やはり短編かつ曇らせは需要の塊だったわけで、私の小説とも呼べない妄想もそのおこぼれを預かったのだと思います
心に思い付いた内容を勢いで書きだしてしまうのが癖なので、一つ一つの描写が薄いことはお許しください
2.3羽で終わると言っておいて書きたいことが多すぎてもう無理そう
4話はかかりそうだな
「おはよう、ベネちゃん!」
昨日までのオレの演技を修正し、アーネの真似をしていく。正確に言えば、彼女にとっての理想のアーネの姿だ。一緒に地獄まで堕ちてくる選択が当然であると思っていたころのアーネ像。
これまで会話が成立したことはなかったので、彼女はこの変化に気が付かないだろう。
彼女は大きなため息をつくと、
「またなの?いい加減にしないと……いえ」
と言い、読んでいた本を閉じて立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。彼女はオレの目の前で立ち止まると、こちらの眼をまっすぐと捉え、話しだす。
「あなたは私が他の子たちと馴染めてないから善意で話しかけているつもりなのでしょうけれど、はっきり言っていらぬお世話よ。私は誰とも関わりたくないの。わかったら二度と話しかけてこないで」
今までは無視するだけだったが、そろそろ我慢の限界だったのか直接文句を言ってきた。さて、アーネ、いや、彼女が理想とするアーネならなんと言うのだろう。彼女がかつてアーネに抱いていたであろう幻想ならどのような返答をするのか。
オレの答えは
「でも、ワタシはベネちゃんとお友達になりたいの!ベネちゃんにとっては迷惑かもしれないけど、いつかは一緒にお出かけとか!」
これだ。彼女にとっての理想はかなりの無理難題だが、我ながら完璧に演技で来たと思う。
彼女の理想には3つの理想が根底にあるとオレは推測した。
1つは自分の横を歩いてくれるアーネ。親友として存在するアーネ。
1つは太陽のようなアーネ。元来は内気である彼女を外に連れ出してくれる、いつも前にいるアーネ。
1つはいつも優しいアーネ。いつだって後ろから支え、温かさを感じさせてくれるアーネ。
この3つの理想の重ね合わせこそが彼女の理想だろう。理想が高すぎるだろ。
横に居つつも前にいて、その上後ろにもいてほしいとか生身の人間に求める内容じゃない。
だからその高すぎる理想と、普通の女の子である実態のギャップに参ってしまったのだろう。
だからオレは提供する。
その世間知らずともいえるその理想のすべてを兼ね備えた少女像を。
友達になりたいというオレ、迷惑を心配するオレ、遊びに行こうというオレ。
彼女のすべての理想をかなえる最善の一手であるはずだ。
その効果は如実に現れる。
「友達なんて……あなたに良いことを教えてあげる。どうせあなたを裏切るわ。」
勝った。
確信した。一見彼女はさっきまでと同様にオレを拒絶しているように見える。
しかし、さっきまでとは明らかに違う。
彼女の今の発言。
あなたを裏切る。あなたというのは当然オレだ。
つまり彼女の中での認識ではオレは裏切る側ではなく、裏切られる側であるというモノになったのだ。
裏切る側が現実のアーネ、裏切られるのは彼女自身と、
(理想のアーネだ。)
実際、彼女の眼は当初のキツイ、睨むようなものから期待する子犬のような目となっている。
語気だって柔らかいものとなっている。
これからの彼女との関係は大きくは変わらないだろう。一言話しかけたら、返事が一言帰ってくるようになるくらいだと思う。
劇的には変わらない。
だけど、その一言がオレにとっては大きな一歩で。
彼女にとっては致命的なものとなるのだ。
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「おはよう、ベネちゃん!」
「今日も朝から騒々しいわね、モル」
今朝も彼女に演技を入れながら挨拶する。
彼女の態度が軟化してから半年ほどが過ぎた。
最初のうちは挨拶を返すだけであったが、今では多少の会話は可能となった。良い兆候だ。
そこそこ仲が深まってきた今、次の計画に移行しようと思っている。
今のオレたちの関係は知り合い以上、友達未満と言ったところだろう。話し相手と言ったところだろうか。
友達と呼べる関係になるのは時間の問題だろうから、その後が重要だ。
しかし、それが難しい。俺には大体の曇らせ計画をもう組み立ててはいるが、おそらくその計画の中で一番難しいのがこのフェーズだろう。
それこそ……
(彼女のオレへの恋心を一から作り、それを育てることと同時進行で親友関係を目指す!)
彼女は友人関係、取り立てて親友というモノにトラウマがある。だからこそ、親友になるということは、ただそれだけで最高難易度となる。
そこにさらに恋心を一から育むというのだ。難しくないわけがない。
だが、それを成し遂げたのならば待っているのはお待ちかねの曇らせフェーズ。それも最上級の。
気張るしかない、今こそオレが命を懸ける時だ。
ここで重要になるのはあくまで水面下で恋心を育てることだ。自覚させてはいけない。自覚させるのは彼女自身がオレと親友であると思えるようになってからだ。
過去よりも理想的な相手との親友関係。友情こそ一番の宝であると再度思えるようになってから
恋心に気づいて必死に否定する彼女。やっとのことで手に入った理想的な関係性を、理想的なオレという存在を。
彼女の価値観では友情こそ至高で、恋愛感情なんて性欲からくる薄汚いモノ。
自身が毛嫌う恋愛感情で、やっとのことで手に入った友情を壊してしまうかもしれないと怯える彼女。
曇らせ開始のゴングとしては最高だろう。
さて、どうやって恋愛感情を作ろうか……。
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「今日は何読んでるの~?」
共用部屋で本を読んでいると、モルが後ろから抱き着きながらそんなことを聞いてきた。暑苦しくて邪魔ではあるが、いやではないのでそのまま返答する。
「新しく入ってきたミステリー小説よ。それで何か用?」
用なんてないことはここ半年の付き合いでわかってはいるが、一応聞いておく。
「なんでもないよ。ベネちゃんとお話ししたいから来たんだ~。でも読書中だから後でにしよっか?」
「別にかまわないわよ、あまり面白くはなかったし」
パタン、と本を閉じ、会話をする姿勢を取る。
「そういえば今度の町への買い出し、一緒に行かない?ベネちゃんとお出かけってしたことなかったからさ。……どう、かな?」
頭を横に倒しながら聞いてくる彼女の姿にNOとは言えず、そのまま了承の意を伝えた。
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「まずはお花屋さんにお供え用のお花を買いに行こう!」
私の手を握って前を歩く彼女の姿。アーネともこんな風に遊んだっけ、なんて考え、頭を振って別のことを考えようとする。
「ベネちゃんは好きなお花ってあるの?」
「私は、そうね。ポラーの花が好きね。あの青白くて高貴な雰囲気が好みなの」
ふんふん、と頷きながら
「ワタシはね~、やっぱりコロの花かな~。汚い環境であればあるだけ美しく咲き誇るお花ってなんだか素敵じゃない?」
とりとめもないことを話しながら2人で目的地へと向かう。
花屋にはたくさんの花があり、それだけで圧倒されてしまった。
「施設の人は好きな花を買ってきて良いって言ってたけど、今の季節だと何がいいかな?……あっ!すみませーん!」
彼女はお店の人のところまで走っていき、少し会話をするとまた戻ってきた。
「お店の人に聞いたらね、今の季節はコームの花とポラーの花がおすすめらしいの!せっかくだったらポラーの花にしない?」
「良いのだけれど、あなたのその行動力は凄まじいわね」
こんな私に何年も話かけ続けるなんてしてるくらいだもの。
2人でポラーの花の売り場に向かう。
「いやあ、言霊っていうのかねー、話しているモノって結構すぐ実生活に登場するよね~」
「おそらくそういう体験のみを強く記憶してるからそう感じるだけだと思うのだけれどっ……え?」
2人で売り場に向かった先には1人、見るからに仕立ての良い服を身にまとった人物が。
でもなぜ彼女がここに?
「アーネ?」
急に名を呼ばれ驚いたのか、彼女はこちらを振り向いた。
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「ベネちゃん?」
やっぱりアーネだ。昔に比べ背も伸び、少女から女性の体つきに成長してはいるが面影は確かに存在する。
「ベネちゃんのお友達?ワタシ以外にもいたんだ!驚いた、紹介してよ!」
隣に立つモルは興味津々なのかそう言ってくる。紹介と言われても
「別の店に行くわよモル」
そう言ってモルの手を掴んで外へと向かおうとする。得てして来た時とは真逆の構図だ。
「えっ、えっ、ええっ?!」
モルは何が何だかわかっていない様子だが、気にせず進む。
「待って!!」
後ろから大きな制止の声が聞こえる。
「何?」
思ったよりも低い声が出てしまった。モルを怖がらせてはいないだろうか。
「えっと、その。……久しぶりだね、ベネちゃん?元気にしてた?」
「そうね、二度と会うことはないと思っていたし、会いたくもなかったわ。体調は変わらずよ。……もういいかしら?暇じゃないの」
歩みを再開させようとすると
「ねえ、なんでなの?なんで楽しそうにいられるの?私は親友を売っても毎日怯える日々を送っているのに、なんでベネちゃんはさっきまで笑顔だったの?おかしいでしょ!あの地獄のような日々も一切恐れず、孤児になっても、友達に売られてもなんで平気でいるの?!不平等だよ!私は罪悪感でつぶされそうで未だに眠れない日もあるのに、あなたはなんでそんなに昔から強いの!?」
不平等、不平等と叫び続ける醜い元親友の姿。
私の中でかすかに残っていた優しい少女、アーネなんてそこには存在せず。
いたのは自分のことしか考えない売女だった。
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あのまますぐにアーネから離れた。
あんな俗物で、モルのような天使を汚染したくなかったからだ。アーネは偽物であった。小さかった私の眼ではわからなかったのだろう。
だが、成長した今の精神ならわかる。あんな偽物とは違う。
モルこそが本当の優しい少女なんだ。
その証拠に何も聞かず、寄り添うように隣に座る彼女からは温かみを感じた。
私の心が彼女で占められていくのを感じる。
隣に座る彼女の息使いを感じ、呼吸するたびに彼女のにおいが身体を満たす。
でも
(わかってしまった。欲にまみれて汚いのはアーネだけじゃない。……私もだ)
いつもは活発に動く彼女に対し、現在の大樹のように私に寄り添う姿のギャップに
単純ながら、恋に落ちてしまっていた。
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花屋に向かった日の夜、私は自室で自己嫌悪に陥っていた。
(あの子は純粋な友情で私といるのに……、私はこんな。こんな気持ちの悪い感情を彼女に抱いてしまっている。私を信頼して見せる油断した姿や、抱き着いてきた感触だけで興奮してしまう。……あの変態貴族と変わらないじゃない、今の私)
自己嫌悪で鬱になってしまいそうだ。深夜だからか暗い方向に考えすぎてしまう。
でも、
(もし。もしも、……モルと一緒になれたら。同じ家で生活して、一緒にご飯を食べて、同じベッドで寝て、それから……最低ね、私)
そもそもあの子は同性愛者ではないだろう。あそこまでくっついておきながら、一切その素振りがないのだから。どこかの本で性的欲求は抑えられないものだと書いてあった。どんなに嫌いな相手でも自身にとって魅力的であったら発情してしまうのが生き物の性だとか。
いつかはあの子は誰とも知らぬ男のもとに嫁いで、家庭を築くのだろうか。あの器量の良さだ、引く手数多だろう。あの子が赤ん坊を抱いている姿を見て私は正気でいられるだろうか。
でも、仕方がない。あの子と私は親友、それ以上を求めてはいけない。いつかはこの気持ちにも折り合いが付けられる時が来るのだろう。それまでは秘めておこう。
ある程度思考がまとまってきたと思ったら、今度は尿意が訪れた。
ベッドから立ち上がり、部屋をでる。ここからトイレは多少遠い。いくつか部屋を越えなければないのだ。
暗い廊下を進むと何かがきしむ音と、人の声らしきものが聞こえてきた。
3つ先の扉から光が少し洩れている。あの部屋で何かしらの作業をしているのだろうか。
無視してそのまま進みトイレに向かおうとすると
「可愛いよ、モル。ほら、もっと」
部屋から予想外の名前が聞こえてきた。彼女がそこにいるのだろうか。
いけないことだと思いながらもそろり、と音を出さないように部屋に近づく。
一歩一歩進むごとに部屋からなる音と声が鮮明になる。
私はこの音を知っている。
それは、そう。3年前のあの……
(まさか、嘘よ。……あのモルがまさか)
さらに進むと声の主が特定できる距離まで来た。
この鈴を転がしたような声は。
私がこの数年、一番耳にした声だから、嫌が応にもわかる。
この声の主はモルだ。
心臓はどんどん早くなり、冷や汗が出てきている。頭では必死に否定しているが、耳がこれはモルだと主張する。
とうとう部屋の前までついてしまった。
私の危機感が警鐘を鳴らしてくる。この部屋の中をのぞいたら戻ってこれない、と。
そんな警鐘とは無関係にどんどん扉の隙間に眼を寄せ、部屋をのぞく。
視界に映ったのは
赤髪の女と交わる、見たことのない顔をするあられもない彼女の姿であった。
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バタン、と部屋の戸を勢いよく閉じ、布団をかぶって何とか冷静になろうと努める。
頭の中ではなんで、だとかどうして、などの疑念が思い浮かぶがそれ以上に
(なんであの女なのよっ……)
なんてお門違いの怒りがわいてしまう。さっきまではあの子は同性を恋愛対象に字は見れないだろうという前提であったから何とか納得した。しかし、さっきの彼女は間違いなく同性と交わっていた。
それに
(あの顔、たしかマリエッタだったかしら?なんであの娘なの?)
心の奥底から嫉妬の感情が漏れ出てくる。
あぁ、なんて薄汚い。
あの子と仲が良かったのも、あの子が一番気にかけているのも私だったはず!
あんな汚い赤い髪に、私以下の顔に体つき、すべてにおいて私が上のはずなのに何であんなのが選ばれているのっ?!
わかっているんだ。あの子が見た目なんかで相手を選ばないなんてことは。それでも似た要素を持つ相手とだなんて、どうしても比べてしまい。私のほうが圧倒的に上と思ってしまう。
いつから私はこんな俗物になってしまったのだろう。
その晩は一睡もできなかった。
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計画通り、ベネにオレとマリエッタの情事を見せることに成功した。
本人は呆然として気づいていなかったが、オレは最中に彼女が入ったことをベッドの上から確認したので確実だ。
これで彼女の情緒もいい感じに煮詰まってきただろう。
今朝の彼女の顔はそれはもう真っ青であった。マリエッタの満足そうな顔を見てすごい目つきで睨んでいるあたりいい刺激になったはずだ。
マリエッタからの誘いに乗るようになって1週間。毎日相手するのは大変であったが、それだけの価値はあった。
今後も定期的にベネのSAN値を削るために利用させてもらおう。
さて、そろそろ大詰めだ。
本編裏話
どんな幼女もいつかは成熟した体に成長していく。
変態のアーネへの関心は日に日に減少しており、彼女はいつ捨てられるか不安になりながら体でつなぎとめようと必死になっている。
そんな健気な姿がその男の新しい性癖を刺激しているとも知らずに。