一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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今回はこの小説における過去最多文字数の怪文書となっております。

前回からの続きです。
メンバーが違うこのイベントの結末はどうなるのか。
ナズナは今回どんな目に合うのか。
そして明かされる意外な黒幕とは…?

みたいな。
はい。
たぶんダンメモから本家を見るほうが面白いですが、どうぞお付き合いください。


断章の二。真夏の夜の恋宴・下

 

 

「ああっ、もうすぐよ…もうすぐあなたは私のものになるの!嗚呼っ、ジョ~ン!だいすきぃぃ~~~~~~~~!!」

 

「早くモテまくりのモテ祭りになりたい!そして、ありとあらゆるイケメンを侍らせたいいいいいい!来たれ、黄金の日々ぃ~!」

 

「モテるやつ爆発しろモテるやつ爆発しろモテるやつ爆発しろモテるやつ爆発しろモテるやつ全員爆発して消えろ…」

 

潜入したナズナとエイナは、城内に満ちた高純度のモテないオーラとも呼べる雰囲気に、思わずたじろいだ。

 

なにせ多少異性からの好意に鈍感なところのあるこの二人は、それでも言い寄ってくる相手に困ったことがない。

ここまで負のオーラを溜め込んだことないある意味健全な二人にとって、この場はあまりにも異常な空間だった。

 

「どうにか潜入できましたね…」

 

「よっ、演技派!ほんとはいろんな冒険者から声かけられてるのに非モテとはひでぇ詐欺もあったもんだぜ」

 

「それを言うならナズナさんなんてそもそも性別が違うじゃないですか!」

 

「見抜けねえ方が悪い」

 

そんな城の内部の隅。

信者達のいる広間からは少し離れた位置に、エイナとナズナはいた。

メンタルがかなり消耗して疲れ果てているエイナと違い、いつも通りふてぶてしいようにエイナには見えているが、実際のところナズナもまたかなり羞恥を圧し殺して疲弊していた。

へっ、と舐め腐ったような笑みを浮かべたナズナは、城の内部を見回すように背伸びをした。

 

…疲労のせいでやけにナズナが化粧含めて女装慣れしていることに疑問を覚え損ねたエイナは後日かなり頭を悩ませることになるのだが、それは今ではない。

 

恋の夜宴(ラブ・サバト)

ざっと見回すだけでも百人は超えており、一週間前から始まっていることを考えると、いかにオラリオに切羽詰まった非モテがいるのかという…この話はここでやめておこう。

 

男性経験がなく、男運に恵まれないだけでモテ女側に立つエイナはそんな思考を打ち切ると、そっと疲れたようなため息をついた。

 

「おいエイナ。ドン引きするのは勝手だけど今の俺たちも端から見れば同じ穴の狢だからな?」

 

「…うっ、そうですよね。は、早く調査を始めましょう。誰かにこんな姿を見られる前に───あ」

 

「お前そんなこと言うとフラグが立つんだぞ。具体的に言うなら今の地獄みたいな状況を知り合いに見られるとか───あ?」

 

「は、はわわ…」

 

エイナとナズナ。

間抜けな顔をして固まる二人の目線の先にいるのは赤と黒の際っ際の水着を着こなしたアリシアだった。

 

───その時、空気が凍った。

 

エイナは見覚えがありすぎる最大派閥(ロキ・ファミリア)の冒険者に、アリシアはギルドの窓口でよく見かける受付嬢に目が釘付けになっている。

 

逆にナズナにはアリシアは一切気が付かない。

何せ今のナズナは完全に美少女だし、そもそもこの衣装を考案した神々ではない下界の人間にとって、衣装が斬新すぎて(スケベすぎて)、顔よりも先に服装に意識が持っていかれるのだ。

だから、いくら同じファミリアで割りと仲のいいアリシアでも気付かないのは責められる謂れはない。

それなのに、見られるのは恥ずかしいけど気づいてもらえないのはそれはそれで不満というわがままで膨れっ面になるナズナは、面倒が臭すぎた。

 

そんなナズナはさておいて、痴態どころか末代までの恥を目撃された乙女達の行動は迅速だった。

 

「「違いますからっ!!」」

 

「私は自分がモテたいという浅ましい理由でここにいるのではなく!親友がここに通いつめているという噂を聞いて…!」

 

「どうか弁明を!私は信者となった仲間を連れ戻すためにやって来ただけでっっっっ!」

 

「「…………え?」」

 

顔を真っ赤にして互いに詰め寄る二人のポンコツエルフの首根っこを掴みながら、頬を膨らませたナズナは移動を開始した。

 

「とりあえず秘密の相談するならもっと隅によらないか?つーかアリシア、いくら女装してても気付けよ俺に」

 

「な、ナズナさん!?何故そのような格好を!?」

 

「お前と同じだよ、たぶんな。それともなんだ?アリシアはモテたくてきたのか?だったらまずは家族にすぐ気付けるくらいの目は養った方がいいんじゃないかなー!」

 

「ちょ、ナズナさんっ。あんまりその格好で纏わり付かないでください!み、見え…!」

 

「なんだよ、目線を逸らすなよ!こっちを見ろ!そんで謝れ!麗しの先輩にすぐ気づけなくてごめんなさいってな!」

 

───エルフで参加を希望するのは()()()

 

あれってフォレストライト氏のことだったかぁ…。

門番の言葉を思い出しながら、エイナはとりあえず、動く度に中が見えてしまいそうな絶対領域やら、思わず生唾を飲み込みそうになる白い首すじやら脇を惜しげもなく晒しながらアリシアに絡むナズナの機嫌を、二人掛かりでなんとか取るのだった。

 

 

 

 

 

互いの事情を話し合ったナズナとエイナとアリシア。

 

アリシアの目的は、同じファミリア内で信者となった団員が出てしまったので連れ戻しに来た、というもの。

…同じロキ・ファミリアのナズナの目的は違うが。

そして、この集会が呪詛のこもったとあるファミリアの遺物によって引き起こされているということ。

この集会に参加した人間は「絶対モテる!」「必ずモテる!」「明日にでもモテる!」「もう既にモテてきてる気がする!」と口を開けばそればかり言うようになること。

教祖様なるものが存在するということ。

昼間は礼拝が行われていて、ディープな信者は1日中この城にこもっているということ。

 

そんな有益なんだが、下らないんだかわからないような情報共有を済ませたナズナ達一行は、いよいよその儀式へと突入していた。

 

「教祖様!教祖様!教祖様ぁぁぁ!!」

 

儀式が行われるという祭壇風の場所では、分厚いカーテンに向かって際どい水着を着た信者たちが熱狂的なコールを繰り返し、異様な熱気を産み出していた。

 

どこを見渡しても女、女、女。

そんな空間を興味深そうに辺りを見渡しているナズナは、一人の女性に目を止める。

 

「うひょー、オラリオってこんなに非モテがいたのか。んあ?あれは神ヘルメスのところのローリエじゃねーか。今度からかいに行こ」

 

「ちょっとナズナさん、ここで見たものは絶対外に出しちゃダメですよ!人には人の事情があるんです!」

 

ローリエ・スワル。

彼女はヘルメス・ファミリアに所属するエルフの少女であり、都市外での調査を担当するレベル2の冒険者だ。

そして、オラリオに意外と存在しているナズナのファンの一人だ。

ファンになったきっかけが、ダンジョンで助けられたというありがちなものでありながら、まるで白馬の王子様に助けられたかのような錯覚をしてしまっている怪物奥手エルフ。

その年上なのにあどけない容姿、可愛らしさとは裏腹の口の悪さやタンクとしての頼り甲斐というギャップのせいでうっかり惚れてしまってからは、日夜ナズナの情報収集に勤しむストーカー予備軍と化した哀れな少女でもある。

哀れ…?

 

そんな少女を見て最低なことを言うナズナをすかさずエイナが嗜めるも、暖簾に腕押し、馬の耳に念仏だ。

反省するどころか、ニヤニヤした笑みでエイナの肩に手を置く姿は、紛うことなきクソガキだった。

 

「エイナ…お前なに乙女代表みたいなこと言ってんの?お前も共犯だからな」

 

「私を巻き込むのはやめてください」

 

「安心しろって。ただちょっと『汝、秘密を守って欲しくば最近開店した超高級和菓子店のどら焼きを奢るのが吉。もし断るというのならとんでもない不幸がその身に訪れることだろう!』って、今回の一件をネタに預言者ごっこするだけだから」

 

「最低すぎる!」

 

なお、その場合二個でも三個でもローリエは奢ってくれることだろう。

その代わり、そのどら焼きには万能者印のお薬が混入されることになるし、ナズナは空っぽになる(最大限配慮された表現)。

幸いなことに無邪気に狼の顎の中に足を踏み入れるバカな羊は、からかいにいこうと思ったことも忘れるので、今回はなにも起こらないが、このバカは自覚がないだけで普段からかなり危ない橋を渡っていた。

 

「うう…外は涼しかったのにこの広間だけ熱い…!これだけの人数を熱狂させる教祖様とは一体どんな───」

 

そして、熱狂する女達を見下ろすような形で、カーテンが開きその向こうから一人の人物が現れる。

 

「───太陽に恋い焦がれ、月が儚く欠けている。今宵はいい夜ね」

 

「きゃああああああああああ!」

 

自分の登場に歓声を上げる信者達に悠然と手を振り返すその人物は、手元の本から発生する黒い霧のようなもので顔やシルエットが隠れているものの、信者達と似たような格好をしているのだけは伝わってきた。

つまりは水着だ。

わずかに霧の隙間から見える、水着が食い込むボディラインが、妙に生々しい。

 

「『恋愛弱者(持たざる者)』達よ、恋に飢えているかしら?」

 

「「「飢えています!!」」」

 

「喪を際めし健気な子羊どもよ、愛を乞うているかしら?」

 

「「「乞うています!!!」」」

 

「ならば、この世のすべてを統べる絶対強者───『恋愛強者(モテ女)』になりたいかしら?」

 

「「「なりたいです!!!」」」

 

信者達の小気味いい返事に気をよくしたのだろう。

教祖が霧の向こうでニヤリと笑ったような気がした。

 

「ならば願いなさい!叫びなさい!己の欲望の赴くままに!『かー、男欲しぃー、モテてぇー』という魂の衝動に火をつけるのよ!」

 

教祖はそこで一度言葉を切ると、高々と拳を振り上げ、叫んだ。

 

「そう、燃やしなさい!さすれば与えられん!!らぁぁぁぶ・あんど・ふぁいあぁぁぁぁ!」

 

「「「らぁぁぁぶ・あんど・ふぁいあぁぁぁぁ!」」」

 

らぁぁぁぶ・あんど・ふぁいあぁぁぁぁ!と、ノリノリで叫ぶナズナの横で、おふざけ耐性のない真面目なアリシアはよろよろと後ずさった。

 

「こ、この熱気…!そして狂気!!思わず仰け反って魂まで汚染されてしまいそうです!有り体に言えばイタイ!」

 

「あ、見ろよアリシア。あそこにいんのエルフィじゃね?」

 

ナズナが指を指した先。

その先にいたのは、確かにアリシアの探し人であるエルフィだった。

 

「教祖様あああああぁぁぁぁ!私を見て!私をモテモテにしてくださぁいいいいい!他派閥の女友達に『ロキ・ファミリアの人って可愛いし綺麗だけど男いないよねプークスクス』とかもう言われたくないんですぅぅぅ!」

 

他の信者の例に漏れず、黒い際どい水着を着て、教祖様に向かって目を血走らせ必死に叫ぶ彼女は、有り体に言えば悲惨だった。

彼女を心配し、連れ戻そうとしていたアリシアすらも思わず目をそらしてしまいそうになるほどの切実さが込められている叫びに、ナズナも沈黙する。

 

「とる!私はこの夏、マウントをとる!!だからお願い教祖様ぁぁぁぁ!私のお願い聞いてええええええええ!」

 

「エ、エ、エルフィ……。な、なんて無様……!」

 

仲間の姿に悲鳴をあげるアリシアは直後、後ろのエイナから言葉のナイフで貫かれる。

 

「え、あの目を背けたくなる生物がフォレストライト氏の後輩…?───あっ……(察し)」

 

「心の距離を取らないで!!!違うっ、私は違う!あのような人種じゃない!!!」

 

「人はみんな同じことを言います。大丈夫、私だけは貴方のことをわかっていますから……」

 

「ヤメテ!変な同情の仕方しないで!!もう嫌ぁ!エルフィのバカぁー!」

 

「ほらエイナ。お仲間だぞー?」

 

そして、そんなエイナもまたナズナの指が指す先を見てしまってから後悔することになる。

 

「きゃああああああ!教祖様あああああ!私に一夏の思い出をくださああああい!夏、海、イケメン!『あばんちゅーる』の女王に私はなる!」

 

「うええええええええ!?ミィシャぁ!?」

 

「え、エイナさん?あの方が厳正で公正なことを求められるギルドの受付嬢…?───あ……(察し)」

 

「勘違いっ、勘違いですから!彼女は本来あのような人物ではない…とも、言い切れませんが!仕事を休んでまでこんな集会にのめり込むような子じゃありません!あとさりげなく距離を取らないでください!」

 

そんな漫才のような天丼を繰り返す二人を他所に、会場の熱気で都合のいいオーラがだんだんと薄れていく。

 

そして、その霧の向こうから姿を現したのは───!

 

「フハハハハハハハ!そうよ!燃やしなさい、飢えるがいいわ!来るわよ千年王国、我等の都おおおおおお!」

 

「「いや誰えええええええええ!?」」

 

なんか女言葉を使う、妙に内股でハゲた強面のおっさんだった。

胸筋や臀部に女性用水着が食い込み、会場の熱気に当てられて浮かぶ汗が、妙なテラテラ感を演出している。 

教祖様(漢女)が動く度に全身から滴る汗が飛び散り、宙に星座を描く。

 

この流れで知らない人が出てくると思っていなかったアリシアとエイナが思わず叫ぶが、そんなハゲを見て唯一ナズナだけが反応する。

 

「あ、あれは…!」

 

「知っているのですかナズナさん!?」

 

「あれは、たぶん昼間エイナのことナンパしてたモブのハゲおじさん…!その証拠に見ろ!タマが潰れている!」

 

「え、つまりあれはナンパじゃなくて勧誘…!?」

 

「そんなバカな話がありますか!?」

 

「───お前達、心して聞きなさい。恋の邪神が残していった我らが教典(バイブル)。そこにはこう書かれているわ」

 

容姿(ルックス)体型(プロポーション)、包容力、甘えに自立に気配りや母性他にもいっぱい───そんなものはクソ食らえ!!!』

 

「「「クソ食らえ!!!」」」

 

『そんなの身に付けられたら苦労しないし、面倒なこともしたくない!そもそも男のハードル高ぇから!!』

 

「「「高ぇからー!!!」」」

 

『そこで使うのが些末なモテ要素など関係ない最強の【恋愛強者道具(モテ女グッズ)】!』

 

「「「それはー!?」」」

 

『それこそが───【惚れ薬】である!!!』

 

「惚れ薬ぃ?」

 

ナズナの胡乱げな呟きは、うおおおおおおおお!と歓声をあげる信者達の声にかき消された。

 

 

 

 

「あーひでぇ目にあった…」

 

時は飛んで日の出前。

ナズナはあのあと、

 

『自分磨きを怠るどころか勇気を出さず楽をしたいと甘える…そんなもの、真のモテではないというのに!』

 

『好みの異性が降ってわくなんて虚構!都合のいい男も幻想!待ちは愚策、進めよ乙女!女とは、すなわち『戦い』!』

 

などと沸き立つエルフ二人をなだめ、

 

『さぁ、お前達。今こそ逆襲の時!男の象徴をなくして真の意味で女の子になった私は無敵!今宵我等はこの秘薬を手にし、全ての女子の頂点に立つわよ!』

 

と叫ぶ教祖を殴り倒し、貰うものを貰ってそのままその場から逃亡。

エイナもその探し人であるギルドの受付嬢も置いてきてしまったが、まぁ、アリシアと正気を取り戻したエルフィがいるのだから無事だろう。

 

どのみち呪詛のこもった本に惚れ薬はナズナが奪ったのだから、ナズナと一緒にいるよりは安全だ。

たぶん。

 

───そして現在。

 

ナズナはフェルズの部屋で、事の顛末を語って聞かせていた。

 

今回ナズナはギルドは動けないが邪な力を感じ取ったフェルズの依頼で動いていたのだ。

内容は、怪しげな集会の原因の究明と場合によっては解決。

 

結果は上々と言えるだろう。

 

「なるほど、早期解決していなかったらと思うとゾッとするな」

 

ナズナから受け取ったピンク色の液体の入った小瓶を持ち上げ、光を透かすように覗き見るフェルズは、骨なので分かりにくいが苦悶の表情を浮かべているらしい。

 

「本物なのか?ソレ」

 

「軽く鑑定してみた感じ本物だろうな…惚れ薬的な効果だけでなく、強力な媚薬効果もあるらしい。感度三千倍くらいだな…。ふぅ、頭が痛い。どうやって処理したものか…」

 

「神ウラノスに飲ませようぜ」

 

「頭世界の敵か?」

 

「いやぁ、感度三千倍ウラノスを見たいってちょうどこないだロキが言ってたからつい…なんでも、タイマニンって言ってその身を犠牲に悪と戦うヒーローらしくて、ぴったりだと思わないか?」

 

「む…それは確かに…。だがまぁ、見たくはないな。なぜか知らないが。それに飲ませる必要は普通にないだろう?」 

 

「タイマニンと危ないお薬はセットらしいぜ。知らないけど」

 

ナズナとフェルズの頭の中になぜかピチピチの全身紫タイツ姿の神ウラノスが思い浮かび、同時に吐き気を噛みしめるような渋い顔をした。

名誉毀損で訴えられるレベルの想像(対魔忍ウラノス)はさておき、今回の一件は

『チョーかっこいい男をゲットして、マジ死ぬほどイチャイチャしたかったのに』

『一人もカレシできないとかありえなくない?マジこの世クソじゃない?許せなくない?』

そんな想いが呪いになった、未曾有の大災害一歩手前だったのだ。

今回回収した本がもし持たざる者たちの想いを吸収してより力をつけていたとしてら、オラリオは恋愛強者(笑)たちで溢れ返り滅んでいたことだろう。

 

そして世界は黒龍が倒せずに終わる。

 

「つまり俺は世界を救った勇者ってことで前回のぶんと合わせて借金返済ということにならないか?」

 

「そこまでの代物ではない!精々、君のところの怒蛇のような女性が惚れ薬を取り合ってちょっと都市に壊滅的な傷跡ができていたくらいだろう。…だから前回の報酬と合わせても残りは五百万だ」

 

「チッ」

 

「これでもかなり破格の報酬なんだが…」

 

通常クエストの報酬はどれだけ高くても百万ヴァリスは越えてこない。

だというのに命の危険があるとはいえ、二つ受けるだけで五百万はあまりにも破格だといえるだろう。

フェルズの優しさだった。

 

「というか借金の経緯的に君はもっと殊勝な態度をとるべきでは!?」

 

「あー!あー!聞こえませーん!」

 

「クッ、このクソガキ!」

 

ナズナの借金は完全に自業自得だ。

深い事情も大した事情もない。

犯罪組織が経営しているという噂のあるカジノに潜入していたフェルズに、賭け麻雀中の酔っ払ったナズナが絡み、黙らせるために軽く金を貸していたら、大敗け。

 

『チンポにゃ!』

 

『ちょ、それはどう見てもダメなやつ…!』

 

1500万ヴァリスという負債を叩きだし、場の流れという理不尽な展開によってフェルズが代わりに支払うことになった。

ついでにそのカジノはなんの問題もない真っ白だった。

 

無駄足に無駄金まで持っていかれたフェルズは、以来借金を盾にナズナを定期的にこき使うようになった。

利子もなく、現金ではなく労働で返してくれたらいいという良心的な借金でありながら、ナズナは毎度逆ギレして罵倒を繰り返すのだから、フェルズはキレていい。

 

とはいえ、キレてぶっぱなした魔砲手(マジック・イーター)をなんなく躱すナズナのことをフェルズは人間的にも戦力的にもそれなりに気に入っているし、別に死ぬまでに返してくれたらそれでいいと考えている辺り、どこか長命種特有のズレが生じていた。

 

「じゃーな、ホラーマン!次はちゃんと報酬くれよ!」

 

ナズナは、フェルズの小言を耳を塞ぐことでシャットアウトすると、部屋を抜けて意気揚々と走り出す。

朝日が昇る前には帰れるだろう。

今日は良い事したし、借金も減ったし、日の当たる場所でゆっくり眠ろう。

きっといい夢が見れる。

 

『期間限定コラボピックアップ最高レアリティ来た───ッ!』

 

『げっ、ロキ…!』

 

だが、そんな呑気な事を考えていたナズナは、このあと自分の格好を忘れてホームに戻ったせいで、ロキにその姿を見られることになる。

 

『ぬふふ、つーかまえたっ。さ、部屋に行こか。嫌嫌しても期待してるのバレバレやで?抵抗する振り可愛いなぁ。ちゃーんと、空っぽになるまで食べたるからな!』

 

食事の時間になればロキは食堂に向かうので、その間に身動きがとれないくらい息も絶え絶えなナズナはロキのベッドで体力を回復。

ロキに無理矢理飲まされた栄養剤のせいで空腹を感じることがないナズナは、結局次の朝日が昇るその時まで貪られ続けたのだった。

 

 

───遠征前のこの事件はこうして、幕を閉じる。

この騒動に巻き込まれた数人に、少なくない心の傷を刻み付けながら。

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございます。

本家が面白すぎてこれ二次創作にするの恥ずかしいな、となりながらも最後まで書ききりました。
しかもこんな話がこの作品での最多文字数を更新してすいません。
でも全体的に書いてて楽しかったです。
お気に入りは対魔忍ウラノスです。
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