とりあえず外伝6巻と7巻がカットになりました。
そして、そろそろ敵目線でレベル7が一人増えてることへの変化がじわじわ効いてきます。
「うぬぬぬ…!」
レフィーヤは震えていた。
「私だってその気になればLv.4に、別に悔しくなんか…!いえ嘘です腹立たしいくらい嘘です、そんなこと言ってる場合じゃありませんっ、このままじゃああっという間に……負けてられない……!!」
「まぁ落ち着けよ」
それを落ち着かせるナズナは、ここ最近の出来事を振り返っていた。
ここ最近色々あった。
色々あったが、別に特筆すべきことはない。
ただちょっと港街メレンにロキ・ファミリアの女性陣に混じって女装してついて行ったり、そこでカーリー・ファミリアとイシュタル・ファミリアと揉めたり、レフィーヤを攫おうとしたアマゾネスをぼこぼこにして、ティオナとティオネに手を出そうとしたアマゾネスをぼこぼこにして、ついでに食人花もぼこぼこにして、街を散歩してたらアポロン・ファミリアの連中の狩りに遭遇してとりあえずでぼこぼこにしたりしていただけだ。
つまりはいつもどおり喧嘩三昧だった。
そしてアポロン・ファミリアはナズナに絡まれた後ヘスティア・ファミリアと戦争遊戯をして、負けた。
ベル・クラネルがランクアップするための見事なまでの踏み台っぷりは神々の爆笑を誘い、同時にベル・クラネルへの注目度を上げることになっていた。
現在レフィーヤがぷるぷる震えながら見ている紙面にも、件の戦争遊戯についてというか、一躍時の人となったベル・クラネルについてつらつらと記されている。
白髪赤目。
種族はヒューマン。
所属はヘスティア・ファミリア。
ランクアップ所要期間は一ヶ月。
尊敬する冒険者はアイズ・ヴァレンシュタイン。
チャームポイントは初心なところ。
好きな食べ物は…。
ナズナはどうでもいいというか、記者の主観で適当なことが書かれ始めた辺りで読むのをやめた。
ベル・クラネルは戦争遊戯の際に助けを求めてロキ・ファミリアの門戸を叩き、団員たちからの顰蹙を買った。
とはいえアイズやティオナといった一部のメンバーが手助けをしたらしいが、ナズナは特に手助けをしていない。
『美味しいヤミー!感謝感謝!またいっぱい食べたいな!デリシャッ!シャ‼️ シャ‼️ シャ‼️ シャ‼️ シャ‼️ シャッッ‼ハッピースマイル!』
『…なにそれ?』
『なんやナズナ知らないんか?これはな、神々で今最も熱いコールやで!』
『嘘をつくな嘘を』
ナズナが戦争遊戯の際したことと言えば、ロキと一緒に騒ぎに便乗してソーマ・ファミリアの倉庫に忍込み、全ての酒樽を空にしたくらいだ。
気づけば他の神々も集まってきて、ソーマ・ファミリアの面々が事態を把握する頃には、彼らの本拠地は完全に宴会場へと変貌していた。
そして、戦争遊戯が終わり覚悟を決めて神ソーマに会いに来たリリルカ・アーデは、ソーマ・ファミリアに数日居座りべろんべろんに酔いながら爆笑するナズナに絡まれる。
『だははははは!美味ー!』
『なんですかこの惨状は!?』
『なんだぁ!リリちゃんじゃーん!ウェーイやってる?元気ないじゃんどうした?話聞こか?』
『酒くさ!つーかノリうざ!』
『めんご☆で、で?ベル・クラネルとはうまくいってんの?もちろん恋愛的な意味で!』
『な、な、な、なぜそれを───!』
───
ダンジョンへの別の出入り口とは?という話をあえてわざわざするとしたら、闇派閥の動き的にどう考えてもモンスターを地上に運ぶための入口があるという見解に至ったのだ。
少なくとも食人花を外に出すには、バベルの所にある入口からでは無理なのだから。
そして、その出入り口は見つからなかったものの港街メレンでは収穫もあった。
それは今回の一件にイシュタル・ファミリアが絡んでいるということであり、出入り口があるのはもう残すところ『ダイダロス通り』であるということ。
あるいは
ナズナの前にトラップは無意味。
呪詛も届かない。
そして、ナズナがいればモンスターによる分断も難しい。
現状闇派閥側に、本拠地に誘い込むメリットがなくなっていた。
●
さて。
そんな訳でイシュタル・ファミリアを調査するという話になり、ナズナがまずやってきたのは、知り合いのところだった。
「お~いオッタル!娼館行こうぜ娼館!」
「………」
「正気とは思えない」
「それはいつものことだろ」
「それな」
「というかそもそも僕たちの全力の攻撃を鼻ほじりながら受け止めるのをやめろ!」
「頭ハッピーセットなくせに傷一つ付けられないのもはやバグだろ…!」
場所は『
日夜生き残りを賭けて本気の殺し合いが行われている、フレイヤ・ファミリアの血の歴史が色濃く刻まれた原野。
主神の美しさに脳を焼かれたバカたちの、バカたちのための、バカたちによる儀式場。
そんな原野に土足で踏み込み、真っ先にヒーラーを潰して、順繰りに戦士たちを気絶させていくナズナはどう考えても迷惑な訪問者だった。
しかも理由が娼館への誘い。
それもよりによってあのオッタルを。
現在生き残っている幹部やそれに準ずる冒険者たちは、脱力感と下らねえことでかき乱してんじゃねえよという怒りで、情緒がめちゃくちゃだった。
ちなみにヘディンとアレンは一番最初に沈んでいる。
ヒーラーよりも先に不意打ち気味に襲われ、執拗に股間を蹴られて彼らは気絶した。
泡を吹いて倒れる都市最速とフレイヤ・ファミリアの頭脳という絵面に、全員が冷や汗をかいたのは数分前だというのに、もはや遠い記憶のような気すらしてくる。
いくら攻撃しても鎧には傷一つつかない。
なのに気付けば、アレンとヘディンを除き、戦う力が弱い順に半数が気絶させられている。
ヘディンがいるか、ナズナの体調が悪くて鎧の強度がいつもより低いとかでない限り、ナズナの鎧は崩せない。
攻撃が通らない以上、あとに待つのはただのジリ貧だ。
Q,百人に囲まれました。あなたはどうしますか?
A,一対一を百回繰り返す。
それがナズナの答え。
攻撃力は高くない。
それでも隔絶した防御力というのは、時には理不尽をすべて凌駕する。
オッタルがレベル6が混じるパーティーとやり合うとしたら、ナズナのように弱い順に狙うとかではなく、真正面から傷を負いながらも今まで誰よりも真剣に練り上げてきた武技で勝つだろう。
数多の強敵をまとめて吹き飛ばし、何度も何度だって立ち上がって勝ってみせるだろう。
あるいは思いの強さで負け、膝をつくことくらいならあるかもしれない。
だが、ナズナは無傷で勝つ。
神々からクソゲー乙と言われる所以だった。
そのくらいしぶといというより、それだけ絶望的な状況に叩き込まれたフレイヤ・ファミリアの面々は、団長ー!早くきてくれー!と心のなかで悲鳴を上げる。
オッタルが待ち望まれるくらい戦士たちの心を折るという珍事は、もはや偉業としてカウントされてもおかしくないレベルだった。
「───ナズナ」
「おー!オッタル!」
ずん、という足音ともに原野に降り立つ巨大な影。
というかオッタル。
その顔には僅かな困惑と、濃い疲労が刻まれているがナズナは構うことはない。
「風俗、行こうぜ!」
鎧で見えないが弾けるような笑顔なのが伝わってくる声音で親指を立てるナズナに、
「おい本当に言ったよ」
「やっぱバカだろこいつ」
「そのバカに勝てない僕達はいったい…」
「う…死にたくなってきた…」
ざわつく周囲とナズナの眩しい笑顔を、鋼の精神で抑え込んだオッタルは重々しく口を開いた。
「…フレイヤ様がお呼びだ。付いて来い」
「いいけどそのあと風俗な」
「………」
オッタル沈黙。
そして、脳内で言葉の意味を咀嚼し、考える。
───つまり、こいつは俺を風俗に誘うためだけにこの惨状を引き起こしたのか…?
戦争遊戯。
派閥のつぶしあい。
そんな物騒な言葉に繋がりかねない起爆装置を、たかが風俗のためにうきうきで押す男。
それがナズナ・スカディだった。
最近は遠征に行ったりして落ち着きがあったから忘れていたが、この男は時々本当にバカになる。
それを思い出したオッタルは、深い深いため息を吐き出した。
目的のために手段を選ばない?
違う。
目的のための手段が途中から楽しくなって、手段のために目的を選ばなくなるだけだ。
「…行くわけ無いだろう」
「なら帰るかぁ。主神のお願いを達成できないなんて可哀想だなぁ」
「………」
白々しく言い放つナズナを前に、オッタルの頬を冷や汗が一つ流れおちていく。
ここまでされて主神の命令を果たせないとなれば、それはもはや切腹ものの失態だ。
風俗には行きたくない。
だが、本気で抵抗するナズナを捕獲するのはいくらオッタルでも3日はかかる。
それでは、今すぐ呼んでこいという主神直々の願いを達成できない。
───どうする?
「…なら、とりあえず風俗の入口まではついていく。そのあと再び話し合い…これでどうだ?」
「えー、まぁいいけどさぁ。3件くらいは付き合えよな」
「バカなのか?」
なぜ風俗のハシゴに自分がつきあわされるのか。
オッタルは本気で理解できずに頭を抱える。
オッタルは知らないことだが、一応これはイシュタル・ファミリアの調査のためにイシュタル・ファミリアと一番の敵対派閥のトップの協力を得ようという話なのだ。
もちろんナズナが風俗に行くのだって、聞き込みのためだ。
ナズナの提案を受けいれれば、フレイヤ・ファミリアにとっては定期的に絡んでくるイシュタル・ファミリアを潰せて、ナズナ的には行き詰まっている調査が前進する。
だが、その辺を説明していないせいでオッタルからすれは突然団員をボコボコにした上に風俗に誘ってくる厄介なバカでしかないのが問題だった。
「…ああもうなんでもいいから来い!このバカ!」
「あ~れ~」
襟首を掴まれて、特に抵抗することなく連れてかれるナズナを見て、ようやく台風が去ったことを理解し、生き残った面々は脱力する。
そして、あたりを見回して一言。
「「「これはひどい」」」
あとにも先にも、フレイヤ・ファミリアの団員たちの心が一致したのはこのときだけだったという。
今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
1話で2回も他のファミリアの本拠地に攻め込む主人公がいるらしい。
というのはさておくとして、飽きられきる前にこの話を畳みたい、と最近思う作者です。
とはいえレベル7が一人増えてることで嫌でも話の展開は早まります。
どう足掻いてもピンチにならねえなこいつら、と思いながら色々こねくり回してますので、今後も暇つぶし程度にご利用ください。