一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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いよいよクライマックスです。
今回でようやく長い前振りが終わりますので、次回はちゃんと見せ場があります。
たぶん。
もっと移動パートでも面白くかける文才がほしいです。



第二四話。精霊

 

「逃げられたぁ?何やってんだよフィン」

 

「やれやれ…そもそも君が縦穴に落ちていかなかったら早かったんだけどね。魔剣の代わりに君の誘導で砲竜で殲滅していくつもりだったんだから」

 

「まぁまぁ。こやつだって自分がパーティーの近くにいたら砲撃とモンスターの物量でアイテムも装備も取りこぼした前回のようなことになると思ったんじゃろ」

 

リヴェリアの魔法によって壁に氷付けにされた怪人は、その四肢を魔力で爆発させて氷の拘束を振りほどくと、まるで最初からそこにいなかったように忽然と姿を消したらしい。

 

とはいえそれを追うには情報が足りなすぎる。

深追いは危険と判断し、とりあえず合流したフィン達は、先に58階層に降りていたメンバーと協力し瞬く間に敵を殲滅。

出現し続けていたモンスター達は長い産出幕間(インターバル)に入ったのか、周囲で何かが動く気配はない。

そして、冒険者たちに目に見えた消耗はない。

ナズナというデコイを使った殲滅という手法は、深層でも通用するという証だった。

 

「はっ、余計なお世話だ。初見じゃなきゃどうにでもなるっての」

 

「一回ナズナがデコイ緩めたとき、本気でゼェゼェ言ってたくせにー」

 

「そりゃテメェのことだろう!?」

 

じゃれるベートとティオナを中心にパーティーには弛緩した空気が流れ、各々回復薬と精神回復薬や携行食などを補給していく。

 

「……」

 

「団長、どうかしました?」

 

「ンー…」

 

アイズ達が息つく中、一人休むパーティーに背を向けて次の階層へと続く大穴を見据えるフィンに向かってティオネが話しかけるも、反応が芳しくない。

それに心配そうな顔をするティオネに向かって、ナズナが訳知り顔で口を開いた。

 

「ティオネ、フィンだってエチケットのために時間を要することもあるんだぜ?」

 

「エチケットってなによ」

 

「わかんねーのか?チンポj「違うからね?」」

 

「団長の団長…!?ふふっ、ふふふふふふふ!」

 

「なら、チャックにチン毛でも挟んだか?」

 

「【ゼウス・ファミリア】が残した記録によれば、59階層から先は『氷河の領域』の筈だ」

 

トリップしだしたバーサーカーと茶々を入れてくるバカを放置して、フィンは話を続ける。

 

「至るところに氷河湖の水流が流れ、進みづらく、極寒の冷気が体の動きを鈍らせる、そんな記録があったな」

 

「サ、火精霊の護布(サラマンダー・ウール)は準備済みっす。他派閥に頼んで譲ってもらったものもあるっすけど、サポーターも入れて人数分どころか予備もしっかり」

 

防火と防寒ができる優れものであり、微精霊や中級の精霊の協力の元作られる防具だ。

それをバックパックから取り出すラウルへと一瞥をくれたフィンは、その碧眼を細める。

 

「第一級冒険者の動きを凍てつかせるほどの恐ろしい寒気……なら、その階層を目前にしている僕たちの元に、どうして冷気が伝わってこない?」

 

フィンの推測を前に、アイズたちも異変に気づき各々の武器を握りしめ、立ち上がる。

 

「…ラウル。火精霊の護布(サラマンダー・ウール)を配ってくれ。防寒対策には意味がないだろうけど、それでも上質な装備を重ねておくのは無駄じゃないはずだ。…総員、三分後に出発する」

 

そして、連絡路を越えた先。

未到達階層の59階層。

 

「──────」

 

視界に広がった光景に、誰もが言葉を忘れた。

そこに氷河などありはしない。

高くそびえる氷山や蒼水の流れなど存在しない。

 

不気味な植物と草木が群生する、変わり果てた景色だった。

 

「密林…?」

 

「これって、24階層の?」

 

巨大花に寄生され変貌した食料庫と酷似した光景に、あの場にいた数人が眉をしかめる。

時折緑一色に染まった樹や蔦の向こうから、なにかを咀嚼しては、何かが崩れ、さらには何かが震えるような細く甲高い声音が聞こえてくる。

 

「前進」

 

フィンの声に全員が従い、密林を越えた。

 

「……なに、あれ」

 

樹林が姿を消し、灰色の大地が広がる大空間。

荒野と見紛う階層の中心には、夥しい量の芋虫と食人花。

吐き気を催すほどの大群は、巨大植物の下半身を持つ女体型のモンスターを囲んでいる。

 

「『宝玉』のモンスターか…」

 

「寄生したのはタイタン・アルム、なのか?」

 

リヴェリアが名前を出したモンスターは、同胞だろうが冒険者だろうが手当たり次第補食する『死体の王花』である。

その性質は残っているようで、芋虫と食人花から捧げられる魔石を片っ端から貪っている。

 

その光景から、冒険者歴の特に長い者達が目の前の光景について理解する。

 

───自分たちが今踏みしめる大地が、尋常ではない数のモンスター達が灰へと果てた死骸そのものだと言うことを。

 

「ベヒーモスとは真逆だな。あれは自分の死体一つで死の大地に変えていたが、こいつは自分が食ったモンスターの死骸でこの景色を作ったってことだ」

 

「強化種か…嫌になるね」

 

「ああ。本当にな。貢がせ嬢ってやつはほんとにたちが悪い。あいつら金払えば払うほどみたいな期待感煽っといて、意外となんもねーんだよ…おぇ…」

 

「ナズナ?」

 

「いや、悪い。ちょっと吐きそう。なんか喋ってないとしんどい」

 

珍しくナズナが弱音をこぼし、アイズが目を見開いたそのタイミングで変化は起こった。

 

『──ァ』

 

女体型の上半身が、蠕動のごとく打ち震える。

 

『──ァァ』

 

醜い上半身が蠢くように震え続け、一気に肉が盛り上がっていく。

そして、蛹から羽化するように、美しい体の線を持った『女』が産まれた。

 

『──ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

歓喜の喜びが迸り、女は天を仰ぐ。

緑色の光沢のある髪に緑色のみずみずしい肌。

まさに天女といった風体へと変化した上半身に反して、下半身は巨大な花弁や無数の触手を出現させた怪物の物へと変容する。

 

『アリア───アリア!!』

 

「『精霊』!?」

 

アイズの言葉を聞いた瞬間、ナズナは吐いた。

 

「ナズナ!?」

 

魔法が解除され、吐瀉物をぶち撒ける。

その急激な変化に、リヴェリアが思わず悲鳴をあげるが、ナズナは地面にうずくまったままだ。

まさかナズナの身に流れる精霊の血のせいか!?と焦るリヴェリアを押し退けフィンが慌てて駆け寄った。

 

「き…」

 

「き?なんだ!?」

 

「……急に二日酔いが…!」

 

「は?」

 

「なんて恐ろしいモンスターだ…!相手を二日酔いにする能力者とはな…!つーかシンプルに高音が頭に響く!うるせぇ!」

 

いくらウコンの力とはいえ、急激な温度の変化と高音には勝てなかったらしい。

血を吐くように叫ぶナズナへ、白けた視線が集まっていく。

 

「ちょっと!心配かけさせないでよ!」

 

「そうですよ兄さん!心臓止まるかと思ったんですから!」

 

「こんなときにふざけてんじゃねエ!」

 

「お?なんだテメーら!そんなに蹴っても俺が喜ぶだけだぞ!つーか新種のモンスターを前にしてんだから集中しろ!」

 

「それはてめえだろうがあああ!」

 

「ご褒美です!ご褒美です!」

 

ゲシゲシとティオナを筆頭に若者たちから蹴りが入り、最後にティオネが頭に拳を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

「総員戦闘準備!敵は推定精霊のモンスター!魔法も来るぞ覚悟しておけ!!」

 

精霊の血の流れる人材を二人も抱えるファミリアの長として、精霊に対する知識を当たり前のように頭に叩きこんでいるフィンは、ナズナのお陰で混乱から回復したティオナたちに向かって号令を上げる。

 

正直賭けだ。

フィンとナズナは長い付き合いだ。

だからこそ理解した、その違い。

周りを不安にさせないために、ナズナの誤魔化しに言及しなかったが、あの倒れかたは確実に()()()()()()()()()()

そうでなければリヴェリアは取り乱したりしないし、フィンもわざわざ隊列を無視して駆け寄ったりしない。

ナズナの出生に関わるものなのか、それとももっと別の理由か。

分かっているのは、ファミリアの最硬戦力が現状使い物にならない可能性があると言うことであり、何よりこれからナズナへ無茶を強いることになるということでもある。

 

ちらりと目線をやれば、相変わらず顔色は優れないもののナズナは気にすんなと手を振って見せる。

 

撤退だって視野に入れている。

だが、今ここで敵の情報を少しでも多く持ち帰らなければ手遅れになるという確信と、ここで自分達が退けば次に犠牲になるのはこのモンスターが上がってきたときに出会った何も知らない冒険者たちだという現実がフィンが退くのを許さない。

 

───冒険の時間だ。

 

フィンは、遠征の途中で見た白髪の彼の勇姿を脳裏に浮かべ、眦を決した。

 

「モンスターなのに詠唱するの!?」

 

「どうせいつもとやることは変わらねぇ、ブッ殺すッ!!」

 

アハッ、と戦意を滾らせる冒険者たちに向かって『彼女』が笑う。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

破鐘の吠声を響かせ五十を優に超える芋虫型と食人花が進撃してくる。

押し寄せる黄緑の津波を前に、ガレスもまた前に出た。

 

「リヴェリアは結界魔法の用意!レフィーヤはヴェール・ブレスを!ラウルたちサポーター組は前衛の援護を魔剣で行うんだ!ナズナはその場で待機!敵の雑兵は押し返すだけでいい!全員離れるな!」

 

「わかりました!」

 

「はいっす!?」

 

対階層主と同等の精度で指示を飛ばすフィンに、後衛組は行動を開始する。

そして、押し返すだけとはいえ何匹かを前衛組が屠り、あるいは行動を不能にすることで後続の妨害をしながら防衛戦を維持していく。

 

『フフッ』

 

雑兵(モンスター)達が倒されていくなかでも、生まれ変わった女体型の余裕は変わらない。

なにせ()()からすれば、結局彼らは自分の手足でしかないのだ。

心というものが彼女にあるかはさておき、少なくとも彼女にとってなにか影響のある状況ではなかった。

 

そして、そんな道具ではなく自分と遊べと言わんばかりに、彼女は下半身からその巨体に見合った柱とも見紛うほどの触手を眼前に掲げ、恐ろしい速度で撃ち出した。

 

「うりゃぁぁあああーっ!」

 

「この…っ、なめないでよねッ!!!!」

 

迫り来る長大な触手郡に対し、ティオナとティオネが疾走し、迎撃する。

切り払う触手に傷は一つもつかないが、狙いの的となっているアイズから逸れ、勢いを失ったその触手をガレスの大戦斧とベートの銀靴が破壊する。

 

「魔剣、放てっ!!」

 

その触手の再生が始めるより早く、ラウルたちの魔剣が傷を焼き、再生を許さない。

そうやって敵へのダメージを少しずつ蓄積していく彼らは、そこに喜ぶでも油断するでもなく、間違いなくこのあと来る本命への警戒を高めていく。

 

自分に向かって小さな牙を振り下ろす冒険者に向かって、『彼女』は微笑んだ。

 

『【火ヨ、来タレ───】』

 

そして、フィンの予想通り呪文(うた)が奏でられ始める。

 

「ナズナ───」

 

「───任せとけ」

 

ナズナはタンクだ。

だが、ナズナに自分の身の丈を超える範囲攻撃を防ぐ手段はない。

そのため、普段はそもそも誰よりも前に出て範囲攻撃をさせないという方法を取っている。

 

しかし、今回のような敵までの距離がある場合その手段は取れない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『【猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号咆ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ───】』

 

「【大いなる森光の障壁となって我等を守れ───我が名はアールヴ】」

 

「魔剣斉射!ナズナ以外全員下がれ!」

 

結界魔法を発動する用意をしていたリヴェリアが落ち着いて魔法を完成させる。

その直前サポーターたちによる魔剣の斉射によって食人花や芋虫といった黄緑の津波を一時的に押し返す。

 

そして、ナズナは杖を構えるリヴェリアの前で、クラウチングスタートの構えを取った。

 

「【ヴィア・シルヘイム】」

 

『【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊炎ノ化身炎ノ女王───ファイアーストーム】』

 

結界が展開され、それに遅れるように敵の魔法が放たれる。

その瞬間に、ナズナは走り出した。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

今日はもう一話投稿します。
次が最終回(仮)です。
ラストバトルです。
正直見せ場の少ない移動パートは全カットしたかったのですが、いきなりラストバトル始まるのもそれはそれでなぁと頑張って書き上げました。
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