一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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毎日投稿三日目、本日二話目の投稿です。

ようやく一話からの目標であった四巻に入れました。
導入話なので、中身が薄いです。
というかたぶん四巻の大半は結末に向けた前振りになると思われます。
よろしくお願いします。



第二一話。出征

 

チビと巨漢。

エルフと獣人。

脳筋と武人。

ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア。

 

レベル7という共通点以外は何もかもが正反対な二人は、多くの人間が行き交うメインストリートにおいて、とてつもない存在感を放っていた。

 

「んー今日も良い天気だ…」

 

「ふ…そうだな」

 

この二人は、なんだかんだ仲が良い。

同じレベル7としてファミリアの枠を超えてロイマンから緊急クエストを任されたりするのもあるし、単純に大事な人の為なら何処までも無茶できる二人は馬が合うからだ。

 

ナズナの見た目のせいで下手すればオッタルが通報されそうな絵面ではあるものの、オッタルの強面を恐れて誰も通報しないのでギリギリ問題なかった。

 

「それで、どうしたんだよ。俺に相談なんて」

 

「ああ、フレイヤ様にある冒険者への試練を用意しろと言われてな」

 

「すればいいじゃん」

 

さて、今日は何をするか。

 

仮にも派閥を越えた友情を育んだ相手の悩み相談を切って捨てたナズナは、一日の予定について考え始める。

最近何やらガレスと励んでいるベートのコソ練を冷やかしに行くか、それとも必死にダンジョンで鍛練するラウルたちに差し入れを持っていくか。

最近行けていないカジノもいい。

 

一日の予定を立て始めたナズナの頭の中から、オッタルという存在はあっという間にたち消える。

そのいつも通りと言えばいつも通りな対応に眉をしかめたオッタルは、容易く奥の手を切った。

 

「よし、フレイヤ様と会わせてやろう」

 

「───それで?なんだっけ。試練だろ?もちろん一緒に考えてやるよ!友達、だろ?」

 

無駄にキメ顔で友達、と言った辺りで肩に手が届かないことに気付いたのか、ナズナはオッタルの固い腹筋に握りこぶしを当てる。

熱い手のひら返しにオッタルはなにか言うでもなく、その拳を軽く叩き落とした。

 

「だからお前も神フレイヤと会わせるなんて恐ろしいこと言うんじゃねえ」

 

「ああ、わかっている」

 

ナズナは美の女神であるフレイヤについて貶すことはない。

女神に心酔して日々殺し会うオッタルたちにだって理解を示しているし、家族をないがしろにする戦車やひたすらに相性の悪いインテリエルフとは仲が悪いものの、友情を育んでいるメンバーだって何人かいる。

ヘグニとか、アルフリッグとか。

 

それにフレイヤ自身も『大抗争』で輝きを見てから、気に入っている。

伴侶候補ではなく、団員候補として。

 

でもナズナはフレイヤのことが苦手だった。

だって怖いし。

魅了されて家族裏切りたくないし。

正直女神フレイヤの見た目がタイプじゃない男なんて存在しないのは分かっているが、だからこそナズナは近づこうとしなかった。

 

「…まぁ、オッタルが立ちふさがればいいんじゃねーか」

 

「人の心とかないのか?」

 

「なんでだよ。これが一番手っ取り早いだろ!」

 

「だが、駆け出し相手に俺の本気はあまりにも無謀が過ぎる。殺してしまうのは本意ではない」

 

「それを先に言え!相手が駆け出しとか聞いてねーんだよ!つーか試練なのに本気を出す前提はなんなんだよ!相手を試せよ!殺すな!」

 

そうだったか?などと惚けたことを言う武人を前に、ナズナはため息をついた。

 

「なら、そいつに因縁のあるモンスターでも適当に調教して差し向けりゃいいんじゃね」

 

「なるほど。やはりそれがいいか」

 

「何がやはりだテメー。ぶっ飛ばすぞ。思い付いてたなら俺に聞かず普通にやれ!」

 

「いや、お前が我々フレイヤ・ファミリアと協力したと言う実績を解除しておこうかと思ってな」

 

オッタルらしからぬ発言にしばらく沈黙したナズナは、ややあって口を開いた。

 

「…………ヘディンか」

 

「ああ」

 

あの陰険メガネクソエルフが!次会ったらメガネをパーティーグッズに変えてやる!と騒ぐナズナは、その『とある冒険者』とやらが誰かについて考えることはなかった。

これ以上フレイヤ・ファミリアに深入りしたくなかったからだ。

それにまさか、いくら美神に頭を焼かれた彼らといえど、駆け出しにミノタウロスをぶつけるなんて想像もしていなかったのだ。

 

というか普通しない。

するならするでもっと成長を待て。

我慢強さが足りねーよ。

 

後日アイズたちにどういうことだと詰められるナズナは、オッタルにキレた。

 

 

 

 

 

 

遠征当日。

ここ数日で誰もができる全力を出して、自分の牙を研ぎ澄ませていた。

 

アイズは白兎と戯れ、レフィーヤはフィルヴィスと百合の花を咲かせ、ナズナはギャンブルで敗けを取り返そうとして大負けした(いつもの)

ベートはガレスと密室で二人きりで何度もぶつかり合って汗をかいていたし、ティオナとティオネは互いを殴り合っていた。

あと一部の団員がラブ・サバトとかいうイカれた催しに参加したりしていたが、それを知るのはナズナの他には当事者だけだ。

 

そんなわけで、全員の士気は万全だ。

青く晴れ渡る空に向かって、ナズナは一つ大きな伸びをする。

 

今頃フィンは架空の女神(原点)に向かって祈りを捧げたり、付き合いの長い古株三人で拳を合わせたりしているのだろう。

ナズナがそこに参加することはない。

別に意思確認をするまでもなく、ナズナは変わらないからだ。

 

ただ前に出て仲間を守る。

これまでもそうだったし、これからもそうだ。

 

「足を横に出して胸の運動~」

 

拠点の中庭。

全員が緊張感を高める中。

ナズナは一人、ロキに身長が伸びると言われて信じこんだラジオ体操をのんきに続けていた。

 

その内側に、未知の領域への好奇心を滾らせながら。

 

 

 

 

快晴の空から陽光が中央広場に降り注ぐ。

 

広大な空間を持つ都市中央の広場とはいえ、装備品や食料などの物資を積んだ大型のカーゴを何台も伴い一角を占拠するロキ・ファミリアに向けて迷惑そうな目や好機の視線が集まっている。

それらを跳ね返すように、道化師(トリックスター)のエンブレムが刻まれた団旗が翻った。

 

「んー、最近快晴続きで最高だな」

 

「ですねー。遠征前に洋服の虫干しも出来ましたし」

 

「ちゃんとアマゾネスのやつとかガレスとオソロのやつ(頌閃妖精衣装)もやったか?」

 

「…し、しましたよ?」

 

ああこいつしてないな、と誰でもわかるほどバタフライしているレフィーヤの目を見てナズナは半目になった。

 

まぁ実際レフィーヤは衣装持ちなので、選別は必要なのだろう。

服は基本貰い物。

戦闘衣はその辺で売ってる適当なやつというナズナのタンスは場所が余っているくらいなので、服が多くて起こる大変さは想像するしかないが。

最近ロキからメイド服やら白バニーやら押し付けられたが、それらは箱に閉まってベッドの下に押し込んである。

一度着せられたからといって、もう一度着たい服ではない。

 

「おう、剣姫!全くもって久しいな、壮健であったか?」

 

「椿さん…」

 

アイズが鍛冶師の椿に絡まれてるのをぼーっと会話しながら見ていたナズナとレフィーヤの傍に駆け寄るひとつの影があった。

 

「ナズナさん、レフィーヤ。間に合ってよかった」

 

「あ、フィルヴィスさんっ。おはようご…ざいます?」

 

「おー、おはよう。…朝からすごい格好してんのな、お前な」

 

聞き覚えのある声に二人が振り返った先にいたのは、フィルヴィスだ。

だが、ただのフィルヴィスではない。

 

猫耳和服ミニスカブーツ(猫々偶像衣装)

猫耳和服ミニスカブーツである。

 

本人としても恥ずかしいのか顔を赤らめているが、それが却って回りからの目線を集めていた。

 

「こ、これはそのっ。遠征に出るナズナさんやレフィーヤを見送りにいくと言ったらディオニュソス様がこれを着ていけと無理矢理っ!?」

 

「かわいいですっ!」

 

言い訳をするフィルヴィスを見て目を輝かせ感激するレフィーヤの横で、とりあえずナズナは荷物の中から予備の精霊の護布を勝手に取り出していた。

 

「ほれ、眼福だけど羞恥心に殺される前に貰っとけ」

 

「あ、ああ助かる。つまらないものを見せてしまってすまない…」

 

「いや普通に垂涎ものだったけど、ほら。なんかあれだろ?あんまり人に見せるのも恥ずかしいだろ」

 

何かを誤魔化すようにナズナがほら、と隣を指差せば涎を垂らして慌てて口を拭うレフィーヤがいた。

ナズナからの誉め言葉に喜べばいいのか、新たな友人のちょっとアレな一面に引けばいいのか、そんな複雑な顔をしながらフィルヴィスはいそいそと精霊の護布を上から羽織った。

 

「…おほん。それで、その。二人にエルフに伝わるお守りを作ってみたんだ。受け取ってはもらえないだろうか?」

 

「ぐふ、ぐへへへ……はっ!?」

 

フィルヴィスが取り出したのは、木製のタリスマンだ。

首から下げられるように組紐が通されており、その美しい白色の木片の表には大聖樹を模した絵図が手彫りされている。

 

「おう。まぁ安心しろ。なにせ俺がいるんだからな!全員よゆーで帰ってきてやるよ」

 

「はいっ、大切にします!絶対みんなで生きて帰ってきますから!」

 

それを受けとり、ナズナとレフィーヤはタリスマンを首へとかける。

 

ナズナたちだけではない。

ロキ・ファミリアの面々と個人的に親交のある冒険者たちが声をかけ、ある者は笑顔と一緒に激励を送っていく。

 

「総員、これより遠征を開始する!」

 

自身も何人かの馴染みの冒険者からの激励を受けながら、間もなく部隊の正面でフィンが声を張り上げた。

 

「階層を進むに当たって今回も部隊を二つに分ける!最初に出る一班は僕とリヴェリアが、二班はガレスとナズナが指揮を執る!18階層で合流した後に一気に50階層へ移動!僕らの目標は他でもない、未到達領域───59階層!」

 

フィンの力強い声が、この場にいる全ての冒険者たちの耳朶を震わせる。

 

「犠牲の上になりたつ偽りの栄誉は要らない!全員、この地上の光に誓ってもらう!───必ず、生きて帰ると」

 

その言葉に、ナズナとフィンの目線が絡み合う。

互いにニヤリと笑い合い、フィンは頭上に広がる青空へと暫しの別れを告げるように号令を放った。

 

「遠征隊、出発だ!!」

 

ナズナたち団員は、フィンの号令をかき消すように雄叫びをあげる。

 

 

─────【ロキ・ファミリア】、遠征開始。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

ミスがあったりはしましたが、なんとか三連休毎日投稿を達成することができました。
三日間お付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。


【妖精のタリスマン】
大聖樹の木片を使用した、エルフの伝統的なお守り。
なんの効果もないただの木片のはずだが、込められた純粋な祈りは時に傷を癒すという。

組紐には大聖樹の繊維と乙女の髪が使われるのが一般的であるとされている。
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