一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

18 / 48

本日2話目の投稿です。
よろしくお願いします。


第十八話。緑肉

 

アイズとナズナが、アスフィたちと18階層を降りた頃。

地上ではひとつのパーティーがダンジョンへと足を踏み入れようとしていた。

 

「きょ、今日はいい天気ですねー?」

 

「これからダンジョンに入んのに天気も糞もあるか」

 

「…………」

 

レフィーヤにベート、フィルヴィス。

主神同士の話し合いの場に来たアイズからの伝言をきっかけに、24階層へと向かうことになった冒険者たちだ。

 

「うう……」

 

レフィーヤは、気まずい思いを押し退けて必死に話題を振ったのに、と顔をうつむかせる。

 

「あ、ああ。すまない、少し周囲を警戒していただけだ。別に私はお前を嫌っているわけでは…!」

 

「本当ですか!?」

 

慌てたようにフォローをしてくれるフィルヴィスにレフィーヤが顔をぱあっと輝かせるが、ベートが吐き捨てるように鼻で笑った。

 

「んなもんどーでもいいからさっさといくぞ。仲良しこよしになる必要がどこにある」

 

「私も貴様と馴れ合うつもりは毛頭ない。ただ、私とダンジョンに潜る以上、トラブルは起こる腹積もりでいておいてくれ」

 

あァ?とベートが怪訝な顔を向ける横をすり抜けるように、フィルヴィスはダンジョンへと足を踏み入れた。

 

「私は呪われてるからな。死妖精(バンシー)とダンジョンに潜る覚悟はいいか?」

 

「はっ、上等だ。せいぜいモンスター相手に魔法(うた)でも歌ってろ」

 

「ベートさんっ」

 

くるり、と二人へと振り返り挑発的な笑みを浮かべるフィルヴィス。

フィルヴィスの挑発を前に、凶悪な笑みを浮かべて戦意を滾らせるベート。

失礼ですよっ!と苦言を呈しながら追いかけるレフィーヤ。

 

三人の少数精鋭パーティーは存外和やかに(当社比)ダンジョンの奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

24階層への正規ルートをナズナたちが進むこと暫し。

レベル7とレベル6が揃って、危なくなる場面というのが存在するわけもなく。

なんならほとんどの場面においてナズナが手を出すまでもなくアイズが全てを惨殺した。

 

「おらおら道を開けろモンスター共!レベル7とレベル6のお通りだ!」

 

「待ってくださいさすがにドラゴンは無茶ですよ!?」

 

「うるせぇ、行こう!」

 

「そんな雑な台詞で説得されてたまりますか!そういうのはもっと貫禄と好感度を積み上げてからですよ!」

 

「ヒャッハー!略奪の時間だ!突撃ー!」

 

「話を聞け!」

 

途中ナズナがホワイリーフ(金目のもの)欲しさにパーティーを離れてモンスターに囲まれたり、青や赤の美しい宝石を宿す金のなる木『宝石樹』を前にナズナが木竜(グリーンドラゴン)へと突撃したりするというハプニングはあったものの、それもやはりアイズとナズナが簡単に討伐した。

 

───ナズナとの冒険は安全が保証されるが、冒険にはならない

 

何時だったかナズナの情報を収集した時に、ロキ・ファミリアの団員たちが口を揃えて言ったその言葉の意味をアスフィは今ようやく、本当の意味で理解した。

ダンジョンの進行速度を重視するために本気を出したナズナのスキルのお陰で、アイズ(第一級)やアスフィたちが横から全力の攻撃をしたところでナズナ以外が狙われるようなことはなかった。

中層とはいえ、ドラゴンの範囲攻撃すら封じてしまうナズナの囮性能はやはりイカれている。

 

「もう全部彼らだけでいいんじゃないですか……?」

 

「帰っちゃう?」

 

あまりにも一方的な戦いを目にしたヘルメス・ファミリアの面々の目が死んでいく。

そんな愚痴を地獄耳を持つナズナが聞き逃すはずもなく、彼女たちへと叫んだ。

 

「おいそこの目をどろどろ濁らせてる二人!帰るってんならこの宝石はいらねぇよなぁ!?」

 

「なにやってるんですかルルネ、行きますよ!」

 

「アスフィお前……」

 

「なんですか、やるってんですか!うちのファミリアはこないだヘルメス様がやらかしたせいで財政難なんですよ!」

 

その言葉に、なにかを思い出したヘルメス・ファミリアの面々はうんざりした顔をしてから、アスフィのあとに続く。

彼らは、娯楽好きの神々なら絶対流行る!と豪語した主神の思い付きで、現在地上にRPG系体験型アトラクション『ダンジョンハウス』なるものを作らされていた。

『神々でも冒険できる迷宮アトラクショオン!』が売り文句のそのエセダンジョンは、ファミリアのほぼ全財産が吹き飛ぶレベルの規模になってきている。

なお売り上げはまだない模様。

 

主神のわがままに振り回されるのが眷族たちの常ではあるのだが、ヘルメス・ファミリアはたぶん一回くらい主神を殴っても許される。

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

そんな安全な冒険も終わりを告げる。

 

「か、壁が……」

 

「……植物?」

 

ナズナたちの前に現れたのは、通路を塞ぐ巨大な大壁だった。

不気味な光沢とぶよぶよと膨れ上がる表面。

気色の悪い緑色の肉壁はアイズたちの前に立ちはだかり、進路を見事に遮っている。

 

「うーわきっしょ」

 

「ルルネ、この道で確かなのですか」

 

「ま、間違いないよっ!私は食料庫に繋がる道を選んできたんだ、こんな障害物は存在しない……筈なんだ」

 

慌てて地図を見直すルルネだったが、ナズナが口を開く。

 

「合ってるよ。まぁ、食料庫に向かう道は他にも何本かあるが、ここが一番近道だな」

 

「わかるのですか?」

 

「そりゃまあ、これでも地形把握に探索は一通りできるんだぜ」

 

ナズナの意外な一面にアスフィが目を見開く。

 

「うん。ナズナは案外出来る子……」

 

「お前俺の方が年上なの忘れてないか?」

 

とはいえ、剣姫のフォローもあり、信じることにしたようだ。

それにナズナが適当を言っていたところで、ルルネや他のメンバーできちんと裏を取れば良いだけだ。

 

「一先ず、他の経路も調べます。異常があった場合は直ちに戻ってきなさい」

 

というアスフィの指示が出て散っていった他の冒険者たちによる報告をまとめると、やはり他の経路も同一の肉壁によって塞がれてしまっているらしい。

 

食料庫に行かせたくない、という何者かの隠すつもりのない意図がばりばり醸し出されていた。

 

「どうやら、あのモンスターの大群は大量発生ではなく、大移動ということのようですね」

 

「よくわかんねーけどこの先にいるやつボコせば解決だろ?」

 

「まぁそうなんですけどね」

 

「斬りますか?」

 

地道な調査に飽きてきたらしいナズナとアイズはもう正面突破する気満々だった。

思わぬところで脳筋二人の手綱を握ることになってしまったアスフィは、誰でも良いから変わってくれないかなと他のメンバーに目を向ける。

 

「…………」

 

その目線に気付かない振りをして、各々武器の手入れとか土いじりを始めるのを見て諦めたアスフィは、ややあって口を開いた。

 

「……はぁ。情報が欲しいので斬るのは待ってください。魔法を試します、メリル」

 

大きなとんがり帽子の小人族の少女が魔法を詠唱をするのを見ながら、ナズナは保存食の一つを鞄から取り出して、口に放り込んだ。

 

「チョコ味うまー」

 

 

 

 

食料庫。

モンスターの栄養源となる液体を生む水晶の大柱があるダンジョンのエリアの一つ。

平時なら水晶が緑光を放ち、神秘的な雰囲気を醸し出している給養の間。

 

ナズナやアスフィたちが壁と通路を越えてたどり着き、見たのは通常の食料庫とはかけ離れた景色だった。

戦闘中にアイズとは分断されたが、ナズナは特に心配していなかった。

家族と分断されたことにキレてはいたが。

 

「宿り木?」

 

ここまでの道のりと同じように緑の肉壁に侵食された広大な空間を、特大の石英(クオーツ)が赤く照らしており、その石英の大柱には巨大なモンスターが寄生している。

 

その数三体。

食人花と酷似しているものの、そのサイズは十倍近く大きく、花の数も三輪だ。

その色合いから蔦にも見える触手を絡み付かせ、柱の表面にくまなく行き届かせている。

そして、そんなモンスターに取りつかれる柱の根本にナズナたちが『宝玉』と呼んでいる、胎児を内包した緑色の球体が取りついていた。

 

「養分を吸ってんのか、あのきしょいの」

 

何かを吸い上げるような奇音に眉を潜めるナズナは、すぐに意識を切り替える。

その寄生虫のごとき胎児を守るように、ひとつの集団が現れたからだ。

そのローブ姿の集団に、ナズナの目がスッと細くなる。

 

「侵入者を生きて帰すなぁ!」

 

「まーた闇派閥か」

 

彼らが名乗った訳ではない。

だが、ナズナはその集団の目を知っていた。

昔と纏う雰囲気だって変わっていない。

ナズナはこないだまですっかり忘れていたが緑肉を闇派閥の27階層の作戦時に見たという話もある。

元から共闘関係にあるのか、それともあの地獄で共闘関係になったのか。

 

そんなことナズナの頭では予想もつかないが、少なくとも彼らが闇派閥であるということは一目で理解した。

 

「おい、あいつらやる気満々だぞ!」

 

「応戦します。こちらとしても彼等がここで何をしているのか聞き出さなくては行けませんからね」

 

戦意を滾らせる闇派閥に負けじと、ヘルメス・ファミリアの面々も武器を構える。

だが、それよりも早くナズナが動いた。

 

「───殺せ!」

 

彼等が飛びかかるよりも早く振るわれた付与魔法つきの鎖は、まとめて闇派閥の首をハネる。

まるでゴム毬のように目以外全てを頭巾で覆った頭部が宙を舞い、鈍い音を立てながら躯が地面へと落ちる。

 

「うるさい。お前たちに割く尺なんて存在しねえんだよ」

 

がり、と魔力を補給するためにアダマンタイト鉱石を噛み砕くナズナの視線はすでに無駄死にした闇派閥の残党にはなく、その奥。

 

争いを静観する白ずくめの男へと向けられていた。

 

「それについては同意させてもらおう。神に縛られる愚者共、という意味では貴様も同じだがな?」

 

「はっ、そんなちょっとおしゃれな原始人みたいな格好の男に言われてもな」

 

「なんだと?」

 

白色で体型が浮かび上がるくらいかなり薄手の布(タイツ)でお腹と太ももを覆い、腰布と肩回りの布切れ一枚という格好をした男は、どうやらこのシリアスな空気で服装について言及されると思っていなかったらしい。

 

だが、物心着いたときからエルフの森で侵入者を狩ってきたナズナには、人を殺すことへの抵抗感なんて一切ない。

平時と変わらぬ調子でナズナは笑う。

なんなら石を補給して活力を取り戻したナズナは、いつもより元気ピンピンだった。

 

「もしかして極東のふんどし履くの失敗した?下着垂れてますよ」

 

ぶふ、とヘルメス・ファミリアの数人が吹き出す。

それが気にさわったのか、白タイツ男は声を荒げる。

 

「ええい笑うな!私はお尋ね者なんだから仕方ないだろう!服だって選べる立場じゃないんだ!」

 

「え、もしかしてそれ人に選んでもらったの?もしかしてかーちゃんか?かーちゃんコーデか?だはははは!その年で!母親コーデ!もしかしてサイズがピチピチなの試着してないからなのか!?うひひひ、だせー!まだ闇派閥の方がまともな格好してんぜおい!」

 

「うるさい!ほっとけ!あと母親ではない!仲間の一人だ!……まぁ、あいつの服のセンスがあまり良くはないのは確かなんだが…」

 

「男ならてめえの下着と服くらい自分で決めな!デートで幻滅されても知らねぇぜ?」

 

「ほざけ!食人花(ヴィオラス)っ!」

 

男が叫ぶとと同時に、大空洞中のモンスターが一斉に首をもたげた。

 

「うわマジ切れか?図星をさされて顔真っ赤にするとは恥ずかしい奴め!」

 

「貴様は必ず殺すっ!」

 

「私たちで花をやります!全員構えなさい!」

 

───食料庫の大広間での第二ラウンドが始まった。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

明日も投稿できたらいいなぁと思っています。
出来ることなら心に優しい感想や評価が欲しいですが、めんどくせぇ!って方はここすきしてください(強欲)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。