ナズナが羽化した直後。
誰もが動揺で動けない中、一人だけ動けた人間がいた。
「ウィン・フィンブルヴェトル!!」
リヴェリアだ。
その魔法はナズナの翼を消し飛ばし、同時にリヴェリアの右腕に大火傷を引き起こす。
これによって判明したのはスキルは残存しているが、ロキ・ファミリアのメンバーが同じ恩恵扱いではなくなっている、ということだった。
それを見たフィンの撤退の指示は早く、同時にタナトスと通りすがりの婆さんの神様が天へと召された。
それによって祭壇が本来とは違う形ではあるものの起動し、場が整えられる。
現れたのは、緑の闘技場。
植物の蔦によって編まれ、無駄に観客席までついたその闘技場を見て、酒カスは自分の作戦が失敗したことを悟った。
だが、ナズナ本人の申告によって、本気で戦うナズナを倒さないと、闘技場の周りに生えた大木に寄生している穢れた精霊による大魔法によって世界に穴が空いて、もうバベルでは足りないサイズの蓋がダンジョンに必要になることを知って、なんとか体裁を保っていた。
ちなみにナズナを無視して大木を折ろうとするとナズナがすぐさま爆発してオラリオが滅びる。
つまりナズナを殺せば全て解決、という実に単純な話になったわけだ。
本来の計画なら完璧にオラリオと冒険者たちを滅ぼせていたはずが、ナズナを倒せばクリアとかいうわかりやすいゴールが生えてしまったのは事故でしかない。
頭をかきむしるように悔しがるディオニュソスをナズナは爆笑しながら眺めていた。
そして、その2週間後───
冒険者たちよ、よくぞきた!
星辰は満ちた、祭りの時間だ!
都市最大にして最硬の冒険者、ナズナ・スカディは、今、君たちを待っている
冒険者たちよ、戦え!誉れと共に大敵を葬り、都市を守ったという栄誉をその手にするがいい!
さあ、戦祭だ!
「「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」」
どん、だのぱん、だの。
花火が打ち上がり、舞台に上がって拳を振り上げたフィンへの喝采が起こる。
オラリオは現在お祭り騒ぎだ。
メインストリート以外にも様々な出店が並び、大道芸人や隣国の商人など、かつてないほどの賑わいを見せている。
この祭りが生む経済効果に、都市崩壊の可能性を聞いてから目の下にくまを作っていたギルドの豚は久しぶりに快眠できたらしい。
「お疲れ様やなぁ」
「ふぅ、いつもとは違う衣装なせいで肩が凝るよ」
それを満足気に見届けて舞台上から袖に引っ込んだフィンの現在の格好はタキシード。
それを迎えるロキは派手派手なドレスだ。
とても仲間をぶっ殺せと冒険者を煽っていい格好ではないが、彼らの顔に悲嘆は一切なかった。
「さてはて、お次の出し物は確かエルフリンクスの2人だったかな?」
「せやなぁ、くぅー!楽しみやぁ!衣装めちゃんこ可愛くしたからなぁ〜!」
「二人とも短い期間でダンスレッスンをよく頑張ってくれたよ」
「うんうん。白巫女も最初は嫌がっとったけどフィンが言いくるめたしなぁ。ぐふふふ、さすがやでぇ」
「悪者みたいに言うのはやめてほしいな。僕はちょっと彼女の主神のしでかしとか、ナズナへの恩でおど…お願いしただけだよ」
「自分も悪よのぉ〜」
「君たち神には負けるさ」
●
「で、どうするよローレライ討伐?」
「うーん俺は観客でいいかな…」
「俺も」
「だよなぁ、前一度喧嘩ふっかけたけど普通にぶっ飛ばされたし。そいつがデカくなってパワーアップしてんだろ?無理無理」
「それよりカルミナのライブ見ようぜ、宣伝してたときから楽しみにしてたんだよ!」
モルドとその他チンピラたちは、街の活気にあてられて、ダンジョンではなく街の方へと繰り出していた。
そんな3人は、屋台のうちの一つの前で足を止める。
冒険者達がよく知る美女が売り子をしていたからだ。
「あ、その前にここで冷たい飲み物かってかないか?…って、なんだこれ」
「『ナズナ祭り特製ポーション』?これなんなんですアミッドさん」
「言葉の通り『ナズナ祭り特製のポーション』ということです…」
「え、聖女様嘘ですよね…?これ普通のポーションと何が違うんですか!?」
「ブゥワァーーーーカなことを言うなァ!キサマらの目は節穴かァ!?ちゃんとあの小僧のイラスト付きの派手な紙を巻いておるだろうが!」
「それだけでこの値段!?ボッタクリにもほどがあるだろ!」
「ええいうるさいうるさい!儂は嘘はついておらんぞ!ポーションそのものが特製とは書いておらん!」
「おいこのジジイたたんじまえ!」
「こいつがエニュオだろ!黒幕はこいつだったんだ!」
「ぬわぁー!助けろアミッドぉ!」
お祭り。
それは喧嘩がつきものである。
だが、そんな喧騒をドン引きしながら見つめる集団があった。
「…普通にお祭りしてますね、神様」
「うん、ロキのとこの子どもたちってばずいぶん愉快な性格なんだね?」
ヘスティア・ファミリアだ。
「あの、私はその場にいなかったのでよく存じ上げないんですが、ナズナさんを倒さないとオラリオは滅びるんですよね?」
「らしいな」
「えぇ?」
「なんでもナズナさんを倒さないと精霊の魔法?とやらが発動して都市が消し飛んで、ダンジョンを塞ぐ蓋がなくなっちゃうんだとかで…」
「だから倒すしかない、と?さすが勇者様は違いますね」
「おいリリスケ、そんな皮肉はやめてやれ。あいつらだって辛いんだろ」
「たぶん、せめてナズナさんの最後が楽しいものになりますようにってことだと思うんだけど…きっとみんな辛いはずだよ」
リリの皮肉をヴェルフが嗜め、ベルがフィンたちのことを思って眉をひそめる。
だが、その横を元気よく走り抜けていく人影があった。
「あ、アルゴノート君だぁ!君も討伐祭参加するの!?いいねぇ、誰が一番最初にナズナをぶっ殺せるか勝負だね!」
「え」
「もちろん私」
「アイズさん?」
「えー?でもアイズこないだナズナに負けたじゃん」
「あれは肩こりとか前日の寝不足とか多少の空腹とか筋肉痛とか色々あって万全じゃなかっただけだからセーフ」
「負けず嫌いだなぁ」
「ハッ、あの野郎をギッタンギッタンにすんのは俺だ!」
「ナズナ倒してプレミアムジャガ丸君を手に入れるのは私」
「じゃーねー!」
「「「「………」」」」
「…で、誰が落ち込んでるって?」
「あれぇ!?」
嵐のように駆け抜けていった三人を見て、呆れたように笑うヘスティアに、ベルは素っ頓狂な声を上げた。
●
「さぁ、行きますよフィルヴィスさん!」
「ま、待ってくれ!やっぱりやめないか!?」
「なんですか、ここにきて怖気づいたでんすか?」
「そうだと言ったら?」
「無理矢理にでも連れていきます!」
「くっ、殺せ…!」
姫騎士ムーブをかますフィルヴィスを前に、レフィーヤはほっぺを膨らませるあざといムーブで対抗する。
私怒ってます、ぷんぷんです!と全身で表現するレフィーヤにたじろぐフィルヴィスは、だが、一度舞台袖から覗いて見えた人混みを思い出して顔を青ざめさせた。
「無理無理無理、無理だ!あんな人前で醜態をさらすなんて私にはできない…!」
「醜態って…可愛くないですかこの衣装?」
「なんでなんだろうな、お前ならそう言うはずなんだが、これじゃない感があるのは!」
ひらひらすけすけ。
その衣装は確かにレフィーヤによく似合っていたが、なにか本来とは違うなにかがあった。
「ダメ…ですか?」
「ん゛ぅ…!」
レフィーヤの上目遣いにしわしわになるフィルヴィスを見て、そろそろ時間もないレフィーヤは、最終手段に出ることにした。
「どうしてもだめですか?」
「う、うぅ…だ、ダメだ…!」
「なら、最終手段です!」
「ちょ。なにを──んぐぅ!?」
「はい!な~んで持ってんの?な~んで持ってんの?飲み足りないから持ってんの!は~!飲んで飲んで飲んで飲んで~!飲んで飲んで飲んで飲んで!!!」
「…ひっく…なにこれ…」
「神酒です☆さぁ、フィルヴィスさん行きますよ!この祭りのあとフィルヴィスさんのふるさと行くんですよね!楽しみにしてるんですから!」
「クソぉ〜!あのダメワイン神がぁぁぁぁぁああああ!ゆるしゃ───ん!あいつのせいでぇ、こんな目にぃ!あとあうらぁ!忘れててごめりんこ!でも私に化けてれふぃーやおそったのはゆるさーん!」
ちなみにこのあとのカルミナのライブ、ウィーシェの森でさようなら、は伝説になった。
『ぁはは、ごめん歌詞とんだぁ〜』
『嘘ですよね、サビで!?』
『怒んなようっせーな、ライブじゃよくあることだろぉー!』
『こんなのアイドルじゃない!!!推せるか推せないかでいえば推せるんですけど、駄目なやつですよこれは!』
『れふぃーやちっすしよちっす。いえーい、私たちマブダチぃ〜いえあー!』
『んんんんんんん!?』
『オラリオ最高〜!カスどもありがとぉぉおおおおおお!』
『うわぁん、どうしてこうなるんですかぁ!私がお酒を飲ませたから!?私が悪いんですか!?いや、酒癖悪いほうが悪いですよきっと!私は悪くない!ごちゃごちゃうるせー!お前ら喉ちぎれるまで叫んで盛り上げろやぁー!』
もちろん、悪い意味で。
だが、このライブがオラリオの音楽史に多大なる影響を与え、ロックというジャンルが生まれたのは、誰もがよく知る事実だろう。
まぁ嘘だけど。
●
「盛り上がってんなぁ…いいなぁ。俺もあっち行きたいんだけど」
「駄目ですよナズナさん。あなたはこの祭りの目玉なんですから」
「目玉つーか討伐対象なんだけど」
「ま、とりあえずこの焼きそばどうぞ。もそもそで美味しいですよ」
「最後の晩餐がこれかぁ…」
ナズナヘッド・ドラゴン。
あるいはナズナホッグとも言うべきその厄災は現在、自分が誕生した祭壇とも言うべき場所から動いていない。
薄暗い地下で、自分の図体のせいでブチ抜きになって青空が見えるその場所で、ナズナとアウラは管を巻いていた。
物悲しい顔で焼きそばの乗った紙皿を見つめるナズナは、両手が使えないので顔だけ近づけて食べようとする。
それに待ったをかけたのがアウラだ。
アウラは器用に箸で焼きそばを摘むと、ナズナの口元へと持っていった。
「では、あーん」
「…お前楽しそうね」
「まぁ名前を取り戻した私はもう魔法使えないですしね。こういうことでしか役に立てませんから」
「やめろよ同情しちゃうから」
「それにしてもずいぶん声のボリューム絞れるようになりましたね」
「うーんまぁ、他にやることもねーしなぁ」
「……暇ですね」
「それな」
だらけて空を眺める二人に緊張感のかけらもない。
それを咎めようとする存在は一人…もとい一柱居たが、現在作戦が事故ったバツとしてトイレ掃除をさせられているので居ない。
「おーいレヴィス、なんか面白い話してくれよ」
「くだらん」
「駄目ですよナズナさん。レヴィスさんは飲み会に参加してもずっと無言で飲んでるんですから」
「え、なにお前ら飲み会なんかしてんの?」
「…?親睦会は組織として大事ですよ」
「まぁ、そうね?そうなんだけど…いや、別にいいか」
「お酒いります?」
「超いる」
「くだらん…」
早くアリアと戦いたいな、もう目的も達成できそうにないし。
レヴィスは現実逃避気味にアウラのかってきたたこ焼きに食らいついた。
「あふっ」
●
そして、戦いが始まった。
「はいダメー!傷一つつきませーん!べろべろばー!もっと攻撃力上げてくださぁーい!」
「おいもっと前線上げろ!魔道士はどうせ役に立たないんだからお前ら脳筋は何も考えずにひたすら殴れ!」
「だははは!陰険白メガネが置物になってんの最高かよ!これこれ!新しいスキル手に入れてからこれが見たかったんだよ!俺が上でお前が下ぁ!最高!ナーズナズナズナズ!」
「ガハハハ!滾るのぉ!ナズナァ!さぁやろう、ありったけの戦いを!」
「ガレスぅ!どっちがタンクとして相応しいタフさがあるか決めようぜ!前からポジション被りが気に食わなかったんだよコノヤロー!」
「ち、ムカツクぜ」
「うるせーシスコン猫!そらそら、逃げ回ってるだけじゃ倒せねえぞ!」
「ふ、自分で指示を出さなくていいってのは楽だね!」
「魔法とは本気だなフィン!世界の敵を倒してみせろ、勇者!そしたらてめぇが英雄だ!」
「ああ、君の屍の上で僕は英雄になる!」
「ま、身長じゃもう俺の圧勝ですけどねぇ!やーいオチビ!オチビ勇者!」
「お前を殺すのは私だ!ゼロ距離で魔法ぶち込んでやる!それなら遠距離攻撃判定されないだろ!?」
「だっはっは!ババアが走ってる!ウケる!」
「その口に魔法をねじ込む!」
「最高のディープキスをしてくれよご主人様!」
「行くぞ、ナズナ」
「来いや最強ぅ!俺が勝ったらお前全裸で盆踊りだからな!」
「ようやくお前の防御を抜けない最強という不名誉な噂を払拭できる」
「ならお前が夜な夜な神フレイヤのパンツ被ってるとか、お前が俺のケツを血まみれになるくらい掘りまくったとか、お前が実はロリコンだとか、逆バニーをエルフに見せつけてエルフの森出禁になったとか、そのへんはそのままってことで!」
「兄さん、もう処女じゃないんですよね…私は2番手ですか…なら、大きさで上書きするまでです!」
「あのチビスケがよぉ、デカくなったよなぁ!外の世界は楽しいだろ!?」
「はい!!!」
「行くよ」
「おいこれで10万ちゃらな!」
「地獄の果まで取り立てに行く」
「やってみろよ、昔は人形姫なんて呼ばれてたお前のその今の感情!ぶつけてこい!」
「いっくよぉー!」
「殺すわね、ナズナ」
「やってみせろよ、俺倒せないようじゃフィンと結婚もできねえし胸も大きくならねえからな!」
「行きます」
「ははっ、正義はお前にあるぞリュー!悪が俺だ!」
「ええ、あなたが都市を滅ぼす前に、私はあなたを殺します。…感謝を」
「なんのことかわかんねえなぁ!俺悪役だからよぉ!今までどこかで助けられたとでも勘違いしたかぁ!?」
「ぶち抜いてやる」
「牙はまだ鋭いか!?早く
「だはははは!なずなさぁーん、おっき~!」
「おい酔っ払いがいるぞ!最高か!?」
剣、槍、斧、杖、ブーツにナイフ。
木刀に見たこともない武器。
刀、魔剣。
あらゆる攻撃が殺到する。
ナズナを傷つければ、スキルの効果で自分の体にも傷がつく。
だが、それがなんだと全員無理矢理にでも笑っていた。
「悲劇じゃない…これは、悲劇じゃない!悲劇にさせてたまるか!」
ベルもまた、笑顔を顔に浮かべていた。
「行こう、みんな。喜劇を終わらせに!」
神も、人も、精霊も。
全員が笑った。
そんな戦いの幕引きがあった。
悲劇ではない喜劇があった。
怪物は倒され、オラリオは守られた。
これはただ、それだけの物語だ。
そして───
「なぁフェルズ腹減ったんだけど」
「ちょっとは我慢しろ」
色々あって生き残ったナズナは、地下生活を思いの外満喫していた。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
第一話に書いたようにダンメモのギャグと言うか、レフィーヤとフィルヴィスの2人が元気にアイドルしてる姿を書きたくて始めた物語なので、最後がこういう形に着地できてよかったなと思いました。
次のエピローグ入れて完結です。
あなたはどのスカジが好き?
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ゴルランド(最初のスカジ)
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アラン(ハゲかけ美少年)
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パルラン(ロリコン)
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サナリア(合法ヤンデレロリ)
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カラ(ツンデレ初心女)
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タルコフ(ストーカー)
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マーロ(女装ギャンブルカスお嬢様)
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ハンナ(ギャンブルカス信者)
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ソフィア(酒カスゲロチュー女)
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ニーナ(呪言女)
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エリシマ(最後のスカジ)