一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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毎日投稿2日目です。
今日の更新が一話だけなのは、ハルヒ二次とかいうあまりにもニッチで無謀すぎる更新の止まった過去作をなんとかしようとしていたからです。
どうにもなりませんでした。


第十九話。亡者

 

ナズナと白ずくめの男との戦闘は、それほどの激戦にはならなかった。

硬さが端から比べ物にもならないからだ。

 

「くそがぁ!」

 

「くそなのはお前のファッションセンスだろ」

 

「こいつほんとむかつく!」

 

ナズナは脳筋で、バカだ。

なんなら戦いのセンスなんて欠片もない。

典型的なステータス頼りの上級冒険者だと言えるだろう。

 

技術や駆け引きを大事にするフィンたちがトップなロキ・ファミリアにおいてあまりにも異端な冒険者だ。

だが別に、ナズナはそれでいいと思っている。

ナズナの目指すのは戦える人間ではなく、誰かの盾になる人間なのだから。

 

確かにナズナに駆け引きなんてものはほぼない。

だからこそ、そんなものがなくてもナズナは強くあれるように鍛えたのだ。

得意の戦法である回避不可のカウンターを成立させているのだって、技術ではなく硬さありきのものだ。

 

攻撃と同時に防御は出来ない。

だから、殴られた瞬間に殴り返せば攻撃は必ず当たる。

コンマ0のずれなく、防御を抜けなかった相手へと振るわれる拳。

都市最速のアレンすら離脱が間に合わないそのカウンターに対応できるのは今頃海上にいるであろうレオンと付き合いの長いフィンだけだ。

ガレスとオッタルは気にせず殴ってくる。

 

つまりナズナを倒すには鎧を展開される前に喉を潰す必要があるのだが、ナズナの首にはきちんと防具が嵌めてある。

 

───チョーカーとは名ばかりの首輪が。

 

アイズのデスペレートと同じ不壊属性。

リヴェリアの独占欲がゴリゴリに出た、ちょっと重たすぎるその首輪をナズナは十数年つけっぱなしにしている。

 

それがなくとも、レベル7の盾術を抜けて攻撃を当てるのが至難の業なのだ。

ぶっちゃけクソゲーである。

 

駆け引きを成立させないぐらいに硬く。

誰よりも前に出て、誰よりも強くなるために。

それはまるでつぶれた豆がより皮膚を硬くするように、ナズナは誰よりも傷つき誰よりもその皮を破ってきた。

 

その結果が、ロキ・ファミリア唯一のレベル7。

恐らく、きっかけがあればナズナは一発芸なしでレベル7になっていたことだろう。

酔いに任せた一発芸だけでたどり着けるほどレベル7は安くない。

外聞は悪いけど。

それにオリハルコン喰いも安くないけど。

 

「ぶっ飛ばして行くぜべいべ!」

 

バカは誰よりも自由に空を飛ぶ。

 

テンションに任せたナズナが、自爆して相手を吹き飛ばすのと同時に、一条の雷鳴が大空洞に響き渡る。

白ずくめの男が爆風に吹き飛ばされるその直前に見たのは、暴れまわる狼人と杖を構える二人のエルフだった。

 

 

 

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】ッ!!」

 

白タイツを完封して自爆で吹き飛ばしたナズナと、追いついてきたレフィーヤの魔法が食人花を焼き払い、場は一時的な平穏を取り戻す。

壁や天井を埋め尽くす蕾が花開くと食人花が生まれるという状況ではあるが、大空洞にいた食人花の群れももういない。

 

ベートは場が安定したのを確認してからアイズを加勢しにいった。

あの俊足と鼻なら、すぐにアイズを見つけることが出来るだろう。

 

「相変わらずふざけた男だ。だが、まだ死んでないぞ私は───ッ!!」

 

そんな束の間の平穏を切り裂くように男の叫びが食糧庫に響き渡り、自爆による衝撃で瓦礫に押し潰された筈の白ずくめが、隙間から這い出てくる。

傷ついた体が回復していき、その全貌が顕になる。

 

ナズナはそれを見て、目を見開いた。

 

「ちっちぇな……」

 

「おい、見るべきはそこじゃないだろ!」

 

「え?ああごめん。ダサい服を交換する大義名分できてよかったな?」

 

「服でもなぁい!」

 

くすんだ色の長い白髪をかきむしる全裸の男を見て、ナズナはようやく思い出した。

 

「ああ、オリヴァス・アクト。生きてたんだ。久しぶり?」

 

「兄さん、知り合いですか?」

 

ナズナといると平時よりIQが下がるレフィーヤは、驚愕するヘルメス・ファミリアの反応を見て、心の底から不思議そうな顔をする。

 

「知り合いって言えば知り合いかな。通りすがりで殺した仲だけど」

 

「へー!」

 

「い、いや。ウィルディス?へーじゃないぞ、ここでの反応は。大丈夫か?急に頭悪くなってないか?」

 

オリヴァス・アクト。

通称白髪鬼(ヴェンデッタ)

既に主神は天界に送還されていますが、過去の推定レベルは3。

27階層の悪夢の首謀者でもあります、というアスフィのありがたい解説はレフィーヤには聞こえていないらしい。

 

「くっ、やはり冒険者などクソだ!」

 

そう叫ぶオリヴァスの二本の足は、食人花の体皮と似た黄緑色に染まっている。

 

「おいおい、白タイツの下に緑色のタイツはもはやセンスが崩壊してんだろ。お前の服を用意した女はタイツ専門店しか知らねーのか?」

 

「なわけあるか!これは自前だ」

 

「自前の緑ももひき?だとしたらお似合いだぜ」

 

「ちがぁぁぁああう!いいか!?私の話を聞け!」

 

どこまでもなめ腐った態度のナズナの言葉を遮るようにして、オリヴァスは語り始めた。

 

「守護妖精!貴様に体を鎖で真っ二つにされた私は二つ目の命を授かったのだ!他ならない『彼女』から!」

 

 

 

 

彼はずっと語りたかったのだろう。

典型的なナルシストだな、とナズナは内心で吐き捨てる。

 

「私は人とモンスターの力を兼ね備えた至上の存在だ!」

 

「凄まじい回復力!最強のタフネス!そして美貌!」

 

「私はもう神に踊らされる人形ではない!」

 

「なに?ここで何をしていたか?」

 

「いいだろう教えてやる!ここは苗花(プラント)だ」

 

「食料庫に巨大花を寄生させ、食人花を生産させる。『深層』のモンスターを浅い階層で増殖させ、地上へ運び出すための中継地点」

 

「食人花も私も、全て『彼女』という起源を同じくする同胞。『彼女』の代行者として、私の意思にモンスター共は従うのだ!」

 

「私は!私たちは!この都市を滅ぼす!『彼女』の願いを叶えるために!」

 

「『彼女』は空を見たいと言った!なら、私はその願いに殉じて見せよう!!」

 

「地中深くで眠る『彼女』が空を見るにはこの都市は邪魔だ!愚かな人類と無能な神々に代わって!『彼女』こそが地上に君臨するべきなのだ!」

 

────さらに言葉を続けようとして、オリヴァスはナズナに殴り飛ばされた。

 

「なげええええええええええええよ!俺の頭でも理解できるようにしゃべれ!ほんとに頭いいやつってのはバカにでもわかるような言葉に噛み砕いて説明できるやつのことを言うんだよ!だからテメーはバカだ!あとお前に美貌はねえよ!普通のおっさんだよ!ああ!?」

 

情報の洪水で頭が混乱しているナズナは、怒りに任せてオリヴァスのマウントをとってぼこぼこにし始める。

力的には勝っているはずなのに、実質的な敗北宣言のような状態になっていた。

 

「ぐおおお、このクソガキがぁ!ヒーローの変身タイムと悪役の口上は待つというお約束のわからんやつめ!やれ、巨大花(ヴィスクム)ッ!!!!」

 

オリヴァスが口を開くと同時に、柱から一匹の巨大花が落ちてくる。

だが、着地した瞬間。

ナズナの鎖にその頭を絡め取られ、地に伏せる。

 

「座ってろデカブツが!やれ、フィルヴィスッ!」

 

そして、巨大花に絡みついた鎖の端とは反対側のそれをオリヴァスの首にくくりつけ、大盾をオリヴァスの腰に突き刺す。

磔にされたオリヴァスは巨大花が暴れる度に首が絞まり、だが、制止の指示を出そうにも喉がつぶれて声がでない。

 

巨大花も身動きがとれずに、ただ地面でもがくだけだ。

あるいはオリヴァスがただの冒険者なら、首が千切れて巨大花はすぐに自由になっただろう。

だが、オリヴァスの普通ではない頑丈さと回復力が、巨大花を戒める一助となる。

 

「【ディオ・テュルソス】!!!」

 

あっという間に処理された巨大花を見て、驚愕に身を焦がすオリヴァスは巨大花が灰となったことで自由になった喉を、なんとか動かそうとする。

 

だが。

それよりも早く、何処からか飛来した短剣がオリヴァスの魔石を破壊した。

同時に、魔法を放った直後のフィルヴィスは突如横合いから奇襲を受ける。

 

『!』

 

()の外套、そして不気味な紋様の仮面。

一体どこに潜んでいたのか、おそらくオリヴァスを殺したであろう謎の刺客からの攻撃に、なんとか反応できたフィルヴィスは咄嗟に短杖で受け止めていた。

だが、凄まじい『力』のアビリティが杖の上から衝撃を貫通させる。

 

「フィルヴィスさん!?」

 

あえなく怪人の振るった()()に吹き飛ばされるフィルヴィスに、レフィーヤが慌てて駆け寄るも、彼女は無事を伝えるように軽く手を振った。

 

「……白髪鬼ガ死ンダカ…。ダガヤツハ、怪人ノ中デモ最弱」

 

フィルヴィスを追うことなく、その人物は胎児へと歩み寄る。

そして、そのまま取りついている大主柱から強引に引き剥がした。

 

「フム、完全デハナイガ十分カ」

 

「逃がすかよ仮面野郎!あと死んだか…じゃねえだろ!てめえがやったくせに!」

 

好き放題して立ち去ろうとした仮面の人物は、ナズナの拳を避ける。

ふわり、と紅の外套が怪人の動きに合わせて揺れ、それが一瞬ナズナの視界を遮る。

 

直後、ナズナは相手を完全に見失った。

 

「は?」

 

居なくなったのではない。

転移や消失という感覚はない。

なぜならまだ気配がある。

ただ、()()()()()()()

 

ナズナが視界から消えても気配を感じ取っていることを察したのか、気配が遠ざかっていく。

 

『───ヤハリ、オ前ハ危険ダナ。ココデ死ニ果テロ』

 

声だけが大空洞に響く。

 

『産ミ続ケロ!枯レ果テルマデ、力ヲ絞リ尽クセ!』

 

瞬間、大空洞が鳴動した。

大主柱に張り付く巨大花が震え、吸い上げるような奇音が下品なほど大きくなる。

ビキリ、と結晶の柱にいくつものひび割れが走った直後。

 

天井、壁面、床。

大空洞に存在する蕾が一斉に開花した。

 

「──────」

 

すべての食人花が花開く。

逆に巨大花は急速に色素を失い、枯れていく。

過去見たことがないくらいの規模の怪物の宴(モンスター・パーティー)を前に、フィルヴィスやヘルメス・ファミリアの面々が青ざめる。

 

「無理無理無理っ、無理だってぇ!」

 

「離れるな、潰されるぞ!?」

 

だが、冷静な人間が二人いた。

 

ナズナとレフィーヤである。

二人は互いの顔を見合わせて笑うと、軽い調子でナズナが前に出た。

 

「いつも通り行きましょう、兄さん」

 

「ああ、俺が守って」

 

「私が倒します」

 

タンクと魔導師。

前衛と後衛。

古来より繰り返されてきたその組み合わせ(タッグ)が、理不尽の前に立ち塞がった。

 

千の妖精と守護妖精。

この二人が揃って倒せない相手など存在しない。

 

 

───この日、24階層の食料庫は崩落した。

二匹の巨大花に養分を吸われ限界を迎えていた大主柱がレフィーヤの魔法に耐えきれなかったからだ。

だが、別の場所で戦っていたアイズやベート含め、冒険者たちは全員生還した。

 

「なんで俺には報酬が出ねーんだよ、おかしいだろ!」

 

『君は契約の場に居なかっただろう?それにまだ借金の一千万ヴァリスを返してもらっていないしな。むしろ金を返せ』

 

「巻き込んどいてその理屈が通るか!ふざけんなばーかっ!悪徳詐欺師!!陰鬱マント!エセ死神!鎌でも持ってろ!痛々しい中二病みたいな格好しやがって!」

 

『そこまで言われることか!?もういい!私は帰るからな!』

 

フィンたちが行っていた地下水路での調査の方は空振りだったが、今回の件でアイズたちが持ち帰った情報によって少しは敵の輪郭も見えてきた。

 

だが、未だ敵の正体には届かない。

 

「あ、うそうそ。ごめん。ごめんって!待ってくれ!じゃあ百万でいい!百万でいいから!こないだギャンブルでやらかしたんだよ頼む!五十万ならどうだ!?……あれ、いない?ほんとに帰った?」

 

もはや怪人とか宝玉のことなんて忘れて駄々をこねるナズナのことを、青ざめた月が見下ろしていた。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

明日投稿する予定の話は完全に息抜き用というか、話数調整のための中身空っぽシリアスゼロ話です。
明日もがんばります。
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