前回は1話でしたので曇らせ少なめのジャブでしたががちょっとずつギアを上げていきます
マジで救いは無いのでお楽しみに
少なくとも分割しなければ地獄過ぎる程度のつもりです
また、詳しく書きすぎると地獄過ぎるかもしれないのでポップに書いております
あれから1月が過ぎた。
ハンスやモルの補助のおかげで元の落ち着きを徐々に取り戻したのだ。
現在は女優業を休ませてもらっている。
精神が不安定であった頃は、同調して身体も不調であったためだ。
「それにしても……」
暇ね、と心の中で呟く。
現在1人で留守番であるため寂しい。
女優業を私が休業したからと言って、劇団の活動自体が止まるわけでは無い。
私の代わりとして現在、モルが主役を務め各国を交遊している。
そのため、モルやハンス、劇団員のみんなは現在隣の国で、連日公演中なのだ。結構評判はいいらしい。
「……ハァ」
自身の身内の不幸で休ませてもらっている身としては非常に図々しいかもしれないが、仕事もせず日永1日中家にいるというのもつまらない。
彼らが国を出て2週間弱。
お気に入りの本を諳んじれるほどに読み返し、試しに始めて見た編み物を放り投げ、今では起きて食事してたまに買い物、夜になったら寝るだけの繰り返し作業だ。
帰ってくるにはあと2月はある。
お金と時間はあるというのに、やることは何もないなんてなんて非生産的なのだと思ってしまう。
投げだした編み物をもう一度やり直してみようかしら?ハンスへのお礼もかねて何か送りたいし、それにモルにも。
そんなことを考えながら1人椅子に座り、手元のナイフを弄ぶ。
このナイフはママの形見だ。
ママの手元にこれが握られていたらしく、強盗に立ち向かおうとしていたのではないかと言われた。
結局、ママは反撃叶わず帰らぬ人となったのだが、最後まで抗おうとした気高さは一生の誇りであり、このナイフを握っているだけで自然と勇気が湧いてくる。
刃渡り15cm未満、装飾らしきものもされていない、いたって普通のナイフであるのだが、それでもこのナイフの存在そのものがママの、ひいては両親2人の気高さの象徴に感じてならないため気に入っており、後生大事にしているのだ。
形見と言えば、両親の遺産も私の口座に入ってきた。
それらと私の元の資産を合わせるとなかなかのモノで、都市でそれなりの家を1等地に建てられるほどとなった。
両親は現金主義であったため、強盗には相当の金額を取られたようであるがそれでもかなりの金額であった。
今はその資産を切り崩して生活をしている。
復職までは無収入だが……まぁ、よほどのことが起こらない限りは安泰だろう。
それこそ、とんでもない大怪我とかね。内臓全部交換レベルでだけど。
彼らが国に戻ってきたら仕事は再開しようと思っているし、そんなこと起こりようもないのだから気にしなくてもいいだろう。
「それにしても……。ハンス、今頃何してるのかしら?」
私は暇を誤魔化すために、愛しの恋人へと思いを巡らせた。
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「今日はそれとこれを3個ずつ下さいな」
1人で生活するようになり買い物も自身で行うようになった。
買い物や料理は付き人のモルに任せていたが、できないわけでは無い。
今日は八百屋に野菜と果物を買いに来たのだ。ここの商品は鮮度もよく、味もいいため度々購入しに来る。
その分値段も張るが、些細なことだ。それだけの価値は十分にある。
自身は現在休業中とはいえ、これでも最高クラスの女優。自意識とプライド、それと自尊心は常にセットで持っておかねばならない。良いものに高いからという理由で距離を置くような精神性でいては、劇中でその貧乏くささを出してしまうようになるかもしれない。
常に気持ちだけは王族でいたいのだ。
店主から商品を受け取り帰路に就く。
今日の晩御飯が楽しみね、と手に持つ重みに期待を寄せる。
心なしか体も弾むようだ。
こんな日は歌でも歌ってみたいものだ。往来なのでやりはしないが、鼻歌くらいは許されるかしら?
「~~~~~♪」
ご機嫌にスキップをしながらお気に入りの楽曲を奏でる。
天気も良いし、今日はいい日だ。
―――ッ!
瞬間、脳裏にめぐる暗い記憶。
良い天気、鼻歌、ご機嫌な私。
このセットにどこか既視感を感じ、意味も分からず心の奥底から震えてしまいそうになる。
その既視感が何であるのかはわからない。
だけど、先ほどまで上機嫌が嘘のように消えてしまった。
スキップは無くなり規則正しく歩きだし、鼻歌も消え去って無音となる。
(なんだっけ?なんだっけ?!なんだっけッ?!)
理由もなく焦ってしまう。まるで体の内から警鐘が鳴り響いているかのように。
ダダダダダダッ!!
突然、大きな音が聞こえてき驚きその音の方向を向く。
(あれは、……馬車かしら?)
後ろに大荷物を載せた馬車がこちらに向かって走ってきている。
どこかの商会のモノだろうか?と危なくないように横へとズレる。ぶつかってしまっては大変だ。
そう思い、道の端によ
ドンッ!!
「あッ―、ぇ?」
突然加速した馬車は私めがけてまっすぐ走り、そのまま私を轢いたのだ。
その勢いで、手に持つ野菜を放り投げ飛んでいく私。
数秒後、地面に堕ちた私は何が起こったのか確認しようとするが。
(あ、ダメね。意識、もう――消え……)
衝撃から意識は今すぐにでも消えそうだ。
辛うじて情報を集める視界には
(ああ、私。死ぬのね)
こちらに向かってなおも向かってくる馬車の姿が映されていた。
(そっか。さっきまでの既視感。思い出した)
――パパとママが死んだ日と一緒だったんだ。
良い天気も、鼻歌も、ご機嫌な私も。
これから私はあの馬車に潰されて死ぬのだろう。
人間として忌避すべき状況なのだろうが、ソレを何処か受け入れる自分もいる。
(パパ、ママ。――ちょっと早いけど、今からそっちに行くよ)
そして私の意識は落ちた。
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「――生ッ!―ルヴ――んが意し――た!!」
右の方から大きな声が聞こえてくる。
いったい何なのだろうか。
今、私はベッドに横になっているらしい。
ならば、と起き上がろうとすると
(――えッ?!)
まったく起き上がれない。
そこで異常に気づく。
耳がおかしい。右からは音を集めているのに、左は一切音を脳に送らない。まったくの静寂だ。
眼もだ。今自分は目を開いているはずなのに
(こんなに視界は狭かったっけ?)
まるで片方の目を抑えられているの可能に、普段より多くの暗闇が見える。
(いったい、どうなって……そういえば)
私、確か……
(馬車に轢かれて、でも。生きているし)
もしかしてあの状況で生き延びたのか?
地に倒れ伏した私に圧倒的質量が向かってきていたあの場面で?
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私はすべてを失った。
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医者に全てを説明された。
私が気を失った後、どうなったのか。
私が気を失った後、馬車は私を予想通り踏み抜いたらしい。
その結果、四肢はすべて潰れ、内臓もいくつか割れたのだとか。
顔も踏み抜いていった馬車により、鼓膜や水晶体も傷つき、片目、片耳は機能しなくなった。
極めつけには
(ふざけないでよッ!!そんなことが、偶然でッ!!偶然で済ませられるわけないじゃないっ!!)
馬車の積荷は劇薬であったのだ。
それらの1部は事故の衝撃で荷台から落ち
私の顔を焼き切ったのだ。
今の私の顔を鏡で見せられた時、気が狂いそうになった。
あの奇跡的なバランスなどどこにもなく、事故による裂傷と痣、そして1部薬品で爛れた醜い女の顔のみが存在していたのだ。
両腕、両足も使い物にはならず、医師との相談の結果、切除し、義手、義足を取り付けてもらった。
以上にして、私は1日で最大の誇り。
美を失ったのだった。
もちろん美だけではない。
四肢を失った私からは自由も消え去り、こんな顔では女優も続けられない。
名誉も何もかもを奪い取られたのだ。
ここまで来ると泣けもせず、引き攣った笑いが漏れ出るのみ。呼吸器系もダメージを負ったのか、ヒュー、ヒューと笑うたびに漏れ出る空気の音が一層惨めさを生みだしていた。
そして最後に財産を失った。
ここまでの治療にかかった金額は異常とも呼べる額で、多額にあった私の預金を一瞬にして吹き飛ばした。
僅かに足りない金額は、住んでいる家を売り払い、安い家に移り住むことにしなんとか借金を負うことにはならなかった。
私を轢いた商会は轢いてすぐにどこかへと消えたらしく、賠償すら支払われなかった。
以上にして私はすべてを失ったわけだ。
ここまでくるといっそ笑えてしまう。
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財を失った人が生きるためにしなければならないこと。
それは労働だ。
当たり前の話だが、お金がないなら働いて稼ぐしかない。
だがここで1つ問題が生まれてくる。
私は労働力にはならないのだ。
顔、四肢と全身を痛めた私のできる仕事など存在せず、家を売り払ったときの僅かなお金を切り崩して生活するしかないのだ。
少し高い八百屋なんてもってのほか。
少しでも安い店に死ぬ気で通っては食つなぐ。
無様もいいところだろう。
だけどあと2週間もせずに彼らは帰ってくる。
それまでの辛抱だ。
それまで耐えきるのだ。
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お金が尽きた。
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贅沢をしていたわけでは無い。
無駄な買い物をしたわけでもない。
ただ、本当にギリギリであったのだ。
1週間強、なんとか耐えているつもりであったが1つ、忘れていたことがあった。
税金だ。
こんな哀れな被害者にも税金の取立人は無慈悲にこう言ったのだ
『金ならあるだろう。さっさと出せ』
と。
何度も説得を試みようとした。
あと1週間もしない内に仲間が返ってくるからそれまで待ってくれと。
そう言っても、聞く耳を持ってもらえず結局支払う羽目となり
結果2週間もつことなく、私財は消え失せたのであった。
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そこから数日、飲まず食わずで彼らの帰りを待とうとしたが限界であった。
このままでは死んでしまうと実感した。
身体が水と食料を求めている。
しかし、そんなものを買うお金もなく、死を待つしかない現状。
(――いや)
1つだけ。
たった1つだけ、私でも稼ぐ方法がある。
顔も、四肢も。
全身の殆どを失った私に唯一残ったもの。
(身体を……売れば)
唯一稼げる、最後の手段。
それは昔の私ではありえない考えであった。
添い遂げる殿方以外に股を開くなど。
金を稼ぐために見知らぬ男に抱かれるなどと。
しかし、まともに水も飲めていない状況に狂わされて私はその、あらぬ方向に思考を進めていく。
(でも、いいの?――私には、ハンスが)
――死んだら、そのハンスに会えなくなるかもしれないのに?
(そもそも身を売るなんて軽蔑すべきッ?!)
――生きる以上に大切なことなんてあるの?
(パパもママも悲しむに決まってるッ!!)
――餓死する娘を喜ぶ両親だったの?
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だが、現実は甘くなかった。
『君、舐めてんの?ウチじゃ君みたいな醜女、雇わないよ』
『シルヴィ、ねぇ。……あの大女優と同名にしては天と地の差だね』
『ダメダメ、ウチは美人しか雇わないの。君みたいな子は、アソコの大衆店をお勧めするよ。まぁ、アソコでも雇うかはわからないけど』
この傷ついた身体を雇う娼館は無く、門前払いされるのみ。
雇ってほしいと伺う店のランクは断られる度に下げ続け、今では二束三文のたたき売り店にすら断られる始末。
惨めであった。
ひたすら惨めであった。
あれだけ馬鹿にした身売りすらできないだなんて。
身を売ればお金を稼げるだなんて、自身の状況を飲み込めていなかったなんて。
これ以上ないほどに惨めであったのだ。
(帰ろう。コレは1種の気の迷い。彼らが返ってくるまで後1週間ほど。何とか耐えきって
ハッ、ハッ、ハッ!
「待ってくれ!!」
誰かが走ってきた。
振り返り、前までの半分の視界でとらえた先には
「あなたは……」
私を追い返した娼館の店長の1人であった。
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風のうわさで大女優、シルヴィが大怪我を負ったと知った彼は、私が本物なのではないかと探しに来たらしい。
その後は話がトントン拍子に進み、すぐに買い手が現れた。
なんでも店長が常連にのみ
『あのシルヴィの処女を売っている』
と伝えたら買うという人間がすぐに表れたのだとか。
その人は最近やけに羽振りがいいのだとか。
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行為自体はつつがなく終わった。
経験のない私は、すぐさまベッドの上で股を開き、彼に貫かれた。
その後はただひたすら耐えるだけ。
自信の倫理観、道徳観、嫌悪感などとの闘いだ。
必死に私に向かって腰を振り続けた男性。
涙が止まらなかったのは、そんな現実の虚しさからなのか、ハンスへの罪悪感からなのか、ただ痛みからそうなったのかは私にもわからない。
約2時間、男に弄ばれ純潔を散らされた私はベッドの上で放心し、男は着替えを行っている。
「ところでさ。親子って本当に似るもんなんだな」
と言い、私の秘所を指さす男。
一瞬、何を言っているにかわからずフリーズする。
男はそんな私のことを無視し、
「君のママとおんなじ形だったわ。まあ、娘1人生んでるからその分緩かったけど」
げらげら笑いながらそんなことを言う男。
「まあ、支払いはたんまり払うからおいしいもんでも食えよ?それ、パパとママの大切な遺産だからさ」
瞬間、理解した。
目の前の、今さっきまで自信を抱いていた男こそが憎き強盗なのだと。
「あ、なたッ……、待ちな――」
必死にベッドの上を這いずり、男に詰め寄ろうとするも
「おー、こわ。まあ、彼の有名なシルヴィの処女だから買ったけど、顔はキズモノだわ体はボロボロだわと最悪だったわ。女として価値ないし、もう稼げないんじゃね?――そろそろ行くわ。殺されるかもしれんしね」
「こんな仕事でたんまり金くれるあの女はマジオレの女神かもな!―じゃあね!」
そう言い、部屋から出ていく男。
部屋に遺されたのは、1人惨めにベッドの上でもがく私のみ。
まるで芋虫のように体を動かしている。
(――私、何してるんだろ)
あの人の為に取っていた処女を親の敵に売り渡し、1人惨めに蠢くだけ。
「ッーーー。ぅぅぅう゛ッッ!!」
情けなくて、涙が止まらない。
私って、なんなんだろう。
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両親から奪われたお金で支払われた給金。
それで買った食料は何の味もせず。
粘土を食べているようで吐き出してしまい。
それでも必死に地に顔をついて啜って飲み込んだ。
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自慢であった美貌、誇りであった職業、生きていくための財産、自由をむしり取られた体。
全てを失った私。
生きていく希望なんて見いだせない。
結局あれ以降、自身の身体は売り物にならなかった。
売れっ子女優の処女。
そのワードが客を寄せただけで、それすら失った今の私にお金を出して抱く価値なんてないらしい。
当然だ。
醜い顔、機械の四肢、焦点の合わない目。
そこらの安い娼婦でももっとましな女が出てくる。
顔に傷はなく、四肢欠損もない女なんて五万といるのだから私を抱く必要なんかないのだ。
そして、その事実がより一層私を惨めにする。
知らない男に1晩抱かれて数万程度稼ぐなんてと軽蔑していた下っ端女優。
見下し、嫌悪してた存在程の価値も今の自分にはないのだ、と。
とにもかくにも私の唯一残った価値すらもなくなり、どんな安値の娼館であろうと私のことを雇わない。
どうにかして生きるためにはもう、道行く男に声をかけ続けるしかない。
『一晩、~~で私を抱きませんか?』
そう言い続ける、娼婦以下の売女。
そうするしか稼ぐ手段なんて残っていない。
既に身を売った分際で何を、と言われるかもしれないがそれは無理だ。
だから
「潔く、死にましょうか」
あれから、生き汚く生きたものだ。
お金が無いからと身を、ましてや両親の仇に売り、自身で吐いたモノを啜っては飲み込み。
だがそれも終わり。
受け入れればよかったのだ。あの日、馬車に惹かれるときには覚悟できた死を。
奇跡的にも生き延びたのだからと生きようとするのではなく、あの時死んでしかるべきであったのだから1も2もなく死んでしまえばよかったのだ。
「パパとママはこんな私、受け入れてはくれないでしょうね」
人間としての尊厳を捨て去ったような醜さで生き足掻いた私を、天国の両親は軽蔑しているだろう。
そっと懐からナイフを取り出し、机の上に置く。
「コレで死ぬわけにはいかないわ」
両親の尊厳そのもので、醜い自身の終わりを飾ってはいけない。
だから作った。
お金もなく、満足に出歩くこともできない私が生み出せる、最後の道具を。
素材は元より手元にあった。愛するあの人のため、何度か挑戦しようとした編み物の糸。まさかこんな形で使うだなんて思ってもみなかった。
不自由な身体で必死に編み上げた縄。それは人の命を終わらせるには十分な長さをしている。
どこかで聞いたことがある。人が最も汚らしく死ぬ方法は首吊りだと。糞尿を垂れ流し宙に舞うその姿はこれ以上ないほどに下品なのだとか。
今の私にピッタリだ。
いつまでたっても慣れない義足の歩行に戸惑いながらも、なんとか椅子の前にたどり着く。
ギシ
ゆっくり、丁寧に椅子の上から落ちないように登り
ヒュッ、とこれまた慣れない義腕を用いて縄をかける。
既に首吊り部分は作ってある。
後は首を通して落ちるだけ。
これ以上ないほどに堕ち切った私の最後がさらに堕ちることだなんて洒落ているわね、と久方ぶりの笑みを口元に浮かべ
「これでやっと」
楽になれ
ドドドドドドッ!!
恐怖の音が近づいてきた。
今度は忘れてなんていない。この音を聞いたのは、そう。私が地の底に堕ちた日。
馬車に惹かれたあの日の音だ。
その音は次第に大きくなり、最高に大きくなったかと思えば今度は静かになった。
上手く機能しない目と耳から状況がうまく飲み込めず、何事かと呆けていると
ガタンッ!!
と部屋の入口の戸が思い切り開き
「シルヴィ様ッ!!」
息も絶え絶えのモルが中に入ってきたのだった。
美貌、貞操、仕事、財産、健康、自尊心(ついでに両親)
後は何が残っているのか……
次回、もっと無くしてもらいます
あえて言うとしたら……、君、目と耳が何のために残ってるんだろうね?
次回作は男娼が主人公で、客全員にガチ恋営業仕掛けて最終的に殺される話にでもしますかね