次は早めにと言いながら今日になりました。
前回カットした部分で丸1話作れるあたり、相当端折ってたんだなというのは見て見ぬふりをお願いします。
───それは、異端児という存在をきっかけに始まるストーリー。
異端児とは言葉を理解し、感情を理解するモンスターで、なぜ生み出されたのか、どうして過去の記憶があるのかは不明。
それでもモンスターからも人間からも狙われる彼らをウラノスとフェルズは保護し、協力してきた。
彼らは一定数存在し、コミュニティを形成し、隠れ里を転々としていた。
そんな異端児の一人。
生まれたばかりのウィーネというヴィーヴルとベルやヘスティアファミリアの面々が、いかにハートフルで美しくて微笑ましい絆の深め方をしたかどうかは割愛させていただこう。
なにせそこにナズナは関わっていないし、書こうと思うと小説がほぼ一冊出来上がることになる。
だから端的に、ナズナがハートフル劇場の裏で何をやっていたか、という話を交えて話すとしよう。
「おひさま…あったかい」
「地上ってきれいだねっ」
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「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙仕事終わりの酒がうめえええええええ!」
「っぱ、地底よ!お天道様に背くの最高だなぁ!」
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「あ、え、うそ……ベ、ベルッ、痛いっ?」
「わたし、やだっ……ごめんねっ、ベル…!」
「……!大丈夫だよ。安心して?」
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「お?なんだ痛えのか?たかが金玉潰しただけだぜ?それによぉ、俺は悪くないと思うんだよな」
「俺の家族のことを俺の前で馬鹿にした、その度胸だけは褒めてやるよ」
「うん、大丈夫だぜ?安心していい。お前の金目のものは全部俺がもらってやるよ。武器と防具、ポーションまで残してやるなんて俺は優しいなあ?優しいよな?優しいって言えよ」
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「おいしい……!命、すごいねっ?」
「春姫が、言ってたよ?命は、すごく、ごはんがおいしいって!」
「い、いえっ、自分はまだまだというか、精進がその……!」
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「うん、きっとうまい。たぶん百点。ほしみっつでーすってか?知らんけど。ほら、食えよ」
「うわぁ!やめ、やめろ!俺たちが悪かったです!悪かったから仲間をボコして吐き出させたゲロを口に詰め込むのはやめてくれ!」
「お、まだまだ元気だな。おかわり、いっきまーす!こんなんで音を上げるなんて精進が足りねえんじゃねえか!?」
「死ぬぅ!」
──────
「わぁ……ここが、おふろ?」
「───やっぱり、ベルも一緒がいい!」
「!?駄目です、いけません!?」
「お待ち下さい、ウィーネ様!?」
「は、早く止めるんだッ!」
「み、みなさーん!?」
──────
「おいおいなんだよなんですかぁ?今日は、やけに絡んでくるやつが多いじゃねえか!」
「お前のせいで俺たちのお気に入りの
「しゃぶれよオラァン!」
「雑魚がうるせえなぁ!風呂屋がなくなったくらいで騒ぐんじゃねえよ!なくなって困んのはよぉ!非モテだけだろうがぁ!性欲溜めてイライラしてんなら一人で虚しくしてろよ!店がなくても娼婦がいなくなったわけじゃねえのになんで相手がいないんですかねぇ!金だけの関係だからそうなんだよバァァァァァカ!」
「こいつまじムカつく!」
「おいたたんじまえ!複数人でやりゃ一発ぐらい殴れんだろ!」
「三十人に勝てるわけねえだろ!理解せてやる!」
「馬鹿野郎勝つぞお前ら!この野郎!」
「おい魔法は反則だろ!」
「熱ぅい!何の炎!?」
「やめろめろめろ、ナズナめろ!店が燃えるだろバカ!」
──────
「みんな、ベルのことが……みんなのことが、好きなんだね…」
「あったかい……」
──────
「させ!させ!そこだぁーっ!いけぇーっ!一番!来い!来い来い来い来い!っだぁぁぁぁ!なにやってんだばーか!生まれ直せ!ママの子宮に帰って精子と卵子に分解されてこい!このノロマがぁ!金返せよおおおおお!ちくしょおおおおおおおおお!このはげえええええええええ!お前なんて大っきらいだぁぁぁぁぁぁ!」
「くそぅ、一気に懐が寒くなっちまった…飲んで体温めよ。心のつながりとかより酒だよ酒!」
「ナズナ、なにをやってるんですか?」
「お、なんだよ酒場エルフじゃん。金貸して?心のつながりって大事だよな!」
「……いいでしょう。ただし、今度シルの料理の特訓に付き合ってもらいます」
「バカなの?死ぬんだけど、俺が」
「ついでにこのよくわからない魔道具らしきものも見てほしくて…何か知りませんか?闇派閥に関するものらしいのですが」
「あ、見ろよりゅ…酒場エルフ!茶柱が立った!」
「酒なのに?」
「もっかい賭けてくる!…っていうか、なんかお前雰囲気変わった?」
「それよりもうすぐ締め切るみたいですが」
「おっといけねぇ!幸運を逃がすな!」
「まさか、薄く化粧したのがバレた…?いやそんな機微に気付けるデリカシーあるわけないか…」
──────
「夢を見るの。ひとをおそってる夢」
「知らない人たちをひっかいて、かみついて、ばらばらにして……」
「たくさんのものが、赤くなる……こわい夢」
「夢のなかのわたしは、ずっと怒ってるんだけど……だんだんさむくなっていくの」
「たくさんのひとたちが、わたしから、だれかを守っていて」
「そのひとたちをみて、体がさむくなっていくの」
「胸にぽっかり穴ができたみたいに、からっぽになって……かわりに、あのひとたちがすごく綺麗にみえた」
「あとは、いつもいっしょ。わたしが赤くなって、暗くなってく」
「たすけて、って私は泣くんだけど……だれも、たすけてくれない。とっても、こわくて、さびしい夢」
「でも、今はもう、怖くないよ」
──────
「うん、夢だ夢。これは悪い夢だ悪い夢。飲んで忘れるべきそうすべき」
「お、おいもう酒もギャンブルやめとけってローレライ…」
「そうです、ナズナ。それよりもこの球状のこれをですね…」
「なんだよボールス。つーかいつの間に酒場の店主になったんだ?やっぱ夢だなぁ〜!」
「臨時でここの店主と代わってんだよ!ここの店主の奥さんが産気づいたっていうからな!」
「あの…だから魔道具…」
「へぇ〜ボールスがはらませたのか?」
「そう。俺の子だ…なんてことやったら俺はこの街にいれなくなんだろうが!」
「むぅ………」
「なんだ違うのか…」
「おう、わかってくれたか?」
「ああ!…おーいみんな聞いてくれ!ボールスがここの店主にはらまされたってよ!」
「待て馬鹿野郎!止まれ!」
「まじかよボールスさん…さすがだぜ…」
「俺は信じてたぜ!」
「とんでもない誤解が広まってく!」
「もう、怖くないぜ。みんな受け入れてくれる」
「受け入れられても困るんだよ!事実無根だから!」
「ふん…!」
「いってぇ!なんだよ!…うわ、半泣きじゃんなんだよ構ってちゃんか?」
「別に、泣いてません」
「あーもう、わーったよ調べとくよ。とりあえず借りるぜ」
「…わかりました。ナズナなら、私を闇派閥と遠ざけるなんてことはしないでしょうし…」
「おん。すぐに返すよ返す…さて、珍しい形してるし質に入れたら幾らになるかな」
「ナズナ?」
「冗談だって、こえーよ」
18階層までの脇道のモンスターを、新しいスキルと鎖をぶん回しながらシールドバッシュでひき肉にする。
そんな仕事を瞬殺したナズナが向かったのは、当然の流れと言うかなんというか、リヴィラだった。
そして、地上で繰り広げられる平和なほのぼの物語のうらで、クソみたいなエキサイトをするナズナにとってその日はいつもどおりの日常だった。
だからリヴィラの街にいる誰もが信じていた。
いつも通りの日常が続くと。
なんでこんなのが日常なんだよクソが、と。
●
異端児たちは来た。
復讐に来た。
ありったけの報復を与えに来た。
でも彼らにだって怖いものはある。
それがレベル7だ。
彼らは察した。
あ、これあかんやつやと。
「飲酒を邪魔する悪い子は…だーれーだーぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
街を破壊し、復讐相手を探すグロスすらも動きを止めて、体を緊張で強張らせる。
「おぶ…やべ、飲みすぎた…おげえええ…」
異端児たちがリヴィラの街に攻め込んできていたことにすら気付かないままそのまま酒場で管を巻いていたバカは、吐きながらふらふらしているというのにその場にいた全員に死を連想させる。
圧倒的力量差が、萎縮させる。
そして、異端児たちは見た。
酔っ払いが、岩のような巨大な盾を持ち上げたことを。
「──────ッ!逃ゲロッ!」
「秘技、シールドスクリュー!なんちて…むにゃ…ふが…」
まるで空間そのものが切断されたと錯覚するほどの風切り音。
一応牽制のつもりなのか、異端児たちには当たらなかったが、街が建物も自然に生えてる結晶も全て一切合切区別なく綺麗に輪切りにされるという光景は、異端児たちにとって恐怖以外の何物でもない。
「ハァ…ハァ…なんだと?」
「やめろボールス!!!戻れ!!!」
「あのバカ俺の店を壊しやがった!」
「勝てねえって!弱いって!危機感持ったほうが良いって!」
「畜生ローレライのやつは後で殴る!お前もな!」
自分の店をぶち壊されたボールスは逃げながらキレるという器用なことをしてみせたが、武装したモンスターの脅威には手も足も出ないのですぐに18階層から居なくなる。
ちなみにリューはナズナに球状の魔道具を渡してすぐに、店へと帰ると言って酒場から消えたのでとっくにいない。
そして、異端児たちも次の攻撃が来るよりも早く闇派閥から聞き出した場所へと走る。
「…誰もいない?」
「あれ、ベルじゃん。うぇーいなにやってんの?飲んでなくない?ウォウウォウ」
「うざ!酒臭!」
撤退した冒険者たちと入れ替わるように18階層へと飛び込んできたベルとフェルズによってナズナは引きずっていかれ、リューに渡された球体によって人工のダンジョンへと入り込んだ。
「じゃじゃーん、ついさっき酒場エルフにもらったやつ〜」
「え、リューさんに?ついさっき?」
「なんでもいい、この状況を打開できるなら!」
入り込んだはいいがナズナはすぐに迷子になった。
「あれ、どこだここ。つーかベルとかフェルズは?…はぁったく、しゃーねーな。あいつら。こんな大事な場面で迷子になるなんてよぉ…」
正確には人知れずゲロを吐いてるナズナに気づかずに二人は先に行ってしまっただけで、顔を上げたナズナが別の方向に進んでしまったから起こった事態なのだが、バカにそんなことは関係ない。
自分が迷子になるはずない、という謎の自信がブレーキを破壊していた。
しかもダンジョン内にいた闇派閥たちもやらかした。
自分たちのダンジョンへと誘導したモンスターたちに意識が持っていかれたのだ。
結果として。
「お、適当に歩いてたら広いとこについた。なんか色々いるしあるな!」
「げぇ、ローレライ!?」
「なぜここに!?」
「…ふっ、どんな闇でも悪党の臭いってのは消せないもんだぜ…」
「嘘つけ今さっき適当に歩いてたらって言ってただろ!」
「なんだよ聞いてきたのお前らだろ?」
ナズナはたどり着いた。
その心臓部に。
●
(これが、レベル7…)
神タナトスが闇派閥の幹部のような存在であるヴァレッタを伴って、信者の戦意を煽りに行っていたから。
戦力の要であるレヴィが別の場所で体を休めていたから。
エニュオからの伝達係が普段と同じようにいなかったから。
戦闘要員ではなく、あくまでダンジョンメイカーの自分しかまともな戦力がいなかったから。
そもそも『迷主の前』と呼ばれる本拠地が、出鱈目に歩いてもたどり着けない場所にあったから。
そんな理由を全て幸運にも勝ちの目として拾えてしまう出会いでもあったのか。
あるいはとんでもなく不運な出来事を事前に体験してその揺り戻しが来ているのか。
もしくは、何かに導かれたのか。
ともかく、道理と理屈を全て蹴散らす理不尽な存在。
それがレベル7だということを、バルカはナズナに踏みつけられながら思い知った。
「ま、俺の鎧はデバフ無効なんで。デバフ特化のもやし相手なら余裕ですわ」
バルカは血に囚われた、あるいは呪われた一族の人間だ。
始祖であるダイダロスの血脈たち。
彼らはそのほとんどが、『ダイダロスの書記』に呪われる。
そこに記されたダンジョンを越える迷宮を作るという妄執と設計図は、実に千年もの間、彼らをダンジョンの作成へと駆り立ててきた。
爪を失いながらも岩盤を削り、強姦による子孫の繁栄、殺人による障害の排除、狂って死んだ同族の目をくり抜いて鍵を増やし、あらゆる悪事に手を染めながらクノッソスという作品は積み上げられてきた。
バルカとて、例外ではない。
───バルカちゃんは心に怪物を飼ってるね。
───残酷で、醜悪で、無垢な怪物を。
利害関係で眷属になった時タナトスは言った。
───でも、よく似た子を僕は知っているよ
───心に巣食う無垢な怪物を飼いならして、その血に呪いをかけられた冒険者。
───いつか、君も会えるかもね?化物同士さ
(何が化物だ。何が怪物だ。この男を前にしたら、俺などただの石ころだろうに)
物心つく前に、新しい命として誕生した1分後に呪われたバルカは、その無垢さ故にナズナの魂を感じ取った。
「お、これか?いやちげーな。どれだ?これか?やっぱ違うのか?」
「おいやめろ!私の理想を詰め込んだクノッソスにベタベタ触れるな!」
「うるせーぞ負け犬!つーか触れてんのはお前だろ?俺がお前の手を持って動かしてんだから。…うーん、もう良いかぁこれで!」
「よくない!それは自爆すい───」
あるいはそれは、バルカが知った初めての共感かもしれなかったが、そんな感慨を吹き飛ばすようにナズナはすべてを吹き飛ばした。
「ふざけるなこのクソガキがぁ!」
そして、密猟者のトップであるディックスとそれを追いかける集団が、整地された()その部屋へとなだれ込んでくる。
「ナズナさん!?」
「冒険者ガナゼココニイル!オマエモ敵カ!?」
「やめろグロス!彼は我々の協力者だ!」
「世迷イ言ヲ…!」
「ちっ、よりによってなんでレベル7がここにいやがる!しかも呪詛が効かねえ方かよ!」
「へぇ、ほんとにモンスターが喋ってる。よう、お前ら…異端児だっけ?初めまして。俺はそこの骨とか白いのよりも、
混沌は止まらない。
都市を振り回すはずだったその騒動は、軋みを上げて、歪を生み出しながらさらに加速しようとしていた。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございます。
書いて、色々調整してるうちに終わりもみえてきました。
最後までがんばります。