一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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前回はお漏らし(早出し)してしまって申し訳ありません。
ちょうど二ヶ月目に第二章を始める予定でしたが、まぁそんなものを気にするのは作者くらいなので問題ないのかもしれません。

今回は珍しく外伝ではなくがっつり原作エピソード側の話です。



第二話。疾風

 

自分の気配と痕跡を消しながら森を歩き、途中森の中に隠していたという酒を回収したナズナと、その慣れた様子の森歩きに先輩冒険者の技術を勉強できる良い機会だと話を聞いたり観察したりするベルは、やがて森の開けた場所にたどり着いた。

 

「───何者だ!」

 

直後、ナズナの方向に向かって小太刀が勢いよく飛んでくる。

幸いなことに、ナズナの本気の隠形のせいで正確な位置まで把握できていなかったのだろう。

その小太刀は、ナズナではなくその後ろ。

ベルの顔の真横にぶっ刺さった。

 

「残念ハズレ」

 

「ひいいいい!?」

 

2人分の気配を消しながら歩くナズナのせいで、何か異常な存在が近づいてきているのかと警戒を高めていたその人物は、どうやらさっきまで水浴びをしていたらしい。

服こそ整えられているが、髪が少し濡れている。

 

「よお、酒場エルフ」

 

リューだ。

 

「ナズナですか…よりによって今日あなたに巡り合うとは」

 

さておき、小太刀を投擲する相手に物怖じすることなく近づいていくナズナは、清水の香りが漂う女性相手であることを気にすることもしない。

ついでに、リューの言葉に一瞬疑問符を浮かべるもすぐに納得した表情になる。

 

ベルは自分の真横に突き刺さった白刃に目をひん剥いていた。

よく見れば髪の毛が数本舞っている辺り、掠めたらしい。

小太刀を目で追えていたナズナはもちろんはたき落とせていたが、別に後ろのベルに当たるような軌道にも見えなかったので見逃していた。

まさか髪の毛とは言え当たるとは。

運のねえやつ、とナズナは自分の責任を棚に上げてそんな事を思った。

 

「…あーね。たぶん呼ばれてるのは俺じゃねえよ。だって俺、アイツラに嫌われてたし。特にアリーゼとかできる限りお前に近づくなって」

 

「そんなことは…ない、とも言い切れませんが。少なくとも感謝はしていたはずです」

 

リューの脳裏にはあの正邪決戦でのナズナの活躍が頭に思い浮かんでいるのだろうが、ナズナは知っている。

尊敬と軽蔑は同居できる感情なのだと。

 

「いや、『あなたはリューに悪い影響を与えちゃうから近づいちゃだめよ!たまにならいいけどね?』『いい人なのになんでこうもひねくれてるのかしら。とりあえず、あなたとずっといるとよほどの頑固者じゃない限りエルフはあっという間に影響される気がするわ!』『え、根拠?勘よ?私、人を見る目はあるつもりだからね。ふふーん!』ってアリーゼが」

 

「無駄に器用な真似を…」

 

「モノマネ得意なんだよ俺は」

 

ナズナの割と似ている物真似はさておき、根本的に正義の味方とナズナは相容れない。

殺人という手段に躊躇いを覚えず、悪人をぶちのめすことに爽快感を覚えるタイプのナズナは、高潔さとは程遠い。

そもそも、自分の手は生まれからして血塗られたものだと思っているナズナは、ヒーローごっこはしても、ヒーローになるつもりはない。

 

あとアリーゼが正しかったことは、レフィーヤが証明している。

エルフは特にナズナからの影響を受けやすい。

それはエルフの同族意識の強さゆえかどうか、別に心の専門家でないナズナはわからない。

興味もない。

 

「ま、とりあえずアイツラが会いたいなら俺じゃなくてこいつだな」

 

「え、僕ですか?」

 

「まぁたしかに、ナズナよりクラネルさんの方が可能性は高い」

 

「え?え?」

 

話を飲み込めずに混乱するベルがとりあえず飲み込めたのは、目の前の二人が知り合いらしいということくらいだった。

 

「あの、ナズナさんってなんでリューさんのこと名前で呼ばないんですか?」

 

「え、なんとなく。昔は別のあだ名(疾風)って呼んでたんだけど、ちょっと呼びにくくなったからな。わかりやすいだろ?」

 

「うーん…?」

 

「まぁ、気にすんな。俺にとっての程よい距離感ってだけだよ」

 

昔を知らないベルに、ナズナは多くは語らない。

誤魔化すためにも、ナズナはベルの肩に手を置こうとして失敗する。

 

「おっと」

 

「ナズナさん?」

 

片目を失ったことによる遠近感と左右差の違いに、いまだ馴染まないせいで空振った手をしばらく見つめていたナズナは、所在なさげにそれを下ろす。

 

「───その目…」

 

「ああまぁ、お前なら気づくか」

 

そして、これまでの立ち振舞から、リューはナズナの喪失に気付く。

その困惑した視線すらも受け流して、ナズナはリューに向かって先ほどまで後生大事に抱えていた酒瓶を放り投げた。

 

「とりあえず用事済ませに行ってこいよ。俺はいいや。代わりにこの酒でも持ってってくれ」

 

「…分かりました。ではクラネルさん、どうかついてきてくれますか?あなたには、話したいこともある」

 

「…?はい!」

 

話を全く理解していないくせに、信頼する人物の言葉に素直に頷く。

こいついつか痛い目見そうだなと、ナズナは森の奥へと消えていく二人を見送りながらそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

道中助けに来てもらったお礼を改めて伝えながら、ベルが連れてこられたのは墓場だ。

 

「ここ、は…」

 

僅かばかりの空間が開けており、周囲は細い木立と水晶に囲まれている。

頭上から差し込む一筋の光の下、木の一部を紐で結ばれた十字の墓がいくつも並んでいる。

 

「……彼女達に花を手向けるために、時折ミア母さんから暇をもらっています」

 

リューが十以上ある墓の一つ一つに白い花を添えていき、次いで、先ほどナズナから受け取ったお酒を特定の墓に順々に飲ませていった。

そして、注ぎ終わったあとに瓶の底に『激辛♡度数99』と書いてあるのを見て動きを止めた。

 

……。

だが、それを咎めることをリューはしなかった。

ナズナは彼女たちが生きていたころも、こうしたいたずらを繰り返していたし、彼にとって彼女たちの関係が今なお変わっていないということに、少し口元を綻ばせた。

 

同時に、リューの脳内でアリーゼやライラ、輝夜が『いひゃいいひゃい!口が火傷しちゃう!』『あんのクソガキエルフが!祟るぞ、こら!』『コロス』と悶え苦しむ姿が思い浮かんだが、きっと気の所為だろう。

 

「リューさん、これって───」

 

「私が所属していた【ファミリア】の仲間たちの墓です」

 

そうして、語られたリューの過去はベルの想像を超えていた。

ギルドの要注意人物一覧に乗っていること。

闇討ち、奇襲、罠。

手段を問わない一人のエルフの手によって、闇派閥という組織が壊滅したこと。

時折、誰かに助けられたような場面があったと、ナズナのいる方を見るリューさんの勘はきっとあっているのだろうと、今日がほぼ初対面のベルは思った。

 

「……その後はどうなったんですか?」

 

「力尽きました。全ての者に報復した後、誰もいない暗い路地裏で」

 

そして、死を受け入れ、生を手放そうとした彼女の手を、温かい手が掴み取った。

 

───大丈夫?

 

「耳を汚す話をしてしまってすいません。私は自分の行いを恥じているし、自分へも失望しています。それでも最近は、自分の過去を少し受け入れてきているのです」

 

「過去を受け入れる…」

 

「はい。私の手を取ってくれる人が、握る人がいたからだ。…貴方のことですよ?」

 

「は、はいっ!?」

 

「私が最初に手を振り払わなかったのは貴方で3人目です」

 

一人目はアリーゼだ。

自分たち以外のものを認めずに汚らわしいと見下す同胞の姿に、見た目麗しいエルフこそがその実、一番醜いのではと思ってしまったリューは、故郷を出てオラリオにたどり着いた。

 

だが、尊敬し合える仲間に出会うどころか、リューは『エルフらしさ』と呼ばれる潔癖性のせいで、結局自分こそがその醜い同胞と同じように他者を見下しているのではないか、と傷つくことになる。

 

だが、アリーゼはなんてことないようにその手を取った。

 

『なに、全然平気じゃない。拍子抜けだわ』

 

二人目はシルだ。

彼女の献身は、リューを再び陽の光の当たる場所へと運んでくれた。

 

そして、三人目。

 

『ありがとうッッ!本っ当にっ、ありがとうございますっ!!』

 

とあるパルゥムの少女のおいた(黒歴史)のせいで失った自身のナイフ(二億ヴァリス)を取り戻したリューへの感謝が極まった、目の前の真っ白な少年だ。

 

「クラネルさん。貴方は、尊敬に値するヒューマンだ」

 

リューは、本命がいる初心な少年にはあまりにも凶悪な微笑みを浮かべるのだった。

 

 

ちなみにだが。

ナズナはわざわざピリピリしている同族に近づくようなことはしない。

どうせ話しかけてもスカジの一族のことを言われるだけだし、家族以外のエルフでわざわざ面倒くさそうな相手をしたいとは思わなかったのだ。

 

だから、ナズナがリューと絡むようになったのは、彼女がアストレア・ファミリアに入り、多少角が取れてからだ。

闇派閥をナズナがボコボコにしている所に、遅れてリューとライラがたどり着いたときに、ようやく邂逅した。

 

『待て、やり過ぎだ!』

 

『あ?誰だよ。うるせーな。こいつはうちのファミリアに手を出した。まだ殺してねーのは、痛めつけるためだけだ。邪魔すんな』

 

『うわ、ブチギレモードかめんどくせぇ。勇者サマは何やってんだ?』

 

『だからと言って甚振っては同じ穴の狢だ』

 

『でもスッキリするぜ。それに俺の家族に手を出しといて、ただで済むと思ってるのがまずおかしいよな。だから恐怖を植え付けんだよ。二度とこいつの仲間が歯向かってこないように、二度と俺の家族に手を出さないように。丁寧に、徹底的に刻む。偉そうに尖ったエルフ耳は削ぐし、歯は折るし、爪も剥がすし、喉にこいつのち◯ち◯も詰める。話はそれからだ』

 

『ちん───?』

 

『おいおい、エルフの森はついに性教育もやめたのか?滅亡まっしぐらの超少子高齢化種族のくせに!?ははっ、相変わらずすぐ自分たちの首を絞めるなお前らは!』

 

『まるで自分はエルフではないかのように言う───!』

 

『はん、そう言ってんだよ。邪魔するならお前から死ね』

 

返り血で全身を真っ赤に染め上げ、キレすぎて番犬時代まで剣呑さが戻っている小さな鬼に怯むことなく挑んだリューはあえなく返り討ちに合うも、ライラが連れてきたフィンによってなんとかその場は収まった。

 

以来度々ぶつかり、ナズナとリューは今の関係に落ち着いた。

つまりは互いに干渉せず、会ったら適当に近況報告をする程度の知り合いという関係に。

そして、同じ死者を悼む同胞として。

 

ナズナとリューは、結局互いに歩調が合うことはないのだ。

これまでも、これからも。

 

ただ少しだけ、どんな過去があっても生きたいように生きるナズナの影響がリューに出ていたりはするが、誤差の範囲だろう。

きっと。

たぶん。

 

どこぞの自称妹に比べれば。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

なんかキレてるナズナを描写していると、当たり前のように下ネタが出てきてビビります。
とはいえそれなりに意図的に設定に準じた台詞もあるので、キャラがぶれないようにがんばります。
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