一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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今日はポッキーの日らしいですね。
なので一人でポッキー一箱食べてました。
美味しかったです。



第二三話。竜咆

 

「集団から振り落とされるでないぞっ、お主等!」

 

深層では珍しい迷路構造をした階層を、フィン達は駆け抜けていく。

初心に立ち返るような『上層』と同じ構造。

しかし規模と広さは桁違いなダンジョンの中で、走行の勢いを緩めないパーティーに向かって、ガレスは後衛の位置からフィンの指示をかき消さない程度の音量で声をかける。

 

「俺に追い付かれたら男女平等にケツ蹴りあげるからな!二つに割れねえように気を付けろ!?」

 

「下品ですよナズナさんっ」

 

「馬鹿言え!俺はお上品だろうが!本当に下品なやつってのは×××××して、☆★☆★☆したり、※※※※※※するやつなんだからな!」

 

「さすが兄さん!アリシアさんのあんな真っ赤な顔を初めて見ました!」

 

「この兄妹はっ!?」

 

ダンジョンが咆哮をあげていた。

だが、それを上回るような声量でナズナが最後尾から口数の少ないサポーターたちの肩の力をほぐしていく。

 

「ほらほらクルスっ!今度とある店の人気の子紹介してやるから気張れよ!」

 

「ほんとですか!?」

 

「ああ、リヴィラで一番人気のオカマバーだ!!!」

 

「なめんな」

 

横道から、十字路の先から、天井から、壁面から。

既階層とは全く比べ物にならないほどの頻度で黒犀(ブラックノイス)巨大蜘蛛(デフォルミス・スパイダー)が来襲する。

 

途切れないモンスターとの交戦に、しかしパーティーは怯まない。

 

「るぁああああああああああああああああ!!」

 

立ちはだかるモンスター達を正面に、飛び出したベートが蹴撃の一閃と続く回し蹴りで根こそぎ絶命させる。

崩れ落ちる死骸にも目もくれず【凶狼(ヴァナルガンド)】は更なる敵を食い荒らすべく進撃する。

 

パーティーの上空を鎖が薙ぎ、天井から生まれ落ちたモンスターを一掃する。

血しぶきが落ちる頃には、パーティーは既にそこにいない。

 

前へ。

前衛の二人と最後尾の一人が切り開く道の先へと彼らは進み続ける。

 

「ナルヴィ、大双刃(ウルガ)ちょうだい!」

 

「はい!」

 

「ありがと!…せえっっのおおぉ─────ッ!」

 

全身を用いた回転斬りが進路上にいたモンスター達をすべて両断にするが、今度は開けた通路の奥とさらには横道から黄緑色の津波が訪れる。

 

「隊列変更!ティオナ、下がれ!」

 

新種の登場にフィンから素早く指示が放たれ、後退するティオナと阿吽の呼吸で入れ替わるようにアイズが飛び出す。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

「【呑み込め(エメス)】」

 

2人の付与魔法使いが魔法を発動し、前方は風を分け与えられたベートとアイズが、横道はナズナが引き受ける。

 

そして、腐食液による射撃を風と岩の鎧が遮断し、不壊属性の武器と岩を纏った鎖が芋虫達を鏖殺していく。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬───我が名はアールヴ】」

 

「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢。雨の如く降り注ぎ、蛮族どもを焼き払え】」

 

「総員退避!」

 

リヴェリアとレフィーヤの並行詠唱が終了し、フィンの声と共に部隊が散開する。

直後、2人のエルフによって魔法が放たれた。

 

氷と炎。

二つの属性の魔法が正面と真横へと突き進み、壁を凍りつかせ、あるいは修復が必要な焦げ跡をつけて見せる。

 

壁が傷つけられれば、修復が優先されモンスターはしばらく生まれない。

上層から変わらないダンジョンの特性によって、ナズナ達はあっさりと下部階層へと続く階段にたどり着いた。

 

「行くぞ」

 

ここまで無傷でたどり着いたパーティーを見回すと、フィンが短い号令を出す。

 

「戦闘は出来るだけ回避しろ!モンスターは弾き返すだけでいい!」

 

51階層とはうって変わった指示に、椿が怪訝そうな顔をする。

そして、サポーターとして戦闘には参加していないラウルへと質問を投げ掛けた。

 

「手前はここまで深い階層に来たことがない、何かあるのか?」

 

「狙撃されるっす……!?」

 

その質問に、ラウルは顔から脂汗を散らしながら答えた。

 

「狙撃…?」

 

頭の中に疑問符を浮かべる椿の耳が、一つの声を聞いた。

それは、地の底から昇ってきたかのような禍々しい雄叫び。

 

「竜の、遠吠え?」

 

声がするのに敵の姿が見えないと、椿が辺りを見回すのと同時に、フィンはポツリと口を開いた。

 

「───捕捉された」

 

「うし」

 

フィンの碧眼が細められ、ついでその言葉に対してあまりにも軽い言葉が続く。

 

「行ってくる」

 

パーティーの最後方にいたナズナが走りだし、そのあとを追うように回りにいたモンスターたちも追いすがっていく。

温存しろと言われていたスキルを全力で行使しているのは明らかであり、モンスターの横やりがなくなったパーティーの移動速度が一気に跳ね上がる。

 

そして。

 

「───来る」

 

中衛部にいたアイズが、攻撃の予兆を感じ取った次の瞬間。

 

「───────────────」

 

地面が爆砕した。

迷宮の階層をぶち抜くというデタラメな攻撃が、フィンたちの視界を紅蓮に染め上げる。

 

「ハハハハハハハ!ジャックポット!モンスターの全滅気持ちいいぃぃぃぃいいいい!」

 

同時に、ナズナと共にモンスター達がすべて火に呑まれ、蒸発させられる。

ナズナも当然無事ではすまないが、それでも鎧の一部の表面が赤熱を帯びただけだ。

 

火炎のうねりがそのままの勢いで天井を突き破るのを見て、押し寄せる爆風に耐えていたサポーター達が口内で悲鳴を上げる。

 

この状況を楽しんでいるのは、今まさに火に呑まれながら、本物の魔法使い(リヴェリア)になれたみたいだぜ。テンション上がるなぁなどと考えているバカだけだろう。

 

───『階層無視』というデタラメをも誘導する、規格外のデコイスキル。

 

かつて、迷宮都市に君臨していた【ゼウス・ファミリア】が名付けたこの層域の名は『竜の壺』。

今まさに追撃を放とうとする狙撃の下手人もまさに竜であり、全長10Mの巨躯を持つ砲竜『ヴァルガング・ドラゴン』達による第二波が放たれた。

 

「よ、ほ、ここだな?じゃあな諸君!またあとで会おう!一番乗りは貰ってくぜ!」

 

それを後続の進路がなくならないように誘導していたナズナは、今なお熱波が残る大火球の通り道。

58階層まで続く縦穴に向かって、躊躇なく飛び込んだ。

 

「アイルッ!ビィィィィ!バアッックッッッッッッ!!」

 

「レフィーヤ、ベート、ティオナ、ティオネ、アイズ。ナズナに続けっ!」

 

ロキに仕込まれたサムズアップのポーズと共に落ちていくバカによる作戦にない行動を見て、正直予想できていたフィンが鋭く指示を飛ばす。

 

「他は正規ルートで58階層を目指す!ガレスを先頭に変更!全員遅れるな」

 

激しいフィンの指示にパーティーが導かれる。

 

「ん、わかった」

 

「何やってるんですか兄さん!」

 

「あのクソチビに先越されてたまるか!」

 

「またすぐに会いましょう団長」

 

「いっっくよおおおおぉ───!」

 

冒険はまだ終わらない。

二つに別れたパーティーは、それぞれの全力をつくし、竜の壺の底へと進み始めた。

 

 

 

 

元気よく紐なしバンジーをした若者(一人を除く)たちと別れたパーティー本隊は、先程と変わらない速度で52階層を移動していた。

 

「全員目の前の敵に集中しろ!ナズナのお陰で狙撃は来ない!走れ!」

 

疾走を続けながらフィン自らが槍を振るい、先頭にいるガレスの援護、あるいは彼の斧が捉えきれないモンスターを撃破していく。

途中新種が現れても殿を勤めるリヴェリアが魔力を使って誘導し、ガレスやフィンが押し返し、リヴェリアの魔法が道を作る。

最古参の三人による連携によって、足の速さが自慢の前衛がいなくなってからも変わらない速度での移動を可能としていた。

 

そこにレベル5の椿も加わり、サポーターを中心にしてそれを囲むような隊列は、目の前に立ちふさがるモンスター達を屠りながら、最短経路で進んでいく。

 

本来なら縦穴から来たであろう飛竜(ワイバーン)すらこの階層に上がってこないことを考えると、ナズナは相当本気でデコイスキルを使っていることになる。

 

───ナズナは、家族を危険にさらさないために、当たり前のように一人になる。

 

自分の体を大事にしていないわけではない。

戦闘後のケアは怠らないし、飲みすぎた翌日にはちゃんと身体に優しい食事を取ったりもしている。

それでも、まるで何かに急き立てられるようにナズナは家族の為に身を切り、酒を飲む。

ギャンブルで借金を作る。

ただ家族が大好きだからなのか、それとも何か他に理由があるのか。

唯一ナズナの根っこの部分まで理解しているロキ以外で、その理由を知っている者はいない。

 

だが、理由は関係ない。

いくら回復できて頑丈とはいえ、仲間にいつまでも負担を強いる方針をフィンは取るつもりはなかった。

 

「53階層…!」

 

階段を発見し、そこへ飛び込むようにして駆け降りた先で待ち構えていたのは、モンスターだけではなかった。

 

「人、なのか…?」

 

芋虫型のモンスターの群れの上に立つ人影。

紅のローブが揺らめいており、その背中には銀色の大剣を吊り下げている。

 

にらみ合いをする事暫し、高まる緊張感を切り払うように紅のローブの人物が右腕をつき出した。

 

『…アリアはいないか。なら用はない。───殺レ』

 

「転身!横穴へ飛び込め!」

 

津波と見紛うほど大量の腐食液が放たれる寸前に、フィンの指示が出る。

全員が一糸乱れることなくフィンの声に従い、最後尾のリヴェリアが横道に飛び込んだ直後、腐食液の波が通路を蹂躙する。

 

「な、ダンジョンが溶けた…!?」

 

「走れ、止まるな!」

 

「盾を寄越せ!」

 

ダンジョンの天井や壁が溶け、焼けるような音と鼻を突き刺す異臭、膨大な煙を発生させる攻撃にラウルが思わず悲鳴を上げるも、フィンもガレスも止まらない。

すぐにそれぞれが指示を出し、パーティーは急かされるように走り出す。

 

「誘導されている…!」

 

というよりも、ダンジョンが腐食液の一斉射撃によって溶かされるという背後の光景のせいでパーティーは走るしかない。

 

まさかの戦術比べを前に、フィンは走りながら自分の親指を一舐めして、思考を巡らせる。

これまでの情報から敵の目的がアイズの生け捕りである可能性がフィンの頭によぎり、相手を逆に生け捕りにするべくオラリオ随一の頭脳が策を弾き出した。

 

「ガレス」

 

「うむ」

 

交わされた言葉は互いに短い。

だが、ファミリア結成時からずっと時間を共にしてきた二人にとって、やり取りはそれだけで十分だった。

 

くるり、とフィンの手元で槍が回され、ガレスがサポーターから受け取っていた大盾をぶん投げる。

 

「ぬぅん!」

 

突き抜けた『力』の能力値(アビリティ)、そして力を強化するドワーフ特有のスキルの恩恵をもってして投げられた大盾は、進路上のモンスターたちを悉く一掃する。

 

シールドバッシュ(投擲)。

ナズナの十八番であり、同時に耐久バカよりも恵まれた攻撃力によって放たれる威力は、ナズナのそれを大きく上回る。

 

巨蟲(ヴィルガ)!?』

 

盾とすべきモンスター達が、逆に盾によって引き潰されていく光景に怪人が思わず悲鳴を上げる。

 

第一級冒険者、ガレス・ランドロック。

都市最強のオッタルとオラリオ一、二を争える力のアビリティと、ナズナには劣るものの、これまた都市最強のオッタルと争える耐久のアビリティ。

生まれながらの前衛アタッカーであり、正直タンクまでされたら俺の立場がなくない?とナズナが愚痴る程タンクも熟せる超前衛特化型。

 

重傑(エルガレム)】と呼ばれるに足る大戦士は、盾に気を取られる怪人を見て獰猛に笑った。

 

「手間取らせてもらったよ」

 

『!?』

 

直線的な盾を回避した怪人は、その盾の影から繰り出された長槍を大剣でなんとか弾き返した。

 

馬鹿なっ、と怪人から思わず呟きが漏れるのにお構い無く、フィンは近接戦を繰り広げる。

何てことはない。

フィンはただ超前傾姿勢で、モンスターを粉砕しながら突き進む大盾と同時に死地を駆け抜けてきただけだ。

 

ガレスへの信頼と前へと進む勇気。

それがなければなし得ない勇者の奇襲を前に、防戦一方になる怪人は、食人花を呼び寄せようとするも強攻撃によって体勢が崩される。

追撃を恐れ、防御姿勢となる怪人は見た。

 

フィンが自分から目をそらすことなく離れていくところを。

 

『【ウィン・フィンブルヴェトル】ッ!』

 

なにを?と思う怪人が次の行動に移る前に、逃走を続けながら並行詠唱によって呪文を完成させるという離れ業を行っていたリヴェリアによって、三条の吹雪が放たれる。

 

通路の突き当たりまで横穴ごと凍てつかせる氷結魔法。

蒼氷世界と化した通路を前に、ようやく戦闘が終わったと全員が胸を撫で下ろすのだった。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

いよいよ一区切りが見えてきました。
ロキ・ファミリアの、中でも三巨頭の戦闘シーンはどうしても力が入ってしまいます。
もっとかっこよく書きたい。 

そして、ナズナの行動や神ヘスティアや神ディオニュソス、ユニコーンのナズナの性別や年齢への勘違いにはちゃんと理由があったりします。
つまりただギャグでやってた訳ではないんですね。
そこまでたどり着けるかはわかりませんが。

おそらくあと二話でとりあえず一区切りです。
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