そして、年が明けました。
相変わらずクオリティに進歩はありませんが、今年もがんばります。
「はぁ…どうするべきなのかしらね」
フレイヤは悩んでいた。
普段退屈な顔をすることが多い女神にしては珍しい、拗ねたような、それでいて熱に浮かされたような乙女的な表情。
狂信的な信者たちが見れば鼻血を出してぶっ倒れていただろう。
あるいはその顔が自分に向けられていないことに嫉妬して、血の涙を流すかもしれない。
兎にも角にも、大事なのはフレイヤが悩んでいるということだ。
その悩みとは、
───最近自分の今欲しいものランキング堂々1位のベルの人気が凄まじい。
というもの。
アポロンはまぁいい。
あいつは気持ち悪かったが、ベルの成長のための踏み台になったし、都市を追放されたから問題はない。
それにあいつが書いてオラリオ内に秘密裏にばら撒いている『発情兎はヒヤシンスに抱かれる』という、ドS御曹司×平社員のドキドキ禁断の恋愛模様を描いた漫画はなかなか面白い。
フレイヤが自分で
そんな話をナズナにしたら、『美の女神って、美術の心得はないんですねぷすすすー!』と爆笑され、こいつほんま…魅了してぐちゃぐちゃに食ってやろうかと暴れかけたのはいまではいい思い出だ。
───アポロンが都市追放されてからの事なのでつい最近の話なのだが、長寿二人による時間感覚では三日くらい前の話でも思い出になる。
では、誰が問題か。
まずはロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタイン。
彼女は添い寝したり、後方師匠面したり、ダンスを踊ったりと、ヒロインアピールに余念がない卑しい女だ。
彼女が微笑むだけでベルが天にも昇るような喜びを覚えるのが腹ただしい。
最近はナズナのアドバイスのせいで、ご褒美デート(ただの買い物)まで済ませている。
実に要注意な女だ。
次に女神ヘスティア。
彼女は処女神故に、いくら距離が近くても問題ないだろうと放置していたら、気づけばヒロインレースのトップに躍り出ている。
添い寝したり、一緒に歯磨きしたり、当たり前のようにデートしたり、お風呂覗いたり。
フレイヤが意識しないと出せない自然な可愛さを息をするのと同じように当たり前に出せるあざとさがある。
しかも最近はナズナのアドバイスのせいで、お風呂で背中の流しあいっこもしている。
実に要注意な女だ。
他にもリリルカ・アーデやティオナ・ヒュリテ、エイナ・チュールにリュー・リオン。
どいつもこいつもあのバカのアイデアのせいで距離を詰めている辺り…やはり魅了してぐちゃぐちゃに…。
いろいろと頭を悩ませるフレイヤは、段々と思考が物騒な方向へと傾いていく。
そんなときだ。
神フレイヤの下へ、とある侍女頭からの一報が届いたのは。
「フレイヤ様。ナズナが
「そう…。ちょうどいいわ。オッタルにつれてこさせて」
「はい」
自分の眷族がボコボコにされていても遊びで済ませるのは、ナズナが誰も殺してないからであり、どのみち普段ナズナにされてるものよりも過激な殺し合いを彼ら彼女らがしているからだ。
そして、ただ殺し合いを重ねる眷族たちよりも、ナズナの方が強い。
それならば、貴重な経験値を与えてくれたと感謝こそすれ、少なくとも排除はしない。
負けた眷族たちも、悔しさをバネに本気の殺意とともにさらに強くなっていくだろうし。
そんな納得をできるのは、ナズナとかなり親密な交流のあるオッタル、とある料理の毒見被害者仲間のヘルン、理詰めするせいでナズナから嫌われているがめちゃくちゃナズナのことを理解しているヘディン、普通に仲の良いヘグニとアルフレッドくらいのものなのだが。
女王たるフレイヤにとっては、嫉妬で頑張るうちの子たちかわいいくらいしか思わない、至極どうでもいいことだった。
●
ナズナが通されたのはフレイヤ・ファミリアの本拠最上階の神室の前。
しかめっ面のオッタルと、最上階で待ち構えていた侍女頭。
そして肩車してくれているオッタルの頭をペシペシはたくナズナという三人衆は、扉の前で1列に並ぶ。
「ほら、降りろ」
「えーめんどくさ」
「………」
オッタルの太い腕が並の冒険者では目で追うことも出来ない速度で伸ばされるも、ナズナはオッタルの肩の上にまたがったまま器用に避ける。
そんな攻防を続けることしばし、肩の上から振り落とすことを完全に諦めたオッタルを見下ろすナズナは、今度は侍女頭であるヘルンへと絡み始めた。
「なーヘルン。オッタルがせっかく俺が(調査のために)風俗誘ってるのにきてくれねーんだよ!酷くないか?」
「貴方の頭の中がですか?」
「お前何言ってんの?ついにお前もバカの仲間入りかぁ。フレイヤ・ファミリアの中じゃまともだと思ってたのにぁ…」
はーやれやれ、と首をふるナズナを見て、こいつ死ねばいいのに、という顔をしながら沈黙するヘルン。
相変わらず()の中を言わないせいでややこしい事になっているのは、もはや狙ってやってると言われても仕方のない頭の悪さだった。
「別にコントを見たくて呼んだわけじゃないの。早く入りなさい」
「ほら降りろほら。マジで頼むから」
「オッタル号発進!…ぐぇ」
「───入ります」
イノシシの上でじゃれるクソガキの襟首を掴み引きずり下ろしたヘルンは、一言断ってから主の部屋へと足を踏み入れた。
●
フレイヤとロキの間には一つの約束事があった。
それは、ナズナの前に顔を見せず、声だけで会話をするというものだ。
これを破った時、ロキ・ファミリアはフレイヤ・ファミリアに攻め込むという続きもあるが、ようするに。
『うちのナズナに手ぇ出したら殺すかならな』
という、ロキの本気の脅しでもあった。
なぜフレイヤがこんな一方的な約束を飲んだかと言えば、ナズナのチョロさを見抜いていたからに他ならず、接している内に勝手になつくと思っていたからだ。
ちなみにそのチョロさはヘスティアが証明している。
出会い方が最悪で、ロキからの小遣い目当てに何度も喧嘩を売りに行っていた筈が、今では仲の良い飲み友である。
『僕たちズッ友だぜ!』
『いえーい!』
では。
ヘスティアとナズナがバカみたいな相性の良さを発揮してあっという間に仲良くなったのなら、フレイヤとナズナの仲の良さはどうなのか。
答えはダメダメだ。
フレイヤはまったく、これっぽっちも仲を深めることは出来ておらず、心の底から警戒されていた。
───見た目はドタイプだけど、中身がちょっと…。
という、割と正直な感想はフレイヤの鋼のような硬さを誇る自己肯定感を容易く傷付けた。
同時に、そのせいでおもしれー男認定されてますます団員候補として目をつけられているのだが、ナズナの知ったことではない。
ここまで物にならないと伴侶候補になりそうなものだが、フレイヤにとってナズナはあくまでも犬。
なかなか懐かない野良犬と仲良くなりたい少女のような感情を向けている彼女にとって、ナズナは伴侶足り得ない。
───は?伴侶?いや、犬と結婚はしないでしょう?つーか誰が男として欲しいのこんなクソガキ
という、あまりにも人間扱いされていない言葉はナズナの図太さをもってしても耐えきれない切れ味を持っており…。
とまぁようするに。
この二人の相性は恋愛的な側面を見ると致命的に悪かった。
「来たわね」
部屋の真ん中に据えられた寝椅子に腰掛けるフレイヤを見て、オッタルとヘルンに連れてこられたナズナは顔をしかめた。
「うわ…今日は神ガネーシャの仮面かよ…帰っていい?俺これからオッタルと風俗行くんだけど…」
ガネーシャのお面を被った絶世の美女という絵面に、一瞬脳内に女体化ガネーシャという言葉が浮かび、ついでに吐き気をもよおしたナズナはその想像を頭をふることで消し去る。
「オッタル?」
「いや違うんですよフレイヤ様!これはこいつが勝手にいってるだけで…!」
そんなナズナに構うことなく、オッタルが風俗に行くと聞いて反応するフレイヤ(ガネーシャ仮面)に向かって、ナズナは中指を立てながら嘲笑する。
「おいおいなんだよなんですかぁ?自分の団員なんて時たましか愛でねーくせに、自分の団員には常に私を愛していて欲しいのーってか?男なんてなぁ!毎日違うオカズでシコってんだよ!毎日肉じゃなくてたまには魚も食べたい。そんな生き物なんだよ!」
「いやシコってないが…」
「オッタル?シコってないわけ無いでしょう。あなたほどの獣人が、私を思って発散せずに平常でいられるわけないわ。ていうかしてなかったら許さないわ」
「フレイヤ様?」
「この淫獣!穢らわしい…!恥を知りなさい!」
「ヘルン、お前もか…」
仲は悪かったが、別にノリが合わないということもないので、割と頻繁に会う二人。
そこにピュアすぎる女が加わることで、この世で一番愛と忠誠を捧げている相手のいる部屋が、オッタルにとって苦痛でしかない空間へと変貌した。
ナズナは言うまでもなく、ガネーシャ仮面と化したフレイヤも、ものすごくいい笑顔でオッタルをいじっている。
ヘルンは心の底から見下した目を向けてくるし、オッタルはかつてない居心地の悪さを感じていた。
ホームなのにアウェーになる男。
団長の姿か?これが…。
「…フレイヤ様。ナズナを呼んだわけは?」
「ふふ…ええ。そうね?んふ、くく…」
「フレイヤ様…」
オッタルの拗ねたような顔に機嫌を良くしたフレイヤは、そこで一旦話を本筋に戻すことにしたらしい。
いよいよもって、ナズナの方へと向き直った。
「あはは、ごめんなさいね?少しからかいすぎたわ。…ええ、そうね。ナズナ」
「なに?」
「アイデアを寄越しなさい。最近ベルの周りの女性関係を引っかきまわしてるのは貴方でしょう?」
「知らん…なにそれ…こわ…」
「ここでとぼける必要ある?」
「ええー?いや、だって俺が協力するメリットがねえよ。アイズは大事な家族だし、神ヘスティアはズッ友だし、リリルカ・アーデはパンツのお詫びもあるし…」
「パンツ?」
「ああいやこっちの話。こっちの話ってもちろんあれだぜ?えっちな話じゃないぜ?」
「黙りなさい」
ちなみにパンツとは、リリルカ・アーデのパンツを盗んだとかではなく、以前エイナの頼みでベルをソーマ・ファミリアから助けに行った際に、カヌゥとかから剥いたやつを、リリルカ・アーデの荷物に置いていった件である。
もちろんこれはあくまで雑巾くらいの値段にはなるだろという善意からの行動だったのだが、自分が男物の使い古したパンツを4枚も持ち歩いてる変態だと一瞬勘違いされたことにいたく腹を立てたリリルカ・アーデに、ナズナは一度だけの約束で協力していた。
『いいですか!?別に私はベル様とどうこうなりたいとかではなく、単に普段のお礼をしたいだけといいますか…!あの方がどこぞの変な女に騙されないように経験をしてもらうためであって…!』
『はいはい』
『きー!なんですかその態度は!』
『なぁ屋台のおっちゃん、俺帰っていいかな?』
『え?あ、はぁ…いいんじゃねーですか?』
『いいわけねーだろぶっ飛ばすぞ』
『超理不尽!』
仮面越しにもわかる本気の殺意にうんざりした顔をしたナズナは、しばらく沈黙してから口を開く。
「なら───」
後にベル・クラネルはお忍びで鳥籠から外への興味を抑えきれずに飛び出して来た(という設定の)女神様と、彼女を連れ戻そうとする屈強な戦士たちから守りながら、1日オラリオ観光という名のデートを繰り広げることになり、芋づる式的に様々な女性に絡まれたりすることになるのだが…。
それが起こる頃には
とりあえず、フレイヤを満足させる事ができたし、ナズナがオッタルをなぜそんなに頑なに風俗へと誘っていたかも判明し、結果としてオッタルは歓楽街行く羽目になったので。
いよいよイシュタル・ファミリアの調査が始まった。
本当に、やっと。
ようやくだ。
今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
今回何も話が進展していなくてすいません。
どうでもいい話はいくらでも思い浮かぶ駄目作者ですが書いてて楽しかったです。
とりあえず蛇足編では書きたい話を書いていきます。
多少の暇つぶし程度になっていれば幸いです。