ディオニュソス様?」

 

「まぁまぁ。男なら誰だってあの誘い文句には抗えねーよ。むしろプラスに考えたらどうだ?あんたの主神も下界を楽しんで「あなたは黙っていてください!私の苦労も知らずに!」…はい」

 

なんだかこちらに飛び火しそうな気配を感じたナズナは大人しく黙る。

口を閉じ、静かに合掌するナズナにロキが尋ねた。

 

「なぁなぁ、あとでその店教えて?」

 

「いいけど女神が相手してもらえんのか知らねーぞ 」

 

「フィルヴィス…あの、フィルヴィスさん!?ああっ、そんな綺麗なフォームの拳で!?───ぐはぁぁぁぁ!?だ、誰か!ていうかそこでのんきに見てるお二人さん助けてぇ!」

 

「「……」」

 

ロキとナズナは互いの顔を無言で見つめ合い、一度怒髪天をついたフィルヴィスを見て、流れるように空を見上げた。

 

「今日はええ天気やなぁ!」

 

「うん、太陽が眩しい!」

 

レベル7や神でも怖いものはある。

触らぬ神に祟りなし。

現実逃避万歳。

 

ロキとナズナは、とりあえずしばらく心を無にして空を眺めることにするのだった。

 

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
必要だから飛ばせないけど中身は薄くなる回でした。
すいません。

心に優しい評価や感想頂けるととても嬉しいです。
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