一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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本日二話目の投稿です。

第一章の最終回です。
途中で投げ出したりせずにここまでたどり着けたのは読者の皆様のお陰です。
本当にありがとうございました。

最終回(仮)なので、神BGMである英雄願望を流しながら読んでいただくと名作に見えるかもしれません。


第二五話。家族愛鎖

 

世界が紅に染まった。

 

「─────────」

 

火炎の精霊を彷彿とさせる、極大の炎の嵐。

前方から吹き寄せるのは炎の津波だ。

紅の熱波が、黄緑色の波を呑み込んでリヴェリアの視界に押し寄せる。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!?」

 

結界と炎の衝突音。

そして杖を両手で支えるリヴェリアの苦鳴。

それでも、リヴェリアは決して負けるつもりはなかった。

 

───その地獄を突き進む家族に報いるためにも。

 

「温ぃぃぃんだよ!テメェの魔法はぁぁぁぁあああッ!!」

 

ナズナは焔の中を疾走する。

そこに速さはない。

存在する距離を無意味にするような俊足を、彼は持ち合わせない。

 

だが、止まらない。

世界で一番硬い冒険者は、本調子ではない故に岩の鎧を熱で溶解させながら、それに構わず前へと進み続ける。

 

「タンクを使い潰すやつは負けるんだぜ!大事にしろよ壁役は!地味だけどな!」

 

先程まで眼前で壁となっていた食人花や芋虫はもういない。

守るべき主の魔法で既に焼き付くされた。

 

味方すら生かさない絶死の地獄を、ナズナは鎧をボロボロにしながら最短距離で突破する。

 

『アハッ、()()()ガ喋ッテル!』

 

「さすが腐っても精霊!俺の正体もお見通しってかァ!?」

 

そして、飛んだ。

走り幅跳びの要領で浮かび上がる壊れかけの巨人を、女体型のモンスターはその触手で打ち落とそうとするが失敗する。

自分が想定していたよりも、触手の長さが足りていなかったらしい。

普段なら既に再生している傷がまだ残っていたことに、『彼女』は不思議そうな表情を浮かべる。

 

先程の攻防で家族がつけた爪痕に、ナズナは心の底から嬉しそうに笑った。

 

「プレゼントだ、先輩!」

 

空中で大きく振りかぶり、唯一残っていた鎧の腕の部分が爆発させながら、盾が放たれる。

まるでパイルのように歪ながら鋭い殻を纏った盾が、女体型を守る花弁の装甲を真正面から破壊していく。

喉を潰そうと投げられたその盾は、その衝突で狙いが逸れ、女体型の片腕を潰しただけに止まった。

 

だがそれでも、その衝撃で魔法が終わり世界は緋色以外の色を取り戻す。

 

『デモ、オシマイ』

 

無垢な嘲笑が、ナズナを見据える。

盾を失い、渾身の技を放ち無防備なナズナを今度こそ触手が捉えた。

 

鎧はもうない。

下に着込んでいた火精霊の護布(サラマンダー・ウール)すらずだずたに引き裂かれ、ナズナは地面へと叩きつけられた。

その小さすぎる体で女体型の攻撃を諸に受け止めたナズナは地面に叩きつけられた状態で動かない。

流れ出る血の量は、死がもう間近に迫っていることを示していた。 

リヴェリアたちもまた、ナズナが魔法を止める寸前に吹き飛ばされている。

 

『アナタハ独リココデ死ヌ!結局アナタハタダノ捨テ駒!身ノ程ヲ知レ()()()()()()()()()()()()!死ネ()()()()()!アハハハ!アハハハハハハハハハ!』

 

そこに追い討ちをかけるように、女体型は嘲笑を浴びせかけ、人間のように腹を抱えて笑う。

モンスターに食べられたことでその性質を反転させた『彼女』は、まるで人間側に居場所があるナズナ(精霊の血)を心の底から許せないと言うように、溢れ出る悪意を浴びせかける。

 

どす黒い魔力の籠った言霊は呪詛となり、精神を蝕む。

 

「───お前、俺の家族舐めすぎだぜ」

 

その呪詛()を前に、ナズナは笑った。

 

腕はひしゃげ、片目も失い、立つのもやっと。

這うようにして立ち上がり、喋るだけで血を吐くナズナに、もう何か出来るような力が残っているとは思えない。

それでも、女体型はその笑みに確かに恐怖を覚えた。

 

そこでようやく、女体型は自分の目の前にいる豆粒から何かが延びていることに気付く。

だがもう遅い。

彼女がなにか行動を移すよりも早く、ナズナは一本背負いのような動きで()()を振り上げた。

 

───鎖だ。

 

その先にはガレスが、アイズが、ベートが、フィンが、リヴェリアが、レフィーヤが、ティオナが、ティオネが、ラウル達がしがみついている。

家族を痛め付けて悦に浸る怪物を睨み付けながら、フインは檄を飛ばす。

 

「全員、絶対その手を離すな。必ずあの怪物を討つ!!」

 

『アリアドネ』。

名前に反して、ミスリル製である以外なにも特徴のない鎖。

レベル7祝いに、ファミリア全員がお金を出し合って送られたもの。

 

英雄神話のアルゴノゥトに登場する姫か、あるいは道化を姫の元へ導いた一本の糸か。

始まりの喜劇において重要な役割を持つ銘を冠する鎖は、今日もただの鎖として所有者の無茶に振り回されている。

 

だが、この鎖の手入れはいつだって完璧だ。

所有者と家族を繋ぐ絆の証は、色褪せない。

何度だって、その輝きを取り戻す。

 

「僕達は神ロキと契りを交わした迷宮都市(オラリオ)で最も強く、誇り高い偉大な眷族(ファミリア)の冒険者だ!意地を見せろ!何がなんでも家族(ナズナ)の下へたどり着くぞッ!!!!」

 

そして、今。

ただの鎖は、怪物の心の臓を貫く冒険者たち(銀の矢)を放つ弦となった。

 

彼らとて既にボロボロだ。

魔法が途中で終わったとはいえ、リヴェリアの結界魔法を破るほどの魔法に全員吹き飛ばされた。

それでも、気絶しそうになりながらも鎖を手放さなかったガレスに続くように、全員が歯を食いしばっている。

 

「アイズ、力を溜めろ!全力の一撃で決めてもらう!」

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

スキルの効果範囲内にいる同恩恵を持つ者に対するあらゆる攻撃の威力を減衰させるナズナのスキル【家族愛鎖(サルビア・ハート)】。

レフィーヤのヴェール・ブレス。

リヴェリアの結界魔法。

そして、火精霊の護布(サラマンダー・ウール)

 

三重の想いと一つの装備に守られた冒険者が諦めるなんてあり得ない。

それに何より。

誰よりも前に出て傷つく仲間に報いなくて、何が家族だ。

 

『ラァァァ───』

 

そんな気迫を、女体型は下半身に存在する蕾を開花することで迎え撃つ。

花開いた巨大な極彩色の大輪に、階層中に漂っていた火の粉のような赤い粒子が吸い寄せられていく。

回復と同時に魔力の再蓄積(リチャージ)を進める姿は、まさに死神。

 

だが、そこにノイズが走った。

 

「俺たちだって…俺たちだってあの人の助けにッ!!」

 

ラウル達サポーター組が二人一組となり、一人が鎖ともう一人を掴み、両手が自由になったもう一人が鎖に足を絡めながら魔剣を振り下ろす。

普段ならただ盲目的にフィンに従う彼らの見せた()()()()()()()()()()()に、ベートやティオナが目を見開く。

 

そして、笑った。

 

「雑魚に負けてられっかッッ」

 

「いっくよおおおおおおお───!」

 

「上等……!!!!」

 

ベートが鎖へと噛みつき、天井を走る。

自分以外の12人という重みをものともしない加速に、全員が引っ張られるように前へ。

そこに振るわれる触手をティオナの大剣とティオネの斧槍が叩き落とし、さらに前へ。

 

「おらああああああああああああ!!家族愛に満ちたこの身体を舐めんじゃねええええええええええ!瀕死の傷がなんだってんだ!」

 

家族の奮闘に応えるようにナズナが吠え、最後の力を振り絞るように鎖を引っ張る。

食人花や芋虫の大軍が再び産み出され、ナズナへと襲いかかるも、全て無視(食いしばる)

鎧すらない瀕死の守護妖精は、血反吐をぶち撒けながら凄絶な笑みを浮かべた。

 

「俺は…!レベル7だぞ!」

 

そんなナズナに寄り添うように、フィルヴィスのお守りが僅かに白い光を帯びる。

純粋な祈りの込められたお守りが、ナズナの傷を僅かに癒す。

 

『【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊雷の化身雷ノ女王───】』

 

「【盾となれ、破邪の聖杯───ディオ・グレイル】!!」

 

『【サンダー・レイ】』

 

豪雷の大牙。

直前にレフィーヤが展開した純白の円形障壁がそれを阻むも、すぐに打ち破られそうになる。

 

「ふんばれえええええええい──────ッ!!!」

 

しかし、その障壁へ内側から斧が振り下ろされた。

気合一閃。

巻き起こる閃光(スパーク)に目が眩みそうになるも、全員が鎖を握りしめる。

 

そして、レフィーヤの首にかけられたお守りもまた、ナズナのそれと同じように光りを帯びる。

効果は僅か。

それでもその(約束)がくれる暖かさは、レフィーヤとナズナへと何倍もの力を与えてくれる。

 

「ぁぁぁああああああ!生きて、みんなでッ!!!帰るんだから!!!!」

 

「よゆーなんだよ、この野郎おおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

それに後押しされるように、レフィーヤとナズナが叫び───相殺する。

 

雷の奔流が雲散し、遅れて魔法の盾がその役割を終えて砕ける。

火花を散らすその空間を切り裂くようにナズナに引っ張られて、全員がさらに前へ。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣───我が名はアールヴ】!!」

 

冒険者達、眼下に広がるモンスターの大軍、そして『穢れた精霊』、ナズナ。

全ての者たちの視界に翡翠の輝きが広がった。

愛する家族たちを傷つけられたことへの激情を薪に焚べ、リヴェリアは高らかに魔法名を告げる。

 

「【レア・ラーヴァテイン】」

 

巨炎が生まれる。

それはまるで、先程の地獄の再現だ。

魔法円から放たれる無数の炎の柱が、階層を呑み込み、獄炎のうねりが世界を紅に染め上げる。

 

違うのは、盾役(仲間)が無事なこと。

 

『ァァァァアアアア!』

 

苛烈で、過剰で、暖かい。

世界最強の魔道士の全力全開が、ナズナにさらに力を与えてくれる。

 

射出されること十度、計十柱の業火が女体型の巨躯を揺るがした。

触手が残り一本となり、花弁や食人花といった守りを失った自分を見据えて吠える冒険者たちを前に、女体型は初めて笑みを消す。

そして、『彼女』の甲高い呼び掛けに応えるように、下部階層から緑槍が打ち出された。

 

鎖がしなり、全員が振り落とされそうになるも、その程度で彼らが諦めるのだと思ったらそれは大間違いだ。

 

「邪魔だぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

「いい加減しつこいわああああああ!!!!」

 

「道を開けろ────────っ!!」

 

目の前に出現した新たな壁に向かって、いつの間にか()()()()()()()()()()ベートの蹴りや双剣と、ガレスの斧、理性を捨てたフィンの槍が振るわれる。

炎の大顎が、豪胆な一撃による風圧が、幾重にも重なる鋭い銀閃が壁を細切れにする。

 

鋭い先端を失いただの丸太になった緑槍を足場に全員が駆け抜け、ついに道が開けた。

 

「「「行け!」」」

 

ならばと唯一残った自前の触手を振るおうとした穢れた精霊は、それすらも失敗する。

道が開けたことで鎖を手放したナズナが、触手に噛み付いていたからだ。

オリハルコンより柔らかい防御など、ナズナの顎と歯に通用するはずもない。

限界間近だとしても、ナズナのレベル7たる所以はまだ残っている。

喰らいつき、ぼろぼろの身体で踏ん張る怨敵に穢れた精霊は激昂した。

 

『離レロ!!』

 

その雄叫びに従うように、再び産まれた食人花がナズナへと殺到するが、全てが灰になる。

 

「ふん、斬り甲斐のない奴らめ。ただ従うだけのお前らが、至高の頂きに届くわけもなかろう」

 

道が開けた瞬間に、眼前の巨大なモンスターに見向きもせず、誰よりも早く地上へと飛び降りた椿が刀を肩に乗せながら吐き捨てる。

彼女は穢れた精霊への討伐の協力ではなく、ナズナを優先するようにフィンから頼まれていた。

片手でエリクサーをナズナへとぶっかけながら、背中から抜いた槍で、斧で、剣で次々と灰を生み出していく。

唯一ロキ・ファミリアではない冒険者。

否、鍛冶師。

試し斬りだけでレベル5へと上り詰めた鍛冶師は、鬼神の如き強さを振るっていた。

 

そんな光景を眼下に収め、宙に浮いたまま穢れた精霊を睨みつけるティオナとティオネの二人は、右と左。

それぞれの拳が重なるように腕を引き絞った。

それを支えるように、元緑槍の丸太へと足をつけたラウルたちが大盾を構え姉妹の足場となる。

 

(───私は『アリア』じゃない)

 

今や暴風と化した魔法(エアリアル)を纏いながら、アイズは家族の拳に足を乗せる。

 

(───私は貴方のことを知らない)

 

アイズの金の瞳と、冒険者たちを見上げる女体型の金色の瞳が視線を絡める。

膝を曲げ、アイズは眦を吊り上げた。

 

(───でも、貴方はいちゃいけない)

 

「「行っけえええええええええ!」」

 

渾身の力で振り抜かれた姉妹の拳に押されるようにアイズが跳ぶのと、レフィーヤの魔法が放たれるのは同時だった。

 

「【アルクス・レイ】!!!」

 

「リル・ラファーガ」

 

猛り狂う風を追い越し、妖精の一矢が穢れた精霊の顔面にぶち当たる。

上半身ごと大きくのけ反り、彼女は天を仰いだ。

 

───彼女は空を見たいと言っている!

 

不意に、レフィーヤの脳内に食料庫で聞いた言葉が過る。

あの男の言っていた彼女が、目の前の彼女なのかはレフィーヤにはわからない。

それでも、それは確かに切望に見えた。

 

「さようなら」

 

焦がれるように空へと手を伸ばす穢れた精霊を、神風(アイズ)が貫いた。

 

 

 

 

 

 

59階層に勝鬨に似た歓声が響く。

『冒険』を越えた冒険者たちは声を、数々の武器は光沢を放った。

 

「いやはや、すごいものを拝ませてもらった」

 

喜び合うロキ・ファミリアを見守るように立つ椿は、左目の眼帯を一撫でする。

彼女の足下では、ナズナが気絶している。

 

「さて、連れていってやるとするか」

 

椿は襤褸布と化しているナズナの服の上から自分の火精霊の護布(サラマンダー・ウール)をかけてやり、担ぎ上げる。

 

灰に埋もれるように地面に突き刺さっていた大盾をなんとか持ち上げ、必死な顔をしてナズナへと走ってくるリヴェリアを見て、子供のように椿は笑った。

 

 

 

───これは数多の英雄譚たちの横で繰り広げられる道化芝居。

 

タンクとか言う地味な役割のせいで見せ場の少ない、起伏の少ない物語である。

 

 

だがいつか。

英雄譚として語られるかもしれない物語だ。

 

主人公の名前はナズナ・スカディ。

 

息を吐くように九魔姫を行き遅れ呼ばわりし、怒れる他のエルフの女性陣に中指をたてる口の悪いアラサーエルフ。

見た目も性格もただのクソガキ。

家族大好きガチタン隠れマゾ合法ショタエルフという属性過多な冒険者。

 

それがロキ・ファミリアのレベル7。

 

 

一発芸で頂点に手をかけた男だ。

 

 




思いの外綺麗にまとめれたので一度ここで一区切りとさせていただきますが、まだ回収できていない設定や書きたい話は残っていますので、おそらく続く予定です。
ギャグっぽいなにかをやって下ネタやって過去編やってバトルやってと、好き放題書いてるのでもしかしたらこれ以上は蛇足でここで終わった方がいいのかなと言う不安もあります。
少しだけ更新の間は開くことになりますが、もしまた再開したときは暖かい言葉を頂けると嬉しいです。

本当にありがとうございました。
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