初日からたくさんの方にお気に入り登録して頂けただけでなく評価までして頂けたことに、喜びとプレッシャーで吐きそうになっております。
本当にありがとうございます。
そんな感謝を込めて、一週間後に仕上げるつもりだった下書きを形にしてきました。
「暇だ…」
「そう言うな。拠点の防衛だって大事な仕事だ」
「そうは言うけどさぁ…」
まるでわがままを言う息子と親のような会話を繰り広げるのは、一人の美しいエルフと一人の幼い見た目をしたエルフだ。
幼い方のエルフは地面に寝そべり、乱雑に結ばれた山吹色の髪を掻きながら、あくびをかます。
言わずもがな、ナズナである。
とても
もっとも、ナズナはそんなこと気にもとめないが。
だってレベル7だし。
オッタルより攻撃力あるやつでもない限り、自分のことは痛め付けられない。
エルフざまぁぁぁぁぁああああ!と、ナズナはさらに煽ることだろう。
というか実際に煽った。
ナズナの過去を考えれば多少仕方のないところではあるかもしれないが、シンプルに性格と口が悪い。
「なら私が子守唄でも歌ってやろうか?」
「おめー調子乗んなババー」
眠いからなのか。
いつもよりも遠慮なく、そしてノータイムで返された暴言に、リヴェリアの口角がひきつる。
そしてすん、と真顔になったかと思うと、杖を構え魔力を練り始めた。
「我が名は───」
「ああもう悪かった!悪かったですすいません!だから無駄に精神力の消費をするんじゃねーよ!?なんのためにここに残ってんだ!あと口に杖をねじ込もうとするな!内側から爆発しちゃうだろ…俺が!」
ぐいぐいと杖を口に押し付けてくるリヴェリアにすぐ謝る姿に、レベル7の貫禄はない。
レベルやステータスなど関係ない、純然たる上下関係がそこにはあった。
というか、普通にエルフに対して口が悪いのもあるが、身内相手のナズナは基本的に構ってほしくてやっている節がある。
怒られて喜ぶ困ったお子さま(アラサー)を前に、リヴェリアはとりあえず矛を納めた。
「…ふん、私はエルフだ。同胞の中じゃまだ若い」
「はいはい…」
99歳は普通にエルフでもばばあだろ、という言葉をのみこんで雑な対応をするナズナの顔を、リヴェリアが真顔で覗きこんだ。
「なにか言ったか?」
「いえなんでもないです」
さて。
魔法で産み出された岩の鎧。
ずんぐりとしながらもどこかゴツゴツとした鎧の中身の姿が、こんな物臭で生意気でチビなエルフという事実を知った人間の反応はおおよそ二つに分かれる。
一つはこんな弱そうなガキなら俺でもやれるぜ、俺は安全にランクアップしたいんだよ、と喧嘩を売ってくるパターン。
これはおおむね男性の冒険者たちに多い。
こうした喧嘩をナズナは嬉々として買っては暴れ回るので、フィンの頭を悩ませている。
とはいえ喧嘩と喧嘩と喧嘩は迷宮都市の華だ。
だから問題ない、とちっとも反省しない見た目の通り性格もクソガキなナズナは考えていた。
年齢は33だが。
いい加減大人になれよと言われてもおかしくない年齢でありながら、そのエルフらしい整った見た目からなんとなく許されるずるいエルフだと言えるだろう。
そう、喧嘩を売られるのとは別に、この生意気な合法ショタガキおじさんは、その少女にも間違われるあどけなさ全開の顔のお陰で一定数のファンがいるのだ。
伊達に誰が集計しているかもわからない冒険者
いや本当に、誰が集計しているのやら。
───
「おっせーなフィンたち。カドモスくらいガレスがささっと片付けて帰ってこいよなぁ」
現在、ナズナとリヴェリア以外の一級冒険者たちはとある冒険者依頼のために、少数精鋭で『カドモスの泉』へと向かっていた。
その泉の水を回収するためには、カドモスという力だけなら階層主のウダイオスよりも強いとも言われる泉の番人を倒さなくてはならない。
だが、いくらレベル6相当の強さがあろうと自分の仲間が負けるはずがないという、隠しきれない信頼にリヴェリアは口許に小さな笑みを浮かべる。
「ツンデレめ」
「…おいロキみたいなこと言うな。ツンデレはベートだ。俺は大概素直なんだよ!」
なお、構って欲しくて憎まれ口になる模様。
このまま穏やかに時間が流れる。
そんな油断が拠点に残った冒険者たちの間でうっすら流れ始めたそのとき、ナズナは見た。
50階層と51階層を繋ぐ、崖と遜色ない角度の坂道から黄緑の波が押し寄せてくるのを。
「あ?なんだあれ…」
「芋虫?」
巨大なモンスターだ。
リヴェリアの言う通り、まさに芋虫という風体のほとんどを占めるのは黄緑色だが、所々濃密な極彩色が刻まれているせいで異様に毒々しい。
高さは4Mといったところだろうか。
でかい虫はそれだけで普通に気持ち悪い。
ナズナに遅れてモンスターを発見した団員たちの、特に女性から悲鳴が上がる。
「あれは絶対毒・虫タイプだな…弱点は火」
無数の短い足をせっせか動かして崖を進軍してくるおそらく新種であるだろう芋虫型のモンスターを見下ろしながら、ナズナは呟く。
「とりあえずいつも通り行こう。盾置いてきたから誰か武器貸してくれ」
「お前は防衛をなんだと思ってるんだ?」
リヴェリアの小言に対して下手な口笛で誤魔化そうとするナズナを呆れたように見つめる団員たちのなかから、一人の黒髪の
「なら私の剣を使って。哨戒用の予備のやつだし」
「アナキティ…助かるにゃん」
「殺すわよ」
自分の種族の語尾を恥じて矯正した過去を持つアナキティ…通称アキは、ナズナの軽口に本気の殺意を返す。
その殺意にヘラフラとした笑みを浮かべ、ナズナは受け取った剣の調子を軽く確かめる。
「へへ怖い怖い。……ま、壊したらもっといいの買ってやるよ」
「あら、万年金欠男にそんな甲斐性あったなんて知らなかったわ」
「ひどくない?言うて最低限の貯金はあるからな?」
なお、合計50万ヴァリス。
本当に最低限すぎる。
あったらあるだけ、とまでは言わないが、最低限の貯蓄以外ほぼすべて使うナズナは、遠征の分け前は少し少なめにして渡されている。
これはフィンやガレス、リヴェリアの案であり、一応彼らの主神であるロキが差し引いた分を『ナズナ貯金』という形で溜め込んでいる。
その額5000万ヴァリス。
ナズナの知らない約20年分の蓄えだ。
「ラウルより貯金ないくせに。やめたら?賭博。あんた向いてないのよ」
「………」
アキによってぐうの音もでない正論でカウンターを決められたナズナは反論を思い付かず押し黙った。
弱い。
それを隠すように背を向けると、大きく息を吸い込んでからモンスターの群れに向かって崖を飛び降りた。
「そんなんだから顔がよくてモテるはずなのに恋人できねーんだよバーカ!」
「誉めてるの?貶してるの?」
●
「とりあえず死ね」
凡庸剣の先制攻撃だべ!と言わんばかりの容赦のなさで、接敵した勢いを殺すことなくアキから受け取った剣を叩き込む。
カウンター気味に芋虫型のモンスターから液体が放たれるが、岩の鎧がそれを完膚なきまでに遮断する。
「あーっ!?なぁにしてんだてめえええええええ!」
だが、剣はそうはいかなかったらしい。
モンスターの体を引き裂いた刃は跡形もない。
溶解したような跡を残す直剣の柄を眺めて、ナズナは冷や汗をだらだらと流す。
壊したら買ってやるよとはいったが、普通に壊すつもりはなかった。
当たり前だが。
二級冒険者の予備武装とはいえ50階層でも通用するものともなれば、容易く百万ヴァリスを越してくる。
自分の辞書に貯金という言葉のないナズナにとって、とてつもなく痛い出費だ。
というか僅かばかりの蓄えを使っても、借金確定だった。
やべー、どうしよ。
夢なら醒めてくれないかななどと考えながら、ナズナはその柄だけになった剣を岩の鎧に隙間を開けて懐にしまう。
そして、拳を構えながら砲声。
「かかってこいやぁぁぁぁああああ!全員ぶっ殺して、てめーらのドロップアイテムと魔石を借金のカタにしてやる!」
とりあえず自分が全てを引き受けないと酸で溶かされて物資が無くなるし怪我人も出ると覚悟を決め、本日二度目の雄叫びを上げながらナズナはスキルを全開にする。
ナズナのスキル【
細かい説明を抜きにするなら、要するにデコイスキルであり、精神力を消費することで効果を増減させることができる。
このスキルを使って最前線に出てモンスターを引きつける関係上、仲間からのフレンドリーファイアに悩まされそうなものだが、その問題をナズナのもう一つのスキルが解決していた。
名前は【
小っ恥ずかしい名前のスキルではあるが、その効果は仲間からの遠距離攻撃で傷付かなくなるというもの。
ぶっ壊れスキルではないが、痒いところに手が届く優秀なスキルと言えるだろう。
……囮スキルは恩恵を授かった初めからあるのに、後者のスキルは入団して暫くしてから獲得したものだということを考えると、闇が深い。
「おらおら、生温い攻撃してんじゃねぇ!もっと本気でこい!そんでドロップアイテムおいてけ!」
芋虫の群れから放たれる腐蝕液を意に介すことなく暴れるナズナは、目を血走らせながらモンスターへと躍りかかった。
最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
これが面白いか不安になりつつ、書きたいように書いていきます。
皆様の暇つぶしになれば幸いです。