この場を借りて感謝の言葉を申し上げます
にしても痛い目を見ることが確定しているからか、モルのクズ行為をどんなに書いても心が痛まねぇな
そろそろ収穫の時期だ。
天高く、馬肥ゆる秋。曇らせにも豊穣のシーズンがやってきたのだ。
苦節4年ほどをかけ、しっかり情緒を混ぜ混ぜされたベネは今なら何しても曇ってくれるだろう。
友情と恋心に揺れている時に、思い人の情事を見せつけられた思春期の少女。NTRは純粋な子供の脳であればあるほど破壊するのだ。今回で言えば完全にBSSだが。
とりあえず朝は、何も知らないふりをしていつも通り話しかけよう。
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「おはよう、ベネちゃん!」
「……ええ、おはよう」
彼女はいつも通りの様子で私に話しかけてきた。そう、いつも通り。
もしかしたら。えぇ、もしかしたら彼女は無理矢理昨日襲われてしまったのではないか、だなんて希望的観測をしていたが、現実はそう甘くはない。
普段と変わらない彼女の姿から、自然にあの行為も普段のモノなのだろうと考えてしまう。
いつからだろう。
おはようと言いながら抱き着いてきた彼女の前夜も誰かに抱かれていたのだろうか。
私のことが好きと言ったその日の夜にも舌の根が乾かぬうちに、あの女に好きだとでもいったのだろうか。
こんなにあの子のことで私は頭が一杯だというのに、彼女は今夜も別の女に独占されるのだろうか。
嫌だ。嫌、嫌、嫌っ!
あの子の隣に立つのも、心を独占するのも、身体だってそうだ。
全部私のモノじゃないと嫌だ!
そう思っていても、彼女は現在、私ではなくあの女を選んでいる。
マリエッタ。赤い髪をした泥棒猫。
私の劣化品。
なんだあのくすんだ赤髪は。私の髪はあんな汚らしさもない赤なのだ。
なんだあの目つきは。きついだけではないか。顔なんてそこらにいる有象無象。私のソレには並ばない。彼女にとっては短所でも、私にとっては長所になるほどの差があるのに。
なんだあの体つきは。胸も尻も出てはいるが不均等。言ってしまえばバランスが悪い。私のモノを彫刻とするのならば、彼女のアレは土偶でしょう。
総論として、私のほうが彼女、モルには断然ふさわしい。
あんな十把一絡げの端女には似つかわしくない、分不相応の存在だ。
ならどうする?簡単な話だ。
私のほうが上なのならば、奪えばいいんだ。
すっぽんを取り除いてしまおう、月の横には太陽こそが似つかわしい。あの女では役者不足だ。
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それから私は彼女に密着するようになった。
生活する上でいつであっても隣にいる。朝の挨拶から付きっ切り、お休みまでずっとだ。
あの日からは彼女の部屋で寝ている。
毎晩だ。
部屋でたわいもない雑談をして消灯時間まで時間をつぶし、時間になったらベッドで隣り合って眠る。
『こんな時間に自分の部屋を抜けるだなんて、悪い子め~』
と彼女がこんな事を言ってきたときには、どの口が!と思いもしたが、それでも毎日が幸せであった。
一つを除いて。
「ねぇ、ベネ?」
距離を近づけようと思い、彼女にも呼び捨てをさせるようにした。『ベネちゃん』よりも『ベネ』の方が私の琴線に刺さったのだ。聞くたびに幸せを感じる。
話がそれた。
「またなの?」
彼女は最近、毎夜のように『マリエッタさんの部屋に呼ばれてるの。すぐ戻ってくるから』と言って、あの女の部屋に行こうとする。
その度に私は
「今日は遅いのだから、明日の昼にでも行きましょう?」
と言ってその場を凌ぐ。
こんな時間に部屋に来いなんて、指すことは一つだけだ。
単純にヤりたい、という訳でしょうね。サルかしら?いや、サルね。小汚くて、人のモノを奪おうとする存在なんてサルそのものでしょう。
彼女と過ごすようにしてから、一度だってあの女とモルを2人きりにしたことなんてない。性欲の抑えも効かなくなったのかしら?
ああ、モル気づいて。早く気づいてちょうだい。
あの女が日中に会話しようともせず、夜中にのみ呼び出すだなんて、あの女の目的はその身体だけなのよ。その美しい身体だけ。
本当にあなたを愛しているのは私であって、決してあの女なんかじゃないって。
早く気づいて。
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「……んあっ!……んっ!」
やけに隣が騒々しい。目をゆっくりと開くと隣には暗闇の中を激しく動く人影が。
(モル?こんな時間に何して……、っ!?)
違った。隣で激しく動くのはモルなんかではない。
急速に睡眠状態から覚醒していく。そこではじめて気づいた。私の体は縄で強く結ばれており、口は布か何かで塞がれている。
「ああ、起きたんだ」
激しい動作の主がこちらを向いた。
(マリエッタッ!!)
そこにいたのはあのトラウマの夜以降、決して近づけさせなかったあの女の姿であった。
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「そう睨まないでくれよ、毎夜のことながらキツイ女だな。モルを見習ったらどうだ。見なさい、この顔。快楽で蕩け切った表情に、うつろな目。日中活発に動き回るモルからは到底考えられないだろう?女の顔とはこうじゃなくてはな」
そう言って彼女はモルの顔をグイっと引っ張り寄せて見せびらかす。
「こんな顔、知らないでしょ?プラトニックラブ気取りなのか知らないけれど、この娘も君のこと、悪く思っていないんだからさっさと抱けばいいのに」
何を言っているんだ。モルが私のことを悪く思っていない?それって彼女は私のことが好きだったってこと?
そんな訳ない!モルは好きな相手がいるのに、他の人と性行為をするような人間ではない!
「君が考えていることはわかるよ、これで100回目くらいだからね」
100回目?何を言っているのだ?
「不思議そうだね?何度も同じ説明を繰り返すだなんて面倒だが、それ以上に最高に気持ち良いからね。毎晩欠かさず説明してる。今日もそろそろ始めようか」
そう言うと彼女は私の口から布を抜き取った。
「ネタ晴らし自体は簡単なものだ。これを見なよ」
そう言って彼女はモルの首元を指さす。
「隷属の輪……」
「そう。最初の晩は驚いたよ。普通に生活していては、まず知らないようなこの魔道具を知っているなんてね。モルは知らなかったしね」
私はあの変態が自身の奴隷に着用していたところを見たことがあるからわかるが、普通の生活を送ってきたモルにはわからない代物だろう。
「それを彼女の首に嵌めて無理矢理犯していたわけね!だから、あの子は夜中、出歩く私を咎めた!」
「それも正解。毎夜のことながら、頭が回るわね。話が早くて助かるわ」
「でもどこでそれを?」
一般には知られない魔道具、つまり入手も一般人では不可能なレベルの代物だ。こんな一孤児程度が持っていていいものでは無い。
「さぁ?ある時急に部屋の真ん中にあったのよ。ご丁寧に解説書付きでね。……最初はいたずらかと思ったけれど、適当な子に着けて試してみたらホントに何でも言うことを聞いたから驚いたわ。これも神の慈悲って言うヤツかしら?」
「そんな煩悩まみれな神、いるわけないじゃない。頭でも沸いているの?」
むっ、とした顔になった彼女は私の頬に張り手をした。
「そういうトコロも毎晩変わらないね、ほんと、タイプじゃないね」
こんな女のタイプになんてなりたくないわよ、こっちだって。
「まあ、いつもの君は、ここから先を聞いたら勝手に落ち込んでくれるから許してあげるさ」
本当に何を言っているのだ?気でも狂ったか?私が明日の朝にはこの女を検挙すれば一発でアウトだ。内心、ビビッて……
「私がモルを初めて犯した日はね、偶然、君の名前を呼びながら自慰行為に耽っている彼女を発見した日なのさ」
えっ?
「あの時の彼女は相当焦っていてね、言わないでおいてあげるから夜に部屋に来いって言ったら、二つ返事で頷いたんだ。数年前から狙っていたけど、どうやって手を出したものかと思っていたんだ。なかなか弱みを見せてくれないからね。それに、君が来てから彼女との接触する機会だって減ってきていたし、どうしたものかと思っていたら、これだよ。……やっぱり、神は私の味方だよ。邪魔だと思っていたあなたの存在が、一転してチャンスを作ってくれた。私相手には決して見せなかった弱みを、君が関わって恋愛感情をモルに抱かせることによって作ってくれた。……君には、感謝しているんだよ?とはいっても、遠慮なくその日のうちに彼女の処女は頂いたけど」
情報の波が私を襲う。
本当に彼女は前から私を思ってくれていて……、それこそ性的な対象として見てもいて……、彼女が付け入れられる要因を作ったのは私自身で……。
「うん、説明は大体終わったし、再開しようかな?……楽しんでくれ。今日は記念すべき100回目、仕込みはさっき終わったし、準備万全だ」
そこから始まったのは地獄だ。
目の前で思い人が犯される。
それだけでは終わらない。マリエッタが言っていた仕込みとは、単純な命令の刷り込みだ。
『腰抜けのベネよりも、マリエッタの方がいい!』
『ベネなんかもうどうでもいいから、お願いします!もっと激しく!!』
『ごめんね、ベネ……。でも、マリエッタさんの抱かれたら、もうほかの子のことなんて考えられないの!!」
モルの口から出てくる、無数の罵詈雑言。
全ての対象が私宛で、的確に心を抉ってくる。
どうでもいい人の罵倒なんて気にならない。
けれど、彼女の顔で、彼女の声で。
何時間も否定され続けた私は、無様にも泣き続けた。
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彼女らの行為が終わったのは、3時間後、いや、4時間後だろうか?
永遠にも感じられたその時間は、朝の到来が近づいてきたことによって終わりを迎えだした。
「ずっと泣き続けたから、目は真っ赤でパンパンだし、顔中汁まみれでホントに無様ね。いい気味、やっとあなたの吠え面が拝めたわ」
何かを言っている様子だが、一晩中泣いていた私の頭は纏まらず、何を言っているのか理解ができない。
「名残惜しいけれど、後片付けもあるし終わりにしましょうか」
彼女は、ベッドで痙攣し続けている彼女の首から首輪を取り外すと、それを手にしたままこちらに近寄ってきた。
「これで今晩の記憶を消されたあなたは、普段通りの気に食わないヤツに戻るって考えたら、もったいない気がするわね。100回記念だなんていわずに、今日の夜もやろうかしら?」
ああ。
一番の謎が解けた。
彼女が何時間も前から繰り返して言う100回目。
それは、その文字通り、私は通算100回、彼女らの行為を見せつけられてきたのだろう。
そして、最後にはその首輪で私の記憶を消して、日中は部屋にでも隠しておくのだろう。
私はこんな最低な夜を100回も繰り返しているのだ。
マリエッタの手がこちらに伸びてくる。
でももういいや。縄で身動き取れない私に何ができる。
そのまま首を差し出せば、こんな嫌な記憶を消してもらえるというのなら、むしろ自分から差し出すべきとさえ思える。
そして、自分から首を差し出そうと項垂れていた顔を持ち上げたとき。
モルの顔が目に映った。
(なにをしているの、私は!ここで諦めたらそれこそ、彼女が一晩罵った、意気地なしのベネじゃない!……好きな人がこんな目にあっているっていうのに、立ちあがれなくて何が恋だ!)
何か手段はないか、と周りを見渡す。
(あった!!)
都合のいいことに、自身の真横に銀の鋏が落ちている。
記憶を消されたベネは知りもしないことであるが、ベネの目の前で行為をマリエッタが行い始めた夜、偶然、ベネは部屋で鋏を使う作業を行っていた。
彼女は、マリエッタから真実を告げられた際、99回共通して失意の底に沈みはしたが、総じて最後は決断したのだ。
(今日の私には無理だが、いつかの私はきっと!!)
そうして毎夜の終わり、マリエッタが首輪をかけに来る瞬間に立ち直った彼女は血涙を流しそうなほどに身を焦がしながら、悟られぬように少しづつ鋏の場所を移動してきたのだ。
目の前のマリエッタにも、寝る前の自分にも気づかれぬ位置を何とか考案して動かし続けた。
そして100夜たった今、その鋏は彼女の手元まで届いたのだ。
ベネは迷わず鋏を拾うと、慣れた手つきで縄から脱出する。
縄で人を結ぶことになんて慣れているわけの無い普通の少女と、監禁された経験のある普通では無い少女。
その差がはっきりと出た瞬間であった。
バッ、と立ち上がり、そのまま油断したマリエッタの手にある隷属の輪を奪った。
「なっ?!」
驚愕している彼女を無視し、流れるような動作でマリエッタの首に巻き付け命令を言う。
「この輪について、そして今まで彼女を抱いてきたことに関係する記憶をすべて忘れなさい!」
命令は発動し、彼女の記憶を削除し始める。
急激な脳内情報の変化からか、目の前のマリエッタは白目をむきながらベッドに倒れ伏した。
フッ、と安心したのか体中の力が抜け、その場にへたり込む。
これで終わったのだ。
全て、私たちの邪魔を敵は消え去った。
今日の夜にでも告白しよう。
そんな新たな決意を胸に、私は気絶しているモルを抱えて体を洗いに行った。
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晴れて私とモルは正式に付き合うこととなった。
告白の返事は二つ返事で拍子抜けしたが、ついに念願がかなったのだ。
今ではどこでもいちゃつくバカップル。
数年前までの私ならば唾棄していたであろうモノだが、今の私は幸せだ。
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「ごめんね、ベネ。今日こそはって思ったけど。……明日こそ頑張るから」
そう言って落ち込むモルの姿。
恋人同士になった私たちは当然、そういう行為を行おうとしだすのも当然の流れであった。
彼女と手を結んだ日には感極まったし、キスをした日には思わず何度もおねだりしてしまった。
だが、私たちカップルはその次、性行為にまで発展できないでいたのだ。
理由は単純明快、トラウマだ。
私のではない、いや、少しはあるがそれ以上にモルの方が深刻であった。
100夜目の出来事を彼女は覚えているらしい。興奮しきっていたマリエッタは、彼女の記憶を消すことを忘れていたらしい。
一晩中犯され続け、言いたくもない私への罵声を言わされ続けた数時間は彼女の心に深い傷を残したのだ。
それならば、とマリエッタから押収した隷属の輪でその記憶を消さないかと提案したのだが、モルは
『ベネにだけつらい記憶を残させて、私だけ楽になんてなりたくない。……待ってて、いつかはきっと乗り越えるから。私を信じて!』
と言ったのだ。
私まで記憶を消してしまっては、隷属の輪のことを覚えている人は0となる。それはあまりにも危険だ。だから、私の記憶はそのままに、モルの記憶だけでも消さないか、と提案したら断られたのだ。
うれしかった。
辛いのは彼女の方だろうに、私のことを心配してくれる彼女のやさしさが純粋にうれしかった。
だからその提案を受け入れた。
その結果、
「気にしないで、モル。身体を重ねるだけが恋人じゃないわ。ゆっくり心の傷を癒していけばいいのよ。焦らないで」
付き合ってから2年、生殺しの状況が続いた。
口では小綺麗なことを言っている私だが、内心は残念に思ってしまう私がいる。
好きな人に覆いかぶさり、口元にキスを落とす。その後、互いに服を脱ぎだし、抱き着き今日はいけるかと質問すると彼女はやっぱり無理だと言い、互いに服を着なおして、横並びでそのまま寝ようとする。
そんな生活を続けているうちに、私も溜まってきている。
(ああ、今日も無理だった)
と彼女のことよりも、自身の性欲にまみれた思考をしてしまうことに自己嫌悪するようにもなりだした。
幸せな生活と言っても差し支えないのに、私はその点で不満足になってしまっている。
自分ながら、あさましい。
彼女は私のためにトラウマを克服しようと必死であるのに。
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そんな生活をしている時、彼女が急にトイレへと行った。
モルの部屋のベッドの上、一人ボーっとする。
暇を持て余した私は、よくないことだと思いつつもモルの部屋の探索を行いだす。
恋人同士になったこともあり、彼女の部屋には私の私物も置かれるようになったが、もとから彼女の部屋にあるものも存在する。
例えば部屋の隅の机。
全ての部屋に設置されている物だ。引き出しは2つあり、片方は鍵がなければ開けられないようになっているごく普通の代物だ。
孤児院近くの子供が大きくなった家庭の粗大ごみをリサイクルして知るのだとか。
何となしに、引き出しに手をかける。鍵がかかっているだろう、と考えたあたしは冗談のつもりで引き出しを引く。
「えっ?」
予想に反して、抵抗なく引き出しは開いた。中に入っていたのは、
「なにこれ、ノート?」
1冊の古びたノートであった。無地の表紙からは、何が書いてあるのか一切予測できない。
なんだか、嫌な予感がする。
まるで、このノートを開いたら、もう二度と戻れないようなそんな感覚。
しかし、好奇心には勝てなかった。これは彼女の日記で、自分のしらない彼女の一面が見れるのかもしれないと思ってしまったのだ。
ゴクリ、と唾をのみ意を決してページをめくる。
そこに記されてあったのは……
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トイレから戻ってきた俺は上機嫌でベッドに戻った。
ベネはもう寝ているのか、ベッドの上で微動だにしない。
ニへラ、と気持ちの悪い笑顔がこぼれる。
彼女を視界に収めると、あの晩の出来事を思い出す。
オレにひたすら罵倒され、絶望しきった表情。それを横目にしながら、マリエッタに犯されるオレ。
最高の体験であった。視界からは最高のオカズが常に提供され、自分から動かなくてもマリエッタが勝手に刺激してくれる。
あれ以上の自慰行為なんて、存在しえないだろう。
だが、メインディッシュはもう少し後だ。
ベネという作品は、最後、オレの死によって完成される。
だからとりあえず今は、それまでの舞台つくりの時間だ。
彼女の隣に横になったオレは、演技を始める。
あの日の出来事を夢に見て、うなされる演技を。
ベネが見るかどうかなんてわからないが、ずっとやり続けたらいつかは気づくだろう。
「……まさか、嘘でしょう?」
この時のオレは、最高の曇らせ顔に意識が向いており、隣から聞こえてきた声に一切気が付かなかった。
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時は満ちた。
本日、最後の計画を実行する。
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「待ちなさい、モル」
計画通り、彼女は部屋にやってきた。
オレは首吊り用のロープに手を掛けながら、振り向き話しだす。
「ごめんねベネ。ワタシ、もう耐えきれないの。毎晩思い出すの、あの嫌な記憶。ベネにだって酷い事、沢山言っちゃった。もう、ワタシ!」
オレの最後の曇らせは目の前での自殺だ。
彼女にとってオレは、言ってしまえば女神のようなものだ。そして彼女自身は敬虔な信徒。その女神が自殺をする理由の一端に、彼女を巻き込んだ。
そして目の前の彼女は当然、これからオレを説得しようと試みるだろう。
「あなたが死んだら私、どうすればいいのよ!あなたが、モルがいなきゃ私はっ!!」
ほら来た。
でも無駄だ。ここでの自殺は確定事項。変更はない。
「ごめんね、でも、やっぱりダメ。ベネならもっといい人が見つかるよ」
意識して今世最後にして、最高の笑顔を形作る。ここが重要だ。彼女の心を抉る最高の笑顔を。
「じゃあね、ベネ。……大好きだったよ」
そしてそのまま俺は首に縄を通し、宙に浮かんだ。
彼女は慌てながらも急速にオレの近くまで駆け寄り、何とか下ろそうとしている。
だが無駄だ。椅子は首を吊る瞬間に蹴り飛ばした。
椅子を取りに行ってからオレを下ろすなんてことは、縄を切り落とす道具でもなければ不可能だ。
ああ、高い位置だからよく見える。
彼女の、ベネの顔が。
最愛の少女の自殺を止められず、今にも息を引き取ろうとしているオレを見て最高に曇っている顔が……
は?
なんでだよ。なんでそんなに
笑顔なんだ?
さっきまでの慌てようはなりを潜め、落ち着いて椅子を設置した彼女は胸元から鋏を取り出し、縄を切り落とした。
ドサッ、と地面に堕ちるオレ。
さっきまでとは逆で、見下ろされている。
彼女の口元は三日月を思わせるほどに吊り上がっており、漠然とした恐怖を抱かせる。
「ゴホッ!!……ッオエッ!……ハーッ、ハーッ」
さっきまで首を吊っており、体を打ち付け、得体のしれない恐怖に襲われている今、呼吸はママならず、嗚咽と咳、そして過呼吸が合わさったような無様な姿をさらけ出していた。
「……何っ、で…ソレ」
彼女の右手に握られている銀色の鋏。
よく孤児院での事務で使うモノだ。
でも彼女が何で都合よくソンナモノをを持ている。
「ああ、コレ?……なんでって、あなたに死なれたら困るもの。ええ、困ってしまうでしょうね」
そう言いながら屈んでオレの眼をのぞき込むベネ。
ペチ、ペチ、と鋏でオレの頬を軽く叩きだす。
「あなたのノートを読んだわ、偶然だけれどね。いくら念願の目標が叶うからって浮かれすぎなのよあなた。鍵もかけ忘れるなんて、救いようのないアホね」
どうやら今までの行いはすべてバレているらしい。
「ハハッ、それで?お前の人生で遊んでいたオレを殺したいのか?ならさっさとやれよ。右手のソレで首をかき切ったら一発だろうが」
最後の最後で大やらかしをしたせいで不発になったが、これまでの分でも十分に楽しめた。納得は行かないが、甘んじて受け入れよう。
だが、いつまで待っていても攻撃はやってこない。
「あなたの素の姿ってそんな感じなのね。……はっきり言って」
オレの腹に左の拳を突き入れるベネ。
「カハッ!!」
「気持ち悪い。大嫌いねその話し方。自分勝手に物事を進めようとする考え方だとか、幼稚そのもの。……話を聞いてなかったの?最初に言ったわよね。死なれたら困るって」
「何を……言って」
そう言うと彼女は再度服の内側から何かを取り出した。
無骨な見た目の輪っか。それは奴隷、とりわけ犯罪奴隷にのみ使用される人権度外視の魔道具
「隷属の輪……」
ボソリとオレの口からその物体の名称が漏れ出た。
なんでソレを持っている。それは完璧に誰にも分からない場所に隠したはずだ。
「コレをハメれば一生私の言うことを聞くようになる。なんでも、ね。知ってるわよね、なんてったって、あなたのモノだったんだから」
「それをオレに嵌めて何を命令しようっていうんだ?これまでの腹いせに一生奴隷として仕えろって?」
「そんな訳ないじゃない、誰が好き好んでお前なんかをそばに置かなきゃいけないの。私の隣にいていいのはモルだけよ。あなたみたいなゴミでは無くね」
「お前、自分でモルはオレの演技だった。存在しない存在だって言っていたじゃないか?気でも狂ったか?」
「頭が悪いわね。そんなんだから計画も失敗するし、私のペットにされるのよ。……今からこれをハメて命令するのはね、あなたの自我の抹消と新たなモルという人格の再設定。いわば、一度中身を真っ白にしてからモルという存在を上書きするの」
バカな!そんな行い、輪のセーフティ機構が許さない!
あっ
あぁ、忘れていた。
セーフティ機構を取り去ったのはほかでもないオレだった。
記憶の消去なんて、セーフティ機構に邪魔されることが可能にしたのは。
紛れもない、オレ自身であった。
「嫌だ!それだけはやめてくれ!!」
さっきまで死のうと思っていた人間の発言とは思えぬような発言。
オレはさっきまでは彼女自身の手でオレ諸共、モルを殺させることができればまあいいと思っていた。
曇り顔は見れないが、それでも曇ってくれるだろう。
だが、彼女の今の提案は、オレだけを葬り、彼女自身は幸せになろうと言っているのだ。
そんなことは許せない。
「呆れた。ホントにどうしようもないクズね。自分は無念にも散って、私だけが幸福になることを受け入れたくないだなんて子供の癇癪と変わらないじゃない」
なんと言われようが嫌だ。オレの命が代償になるのなら、せめて地獄に堕ちてほしい。
我ながら最低だとも思うが、そんなのはどうでもいい。今わの際にそんなことに拘ってはいられない。
「頼む!なんだってする!どんなプレイだってやってやるし、好きなところを使ってくれてかまわない!好きなんだろ、モルが!なんだってできるんだぞ?いつも通りに演技して相手するから……頼む!それを使うなんて……俺だけを殺すなんて言わないでくれ!」
無様にも喚くが、彼女の瞳は凪いでいる。
「そんなこと、あなたを消した後でならいくらでもできるじゃない。交換条件にすらなっていないじゃない。やっぱり馬鹿ね。でも……」
スッと手が伸び、オレの頬を撫でる彼女。
「あなたの自我が残っている状態で演技をさせて私が楽しむ。……いい考えね、今までの溜飲も少しは下りそうだわ。」
「っなら!」
「ええ」
にっこりと彼女は微笑むと
ガチャン
「えっ?」
首にのしかかる確かな質量。
オレの首に首輪をかけたのだ。
「なんっ……、良い考えだって言って……」
賛成したはずじゃ?
「ええ、いい考えだったから採用させてもらったわ。……あなたの意識を残したままにして、屈辱を味わせるってところだけだけれど」
「あなたが私を満足させてくれている間は自我を消さないでいてあげる。こうすれば、今までは私への嫌がらせが目的だった演技が、私を喜ばせるためだけのものになり、私にすべての実権を握られ、機嫌を損なえば一秒先にでも自我が消されるという恐怖を抱く様になる。また、単純に気味よく仕返しができる。この3点で私は憂さ晴らしができる」
「よく覚えておくことね、あなたが満足のいく仕事ができなくなった瞬間。私はあなただけを殺す。後に残るのは、私とモルの幸せな家庭のみになる。私としては、どちらでも構わないけどね?演技のモルか、張りぼてのモルか?私が幸せならなんでもね」
ああ、失敗した。
この瞬間、オレの名誉も尊厳も何もかも。
全てが彼女のモノとなり、ただの奴隷に身を堕とした。
次回完結予定
これまではずっとモルがゲスかったので、次回はとことんいじめます
にしても曇らせ描写が足りない気がするのでそのうち追加しなきゃだな