一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

ほんとは本編に『人気投票の票数一桁のダメ一族が!』って罵倒を入れたかったんですが、皆さんの優しさによって没になりました。
こちらについても、本当にありがとうございます!


第十六話。勇者

言いたいことを言い切った。

自分がいかに拗らせているかを懇切丁寧に説明するというあまりにも痛い自己紹介をしたアラサーおじさんのナズナは、一応念の為。

なんか武装解除されてたりしないかなぁ、みたいな顔でちらりと前を盗み見た。

喧嘩する覚悟は決めてきたが、しなくていいならしたくない。

そして、当のロキ・ファミリアの面々は。

 

 

───特に、話す前と変わっていなかった。

 

 

なんなら普通に座り込んでだらけてるやつとかいるし、雑談しながらジャガ丸君を食べてるやつらもいるし、クノッソスのマッピングのためなのか何人かパーティー規模でいない。

ベートがいないあたり、彼が何人か適当に見繕って連れて行ったのだろう。

つまりむしろ話聞く前より態度が悪化していた。

 

フィンに至っては、片耳に指を突っ込んで掻きながら気持ちよさそうに目をつぶっている。

その態度に思わずナズナの口角がひきつる。

 

「…おいその態度はどうなんだって思うんだけど」

 

「…ごめんもう少しで大物がかかりそうなんだ。下手をすると血を見るけど、僕は勇者だ。その恐怖を乗り越えてみせるよ」

 

「無駄にキリッとすんな耳クソほじり男」

 

「…ふむ。もしかして、聞かなくていいとか言ってたくせに聞いてほしかったのかな?」

 

「はぁーん?べっつにぃ?そんなことないけどぉ?ないけどぉ!?何言ってんの、自意識過剰なんジャネーノ!?」

 

とてもいい笑顔でナズナを煽るフィンは、すっとぼけた顔をしながらガレスに尋ねる。

 

「これ、僕らが悪いのかな。どう思うガレス?」

 

「うーむ、別に。どうということもないな」

 

「どうということはあれよ」

 

「なら父さんって呼んでみるか?ガハハ!」

 

「思ってた百倍いじり始めんのが早えよ!」

 

「誰もが憧れる兄、ね…こそばゆいな」

 

「別にあいつが言ってたのお前らのことじゃねーからな、単に家族への憧れみたいな話なだけで!別にあいつ預言者じゃねえから!」

 

「ふっ、これだけ拗らせたナズナに家族愛鎖発現させた私すごくないか?やはり私が妻なんじゃないか?」

 

「いやうんほんとすごいんだけどな!?マジ感謝してるよそこはさぁ!でもちがくなぁい!?反応が違うよなぁ!?」

 

「ああ、わかってる。私を心配してくれてるんだろう?私が落ち込まないかって。でもお前の目が潰れたあの時に私は振り切れたんだ。お前の過去も本質も全て受け止めて、私は今のお前と生きると決めたんだ。お前の荷物は私も背負うよ。背負わせてくれ。お前が死ぬなら私が殺す。私を殺すならお前だ。…だからその、まぁつまりなんだ…」

 

リヴェリアは急にしおらしい態度になって、まるで乙女のように恥じらいながらナズナに向かって笑いかけた。

 

「───合体しよう、ナズナ」

 

「世界一綺麗な笑顔から放たれる世界一汚い下水(ヤリモク)発言!…なぁ、なんか最近前まで以上に頭悪くない?俺のせい?さすがにそろそろ心配になるんだけど…どうする?やっぱ本当にもらったほうが良い?正直子供作れない身としてはあんまそういう関係になるつもりなかったんだけど…」

 

「安心しろ。私が母親だ。そして妻だ。子供なぞアイズとお前とレフィーヤで十分だ」

 

「安心できねえよ?ていうか子ども3人は十分もなにも欲張りだろ!」

 

「私もスカジになるんだ。荷物は多い方が良いし子どもも多いほうが良い」

 

「息子と結婚する母親は欲張り以前にただの犯罪者だよ!!!!!!」

 

「そう騒ぐな。口をふさぎたくなるだろう?これでもむら…イライラしてるんだ。私だってな」

 

「ムラムラって言おうとしただろてめぇこの行き遅れババア!常時発情期かバーカ!」

 

「ふっ、行き遅れ呼ばわりも久しぶりだな。それでこそわからせがいがある」

 

「兄さん見てください!クソでっけー鼻くそが取れました!」

 

「被ってる被ってる。割り込んできた割にネタ被ってんだけど!なんで耳くそほじり男と鼻くそほじり女がいんだ?ここは託児所か?」

 

ナズナはナズナ。

どんな過去があっても変わらない。

たとえナズナが偽物でも、ナズナが紡いできた絆は本物なのだから。

ということを態度で示しているのだろう。

にしたってひどいが。

おそらくたぶん事情を説明せずにずっと黙っていたナズナへの萎縮返しでもあるのだろう。

 

───もっと自分たちを信用しろ、と。

 

さて。

以心伝心というか、阿吽の呼吸で謎の一体感を発揮するファミリアの面々がナズナといつも通りすぎる会話をしている中で、アイズはアイズでナズナとの思い出を静かに思い出していた。 

 

───頼りになった背中。いつも助けてくれた絶対守護の盾。

 

『俺が絶対守ってやるよ』

 

───兄妹というよりも親戚のおじさんと姪のような関係のナズナ。

 

『おいアイズ!うまいもん食いに行くぞ!フィンとかに内緒で!小遣い?今日は爆勝ちしたんだよ!ふぅー!今日は焼き肉っしょお!』

 

───アイズの食後のデザートを奪ったあとに高々と掲げられたピースサインと、机に叩きつけられるナズナ。

 

『あ、ごめんアイズ、お前のアイス俺のお口が食べちまった。でも別にいいよな?残してたしぃん゛!!!』

 

───朝練していたアイズの服に嘔吐するナズナと酸っぱい匂い。

 

『んにゃぁぁぁおあよ、あいず。おまえはいつもあさからげんきだねろろろろろろろろぉ゛…』

 

───ジャガ丸くんの新作を馬鹿にして、キレたアイズのデスペレートで鼻フックされてひっくり返るナズナ。

 

『だひゃひゃひゃ!悲報。ジャガ丸くん新味サンキューベリーマッチャ味wwwwww売り上げ撃沈wwwwwwひぃ────っ(過呼吸)神々も大w絶w賛wwwwwサンキュュュュウ!ベリリリリィ!抹茶ァ!製作者ドチビ女神ぃ!旬のベリーと極東の抹茶を合わせた最強(笑)の味wwwwwwひぃ────っ(過呼吸)ふがほごゲバぁ!?』

 

───説教から逃げるための騒動で破壊されるアイズの部屋と、結局捕まって泣きながら部屋を修理するナズナ。

 

『ぐすっ、えぐっ、なんだよぉ!派閥を超えた友情だろぉ!見逃せよぉ!ただちょっと最近入ってきた生意気なエルフ連中にオッタルの逆バニー写真見せて失神させただげだろぉ!何がテロだ!オッタルが可哀想だろが!!!神フレイヤからの命令で逆らえないように根回ししたの俺だけどさぁ!!!!あとアイズこのネジ何番!?もう目がつかれてきてわかんねえよ!!!小さすぎて読めない!ややこしい棚買いやがって!パーツ200個は嫌がらせだろ!』

 

朝帰りして団員全員にキスして回るナズナとロキ。

ベートに蹴り飛ばされたナズナに背中を押されたロキにファーストキスを奪われるアイズ。

爆破されるナズナとロキとベート。

 

『おいおいおいおいちょ、待てよ!俺悪くねえって!ロキだって!あと蹴ったベートだって!!!待てよ、待てって言ってんだろうが!!!!ぁぁぁぁぁぁあああああと゛お゛し゛て゛た゛よ゛おおおおおおお!』

 

アイズにカンチョーしてケツにリル・ラファーガされるナズナ。  

 

『ま゜(断末魔)』

 

ギャンブルで大敗けしてパンイチでアイズの布団で不貞寝するナズナ。

 

『アイズう!これ以上俺のパン一姿見たくなかったら十万貸してくれぇ!次はあたっから!俺はもう、二度と負けねえから!!!』

 

…思い出した。

アイズが昔ほどナズナと無邪気な仲じゃなくなったのは、ナズナの言動に幻滅したからだ。

というかろくな思い出がない。

でも、それでも家族としてナズナのことを思っていたのは、信頼があったから。

心をずっと繋いできたからだ。

 

なら、目の前の彼らは?

心を持つという彼らは、本当に排除しなくてはいけないのか?

 

「…………あれ」

 

アイズにとって大事な迷い。

黒い炎を向けるべき相手の選別という大きな試練。

だが、それを乗り越えるよりも先になさねばならないことをアイズは思い出した。

それを思い出していくうちに、だんだんアイズの纏う雰囲気が変化していく。

迷子のような表情から、すんとした無表情に。

 

(なぁ、なんかアイズめっちゃ俺の方見ながら怒ってんだけどまだ戦わないとダメか?)

 

(ふむ、僕らの即興コント『ナズナの過去なんて気にしない!お前も家族だ☆』作戦は失敗のようだね)

 

(やりすぎたんだろ、あの話を耳クソほじりながらは流石にやりすぎだったんだろ。あと今コントって言った?)

 

(それは盲点だったよ…やっぱり僕も鼻くそのほうがよかったかな?)

 

(…ほんとにアイズを脱力させるための作戦であの態度だったんだよな?初見であの話聞いて別にどうでもいいなって思ったわけじゃないんだよな?)

 

(でもぶっちゃけ特に関係なかったよね)

 

(あったろ。めっちゃあったろ!俺の過去がそのまま庇う理由だったろ!)

 

(ごめんちょっと女装ギャンブルカスお嬢様のインパクトが強くてね…あと、説明が下手すぎて状況もよくわからなかったし。後ろの彼ら何?その前提の説明がないのがダメだと思う)

 

(おいガチダメ出しやめろ)

 

「───ねぇ」

 

「はいこちらナズナ!」

 

びくぅ、と背筋を伸ばすナズナを睥睨するアイズは、母親(リヴェリア)譲りの怜悧さを纏っている。

 

「なに小声で話してるの?またフィンと悪巧み?」

 

「い、いやぁはは、もちろん違うさ」

 

「そ、そうそうそう!俺たち悪巧みなんてしないって!なぁ!?」

 

「ふぅーん…まぁいいけど」

 

「お?」

 

許されたか?と期待して顔を上げたナズナを、無表情から一転、極上の笑みを浮かべたアイズは地獄へと叩き落とした。

 

「とりあえず、昔貸した十万ヴァリス返して」

 

「は?」

 

「十万ヴァリス」

 

「いやあの、え?話の流れとかは…?そういういつものお約束みたいな流れじゃなくないっすか…みたいな…」

 

「十万」

 

「いやそのいま色々あって財布ないかなーって……はい……それにあれもう五年前だし時効になったり…スゥー…しないっすよねはい…」

 

「ナズナは大人でしょ?夢見る前に現実見て。早く。十万」

 

「…………」

 

「十万」

 

めっちゃ笑顔のアイズに冷や汗を流すナズナは流れるように土下座をし、そのまま這いつくばるようにすっと横に避けて道を譲った。

 

「……アイズ様。コイツらやっていいんで返済待ってくださいお願いします!」

 

「このクズ!」

 

「裏切り者!裏切り者ォ!」

 

「バカ!アホ!チンチン!」

 

「おい誰だウィーネに下ネタ教えたの!つーかおいコラ、アイズ相手にここまでかばってやったんだから感謝しろよ!俺のバックボーンに咽び泣け!いーのかなぁ!レベル7とかいう最高戦力手放していいのかなぁ!むしろ俺に媚びといたほうがいいんじゃないのかなぁ!」

 

ナズナの手のひら返しに、ナズナの過去に聞き入っていた異端児たちが襲いかかる。

ナズナの言葉がある意味本気じゃないことを理解している彼らの攻撃は、ナズナを傷つけないような部位で各々しばき回している。

そこにあるのは確かな信頼と友情。

短時間でよくここまで仲良く慣れたもんだと思わなくもないが、はみ出しもの同士で言葉を交わす前から共感を覚えていたのだから、それも仕方がないのかもしれない。

その中にはウィーネも混じっていて、もはや敵対する空気ではなくなっていた。

 

「フィン・ディムナ…いや。ロキ・ファミリア。交渉がしたい」

 

だからこそ、フェルズはそのタイミングを逃さなかった。

 

「まず自己紹介を。私の名前はフェルズ。後ろの彼らのなんだ、協力者のようなものをやっているただの魔術師だ」

 

「…君の後ろにいる武装したモンスターたちのことも気になるけど、先にこっちを聞いておこうか。ナズナとの関係は?」

 

「借金取り」

 

「ん?」

 

「いやだから、借金取りだ。彼は私に借金があり、それ故に私たちに協力してくれていた。だから彼のことは責めないでやってほしい。…頼む」

 

「ほーれほれほれほれ!生意気なこと言うのはこの口かぁ?降参するのは今のうちだぜウィーネ!なーはっはっは!」

 

「兄さんずるいです私にもしてください!」

 

「………」

 

真摯に頭を下げるフェルズの後では、ナズナがウィーネたちへと反撃を開始していた。

ウィーネのほっぺを引っ張ったり、脇に手を突っ込んでくすぐる姿は互いの身長も相まって微笑ましい。

実年齢を考えると事案でしかないが。

 

「いい、気にしてないさ。君に心配されるほど僕らの関係はやわじゃない。それに君が悪者になる必要もない」

 

フィンは聞こえないふりをして異端児たちと戯れるナズナと、不安な顔をしていた兄を安心させるべくいつもよりエンジンのかかったレフィーヤを見ながら小さく微笑んだ。

 

「さて、ナズナの事情はわかった。ナズナに後ろの彼らの事情を全く説明せずに過去の話をされたせいでうまく飲み込めなかったけど、要するに彼らは普通のモンスターではないという認識でいいのかな?心がある、なんて言っていた気もするね。それに君の裏にいるのは神ウラノス、かな?」

 

「あれだけの情報でよくそこまで…。ああそうだ。説明下手なナズナの代わりに改めて説明しよう。彼らは理知を有するモンスター……『異端児(ゼノス)』と我々はそう呼んでいる」

 

「その我々というのが」

 

「ああ。私はオラリオの創設神、その神意に従ってここにいると思ってもらって良い」

 

「なるほどね…」

 

「まずは『彼ら』の話を聞いてほしい」

 

フェルズが道を譲るように横にずれると、その後ろからリザードマンのリドが前に出てくる。

ロキ・ファミリアの面々に、人間に近い姿をしたウィーネとは違った怪物としての姿が強いリドの表情は分からない。

だが、理性を宿すその瞳には確かな緊張があるのが見えて、ナズナの言葉にすでに戦意を削がれていたとはいえ、ますます感情の向け方が分からなくなってしまう。

 

「───1番リザードマンのリド!一発芸やります!」

 

「は?」

 

「人間を襲うリザードマンのモノマネ!『オレっち…人間、食う…』」

 

「よりによってTPOフル無視のやつ来た!嘘だろ!?」

 

「つーかまんまじゃねーかモノマネ舐めてんのか!?」

 

だからリドのその行動に、ロキ・ファミリアの面々は思わず吹き出した。

そしてフェルズはキレた。

 

「ナズナ、集合」

 

「なんだよウケただろ?掴みはバッチリだな!」

 

「そのジョークセンス今すぐ直せ!いやいい私がやる!そこに直れ。修正してやる!」

 

「うるせー!俺が一発芸でレベル7になった男だ!文句あっか!?」

 

「文句しかない!」

 

「よしよし、リドは頑張った」

 

「うう…なんでオレっちナズナの言うことなんか信じたんだろうな…」

 

ナズナにフェルズが掴みかかる横で、ウィーネがリドを慰める。

いつまで経っても話が進まないことに苦笑いを超えて呆れたような顔になってきたフィンを見て、他のゼノスたちは慌てて次々口を開いた。

 

「え、えっと、私たち別に人を襲いたかったんじゃなくて…!」

 

「単ニ仲間ヲ取リ戻ソウトシタダケダ」

 

「何よリ私達ハ、貴方達と話ガしたイ。戦うのではナク、言葉ヲ交わしたイ…!」

 

モンスターがなにを!という気持ち。

本当にモンスターが話したことへの衝撃。

心を感じる彼らの言葉への動揺。

揺れる、揺れる。

瞳も意思も、すべてが揺れる。

 

だが、揺るがないものもある。

 

「…君たちの気持は良くわかった。だけどあえて意地悪なことをいうとね、君がまた暴走した時どう落とし前をつけるんだい?」

 

「それは…」

 

ただ一人揺るがないフィンはウィーネの目をまっすぐに見つめて問いかけた。

その視線に気圧されながらも、ウィーネはフィンのことをまっすぐに見つめ返す。

 

「私は怪物…ずっとひとりぼっちだったの」

 

それはたどたどしくも、確かな思いだ。

フィンと同じく揺らがない覚悟だ。

 

「暗くて、さむい場所で……わたしが、わたしになるまえから…ずっと一人。だれもわたしをたすけてくれない。誰も抱きしめてくれなかった…」

 

深く暗い記憶の海に溺れながら紡がれる、掠れた言葉。

 

「斬られて、痛くてこわかった…。さみしかった」

 

「でもひとりぼっちのわたしを助けてくれる人がいたの。誰も助けてくれないと思ってたわたしを助けてくれる人が」 

 

涙を浮かべながら、それでも少女は前を向く。

 

「うれしかった…。あったかかった…!せかいが、初めてやさしいって信じられたの…!」

 

───……たぶん、嬉しかったんだ。俺みたいなのに優しくしてくれた人がいたのが。ああ、世界もまだ捨てたもんじゃないって、思えたから

 

その姿に、リヴェリアはかつてのナズナを重ねていた。

 

「またわたしが、わたしじゃ無くなったから…今度はちゃんと消えるから…」

 

だからこそ、リヴェリアだけが間に合った。

ウィーネが自分の左手の爪を掴み、へし折ろうとしたその右手をリヴェリアは両手で包みこむ。

 

「…いい。わかった。女の子だろう?あまり自分を痛めつけるな。…それに綺麗に手入れされた爪だ。そんなふうに扱うのはもったいない」

 

「このつめは、ヴェルフが研いでくれたの…わたしが誰かのこと傷つけなくて良いようにって…」

 

「そうか…大事にしろ。爪だけじゃない、体も心もだ」

 

「…!うん、ありがとう…!」

 

ナズナのような同類同士ではない。

ベルたちに引き続いて、人と怪物の間に生まれた共感。

 

その共感はきっと、とても大きな一歩だった。

 

 

 

 

そのやり取りを見ながら、フェルズは改めて口を開いた。

 

「彼等は我々の『希望』だ。人類と怪物の共生という望みの。憎み合い、殺し合い続ける不毛な歴史の終焉をもたらす希望」

 

「希望…」

 

「彼等はダンジョンすら予期できなかった異常事態であり、悠久の年月の中で外界が生んだ新たな可能性だ」

 

フェルズの言葉に反発できるものはいなかった。

ナズナが見せた誠意と、ウィーネの信念。

何よりわかり合えると思えてしまった一連の流れは、軽率な批判を彼らに許さない。

 

「今すぐでなくても構わない。だが、いつの日か地上と地下の境界を越えてこの負の連鎖に終止符を打つために……彼らを理解してほしい」

 

蜥蜴人が、歌人鳥が、半人半蛇が、一角獣が、巨人が、その他多くのモンスターが雄叫びを上げずにフェルズの後ろから見つめている。

人と怪物の間ではあり得ない光景。

同族から外れた怪物という存在を前に、フィンは一つの決断を下した。

 

フィン・ディムナは『人工の英雄』だ、とフィンを()()()()()()()()()()()誰かは言うのだろう。

あるいはそれは、本人すらも口にするかもしれない言葉だった。

 

だが、果たしてフィン・ディムナは、本当に人工の英雄なのだろうか。

 

例えば特大のバカが隣にいて、そのバカが誰よりも自由に生きる家族なら。

フィン・ディムナは、何も影響を受けないほど非情なリアリストなのだろうか。

 

答えは否だ。

 

「ここで君たちを排除するのは簡単だ。はっきりいって、君たちを受け入れるというのは、僕の理想をぶち壊す」

 

フィンは彼ら、あるいは彼女たちを見回しながら口を開く。

 

「だけど、あえて問おう。君たちに『夢』はあるか?あるいは『理想』でもいい。純粋な涙を見せた彼女と同等のそれを、君たちは持っているか?」

 

「私ハ…」

 

「僕は勇者だ。フィン・ディムナだ。いずれ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あるいは君たちと組むことで僕の名声は地に落ちるだろう」

 

その言葉に不安げな顔をする異端児たちの横で、ナズナだけは笑っていた。

 

「───それでも、僕は世界に負けたくないと思ったんだ。君たちはどうだ?理想を遂げる覚悟はあるのか?」

 

本物の勇者はいっそ痛烈なまでに、異端児たちへと覚悟を問う。

ナズナの過去を聞いたフィンは、覚悟を見せた家族を頼るというのなら、それ相応の覚悟を見せろと。

全身全霊で答えろと異端児に告げる。

 

「…夢を見るんだ。真っ赤な光が、でけえ岩の塊の奥に沈んでいく夢…。迷宮(ここ)にはない空が、赤く、泣いちまうくらい赤く、だんだんと染まっていく綺麗な時間…」

 

その覇気を前に、異端児の中から2つの影が前に出た。

 

「オレっちは地上に飛び出してそれを見たい。それを見れる世界でもう一度生きたい」

 

「私ハ、光の世界デ羽ばたいて、誰モ抱きしめられないこの翼の代わりに……愛する人間(だれか)に抱きしめられたい」

 

次々に語られるのは前世と思しき記憶から生まれる、死んで生まれなおしてもまだ消えない強烈な憧憬。

地上への進出。

それが自分たちの願いだと彼らは言う。

フィンはそれを黙って聞き届け、笑った。

 

「うん、いい夢だ───」

 

そしてその頃。

 

世界の真ん中で、闘牛本能(オックススレイヤー)が産声を上げた。

 




最後まで読んでくださってありがとうございます。

ベル君は両腕健在のアステリオス相手に春姫さんの強化を受けながら迎え撃ちましたが、原作通り負けました。

アンケート結果を見てると、意外と合法ロリと最初のスカジに票が入ってて、ナズナの口調に大きな影響を与えたカラさんが少ないの面白いなぁと思います。

あなたはどのスカジが好き?

  • ゴルランド(最初のスカジ)
  • アラン(ハゲかけ美少年)
  • パルラン(ロリコン)
  • サナリア(合法ヤンデレロリ)
  • カラ(ツンデレ初心女)
  • タルコフ(ストーカー)
  • マーロ(女装ギャンブルカスお嬢様)
  • ハンナ(ギャンブルカス信者)
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  • ニーナ(呪言女)
  • エリシマ(最後のスカジ)
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