一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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本日二話目の投稿でございます。
少しだけ前世というかアルゴノゥトをほのめかす描写がありますが、あまり気にしなくて大丈夫です。
なんとなく作者自身がアルゴノゥトとフィーナの関係を神聖視している節があるので、その後ろめたさが出てしまっただけです。
本編には関係してきません。



第二話。兄妹

 

 

「うーん。やっぱ俺あんたの兄になりてーな」

 

「決めた。次は俺が先に生まれて、先に助ける」

 

「あんたがいる閉じた世界を外からぶち破って」

 

「俺があんたの英雄になる」

 

それは男の嫉妬か、あるいは羨望か。

 

神が降りてくるよりもずっと前。

思い人(ハーフエルフ)の少女に肩車されてしまうほど小さくて幼い少年は、とある少女に誓ったとか誓っていないとか。

 

そんな喜劇にも記されなかった眉唾の話(前世)

 

 

 

 

 

 

 

ナズナはかつて使命に縛られた番犬だったが、とあるハイエルフの家出騒動の隙をついてアールヴの森を出た。

恩恵もなく、身を守る不出来な魔法一つでする旅は苦労の連続だったが、ロキに捕まるまでかなり自由に過ごしていた。

 

『うひょおおおお!お外楽しいいいいいい!エルフの森からの解放万歳!』

 

そんな旅の道中で訪れたとある場所。

そこはエルフの森にしては珍しく、大きく外に開かれていた。

名前を『ウィーシェの森』。

ちょうどナズナを兄と呼ぶレフィーヤの故郷だ。

20数年近く前なので当時レフィーヤは生まれていなかったが。

 

その森は大陸中部に広がる『森の大河』の中に存在する、大陸を行き来するための交通の要衝であり、多くの他種族の人間が里を出たり入ったりしている社交的なエルフの森。

 

ナズナを看病してくれた夫婦のエルフが言うには、なんでも里の名前になっている始祖、世界三大詩人の一人である『ウィーシェ』とかいうエルフの教えに基づく考え方が、その里のエルフたちに根づいているのが、このエルフにしては珍しい社交性の理由らしい。

 

『へーそうなんだ。すごいね!』

 

『話聞いてる?』

 

『聞いてる聞いてる。そんなことよりそこの蜂蜜クッキーとって』

 

そんな場所にナズナはしばらく身を寄せていた。

それは居心地がよかったのもあるが、何よりも森の近くで無理な戦闘が祟って旅の続行を一時断念しなくてはならなかったからだ。

 

『ショタエルフ取ったどー!』

 

そして、そんな療養中にロキに捕まり、半ば強制的にファミリアに入って数年。

ナズナは一つの都市外クエストを受けた。

 

行き先はウィーシェの森。

自分を看病してくれたウィーシェの森のエルフの一家に久しぶりに会いたかったのが一つ。

良いことがあるというなにか漠然とした予感があったのが一つ。

 

───ナズナはそこで一人の幼い少女に出会う。

 

それこそが当時まだ幼かったレフィーヤであり、自分を兄と慕う妹分との出会いだった。

 

『ふーん、チビスケが外の世界にねぇ。いきゃ良いじゃねえか』

 

『だれがチビですか!あなただってオトナにしてはずいぶんちいさいほうですよね!ていうかあなたはなんで私にかまうんですか!?』

 

『さぁ?強いて言うなら暇だから、一番反応がいいお前に構ってるんじゃないか?』

 

『あやふやすぎる…』

 

『それより───』

 

クエストをクリアするまでの期間、なんとなく構っていた当時幼女のレフィーヤから、いつの間にか()()()と呼ばれるようになっていた。

 

そして、クエストが完了する頃。

ちょうど学区と呼ばれる外の世界の切符が転がっていたからレフィーヤの背中を多少押しはしたが、外の話を彼女に語って聞かせた以外、なにかをした記憶はない。

 

『お久しぶりです、兄さん!今日から私もあなたと同じ冒険者です!』

 

だから、ロキファミリアで再会したレフィーヤが自分を未だに『兄さん』と呼んだことに困惑と面映ゆさを覚えたのを今も覚えている。

 

というか今も自分の中で違和感が燻っている。

 

なぜだろうか。

彼女の兄にふさわしいのは、もっと滑稽で笑顔の似合う誰かのような。

 

そんな、どこか後ろめたさを感じるのは。

 

───大丈夫サ。君は確かに彼女の兄にふさわしいとも!───

 

「幻聴か?」

 

耳を掠めた軽薄な声(風の音)に首をかしげなら、ナズナはキャンプ地周りの哨戒を手早く済ませるべく足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「まったく、兄さんはまったく!非常識にもほどがあります!」

 

そんな似合わないシリアスをしている兄はさておいて、着々と準備が整えられていくキャンプ地では一人のエルフの少女がぶっかけられた血飛沫を落とすべく、仲間の魔法使いが出してくれた水を借りて身を清めていた。

ついでにぷりぷりと怒っていた。

まぁモンスターの返り血をぶっかけられたら誰でもそうなるが。

 

テントの影で着替え、体も清めたレフィーヤが出てきたところを、がばっ、と軽い衝撃とともに背後から捕まえられた。

 

「ひゃぁ!?」

 

「───レフィーヤ!」

 

レフィーヤが驚きながら首を少し動かすと、ティオナが背中に抱きついている。

その横には、フィンに小言をもらったのか少し落ち込んだ様子のアイズや、天幕の予備を片付けるために持ち運んでいるティオネもいる。

 

よりによってアイズさんに見られた!?と慌てるレフィーヤ(サイコレズ)を余所に、ティオナは明るく笑いながら質問を投げ掛けてきた。

 

「ねぇねぇ、なんとなく聞くタイミング逃してたんだけどさー?レフィーヤってなんでナズナのこと兄さんって呼ぶの?血は繋がってないんでしょ?」

 

「それは私も気になってたのよね。年上だからただそう呼んでるって訳でもなそうだし」

 

「うん、むしろ姉弟…」

 

「えーと、特に深い訳はないんですよね…」

 

落ち込んでいる反動なのか若干トゲのあるアイズの言葉をしれっとスルーして、レフィーヤは昔に思いを馳せるように目をつむった。

 

「兄さんがウィーシェの森に来たのは私が八歳の誕生日を迎えるちょっと前くらいでした。たった三ヶ月の滞在だったんですけど、幼い私に外のことをたくさん教えてくれて、私が学区へいく後押しをしてくれたんです。それに…」

 

「それに?」

 

『間に合った───ッ!…っべー、これ俺のせいか?俺が外の世界の興味を煽ったからか?っべー。………うおおおお!モンスター許せねえええええ!』

 

人はそれを責任転嫁という。

 

「興味本位で森の外へ出た私をモンスターから助けてくれたりもして、私があの人に懐くのはあっという間でした」

 

それに加えて、レフィーヤの両親が実の息子のようにナズナを可愛がっていたのもあるだろう。

自分を見て、本当に嬉しそうに微笑むナズナの顔がレフィーヤは好きだった。

 

「へー!」

 

語られるほんのり甘酸っぱい(気がする)思い出に、少女たちが盛り上がる。

 

「何よ、私と団長との出会いの方が劇的よ!」

 

「ティオネ空気読めてなーい」

 

「みなさーん食事の時間っすよ~」

 

「私と!団長との!思い出───」

 

結局ガールズトークは、ラウルが呼びに来るまで続くのだった。

 

 

 

 

大荒野(モイトラ)の戦いはご苦労だった。みんなの尽力があって今回も無事に50階層へとたどり着けた。ありがとう」

 

50階層。

ダンジョンのなかでも数層しか存在しない安全階層だ。

もっとも、この場を利用するのはロキ・ファミリア以外ならフレイヤ・ファミリアくらいだろう。

 

「いつも49階層越えるの一苦労だよねー。今日はフォモールの数も多かったし」

 

「バロールがいなかっただけマシでしょ」

 

ちなみに49階層は、先ほど話題に出たフレイヤ・ファミリアの団長オッタルの単独到達階層であり、バロールを半殺しにまで追い込んだという話を、ナズナは本人から聞いたことがある。

止めを刺せなかったのが相当悔しかったらしく、リベンジの機会を伺っていると聞いたが、果たしていつになるやら。

 

自由奔放な神フレイヤに振り回されるあのファミリアの団長に許された自由時間はそれほど多くない。

というか、いくらレベル7とはいえ、単独で来るのは頭がおかしい。

もっと団員と仲良くしろ。

 

「ははっ。とにもかくにも乾杯しよう。お酒はないけどね。それじゃあ───」

 

『乾杯!』

 

フィンの音頭に続くようにして、全員が唱和する。

ナズナもまた、自分のコップに入れた透明な液体を持ち上げる。

 

するとくん、と鼻のいいベートが顔をしかめる。

 

「おいてめえ、それ酒だろ」

 

「水だもん」

 

「おい!?」

 

「なんだよもー、ベートもほしいのか?しかたねーな。みんなには内緒だぜ?」

 

独り占めすることよりも、隠蔽することを選んだナズナがベートのグラスに()を注ぐ。

 

「おいおい、悪いやつだなお前」

 

「ふっふっふ、ベートもなぁ?」

 

ニヤニヤとほくそ笑む二人は、しかし最後まで笑うことはできなかった。

 

「あー!ナズナとベートがお酒飲んでる!」

 

「ばっかお前!そこは見逃すのがいい女ってもんだろ!?」

 

えーそんなの知らないよー、と口を尖らせるティオナの横からガレスが嬉々として近づいてくる。

 

「なんじゃお主ら。ワシに隠れて酒を飲むなんて許されると思っておるのか?」

 

「クソが!ドワーフは帰れ!貴重な酒を奪われてたまるか!」

 

「そう言われるとますます欲しくなるのう」

 

「おや、面白い話をしてるね。僕も混ぜてくれるかい?」

 

「あー!お客様困ります!あー!お客様!遠征中ずっとちびちび飲んでた俺の大事なお酒がぁ!」

 

結局、ナズナの酒は希望する全員へ一口ずつ注がれ、酒瓶はあっという間に空になった。

 

今回一番美味しい思いをしたのは、最初に気付いたお陰でコップに並々注いでもらえたベートと、無償でファミリア全体の士気を高められたフィンなのだろう。

 

ナズナは、ふて寝した。

 

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
次の投稿は一週間後です。
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