一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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今日でこの小説の投稿を始めて一ヶ月になりました。
タイトル釣りの凡作でありながら、これほどたくさんの方に興味をもって頂けたこと、本当に感謝しております。



第二二話。血気

 

 

20階層。

 

「うりゃああああああ───っ!!」

 

25階層。

 

「がるぁああああああ───っ!!」

 

30階層。

 

「このおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

40階層。

 

「「邪魔だぁああああああああああああああああああああっ!?」」

 

以上、遠征に突入してから4日目までのダイジェストである。

18階層で合流した下位構成員たちはなんでこんなにもベートたちが張り切っているのかわからず、なんなら怯えてすらいた。

戸惑う彼らと同じく後発隊だったナズナにも事情はわからなかったが、見てるだけでいいから楽でいいやとほったらかしにしていた。

 

興奮していたティオナの支離滅裂な話から言葉を拾った感じ、なんかすごい冒険を見たらしい。

知らんがな、とナズナは思った。

家族が家族や自分以外を誉めるのは面白くない、と頬を膨らませるナズナは完全にへそを曲げる子供だった。

あまりにも精神年齢が低すぎる。

 

「お、この新作のジャガ丸君意外とふまいな。抹茶クリーム味って聞いたときは、ついに神ヘスティアの頭がイカれたかと思ったけど」

 

ジャガ丸君とコーラを楽しむナズナは完全に見せ物気分で後ろから眺めている。

 

このジャガ丸は遠征前に寄った屋台でヘスティアにもらったものだ。

なんか自分の所の眷族(こども)が他所のファミリアの異性にメロメロ(死語)らしいという相談をされたナズナはこないだ、アドバイスをあげたのだ。

酔わせて食えば?という実体験に基づくアドバイスは却下されたので、偶然を装って覗けば?というこれまた実体験に基づくアドバイスが採用された。

 

『酔わせて食べる。ナズナ君、それは“アリ”だ』

 

『だけど僕は処女神だからね?もっと他にないのかい?』

 

『ふむふむ、うーん。…いやぁ君の悪知恵もたまには役に立つじゃないか!というか割と親身に相談に乗ってくれるよね、君ってば。でも今のアドバイス聞いてると君の恋愛観がちょっと心配になるぜ?』

 

『人生色々ある?…本当に大丈夫なんだろうね?いつでも相談に乗るからね?』

 

そんなどうでもいい一幕はさておいて、出番を奪われる第二級以下の団員達はその迫力と形相に気圧され汗を流すばかりだが、ナズナは一応仕事はしていた。

フィンからスキルの使用は制限するように言われているので、あくまで軽い発動ではあるがデコイとして食料などの物資を積んだカーゴの上で寝転んでいた。

 

「おーい、ベトティナー?」

 

「なんだっ!?」

 

「なにっ!?ていうか略さないでよ!」

 

「あっちでティオネが一人で暴れてるけどそんなもんで満足か?」

 

「「ああぁ─────────っ!?」」

 

「───ばらしてんじゃねええええええ!!」

 

「行ってらっしゃーい」

 

血を滾らせているアマゾネスの姿に、ティオナ達がやらすかとばかりに戦場へ突貫した。

それを見送るナズナは、呑気にその後ろ姿に手を振る。

そこに怪我や敗北の心配はない。

ナズナは家族が張り切っていればそのまま背中を押すタイプの人間だった。

時にそれで怪我をしても経験だろうと思っている節もあるし、どうせ家族に何かしたやつはぶっ殺すしなという物騒な思考のせいでもある。

 

「……これでアイズが加わったら、どうなってしまうんじゃ」

 

「一応、負担と言えるのはティオナ達だけにとどまっているが…」

 

「ンー…頭が痛い」

 

ともあれそんな感想を抱いているのはナズナだけで、遠征など関係ないとひたすら戦い続けているベートたちを見て、そこから更に目線をずらすとうずうずたたずんでいるアイズを目に入るという状況に首脳陣は頭を痛めていた。

 

嘆息する彼らを上から見下ろしながら、椿に飽きたジャガ丸君を押し付けるナズナは、平和だなーとあくびをひとつするのだった。

 

 

 

 

野営を準備する喧騒が響いている。

 

指示を掛け合う団員たちの声が飛び、周囲を走り回るブーツの足音がその間を縫う。

地面に撃ち込まれた鉄杭に縄が巻かれ、天幕が次々と完成していた。

 

現在ダンジョン50階層。

以前芋虫や女型のモンスターに襲われたその場所で、ロキ・ファミリアはベースキャンプを設営していた。

前回よりも遥かに短い6日間という期間でここまでたどり着いたのは、一重にベートたちのお陰である。

 

「どうしたんスか、ベートさんたち…」

 

「こっちが聞きたいわよ…」

 

「みなさん、いつにも増して荒々しいです…」

 

「うーん…発情期ですかね?」

 

「レフィーヤ?学区から来たばかりの頃の真面目なあなたはどこ行ったの?」

 

ラウルを筆頭にアキやリーネなど、第二級以下の派閥構成員達は時折及び腰になりながらひそひそと話を交わしていた。

 

彼らの視線の先では、大双刃(ウルガ)をしまいもせず唸りながら熊のように行ったり来たりしているティオナや、湾短刀(ククリナイフ)をくるくる回しては時折思い出したように振り下ろすティオネ、その鋭い剣幕でヘファイストス・ファミリアのハイ・スミス達を怯えさせるベートなど、落ち着きのない第一級冒険者達がいる。

 

彼らの雰囲気に狼狽え、本営の側で指示を出しているフィン達も若い第一級冒険者たちに嘆息していた。

 

「だはははは!ウケるー!」

 

「ウケませんよ!いいから酒瓶から手を離してください!飲み過ぎです!」

 

「んにゃー、なぁー…ほら。見てろアリシア、俺渾身のベートの真似を!『雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ…』…どう!似てない!?」

 

「似てますね!?声音も声色もそっくり!あの時ナズナさんはいなかったのに!」

 

「エルフィは黙ってて!」

 

「そりゃお前、愛する家族の真似だぜ?想像だけでもざっとこんなもんよ!」

 

そしてナズナは酔っぱらっていた。

こいつは途中でコーラが尽きたあと、当たり前のように持ち込んでいた酒を取り出していた。

とても冒険者のしていい行動ではないが、置物に徹するためには酒が必要だったのだ。

娯楽がないのにじっとしてられるほどナズナは大人しくないし、眠るにはカーゴの上はバランスが悪すぎる。

 

だからこその酒。

ワインに火酒にラム、日本酒。

それだけの酒を開けながらも、時折近づいてくるモンスターたちからカーゴを運ぶ団員たちと荷物を守っているせいで、文句を言いづらいという厄介な酔っぱらい。

前回の遠征では皆に隠れるように飲んでいたというのに、とある事情(ラブ・サバト)で機嫌の良かったロキからのお許しが出たのと、アラサーの本気の駄々こねにフィンが押し負けたせいで、酒専用のバックパックを背負って来ていた。

 

「おい、ナズナ。ほどほどにしておけ?」

 

「んあー?にゃぁ~、酔ってにゃいにゃぁ~?んぐ、んぐ、んぐ、ぷはー!」

 

「それは酔っぱらいの常套句でしょうがっ!」

 

リヴェリアのフォローもむなしく、一升瓶を片手にゲラゲラ笑う見た目幼女とかいう凄まじい犯罪臭のするバカの相手をさせられるアリシアは、キャンプに響き渡るほどの声で叫ぶのだった。

 

 

 

 

「最後の打ち合わせを始めよう」

 

野営地の準備と食事、酔っぱらいの処理を済ませたロキ・ファミリアの団員達は、フィンを中心に今後の最終確認を始めた。

調理器具を片付け、輪になったまま団員達が耳を傾ける。

 

「事前に伝えてある通り、51階層からは選抜したパーティーで進攻(アタック)を仕掛ける。残りの者たちはキャンプの防衛だ」

 

メンバーが発表される中、ナズナはリヴェリアの膝の上に頭を乗せて眠っているが、さすがにその辺は事前に聞いて頭に入っている。

 

それに、ナズナのその醜態に誰かが何かを言うことはない。

ダンジョンにおけるナズナへの信頼は、酔いつぶれている程度で揺るがないからだ。

あと、ナズナの常備薬である酔いざまし(ウコンの力)への信頼も。

 

ついでにナズナを膝枕中のリヴェリアへの提言も地雷であることをファミリアの面々はよく理解していた。

本人は真面目な顔をして話に耳を傾けているつもりなのだろうが、時折顔が崩れてしまっている。

それを羨ましそうに見るレフィーヤも、リヴェリア(師匠)相手ではさすがに分が悪い。

 

結果として酔いつぶれているバカと、それを愛でるハイエルフの2人の周りだけ、凄まじい温度差を生じていた。

 

「キャンプに残る者達は、例の新種のモンスターが出現した場合、『魔剣』及び『魔法』で遠距離から対応するんだ。接近を許さないよう見張りは気を抜くな。指揮はアキ、君に任せる」

 

「はい」

 

その他『不壊属性(デュランダル)』が配られたり、緊急時の対応などの説明が続いていき、やがてミーティングは解散となった。

 

フィンは長槍、ガレスは大戦斧、ベートは双剣、ティオナは大剣、ティオネは斧槍。

それぞれが新たに配られた椿の新作、《ローラン》シリーズの感触を確かめるなかで、ナズナはリヴェリアによってテントへと運ばれていく。

 

鈍い光沢を放つ椿が作った武器はもちろんナズナには配られない。

不壊属性以外の芋虫対策を自分でできるというのと、ナズナの盾が不壊属性の特殊武装でもないのにバカほど頑丈というのが理由である。

 

狼が牙を研ぎ澄ませ、剣の姫が鞘の中で解き放たれるその瞬間を今か今かと待ち望む。

一人の少女が目に焼き付けた希望(英雄)を尊び、その姉と疲れを残さない程度に組手を行う。

血の繋がりのない兄妹は、互いに身を預けるようにして眠りにつく。

 

 

───そして、日は昇らず暮れもしない迷宮の奥で、時計の針が明朝の到来を告げた。

 

剣が、杖が、大双刃が、湾刀が、銀靴が、大盾が、長杖が、大戦斧が、槍が。

輝きを放つ数々の武器が、多くの冒険者に見つめられている。

 

本営に立つ団旗の道化師(トリックスター)の滑稽な笑みに見守られる中、フィンが口を開いた。

 

「出発する」

 

静かな号令と共に、フィンが率いる【ロキ・ファミリア】精鋭パーティーは野営地を発つ。

戦闘員八、サポーター五、鍛冶師一、総勢十四名のパーティー。

 

前衛にベートとティオナ、中衛にはアイズとティオネ、フィン。

後衛にはリヴェリアとガレスがつき、そのさらに後ろにナズナという布陣だ。

サポーターがナズナ以外の前中後の位置へとそれぞれつき、整備士兼客人の椿がフィンの横へ。

 

タンクのナズナが最後衛なのは、今回の進攻が速度重視ゆえだ。

前で敵を受け止めるよりも、後ろから崩される方が問題なのだ。

 

それにナズナは鎖と爆散鍵によって、いつでも前に出てこれる最低限の機動力は持ち合わせているので、ある意味どこにいても関係ない。

後ろにいれば背後からの奇襲を防げ、前にいれば全体に余裕を持たせることができるのだから、ほんとに便利な囮役だった。

 

やがて一行は大穴へとたどり着く。

階層西端の壁面に空いた、50階層と51階層を繋ぐ連絡路。

階下には既にいくつものモンスターの眼光が浮かび上がっている。

 

「───行け、ベート、ティオナ」

 

冒険者たちは、未到達領域への進攻を開始した。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

投稿開始して一ヶ月で貴重な10評価を頂けたり、5以上という高い評価を貰えて、毎度感想まで貰えたりするなんて、こんなによくしてもらえていいんでしょうか。
夢か?
と思う作者です。
四巻の一区切り目指してがんばります。
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