一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

話の整合性というか丁寧な展開を重視するあまり、面白くない1話が完成したので消し去りました。
ベルとの珍道中は全カットです。



第三話。女王

 

賭け事をしたり、酒を飲んだり。

全く関係ない喧嘩に乱入してみたり。

地上で金になる迷宮の楽園(アンダーリゾート)の水晶の場所や、(比較的)良心的な店や、穴場の宿屋を案内したり。

リューと別れたあとのベルは、ナズナの案内で安全階層である18階層。

水晶と大自然に満たされた地下世界。

別名迷宮の楽園(アンダーリゾート)に居を構えるリヴィラの街を見て回っていた。

 

悪い大人筆頭のナズナの観光案内は、ベルやリリが昨日アイズたちに案内された時には分からなかったリヴィラの街の別の顔が見えてくる。

そんな裏見学とも呼べるナズナとの逃避行を、ベルもなんだかんだ楽しんでいた。

 

「あー遊んだ遊んだ。今日はサイコロの機嫌も良かったし悪くない一日だったな」

 

「最後に全部消えましたけどね…」

 

ナズナは流れるように街を歩いていた冒険者に絡んでぼこぼこにして巻き上げた金を、幸運の女神を口説き落としたかのようなレベルの豪運で勝ち続けて十倍にし、最後の最後で調子に乗って全ツッパし0へと変換した。

もはやそういう星の下に生まれたとしか思えないほどの負けっぷりに、ディーラーも苦笑い。

とはいえ元より家族が元気を取り戻すまでの時間つぶしでしかないのだ。

ナズナのメンタルにはなんの影響もなかった。

負けるのはいつものことだし。

 

「いいんだよどうせ泡銭だし。汚い金は長持ちしない。勉強になったろ?」

 

「それはほんとに。悪いことはするもんじゃないなって」

 

「悪いやつにしか悪い事してないからセーフ」

 

悪いやつ(主観)。

今回ナズナに絡まれた冒険者は、ベートのことを弱いやつに良く吠え強いやつには噛みつかない犬っころだと言った過去がある。

その時のナズナは、怪我をしたリーネを地上へと運ぶのに忙しくて鎖でぶっ飛ばすくらいしかできなかったが、怪我をして自分が死にそうになっていることよりも、想い人を侮辱され自分がなにもできないことに涙するリーネを見て、いつか懲らしめると心に決めていたのだ。

 

ベートのことは別に心配していない。

ベートは何を言われようが強くなるために、そして弱者が一人でも無謀と勇気を履き違えないように、吠え続けるだけだからだ。

彼は陰口を言うしかできない負け犬程度にどうこうできるような犬っころではない。

誇り高い冒険者の一人だ。

ナズナの大切な家族だ。

 

そんな家族のこと侮辱して生きていることに感謝してほしいくらいだ、とナズナは思うが口にはしなかった。

 

「それにお金は派手に使うほうが楽しいだろ」

 

「でもそんな考え方だから万年金欠なんですよね?」

 

「おっと。お前今日一日でだいぶ辛辣になったな」

 

そんな風にベルを引き連れて仲良く会話をしながらキャンプへと帰ってきたナズナは、強烈なプレッシャーを感じて足を止める。

 

それは、普段からとある女神のせいで視線に敏感なベルも同じだった。 

心臓を鷲掴みにする重圧にベルの喉が、ひゅ、と壊れた笛のように鳴る。

顔を恐怖で歪めるベルとは対象的に、ナズナは嬉しくて仕方がないという顔を必死に堪えていた。

 

二人が揃ってそちらを向いた瞬間目に入ったのは、幾人かの妖精の姿だ。

レフィーヤとなぜかいるフィルヴィス、アリシアにその他モブエルフが数名。

 

───そして、リヴェリア。

 

周りとの温度差で居心地の悪そうなフィルヴィス以外の全員が暗黒の瘴気を両肩に背負い、無言でうつむいている。

 

「ははっ」

 

夜闇すら塗りつぶす怒気を前に、ナズナは今度こそ笑った。

辛気臭い顔をしていた家族が、いつもの調子に戻ったとこを心の底から喜んだ。

 

だから、あとは逃げるだけだ。

家族が元気になったのはいいが、これは流石に元気になりすぎだ。

この様子のこの人数にマジの説教と折檻されたらさすがのナズナも普通にしんどい。

 

「…さて、ベル・クラネル。足に自信はあるか?なけりゃ神に祈れ」

 

神、と言われてベルが見たのはズタボロになり虫の息の神ヘルメスだ。

彼はまるで食人族の生贄かなにかのように丸太へと磔にされ、足元の焚き火で熱されている。

火が少し小さくなる度に、アスフィが無言で薪を焚べるせいで、常に火が自分の靴すれすれにあるのは恐怖しかないだろう。

とても神にしていい所業ではない。

 

それに悲鳴を上げるベルに構わず、ナズナはエルフたちに手を振った。

 

「よぉ…お前ら!元気そうだな。揃いも揃ってヤンデレごっこか?暇なんだな。俺は遊び足りねぇから、こいつともっかい街に繰り出してくるぜ!」

 

「巻き込まれた!?」

 

視線を慌ててナズナへとベルが戻すももう手遅れだ。

自分の肩へと回された腕が、万力のように締め上げてくるのを感じてベルもまた覚悟を決める。

 

なぜなら、エルフたちの後ろに髪の毛をまるでおとぎ話のメデューサのように揺らめかせる神ヘスティアが見えたからだ。

あとめちゃくちゃ笑顔のリリも。

 

「ナズナ…」

 

そして、そんな怒れる女性陣の中からリヴェリアが前へと出てきた。

再びナズナが逃げ出さないようにという心遣いなのだろう。

口の端を怒りで引きつらせながらも、笑顔を作ろとするのはさすが大木の心の持ち主。

 

「もう帰ってこい。私たちも別に怒ってるわけじゃないんだ。だから、な?」

 

「何が怒ってるわけじゃないだ。怒ってるやつの常套句を信用するわけねーだろ。ちったぁ頭使え?それともなんだ寝不足か。なら早く寝たほうがいいんじゃないですかねえおばあちゃん!」

 

「イラッ☆」

 

が、ダメ。

家族がいつもの様子に戻ってテンションの上がっているナズナの容赦無い口撃を前に、大木の心は容易く折れた。

 

同時に怒りで拳が握りしめられ、その衝撃で空気が爆ぜたことで、本当になぜかこの場にいるフィルヴィスが震えだした。

 

だが、ナズナはむしろ嬉しそうだった。

むしろ愛を感じるので、もっと感情を向けてほしい。

でも説教は勘弁な!というどこまでいっても自分本位なナズナが目線を移せば、目からハイライトを消し去ったレフィーヤがフィルヴィスにしがみついているのが見えた。

そして、目があったことに気付いたフィルヴィスは、冷や汗を流しながらなんとか口を開く。

 

「その、なんだ…ナズナさんもあまり家族に心配をかけるものじゃないと思うぞ…?」

 

「兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん…」 

 

「隣のぶっ壊れた妹のほうが心配だよ俺は」

 

「いやそれは本当にそうなんだが…!ひぇ、レフィーヤ、落ち着け!私は敵じゃない!私は別に泥棒猫ではない!ただ話しているだけだ!だからその振りかぶった杖をおろしてくれ!とても怖い!」

 

いちゃいちゃしている(ナズナ視点)フィルヴィスとレフィーヤは問題ないだろう。

いつもの発作だ。

これは別に右目は関係ない。

だって水浴びのときとか目隠しをするナズナを見て恍惚の笑みを浮かべていたし。

 

というより問題なのは、ベルの方にレフィーヤから矢印が出ていることだろう。

 

「許セナイ、許サナイ、許サレナイ…アイズさんに特訓をつけてもらうだけじゃなく、兄さんと夜遊び?二人きりで?ああ!ほんと!うらやま…妬ましい!」

 

「なんかものすごい恨まれてませんか僕!」

 

「な。かわいいよな」

 

「だめだこの人早くなんとかしないと!」

 

いやぁ愛をビシバシ感じるなぁ説教は勘弁だけど、と笑うナズナの横でベルは頭を抱える。

 

「ナズナさん!あなた───「うるせーアリシア!お前はラブサバトとかいういかがわしいイベントに行ってたくせに俺になんか言えると思ってんのか!この破廉恥娘!エロ担当!そろそろ若くねーぞ!お前こそあのイベントで彼氏ゲットする方法学ぶべきだったんじゃねーか!?」…私に対する当たりが思ってたより強い!まだ女装に気付けなかったこと気にしてるんですか!?」

 

さて、そんな風に相手を挑発しながらナズナは逃走を図るための準備を整えていた。

黒霧(ブラック・ミスト)

こないだフェルズの部屋から無断でかっぱらってきた目眩まし用の魔道具だ。

挑発をしながら流れるように懐に手を伸ばしたナズナは、ベル君!ヘルメスに聞いたよ!君も木の上にいたんだって!?ひええ、許してください神様ぁ!というやり取りをするベルの手を取ると、その小さな魔道具を地面へと叩きつけた。

 

「なんだ…!?」

 

「ははははは!あばよ!朝には帰るぜ!多分な!そこのハイエルフ様の怒りが落ち着いてたらだけど!」

 

「…我が名はアールヴ!」

 

「リヴェリア様流石にそれは隣の少年が死にます!」

 

「チッ…!待て、ナズナ!貴様は尻叩きの刑からの抱き枕の刑だからな!覚悟しておけ!」

 

「聞こえませーん!べろべろばー!」

 

「ちょ、走りながら振り向かないでください!追いつかれちゃいますよ!」

 

このあと森へと逃げた二人は闇派閥に遭遇したり、リューと共闘して撃退したり、紅のローブの怪人が証拠隠滅のために自爆装置ごと魔剣で辺り一帯を焼き払ったり。

良くわからないアイテムをリューが拾ったりしたが、要するに。

 

普通に逃げてるどころじゃなくなったナズナはあえなく捕まり、説教をされて尻を叩かれ。

一晩リヴェリアの抱き枕になるのだった。

 

「ナズナ…私はお前を───」

 

自分を抱き枕にするリヴェリアの表情が、以前より官能的な色を帯びたことには一切気づかないまま。

 

 

 

 

自分にとって、ナズナとはどんな存在か。

リヴェリアはその答えを持ち合わせていないことを自覚していた。

親子、恋人、仲間。

どれもしっくりこないくせに、人一倍執着心を向けている。

 

きっかけは何だっただろう。

森を出る時に自分を身を挺してかばってくれた時だろうか。

それとも、同じファミリアとなってから何度も危機を乗り越えてきたからだろうか。

いつだって自分の前にその小さな頼りがいのある背中があって、リヴェリアはその背中に守られながら数多の敵を屠ってきた。

 

彼との冒険は痛快だった。

誰よりも前に出て、誰よりも悲劇を笑い飛ばして彼は前へと進み続ける。

そんな彼が好きだった。

 

だが、そうしてナズナとの過去を思い返しても、明確なきっかけは思いつかなかった。

 

ナズナと最初に出会い、一番最初に優しさを教えたのはアイナだ。

ナズナの家族には見せたがらない秘密や内面を知っているのはロキで、家族としての関係を一番築いているのはレフィーヤだ。

 

彼女たちと比較して、自分はなんて中途半端なのだろうと劣等感すら覚える。

二番目に出会い、秘密を知るために踏み込みきれず、家族としての立ち位置を見つけられない。

理由を作って、立場を利用してナズナの隣に居座る傲慢な王。

 

あるのはただ、誰よりも醜い所有欲だけ。

 

───だが、もういい。

もう深く考えるのはやめだ。

片目から光を失い、それでも笑うナズナを見て、リヴェリアは理由にこだわることを辞めることにした。

うじうじ悩んでいては、ナズナはいつか死んでしまう。 

それも、誰かを守ってだ。

リヴェリアを守ってならまだいいが、もしナズナが他の誰かをかばって死んだとしたら、リヴェリアは嫉妬に狂うだろう。

 

「お前の死に、私が関わってないと思うとゾッとするな…。どうせ死ぬなら私のために死んでくれよ?それともいっそお前を殺して、永遠にその死体を私の物にした方が幸せか…?」

 

リヴェリア・リヨス・アールヴはナズナが欲しい。

誰にも渡したくない。

彼にどんな秘密や肉体関係があったとしても関係ない。

 

ただ、この男を自分のものにしたい。

征服し、支配し、服従させたい。

笑う顔が見たい。

怒る顔が見たい。

泣く顔が見たい。

快楽に蕩け、自分しか目に入らないようにしたい。

というかもう、生意気な口を塞いで分からせたい。

 

そんな我欲に身を任せよう。

美しい恋ではなく、深い愛でもない。

浅ましい欲に私は身を委ねよう。

 

文句があるならかかってこい。

ナズナを手に入れるためなら世界最高の魔法使いとしてだけじゃない、嫌っていた自分の立場だって利用してみせる。

逃がすものか。

 

私がエルフの女王だ。

どんな汚名も成果と権威で洗い流せる。

 

とりあえず手始めに、この男の首筋に私の物だという証をつけよう。

 

話はそれからだ。

 

───酷薄に笑う一人の女を、魔石灯の光が淡く照らし出していた。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

右目を失明させたのは今後の展開を変えるのに都合が良かったからです。
今後少しずつこの右目が色々に効いてくる…と予定はしていますが毎度のごとく予定は未定です。
誰かさんが前より重くなったり、誰かさんの考え方に影響が現れたり、イベントのタイミングがずれたり。
期待とハードルは下げてお待ち下さい。
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