一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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ハッピーハロウィン!(断末魔)
なんのイベント性もない、いつも通りの平日でしたが作者は元気です。


第十六話。神酒

 

「ん…朝か。起きろナズナ」

 

「うえええ…あと一時間………いや、二時間」

 

「伸ばすな」

 

朝チュン。

同じベッドで横になる男女。

それだけ聞くと色気のある話に見えるが、残念ながら今のところそんな雰囲気はなかった。

 

…少なくともナズナの視点では。

ナズナはただ、昨晩アイナへの手紙を書くからと呼び出され、そのままリヴェリアの思い出話をひたすら聞かされて寝落ちしただけだ。

そのせいで昔の夢を見る羽目になったが、まぁそう忘れられるものでもないので仕方がない。

 

妙につやつやしているし、自分の唇を撫でてニヤケるリヴェリアに気付くことなく、微睡みに浸るナズナはその危機感のない顔を枕に埋めたままだ。

 

「今日は買い物に付き合ってもらうぞ」

 

「やだ」

 

「付き合ってくれるのなら、なにか酒を」

 

「んー、今日は休肝日だし」

 

「なに…?」

 

「最近酒飲まない日つくってんだよ」

 

ちなみに、最近とは三年前からである。

神ほどではないにしても、エルフという長命種からすれば三年はあっという間だ。

時間感覚がじじいばばあじゃねえか、という鋭い意見もあるかもしれないが、ナズナからすればそれは当たり前のことだった。

エルフは化石。

 

「なら、メインストリートのあの…アレだ。焼き菓子のうまい……なんと言ったか」

 

必死に思い出そうとして、頭を悩ませるリヴェリアの方を目線だけ動かして確認したナズナは、ぼそりと一言呟いた。

 

「寝ぼけてんのか?それとも普通にボケ───ぐふぅ」

 

「なにか?」

 

「なんでもないでーす」

 

拗ねたように布団に潜り込むナズナは、リヴェリアに殴られたとて大したダメージでもないので、気にすることなく睡眠に戻る。

その態度に本気で買い物に付き合うつもりがないことを悟ったリヴェリアは、最後の手段を切ることにした。

 

「仕方ない…なら付き合ってくれたら私の処じ───「言わせねぇよ!こえーよ!重たいよ!たかが買い物だろ!?」…ふっ、なんだ?買い物に付き合ってくれる気になったのか?」

 

布団から飛び起きたナズナは、愉しげに笑うリヴェリアの顔を見て、疲れたようにため息をついた。

 

「はいはい降参。わかりました行きます。行きますよ。行けばいいんだろ?あーあ、今日は一日寝るつもりだったのに……」

 

「顔がにやけてるぞ?」

 

「老眼だろ」

 

 

 

 

「お、たこ焼きの匂い」

 

「待て、そっちは横道だっ」

 

「あむ、はふ…っ。…なぁリヴェリア。たこ焼きとイカ焼きって名前似てるのになんであんなに見た目ちげーの?」

 

「はぁ…はぁ…そんなこと、私が知るか…!」

 

「え、なに?次は焼きそば?ハイエルフ様ってば食いしん坊だなー」

 

「言ってないだろうそんなこと!?」

 

穏やかな陽気に包まれるメインストリートを歩くリヴェリアは、すぐ出店に釣られて横道にそれるナズナの首をつかみ、時に取り逃がし、目的地へと向かっていく。

 

「やっと着いた…」

 

そうして、まるで言うことを聞かない犬の散歩のような振り回され方をしたリヴェリアは、店につく頃には疲労困憊になっていた。

 

着いた先は冒険者通りに面する敷地にある二階建ての道具屋『リーテイル』。

アイテム、と言っても色々あるがリーテイルはそれこそなんでもある。

ポーションに解毒薬、エリクサーなどを各商業系のファミリアから仕入れて似た効果でも微細な違いを持つ商品が多数仕入れられてたり、食料雑貨と銘打って酒の類いが置いてあったり。

アクセサリーや小物、食器類。

 

冒険者が買うものならなんでも揃えるという店側の心意気を感じる品揃えだ。

もちろん、冒険者用のアイテムは専用のファミリアの出している店に出向く方がより質のいい物が手にはいるが、普段使いの安価なものであれば、メインストリートに面したこちらの店で購入する、という冒険者が多いのは事実だった。

 

とりあえずなんか面白いものないか見てくる!とリヴェリアに告げたナズナはもう見えない。

店内の娯楽雑貨のある二階へと消えていった。

 

「…エイナか?」

 

「えっ」

 

そんな品揃えのいい店で、目的のポーションの類いが置いてある棚を見ていたところ、リヴェリアは知り合いの姿を見かけた。

知り合いと言っても、会ったのは十数年前で、それも相手がかなり幼かった時の話だ。

あの頃はまだリヴェリアのレベルもそこまで高くなかったことから、都市からの外出許可も今より降りやすかった。

会いに行っていた本命はリヴェリアと共に森を出た従者のアイナだったが、その娘であるエイナとも何度か顔を合わせていた。

 

都市最強の魔道師になってしまった最近ではもうろくに外出許可が降りず、手紙のやり取りがメインとなってしまっているが。

 

「リヴェリア様!?」

 

「やはりお前か。久しいな、少し見ないうちに随分と綺麗になった。見違えたぞ」

 

少し(十数年前)。

ナズナがその場にいたのなら、呆れられるか、からかわれていただろう。

もっともそんな自覚本人にはないのだが。

 

「お久しぶりです。ご連絡しようとは思っていたのですが、ギルドに入ってしまったのでそう易々とは…」

 

「気にするな。元気そうで何よりだ。私もこの都市に身を置いてからはダンジョンにもぐる毎日だ。ずるずると後回しにしてしまう気持ちはわかる」

 

恐縮しながらも、エイナからは過度な堅苦しさは感じない。

それを嬉しく思いながらも、同時に少しばかり疑問に思ったリヴェリアは、素直に尋ねることにした。

 

「しかしその程よい砕け具合。誰かにレクチャーでも受けたのか?その者には是非とも他のエルフにも啓蒙活動してもらいたいものだな」

 

「ええと、その。……ナズナさんに仕事中に他の冒険者と接するのと同じような感じでいいと」

 

「あいつか…」

 

あははは、と笑って誤魔化すエイナの顔には冷や汗が一つ。

エイナの脳内には、たまに顔を見せにやって来ては妙に自分の母と意味深に見つめ会う瞬間のあるナズナの呑気なサムズアップが浮かんでいて、今更ながらに後悔していた。

思い返せばどうしてあんなろくでなしのアドバイスを聞こうと思ったのか。

ハイエルフへの尊敬はないし、自分の父をキャバクラへと誘うし、酒にも時間にもだらしない典型的な冒険者。

 

『お母さんー?エイナねー、大きくなったらナズナと結婚するの!』

 

『あらあら』

 

『なぁおっさん。妻子持ちだと息も詰まるだろ?そこでどうだ、ここにみんな大好きおっぱいを拝める素敵なチケットが2枚ある』

 

『みんな大好き…』

 

『おっぱいだ。別に悪いことをするわけじゃねえ。ただ魔法のチケットを消費するだけだ』

 

『なるほど、頭いいな君!』

 

『あなた?』

 

昔あれに憧れを感じていたという過去を消し去りたい。

現状のエイナの好み(白兎)のことを考えれば、ナズナの爪痕(ショタ性癖)が見えないこともないのだが、エイナにとってナズナはもはや自分の恥ずかしい過去を知るうざい親戚のおじさんのようなポジションになっていた。

 

「すいません失礼でしたよね……」

 

「ん?なに、気にするな。実際その尊敬と気安さの同居した距離感は私が好むところではある。そのままでいい」

 

なんとなくナズナにしてやられたような気がするから若干思うところがあるだけで、エイナとの距離感に心地よさを感じているのは事実だった。

ナズナほど遠慮なくとは言わないが、こういうのでいいんだよこういうので。とリヴェリアは内心でごちる。

 

「リヴェリア様はどうしてここに?」

 

「私は冒険者らしくアイテムの補充だ。荷物持ちにナズナも連れてきたんだが、あいつは今二階にいる。エイナの方はどうした?」

 

「その。少しソーマ・ファミリアのお酒について勉強したいと思いまして」

 

ちらり、と目線が確認するのは一つの酒瓶だ。

透明なガラス瓶で白紙のラベルにただ『ソーマ』と書かれているだけの酒だが、他のに比べて明らかに売れ行きがいい。

お値段なんと六万ヴァリス。

飲んだこともないお酒にそれだけのお金を払えるほど、エイナは飲兵衛ではなかった。

 

「ほう、この酒か。私のファミリアでも愛好している者は多いな」

 

「……このお酒を嗜んでいる方で、依存症とか、少し普通じゃない症状を引き起こしている方はいらっしゃいますか?」

 

エイナが少し、迷うようなそぶりをしながら踏み込んだ質問をしてくる。

そこにリヴェリアは何らかの意図を感じながらも、思い当たった答えを告げてやる。

どうせ身内の恥だ。

リヴェリアの恥ではない。

本人にとっては休肝日を作るくらいには黒歴史らしいが、いい薬だ。

 

「一人、ランクアップしたな」

 

「え?」

 

「いやなに。ナズナの話だ。あいつはとある酒場で出されたこの酒でべろんべろんになり、常軌を逸した行動によってレベル7になった。……だが、エイナが聞きたいのはそういうことではないのだろう?」

 

片目をつぶり、エイナを見つめるリヴェリアを前に、観念したように彼女は白状した。

 

「うっ、はい。その、担当している冒険者がソーマ・ファミリアの方とパーティーを組んでいて。他の団員の方の様子を見ているとつい、なにかトラブルに巻き込まれてしまうのではないかと……」

 

その少女の献身に、リヴェリアはギルドの職員としての領分を越えている、という小言を引っ込めた。

これが若さか、と少し眩しいものを見るように目を細めながら、リヴェリアは微笑んだ。

 

「まぁいい。生憎私は詳しくないが、あの派閥の事情に少なからず精通している人物なら心当たりがある」

 

「えっ?」

 

「付いてくるか?私たちの【ファミリア】のホームに」

 

 

───このあと、ソーマの匂いにつられたロキからソーマ・ファミリアの実態が語られたり、妙に落ち込んでいたアイズがランクアップしてレベル6になったりしたが何事もなく一日は過ぎていった。

 

ナズナは黒歴史を思い出して悶えた。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。 
3巻が始まりました。
この巻は大事なイベントが多いので頑張ります。
ただ、導入の回なので少し内容が薄くなって申し訳ありません。

お慈悲で心に優しい感想や評価を頂けるととても嬉しいです。

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