一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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今回は2つほど1話として出すには短いけど差し込む場所も難しいみたいな話を、ぶつ切りで繋げたなんちゃって短編集みたいなものです。


第五話。正義を運ぶ風

 

●憧憬は交わらず

 

 

それは、リューが復讐を果たしきった直後の話。

 

「私はどこに…」

 

復讐は遂げられた。

だが、得たものは虚無感だけだ。

達成感もなければ、何時ぞや()が言っていたようにスッキリもしない。

 

思い返せば、彼はいつだって仲間を失う前に報復を行っていた。

必ず仲間を守りきって、それから敵を殲滅する。

見せしめのように痛めつけてから殺し、闇派閥の目につくように派手に放置する。

 

そのやり方に苦言を呈してきたリューだったが、彼は仲間を失わず、自分は失ったという結果が、自分が間違っていたのではという思考へとリューを誘導してしまう。

 

「───お前こんなところでなにしてんの?」

 

そんな事を考えていたからか、死に体のリューは一番会いたくなかった相手と出会ってしまった。

雨に打たれ、路地裏で体を引きずるリューを見て顔を顰めるナズナはいつも通りだ。

 

いつも通りギャンブルに負け、身ぐるみを剥がされたのだろう。

 

───彼は、トランクス一枚だった。

 

シリアスぶち壊しのその男は、眼の前のリューよりも過去を後悔しているような顔をしている。

こんな状況でも、戦闘中でもない限りシリアスにならないのがナズナという人間だった。

 

だが、絶賛シリアスしているリューには関係なかった。

というか疲労のせいで思考がストップしていて、視野狭窄に陥っているせいでそこまで気が回っていなかった。

 

「ナズナですか…私を笑いに来ましたか?」

 

「え、ごめん。何の話?」

 

かつて彼が悪人を甚振っていた時に立ち向かい、何度もそのあり方を否定してきたくせに。

今自分がしていることはなんだ?

 

取り返しのつかないミスをしておきながら、それを認めなくて命を奪うなど、彼と同じどころか、私の行為は彼よりもよほど醜い。

 

いつもと変わらぬナズナの様子を見てそんな風に考えるリューではあったが、暗黒期の最中でありながらギャンブルに勤しむバカはそもそも、状況の理解がまだ出来ていなかった。

 

パンツ一丁のショタと路地裏で美女が二人。

シチュエーションとしては、あまりにもシリアスがそぐわないのに話は進む。

 

「散々悪人を嬲る貴方を咎めておいて、結局私は自分の中の復讐心を止められなかった…。私は醜い…。私は、私が嫌いだ!正義を成すと息巻いて、結局なせず。死んでいったアリーゼたちに顔向けも出来ないこの愚かさ!巡るはずの正義は、私が自分の手で壊してしまった…!」

 

その慟哭は、リューが初めてナズナの前で見せた彼女の弱音だった。

その弱音を黙って受けとめるナズナに縋るように、リューは腕を絡める。

彼なら。

正義も悪もなく、ただ守りたいもののために敵を殺し、生きる彼ならば。

過去を受け止め、それでも鳥のように自由に生きる彼ならば。

正義で無くなった自分のことも…そんな心の声に、今のリューは抗えない。

 

まるで男に手を伸ばす娼婦のようだ、と僅かに残った理性が吐き捨てるも、もうリューは自分のことを止められなかった。

 

こうなる予感があったから、ナズナとは会わないようにしていたのだ。

時たま闇派閥との戦闘中に遠くから助けられたと気付いていても、振り向かないようにしていたのに。

 

「私がずっと心の何処かで憧れていたあなたなら、私を受け止めてくれますか。私にはもう貴方しかいない。いないんです…。一番でなくていい。慰み者としてでも構わない。どうか私を側に置いてください。貴方のそばにいるだけで、私はそれで───」

 

王道な物語なら、男が女を抱きしめて光落ちしてハッピーエンドにもなれただろう。

あるいは二人揃って閉じた世界へ逃げていくこともあるかもしれない。

 

だが、ナズナに王道はあまりにも向いていない。

つーかパンイチの男に悲劇的なラブコメができるわけがない。

彼は自分に回された腕を真顔ではたき落とすと、叫んだ。

 

「うるせー!知るか!こっちは今フィンたちになんて言い訳するか考えてんだよ!つーかやべーよ!フィンの魔剣も売っちまった!どうしよ!?どうすればいい!?」

 

「え、ちょ」

 

「はんっ!ここからあまーく囁いて一緒に落ちていってくれると思ったか?やだね!お断りだ!俺ルートは課金専用追加コンテンツだよ!それともなんだ?今金を恵んでくれるってか!?」

 

「いや、え?えええ…?」

 

「慰めて抱きしめれば満足か!?お前に都合のいい言葉がお望みか!こっから先、お前をおぶってきれいな景色だけ見せたらいいのか!」

 

ナズナは困惑するリューを置いてけぼりにして、リューに向かって叫ぶ。

 

「甘えんじゃねえ!お前は!!リュー・リオンだろ!」

 

その言葉は、ナズナがリューへと抱いていた憧憬の発露だ。 

パンツ一丁だけど。

 

「正義の味方、清廉潔白、正義は巡ると信じて生きるうざってーほど甘ったるい理想主義者!そんなお前が俺と一緒になる?バカかよ。そんな勿体ねーことあるか!」

 

生まれからして血にまみれた自分では到底なれない、その在り方。

それに憧れるナズナは、リューを突き放す。

すべてを諦め、自分と同じになるというリューを光の世界へと蹴り返す。

 

ナズナは誰よりも、リュー・リオンという女を信じていたから。

再び正義を胸に抱いて、かつての彼女の仲間が託した物を背負い直し、再び立ち上がると信じていたから。

 

あとついでに、自分たちの根っこの部分の相容れなさのせいで、共依存的な関係性が続かないことをよくわかっていたから。

 

根本的に、ナズナは今のリューに共感できない。

家族を殺されたナズナは、敵を簡単に殲滅したりせずに一日一人捕獲し、嗤いながら拷問にかける。

そして死体をぐちゃぐちゃに潰してジュースにして、次のやつに飲ませたり、ケツからぶち込んで逆流(メントスコーラ)させて爆笑することだろう。

その残虐性は止まることなく、大いなる悪意と愉悦を持って、悪意を向けてきた人間たちを滅ぼしにかかることになるのは間違いない。

そして、殲滅すれば天に向かって仇をとったとガッツポーズする。

 

だから、弱っているリューをここでナズナが受け止めたところで上手くいくはずもないのだ。

仮にうまくいくなら、それはもうリュー・リオンではない。

そんな見ず知らずの女と生きていくなんて、ナズナはゴメンだった。

 

「お前に俺なんかいらねーよ。てめえにはまだ動く足がある。藻掻くための腕があるっ。まだ死にたくないと叫ぶ心臓がある!」

 

───僕は死ぬのかな

 

───そんな風に生きてみたかった…

 

頭に過った後悔を踏み越えるように、ナズナは叫ぶ。

 

「死んでねえなら、その心のままに生きりゃいい。過去がなんだ。ちょっとした黒歴史なんて誰にでもあるわ!たった一度の過ちでお前の綺麗さが損なわれると思ったら大間違いだ!」

 

パンイチのくせに言うことはいっちょ前のナズナは、混乱が抜けきらないリューに向かって、ようやく微笑んだ。

 

「死にそうなら助けてやるよ。でも、そうじゃねえなら話は終わりだ。挫けてもいい。逃げたらいい。もう一度羽ばたけるようになるまで休んでりゃいい。

 

だから。

二度とこっちに来ようなんて思うな。

次下に落ちてこようとしたらまた何度でも蹴り返すからな。

 

血に塗れて、正義も悪も無くなった俺の側になんて…誰もいないほうがいいんだから。

 

そう、誰もな───」

 

その初めて見せる泣きそうな微笑みを最後にリューは眠る。

 

次に目覚めた時、彼女は運命の出会いをする。

 

───大丈夫?

 

彼に寝ている間に担ぎ込まれたその新しい居場所となる酒場の名前は『豊穣の女主人』。

どんなに強い冒険者も、無法者も、悪党も裸足で逃げ出していく怖い店。どんな過去がある少女達も、ここでは馬車馬のように働かされ、美味い飯と酒を振る舞って、多くの客と笑みを分かち合う───豊穣の酒場。

 

数日後、とある少女の献身でリューに笑顔が戻る。

 

とはいえ。 

彼女が過去を完全に受け入れて、再び歩み始めるのはもう少し先の話だ。

 

 

ナズナはリュー・リオンの正義に理想を見て。

リューはナズナ・スカディの自由に夢を見た。

互いの憧憬は、相容れないからこそのもの。

絶対自分のようにはならないという相手への信頼があってこそのものだ。

 

二人の道が交わることは、ありえない。

 

 

●理解力カンスト女神

 

 

それはかつての日常。

 

「待て!クソガキエルフ!」

 

正義を司るアストレア・ファミリアにちょっかいをかける人間はそれなりに多くいたが、闇派閥よりも彼女たちの頭を悩ませる襲撃者がいた。

 

「はははは!待つかバーカ!クソチビ!知識と知恵が売り?何回俺のブービートラップに引っかかってんだよ恥ずかしくないんですかー!?」

 

「だぁぁあ!ムカつく!」

 

ナズナだ。

彼は定期的にアストレア・ファミリアのホームに忍び込んでは悪戯を仕掛けていた。

時には調味料をすべてタバスコと入れ替えていたり、ブーブークッションを仕込んだり、寝てる間に寝室に潜り込んで顔に落書きをしたり、トイレの出入り口を接着剤で固めて誰も入れないようにしたり、真冬の風呂のお湯を魔剣で凍結させたりと。

しょうもないものから、手の込んだものまで。

 

28歳のアラサーとは思えないほどの幼稚なクソガキっぷりは、最近ではアストレア・ファミリアのホームでの名物になりつつあった。

現にライラの声を聞いた一部の団員たちが呑気に見学している。

 

「死ねぇぇえぇぇえええええええ!」

 

「ふぁめえよ」

 

ナズナの動きを誘導するように追いかけていたライラがニヤリと笑った瞬間に、曲がり角に潜んでいた一人の女性から放たれた本気の居合い。

それを口で受け止めると、ナズナは心の底からバカにしたようなムカツク表情(ニジウラセブン)で煽る。

 

「大和撫子の夢をぶち壊す鬼め!黒髪和服美人へのあこがれを返せ!返せないなら猫耳つけてニャンとか、メイド服きて『お帰りなさいませ御主人様』とか言ってみろよ、おら!」

 

「いい度胸だ。その首今日こそ落とす!」

 

「やってみろよ、その鈍らで切れるのなんてまな板の上の野菜くらいだろ!バーカ!」

 

そして、そのまま逃げおおせるべく走り出そうとして、直後急ブレーキをかけた。

 

「おはようナズナ。朝から元気なのはいいことだけど、あまりこの子達をいじめないであげてね?」

 

目の前に、一柱の女神が飛び出してきたからだ。

 

「どーもおはようございます。神アストレア。でもなー、いじめられてるのは俺だからなぁ」

 

ナズナがなぜこんな事をしているか。

それは子供がヒーローに憧れるのに近しい感覚だと言って理解できる人間はいないだろう。

バカの思考回路は複雑怪奇。

あるいは単純すぎて意味がわからない。

要は好きな人にちょっかいをかける的な、そんな不合理な行動原理を理解できるのはそれこそ神くらいなものだ。

 

そして、眼の前の胡桃色の長髪を背中に流す美しく清らかな女神はそれはもうナズナのことをよく理解していた。

 

ナズナが来るのは決まって、アストレア・ファミリアの面々が精神的な疲労を抱えるような事件を解決した直後だ。

つまりは心配してここに来て、素直じゃないから悪戯をするというお前いい大人だろ何やってんだみたいなことをナズナがしてるというのを、よく理解していた。

 

「なら、こういうのはどう───?」

 

だから、女神アストレアはこの都合の良い経験値アイテムを、自分の子たちのために利用することにした。

 

以降、ナズナの悪戯は頻度を少し減らし、代わりに『ナズナが攻撃をしてはいけない』という縛りで、時間内にアストレア・ファミリアの面々から一撃入れられたら負けという鬼畜なゲームに参加させられるようになる。

要は体の良いサンドバックである。

 

「はははは!はいダメー!目で追えない?なら先に防御を置いとくだけなんだよ!理想嫌いのくせに意外と狙い所は素直か?かわいいでちゅねー!」

 

「コロス!お前はなんとしても殺す!その生意気な口を絶対、黙らせる!」

 

「キスでもしたいのか?だったら、押し倒さないとなぁ!?」

 

「こら、セクハラはだめよ!私の正義の拳をくらっときなさい!」

 

「おっと、同じ付与魔法使いとしてはその派手さが羨ましくもなるけどよ───」

 

「ちょ、そんな躱し方ある!?ダンスやってるんじゃないのよ!?」

 

「当たらなければどうということはない!防御だけが俺の売りと思ったら大間違いだぜ」

 

「人を踏み台にすんじゃねえよ!」

 

「うるせーチビ!俺より小さいのが悪い!」

 

「お前ほんと…!一発殴らせろ!」

 

「ああいいぜ?できるもんならなぁぁぁぁああああ!?できないよなあ!?ざーこ♡ざこざこ♡俺の勝ちぃ!」

 

それはもう煽る煽る。

憧れのヒーローに構ってもらえてテンション爆上げなナズナは煽りまくる。

それにぶち切れる彼女たちは、冷静さを欠いて仕留められない。

 

「…うーん、彼に頼んで正解だったわね。みんなめきめきと実力が伸びていってる」

 

そんなじゃれ合いを、スパルタ女神はにこやかに眺めていた。

 

「ああ、どうかこのまま。平和なままで───」

 

もしかしたら、この祈りは儚く消えるものなのかもしれない。

彼女たちを待ち受ける悪意と苦難は、彼女たちを容易く飲み込んでしまうかもしれない。

 

それでもきっと、この願いはいずれ風が未来へと運んでくれる。

女神アストレアはそう信じていた。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

リュールート未然阻止、アストレア・ファミリアとのじゃれ合いの2本セットでお送りしました。
ヒロインみたいだぁ…。
次は第六巻ですが、たぶん書くことがないのでばっさりカットするかもしれません。
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