一発芸でレベル7になった男。   作:ひつまぶし太郎

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ようやくタイトル回収です。
ハードルの下を這いつくばって越えていきます。
石は投げないでください。


第九話。一発芸

 

 

『一発芸、やります!』

 

という一言を、ナズナは二度と口にはしないだろう。

 

あれは忘れもしない、まだレベル6でステータスが頭打ちだったころ。

ナズナは遠征帰り兼自分の30歳祝いの宴会の場で、鍛冶屋で余ってるからと貰ったオリハルコン鉱石を数個取り出して叫んだ。

 

『一発芸やります!今からこの石を五個同時に頬張って噛み砕いてやるぜいえーい!』

 

『は?それの何が面白いんですか?』

 

『やったれナズナ!うちは信じてるで!』

 

店員のエルフが呆れ、酔っ払いが囃し立てる。

そんな観衆を前に、ナズナは手にしたその石を口へと放り込んだ。

 

オリハルコン。

世界最硬精製金属と知られるその石は、不壊属性の特殊武装を作るために用いられるほどに頑強だ。

あるいはそれを扉にしてしまえば、脱出不可能な空間を作ることも可能だろう。

 

『んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぐぐぐぐぐぐおおおおおおおおおお!(迫真の白目)』

 

幼い頃からいろいろ無茶をしてきたナズナからしても試したことのない挑戦の最中、ナズナは走馬灯のように過去を思い出していた。

まともな食事を貰えず、木の根より石の方がうめえ、などとほざいていたひもじい幼少期。

ナズナはそれが自分の身に流れるノームの血のせいだと思っていたが、そんなことはない。

彼らは宝を好むだけで、石を栄養にするような異常生物ではないと知ったナズナの驚愕は凄まじい物だった。

じゃあ俺はなんなんだよ!と空にむかって叫んだあの頃が懐かしい。

あの頃も今この瞬間と大差ないくらいしんどかったな。

いやどうだろ。

この一発芸の方が苦しくないか?

というかぶっちゃけこんな一発芸やるんじゃなかった。

なんだオリハルコンを食べるって。

バカじゃねーの?

 

そんなことを考えながらも、後に引けないナズナは頑張った。

よせば良いのに頑張った。

たぶん一発芸なんかじゃなくて、他のことを頑張っていたらもっと尊敬される冒険者になれていたことだろう。

 

『うわぁ…』

 

結局ナズナは周りを(主に酒場の店員を)ドン引きさせながら、その石をなんとか噛み砕いた。

だがその反動で気絶。

目が覚めたら都市に存在する二人目のレベル7の誕生である。

 

そのあまりの道化っぷりに神々は大爆笑。

 

『世界最硬精製金属より歯と顎が丈夫な男』

『えぇ!?自分の頑丈さの証明を一発芸で!?』

『できらぁ!』

『実際にやったんだよなぁ…』

『美味しくて強くなる』

『世界最硬精製金属はグリコ製品だった…?』

『一発芸でレベル7になった男』

『猛者といいレベル7になれるやつは頭がおかしい』

『お前たち、百点だ』

 

二つ名が変な名前に変更されることなく、守護妖精(ローレライ)のままで許されたのは偏に貴重なレベル7であることとロキのお陰だろう。

一発男(オリハルコン・ピエロ)とか道化の王(バカチャンプ)とかいう二つ名がついた日には外に出れなくなってしまっていた。

 

さて。

そんな因縁のある店がここ【豊穣の主人】である。

一度ここを出禁になり、現在は店内でないなら飲み食いしていいというところまで許されているナズナは、宴会の前だというのに黒歴史を思い出して重苦しいため息をはきだした。

 

「ミア母ちゃーん、来たでぇー!」

 

「お席は店内と、こちらのテラスの方になります。ご了承ください」

 

くそ真面目で礼儀正しいエルフの案内にフィンが了承を返し、酒場へと入る前に団員の半数をテラスへ座らせる。

 

「よぉ、酒場エルフ。果実酒ある?…なんだよ」

 

しれっとテラスに座らず店内へと入ろうとしたナズナは、そのエルフに道を阻まれた。

 

「申し訳ありませんが、ナズナ…様の入店は本日もお断りしています」

 

「やっぱりまだ?もうそろそろよくない?」

 

「やはり、ランクアップの件がありますので…」

 

「それもう三年前だろ!」

 

リューに向かって叫んだ瞬間、酒場のキッチンからとんでもない勢いでラム酒の瓶が飛んできた。

それを顔面で受け止めることになったナズナは、ひっくり返る。

 

「あんたは外!特に遠征帰りのあんたは中に入れないよ!」

 

「くそ、そろそろ普通に店にいれてくれよ!?…はぁ、ラウル席変わってくれ」

 

「了解っす」

 

とはいえ豊穣の女主人ではミア母さんが絶対。

それはレベル7であっても、神であっても変わらない。

 

すごすご引き下がったナズナは、リューという壁の突破を諦める。

これは別にリューの胸の発育の話ではない。

彼女は男装すらも着こなすエルフだが、むしろ極貧(ティオナ)虚無(ロキ)と比べるのが失礼なくらい立派なものをお持ちである。

 

「あ、そういばシルからあなたへの料理を預かっています。あとでお持ちしますね」

 

「え、俺店に入れない上に自分が食べたい物も食べれねーの?宴会なのに?」

 

そのあと、宣言通り豊穣の女主人の店員のシルが手ずから作ったという料理をリューが持ってきた。

 

───ナズナの記憶はそこで途切れる。

 

『えぇ!?リュー、あの料理もってっちゃったの!?』

 

『…?ええ。クラネルさんへの料理の練習台としてナズナへの料理を作っていたのですよね?』

 

『それは…そうだけど…!心の準備が!』

 

『???』

 

『もう、リューの鈍感!』

 

『雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ』

 

『団長!ナズナさんが倒れました!』

 

『えぇ!?』

 

『次から次へと…』

 

 

 

 

ナズナの寝室。

宴会のあったあの日から眠り続けるナズナの寝顔を、レフィーヤは覗き込んでいた。

 

通算5日。

毒を食らったわけでもない。

ただ不味い料理を食べただけで5日。

果たして耐異常があるレベル7を昏倒させる料理を作るあの酒場の店員はなんなのか。

 

「ふふっ」

 

だが、そんな疑問は些末なことだとレフィーヤは切って捨てる。

 

現在レフィーヤは妹ポジションをいいことに、ナズナの部屋に入り浸りその寝顔を独占していた。

今もナズナの布団に勝手に潜り込み、添い寝している。

にへら、と笑ったレフィーヤは直後、なにかを思い付いたのかその表情を蠱惑的なものへと変える。

そして、髪をかき上げると耳にかけ、指で自分の唇をなぞる。

 

「起きない兄さんが、悪いんですよ?」

 

静かに呼吸を繰り返すナズナの唇へ、自分の唇を落と───

 

「───はっ!?」

 

「ぐふ……っ」

 

そうと言うタイミングでナズナの目が見開かれ、勢いよく跳ね上がった小さな頭が不埒者(レフィーヤ)を撃墜する。

 

両者ともにノックアウト。

寝起きで混乱するナズナと、不意打ちを食らって床で転げ回るレフィーヤが落ち着くのに、しばらくの時間を要した。

 

「ぶふっ、ベートがそんなことをねぇ!あ〜勿体ねえ!見たかった!それめっちゃ見たかった!」

 

そんなこんなでベッドから起き上がり、食堂へと向かう道すがらナズナはあの日何が起こったのか話を聞いていた。

 

「それにしても5日ね、5日。5日?…なにそれ怖い」

 

やっぱあの店員は尋常じゃない。

普通に苦手意識のあるシルという少女を思い浮かべながら、ナズナはため息をついた。

 

「兄さん、お腹減ってませんか?5日も食べてませんから、最初はお粥とかの方がいいとは思いますけど…」

 

ナズナは一度自分のお腹をさすると、自分を気遣うような眼差しを向けているレフィーヤに震え声で返事をする。

 

「なぁ、レフィーヤ。俺、本当に5日も寝てた?」

 

「え?」

 

「なんかさ、お腹減ってないんだけど…」

 

ナズナに出された料理は、『腹持ちのいい』をコンセプトに作られた最強のメシマズ料理。

奇しくもその効果だけは本物だった。

 

 

 

 

 

 

「はー、タイムスリップでもした気分だぜ。まさかもう怪物祭(モンスターフィリア)の日になってるとは…」

 

フィリア祭。

年に一度闘技場で開かれる、【ガネーシャ・ファミリア】が主催するお祭りだ。

目玉である催しは、ガネーシャのとこの団員がモンスターを調教し、手懐けるまでの一連の流れを披露している。

 

この祭りに関しては様々な意見があるものの、ナズナとしては遊ぶ理由ができるならなんでもよかった。

 

「ほんとビックリだよねー」

 

都市東端に築き上げられた円形闘技場。

そこでため息をつくナズナの横で、ティオナが食い入るようにショーを見ながら適当な相槌を返す。

 

「やっぱりガネーシャのとこ、すごいなー」

 

「あんたねぇ…会話を放棄するのやめなさいよ」

 

ティオネが呆れたように妹をたしなめるが、ナズナは適当にひらひらと手を振って受け流す。

 

「気にすんな。もはや現実感が無さすぎて、むしろドッキリなんじゃないかと思ってるくらいだ」

 

「あはは…」

 

うんざりしたように顔をあげるナズナの視線の先では、テイマーが観客へとお辞儀をして見せた。

ムカつくくらい晴れ渡った青空へと、歓声が吸い込まれていくのを感じながら、せめて楽しもうとナズナは手元のジュースをストローで吸い込んだ。

 

「それにしても」

 

すっと、目を細めたティオネの視線の先にいるのは、大慌てで走り回るガネーシャ・ファミリアの団員たちだ。

 

「さっきからガネーシャのとこの連中が騒がしいわね」

 

「あ、やっぱりそう思う?」

 

「どうしますか?」

 

何故か沈黙したままのナズナを気にしつつ、レフィーヤがこの場で一番頼りになるティオネへと確認をとる。

 

「…とりあえず様子を見てきましょうか」

 

三人は観覧をやめて立ち上がると、事情を知ってそうな人間を探して歩き始めた。

ナズナは立ち上がらない。

 

「あれ、兄さん行かないんですか」

 

「行かない」

 

「いやいや、緊急事態なんじゃあ…」

 

「やだ」

 

ぷい、と顔を背けてついでに耳を塞ぐナズナに、ティオネがツカツカと歩み寄る。

 

「い、く、わ、よッ!」

 

「い、や、だ、よ!だってさあ、俺5日も寝てたんだぜ!あるかなあ!?病み上がりの俺が出張る理由あるかなぁ!?ねーよなぁ!?」

 

涙目で叫ぶ勢いに思わずティオネ達が怯むのを見て、ナズナは勝ち誇ったようにふんぞり返った。

 

「俺を動かしたかったら論理的な理由を提示してくださーい。出来ねえだろすぐキレる瞬間湯沸蛇女に絶壁破壊女め!知能が全部筋肉になっちゃってるんじゃないですかぁ!?はいはい論破論破、俺の勝ちぃー!……なんだよ。あ、こら!無言で俺を持ち上げるな!離せよ!……やめ、やめろお!俺のそばに近寄るなああああああ!」

 

───このあと、モンスターが脱走したり、見たこともない花のモンスターが出現したりしたが。

 

逃走ではなく()()()を追跡するように()()を滾らせるモンスターたちはナズナのスキルの餌食であり、アイズやティオネたちが揃った状況で何が起こるということもなく。

 

魔力に反応した食人花が魔法を詠唱していたレフィーヤに襲いかかるもナズナに防がれ、「いいこと思いついた!並行詠唱の練習しようぜ!」という悪魔の発想によって、レフィーヤが半泣きになりながら並行詠唱の訓練に挑むことになったりした。

 

『おーと、ここで花のモンスターの攻撃だー!しかし残念!紙一重で躱される!躱す躱す躱すぅ!彼女は本当に魔道士なのかぁ!?エルフの魔法なら自分のものとできる【千の妖精(サウザンド・エルフ)】の動きはまるでダンスだぁー!アイドルも夢じゃない!』

 

とりあえず詠唱はいいから躱す練習から、と始まったレフィーヤの訓練はモンスターフィリアの延長として披露され、通りすがりの愉快神(ヘルメス)の実況のせいでギャラリーが増えたことにレフィーヤは顔を真っ赤にしてキレながら躍り続けた。

 

それを気の毒そうに眺めるヘルメス・ファミリアの団長であるアスフィは、最低限怪我人がでないように辺りを警戒するも、街にも人にも特に傷跡が刻まれることなく騒動は幕を閉じた。

 

 

「───ぁああああああああああああああああ!」

 

そして、とある女神の信奉者たちによってとあるルーキーへの試練が別の場所でお膳立てされたりはしたが、こちらも自身の主神との絆パワーで力を振り絞った少年によって解決。

 

一番のヤツ(伴侶候補)金色のヤツ(団員候補)で優勝していくことにしていた女神は大満足。

横に侍らせたオッタルと、大変美味な食事を堪能するのだった。

 

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
以上がナズナのランクアップの真実になります。
そして、下書き段階で一番のやつと金色のやつというただそれだけのネタを思い付いたがために、ナズナの髪はとあるエルフとお揃いの黒髪から山吹色の髪に変更になりました。

心に優しい評価や感想頂けるととても嬉しいです。
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