禅昌寺家は平安時代より続く呪術界御三家が一つ、禪院家から零れ落ちた術師より始まった一族。
要は出来損ないが勝手に家を出てそこそこ有能な禅昌寺家に婿入りした、という話だ。
家系は衰退することもなく現代まで続き、現在は
彼は24歳の若さで当主の座に就き、美しい妻とも出会う。何気ない日常、部下達とのちょっとした世間話、妻との時間。
ただ一点を除いては、幸福に包まれた日々だった。
そう、妻との子に恵まれないことさえなければ。
いくら妻と交わっても妊娠しない。子供が出来ない。男の子でも女の子でもいい、愛してあげたい、生まれてきて良かったと言わせたい。
親として何かしてあげたい。いつしか妻は神に祈りを捧げるようになった。
毎日毎日、仏間で子を授けてくださいと願う。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日。時間の許す限り。
ある日、日課である妻との散歩に出かけようと玄関の戸を開けた際、小さな籠が置かれていることに気がついた。
中を覗いてみると、なんとそこにはおくるみに包まれた赤ん坊が眠っていた。
妻は歓喜のあまり涙を流し、眠っている赤子を優しく抱き上げた。
蛇尾丸も神に願いが通じたんだと喜びを隠せなかった。
抱き上げた赤子。うっすらと目を開いた。血のように光る真紅の瞳。
今日から禅昌寺家の子供だ。骨の髄まで愛して育てよう。
この子の名は────────
「朱丸!いい加減ロッカーに隠れるのやめよう!ちゃんと授業受けないと!」
「う、うるさい黙れ!君等には僕の苦しみなんて分からないんだ!頼むからそっとしておいてくれ!」
今日は一段と朱丸の様子がおかしい。教室に急ぎ足で入ってくるなりロッカーにあるものを全部取り出して中へ閉じこもってしまった。
雄はどうしたらいいものかと七海へ視線を向けるも、然りげ無く目を逸らされた。
「七海ぃ、朱丸引っ張り出すの手伝ってくれない?」
「どうせ先輩達から何かされたんでしょう。そっとしてくれと言っているのだからそっとしておきましょう」
「えー。でももうすぐ2限目始まるし………」
七海の言う通り何かあったのは事実だろう。しかし学生の本分は勉学、せめて授業はちゃんと受けてほしい。終わったらまたロッカーに戻ればいいだけだ。
なので雄はロッカーの両端を掴み、ヒョイッと持ち上げてガタガタガタガタッ!!と左右に揺らした。
「出てこーい!朱丸ぅー!!」
「ぁぁぁあああ"あ"あ"!!」
激しめに揺らされ、朱丸はとうとうロッカーから飛び出した。
立つ気力もないのか床に這い蹲り、嗚咽を漏らして泣いている。
「ごめん痛かった?」
「違う……そんなんじゃない……もっと、こう、心のダメージのせいなんだ……!」
心のダメージ。つまり精神的苦痛のせいで今泣いているんだと受け取った雄は、ロッカーごと揺さぶられるのがそんなに苦しかったのかとちょっとだけ罪悪感を感じた。
そんな小さな理由じゃないと見抜いた七海は、嘆息しながらも「何かあったんですか?」と朱丸に尋ねる。
訳を尋ねられた朱丸はビクンッ!と大きく体を震わし、顔を手で覆い隠した。
「昨日……………昨日のことなんだ」
「「……………?」」
「昨日の深夜、家入先輩に寝込みを襲われたんだ」
「え」
「今すぐ精神科に行きましょう。大丈夫です、私と灰原も病院までは同行します」
「いや嘘じゃねぇから!ホントだから!マジで家入先輩に襲われたんだって!性的な意味で!」
「家入さんって朱丸のこと好きだったの!?」
「知るかよ!けど安心して!追い返したから!事故は未然に防げたから!」
天真爛漫な雄でも性的な意味で寝込みを襲われる意味は理解できる。だからこそ硝子がそんな行動を取るのに驚いたし、何より朱丸に好意を抱いていることに驚愕すら超えた感情を抱いた。
七海は端から朱丸の言葉は信じておらず、日頃のストレスのせいで頭がイカれちまったんだと受け取った。
「く……クソッ!なんでこんな目に………僕何も悪いことしてないのに……昨日夏油先輩の財布から百円盗んだことくらいしかやってないのに」
「それはそれで重罪なんですよ」
そうこうしていると教室の扉が勢いよく開かれた。顔を向けてみれば明らかにキレた様子でいる五条悟と顔は笑っているのに悍ましい雰囲気を醸している夏油傑と二人が立っていた。
教室の中へ入ってきた二人は朱丸の元へ一直線に歩く。
何をするのかと思いきや悟は朱丸の首根っこを掴み、ぐいっと持ち上げた。
「朱丸くぅ〜ん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさぁ〜。昨日の夜硝子の部屋に忍び込んで襲い掛かったって本当かなぁ?」
「う……うげっ!?ち、ちが…………ぎゃ、逆……です……」
「何を言っているのか聞こえないよ朱丸君。悟、このまま裏山へ連れて行こうか」
「そうだな。さっさと済ませよう」
聞き覚えのない罪を着せられた挙げ句裏山で埋められることを告げられた朱丸。
雄と七海へ「助けて!頼む!」と視線を送るも見てみぬふりをされてしまった。
「止めろゴミ共」
ゴッ!!ゴギャッ!!
悟と傑の頭上から硝子によるジャンピング正のエネルギーパンチが炸裂した。
術式を解いていたことが仇となったか悟は呻き声を上げて床に倒れ込んだ。
傑も同様、頭を抑えて苦しんでいる。硝子は埃を払うように手をパンパンと叩いて、尻餅をついている朱丸のそばへ近づく。
膝を曲げて同じ目線に降りる。じぃ〜っと朱丸の顔を見つめる。
「あの…………離れて………もらっても?」
「好き」
「「「「!?!???」」」」
「実家に帰らせて頂きます!!」
窓ガラスを突き破って逃走を図る朱丸。その後ろを全速力で追いかける悟達三人組。
禅昌寺朱丸の苦難はめちゃめちゃ続く。
次回予告!
超苦手な家入硝子とのいつもの呪霊討伐任務!しかし反転術式の使い手を狙う呪詛師集団に襲われてしまった!
相手は一級相当の実力者ばかり!どうする朱丸、最愛の家入硝子を守りながら呪詛師集団を倒せるのか!?
ついにでるか!朱丸の術式が!
※家入硝子の朱丸に対する好感度は100点中285点です。