一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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アストレアレコード編に引き続き、誰に需要があるかもわからない作者の書きたいだけシリーズ二つ目。
なんだか思っていたよりも重くなりましたが、ナズナの過去と出会い編です。



第十五話。家族

 

目の前にある茂みを掻き分けるようにして男は必死に逃げていた。

 

「クソ、クソ、クソっ!エルフってのは間抜けじゃなかったのかよ!」

 

男は、それなりに名の通った盗賊だった。

小国の路地裏で生まれ、今まで他人を踏み台にしてのしあがってきた。

欲望を我慢せず、殺し奪う。

そうして生きてきた男の欲は、自分でコントロールできないところまで膨らんできていた。

 

男の背中に刃を突き立てるのは常套手段。

老人から大金を騙しとることになんの罪悪感も覚えない。

泣きわめく女子供を蹴りあげるとき、その鈍い音に絶頂すら覚える。

 

男は分かりやすく屑だった。

 

そんな男が、エルフと言う種族に目をつけたのもその強欲さ故だ。

あるいは、ただの人間の自分が見下されているなどという被害妄想から出た、身勝手な義憤だったかもしれない。

 

エルフは頭でっかちで、傲慢な間抜け。

そんなイメージを持っていた男にとって、今回の盗みは容易いはずだった。

頭の悪い下っ端を何人か引き連れて、意気揚々とエルフの森へと足を踏み入れた彼は今、体に擦り傷を作りながら必死に逃亡していた。

 

五人はいた手下はもういない。

既に番犬の餌食になった。

 

「ハァ…ハァ…ッ!ゲホっ」

 

背の高い雑草を踏みつけ、男は走行を中断した。

息を整えるために大木に背を預ける。

身を屈め、いつでも走り出せるようにしつつ辺りを油断なく見回している。

 

「──────!」

 

「ひっ……!」

 

直後、音もなく男の顔の横に矢が生える。

無音の狙撃。

避けれたのは一重にむせて頭が下がったお陰だ。

 

「逃げないでくんないかなぁ…あんたがエルフ共に追いつかれると、俺が痛い思いするんだけど」

 

まだ声変わりもしていない、気だるげな幼い声が男へと投げ掛けられた。

声がした方へ顔を向ければ、木の枝の上に立つ少年がこちらへ矢を向けていた。

 

「うるさい!ガキの癖に、俺に指図するな!」

 

男は矢が放たれると同時に、前へと転がり再び走り出す。

 

「……めんどくさ」

 

少年は弓を背中に仕舞うと、鎖を使って森を移動し始めた。

 

 

───男は再び追い付かれていた。

 

 

だが、今度男を狙うのは少年だけではない。

複数の身綺麗で騎士のようなエルフが魔法を詠唱しながら後ろに控えている。

 

その中でも特別眉目秀麗な一人の男が、死んだ目をしている少年へと指示を出した。

 

「やれ、番犬」

 

「はいはい……」

 

せめて一太刀浴びせてやる、と構える盗賊の男に向かって鎖が伸び、男の後ろ。

少年と男を繋ぐ延長線上にある木へと巻き付く。

その鎖がぐん、と引っ張られ一気に距離を詰める。

 

一直線に近づいてくる少年を盗賊は容易く切り払うが、それは致命的な隙だ。

剣を振り抜いた姿勢で固まる盗賊と、血を流しながら地に伏せる番犬。

 

───そんな二人をまとめてエルフの魔法が焼き払った。

 

「あー痛い……」

 

ナズナ五歳。

職業番犬。

早熟な幼子は、今日も今日とて逆らえば電流の流れる首輪を嵌められながら、ぼろ雑巾になっていた。

 

 

 

 

 

───私たちがお前に痛みを強いるのは、家族だからだ。わかってくれるな?

 

「はー、ほんとクソ。クソだなクソ。クソしか出ねぇ~。いや、うんこしてるわけじゃなくて。まぁ、エルフなんてうんこだけど。じゃあ一緒かぁ!あっはっはっは!」

 

はぁ…と、空元気をやめたナズナは、木の洞に隠れた小さな泉から這い出る。

 

「今日のは特別きつかったなぁ…また傷が増えたし、魔法の出力も遠慮なくなってきたし」

 

最低限清潔にしたぼろ布を纏い直し、弓と鎖を肩に背負う。

そして、雨風をしのげるいつもの洞穴(ねぐら)に帰ろうとしたその時、ナズナは一人のエルフに話しかけられた。

 

「───あなたは?」

 

「……お目汚し、申し訳ありません。何卒ご容赦を」

 

あーあ、エルフにばれた。

この泉取り上げられるんだろうなぁ。

ここ使えなくなるのか。

入ると傷がちょっとは癒えて助かってたんだけどなぁ。

そんなことを思いながら、ナズナは五歳とは思えないほどの礼節をもって頭を下げる。

 

ナズナの頭はそれほど良くない。

だから痛みを伴う経験を持ってしても覚えれたのは謝罪の言葉だけだ。

それでも、それ以外の礼節をナズナは使ったことがないから別にいいと思っていた。

 

一方、頭を下げられた方のエルフは混乱していた。

彼女の名前はアイナ・リンドール。

始祖(アールヴ)を名乗ることこそ許されていないが、ハイエルフと同じ先祖の血を引く傍系であり、ハイエルフのリヴェリア専属の侍従だ。

翡翠色の髪が僅かに風にたなびき、生来の穏和さと優しさが滲み出たその顔が、僅かに曇る。

 

なぜ子供が一人でこんなところにいるのか、城で見たことのない人間がどうして森にいるのか。

そもそも、その血の臭いが強く染み付いた体でどこに行こうというのか。

たまたま通りかかっただけのアイナはなにもわからない。

 

「えっと……もう行っていいか?」

 

「ダメです」

 

「はぁ…?」

 

だが、そんな疑問を全て蹴飛ばすようにして、アイナはその少年の手を取った。

 

「まずは治療!そのあとに事情聴取です!」

 

 

 

 

 

 

 

「リヴェリア様、お話があります」

 

アイナは、父に呼び出され不満を溜めるリヴェリアが口を開くよりも早く、頭を下げた。

 

「……なんだ?」

 

『慎みを持て』

『外の世界に興味など持つな。あそこは穢れた地だ』

などと、自分の外への憧れを否定され、アイナに思いの丈を聞いてもらおうと思っていたリヴェリアは、その怒りを全て飲み込んだ。

 

「この森を出るのにご協力ください」

 

「え」

 

あるいは、別の世界線でなら自分が言い出したであろうことを普段は穏和なアイナが言い出したことに驚いて、リヴェリアから思わず間抜けな声が出る。

 

「リヴェリア様は『スカジの一族』を覚えてらっしゃいますか?」

 

「あ、あぁ。迷信に踊らされた愚かなエルフ達の被害者だ。だが、それこそ父上が百年前にそんなものは事実ではないと切って捨てたのだろう?彼らは穏やかに暮らしていると「───違いますッ」」

 

王族の言葉を遮ってまで、アイナは感情を爆発させる。

 

「彼らは。いいえ、彼は。今なお虐げられています。親をなくし、頼る者もない彼は、未だに偏見を捨てられないエルフ達にひどい扱いを……!」

 

涙がこぼれそうになるほど悲しむアイナをリヴェリアはそっと抱き寄せる。

 

「詳しく聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

リヴェリア達の作戦は、そう複雑なものではなかった。

自分達が本気の逃走を行うことで、森中の注意を引き付ける。

そして、その間にナズナには首輪の鍵が保管されている場所へと行ってもらって、一人で森を出てもらう。

そうすれば彼はついにエルフと言う種族から解放され、自由を手に入れる。

 

そんな机上論は、露と消えた。

 

「嘘……」

 

「…!おい、しっかりしろ!やめろっ、死ぬなッ!?」

 

計画は途中まで順調だった。

だが、彼女達は見誤った。

ナズナの花言葉通りな献身性を。

 

───彼は、逃げなかった。

 

ナズナは追い付かれそうなリヴェリアたちを降り注ぐ魔法から庇い、アイナへと振るわれた槍に貫かれた。

 

心臓ではないが、肩を貫通し地面に崩れ落ちるナズナへと思わず駆け寄るアイナたちは、他ならぬナズナに突き飛ばされる。

 

「なぜっ、私たちなんかを…!」

 

「なんでだろうなぁ。……たぶん、嬉しかったんだ。俺みたいなのに優しくしてくれた人がいたのが。ああ、世界もまだ捨てたもんじゃないって、思えたから」

 

「このっ、番犬風情がぁ!」

 

「行けよ、お二人さん。俺はきっと大丈夫だから」

 

にこり、と笑うナズナは激昂した騎士団長の剣をするりと躱す。

 

「それにほら、首輪も取れた」

 

つんのめった騎士団長を、どんと蹴るとナズナは宙返りをして地面へと着地する。

その手に、騎士団長から奪い取った宝剣を携えて。

 

「今度会ったら、もっといい首輪をくれ。あんたらからのなら、痛くなさそうだ」

 

リヴェリアとアイナは自分たちの無力さを噛み締め、走り出した。

 

「ほらほらどうしたぁ!?飼い犬に手を噛まれたので助けてくださぁいって、王族(パパ)に泣きついたらどうだ、ゴミカスエルフども!」

 

拙い嘲笑は敵を引き付ける。

今はまだ囮となって守りたい誰かを逃がすことしかできないが、いずれは盾になれたらいいのになんて。

つい昨日までの自分なら絶対思いもしないだろうその気持ちに、ナズナは薄く笑った。

 

「え、く、す、かりばー!って叫んだらビームとか出ないの?出ない?えぇ…役立たずの鈍らかよしょうもねぇ」

 

「貴様ッ!我らが誇りを愚弄するか!」

 

「そんなの知りませぇーん。べろべろばー!」

 

───この事件のあと王族に事の次第が発覚し、騎士団が処断されるのだが、始祖の森で差別があったことは公表されていない。

なぜなら、彼女たちの門出に水を差したくなかったナズナが断ったからだ。

 

リヴェリアとナズナが再会するのは約一年後。

 

『ショタエルフ取ったどー!』

 

纏うのではなく、『()()()()()()()()()()()』という体質に合わない魔法の行使で休養中の隙を、ロキに捕獲されるというサプライズで果たされる。

 

『家族だから痛みを強いて当たり前?』

 

『ふざけたことを抜かすな!』

 

『家族はそんな一方的な関係で成り立つものではない!』

 

『…私は魔導士だ』

 

『お前が身を呈して私たちを守ると言うなら、お前を私が助ける』

 

『覚悟しておけ!?お前が嫌と言うほど、私が愛してやる!』

 

一年後、ナズナに家族愛鎖が発現する。

 

ナズナは家族を得た。

一人じゃなくなった。

 

だから、ナズナは幸せだった。

 

「んー……」

 

隣で眠るリヴェリアの体温を感じながら、ナズナはより深い眠りへと落ちていった。

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

リヴェリアたちが逃げた先では概ね原作通りの展開が行われていました。
強いて違う点を言うならナズナが無事森を出たという王様からの言伝が、数日後リヴェリアたちへ届けられたくらいでしょうか。

なぜナズナがリヴェリアの寝床にいたかは次回ということで。
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