やる気のないデュエリストはアカデミアに行く 作:衝動書きする人
「……はぁ」
学校を出てすぐだというのに、辺りには海猫が鳴いていて木の葉から音が聞こえてくる程度に潮風が吹いている。
入学式も終わり、各自解散ということになった。特段仲がよくなった子もいないし、ずっとあそこにいてもやることないからすぐに寮へ行くことにした。
「どーしてここに来ちゃったかなぁ……」
寮までの道中、デュエルアカデミアに入学してしまったことにため息を吐く。試験に合格し、受験失敗という名目で入学しないという選択肢が取れなくなってしまったのでこうしてこんな孤島まで来てしまった。
「まぁ、デュエルアカデミアは有名な学校だし、就職に有利になるって考えたらいいか」
デュエルアカデミア出身というだけで高校出てすぐに就職するという場合に有利だろうし、なんなら大学入学した後でもそれなりに有利に働くだろう。そう考えたらデュエルアカデミアに入学したことも悪くはないかもしれない。
とはいえ、最低限デュエルしないといけない状況であることには変わりはないのでそれはそれで面倒なのだが。
「ここが寮か」
10分前後歩いてたどり着いた寮は、まぁ、結構ボロボロだった。今すぐに崩れそうとかそういうのはないが、築何十年も経ってそうなボロさ加減は見て取れる。とはいえ外装がそうであるだけかもしれないし、この世界に来る前にボロいアパートに住んだ経験もある。そう思ったら別段悪くはないだろう。
階段を上がり、指定された部屋を開ける。中は3段ベッドにクローゼット、冷蔵庫、台所もある。トイレや風呂がないのを見るに共有なのかもしれないが、まぁそこは我慢しよう。
「……誰もいないな。まだ来ていないのか?」
部屋の中に人がいる様子はなかった。ベッドも使われているような形跡はなく、台所も最低限きれいではあるが使われた様子も見れない。入学するに先んじて送っておいた荷物も俺の分しか見て取れない辺りを見るに、もしかしたらこの部屋は俺だけなのかもしれない。
「とりあえず、カードを金庫に入れておくか」
クローゼット並、とは言わないが3段の棚1つ分はある金庫が2つ部屋の端に置いてある。これは俺が送っておいたものだ。世の中物騒なことにカードで盗みが結構あるので金庫を使っている。クローゼットも鍵がついているのだが安心しきることはできないのでクローゼットには枚数あるカードを入れて金庫には重要なデッキやカードを入れておく。
それなりの時間がかかったがカードを金庫とクローゼットに入れ終わり、今度は部屋に置いてあった設備を見てみる。まぁ使っている形跡がなかったこともあって冷蔵庫の中は何もなく、やかんや包丁などといった最低限の調理器具はある。
「とりあえず、お茶っ葉でも買いに行くか」
島ということで水道水は都会の水道水と比べてかなり飲みやすいが、それはそれとしてお茶が好きなのだ。別に高いものじゃなくても満足できる貧乏舌なので購買で売ってるお茶っ葉でも特に気にすることなく飲める。財布を持って購買へ行こうと外に出ると、隣のドアも同タイミングで開いた。
「あれ?」
「お、隣の人か?」
扉から出てきたのはおかっぱに近い頭の活発そうな少年と、気弱そうな水色の髪の少年だった。軽く手を上げて挨拶をすると向こうも人懐っこい笑みを浮かべて挨拶を返してくる。
「俺、遊城十代!十代でいいぜ!こっちは翔っていうんだ。えっと、お前の名前は?」
「加賀美蓮真だ。卒業までよろしく頼む」
「おうよ!よろしくな蓮真!」
十代は親指を立ててまぶしい笑みを浮かべる。興味本位で今から何かしに行くのか?と聞くと十代はこれから学園を散策するんだ、と楽しそうな笑みを浮かべている。一方翔は何かむず痒いと言わんばかりに難しい顔をしていたが、あっと何かに気づいたように声を上げた。
「アニキ!この人クロノス先生を倒した人だよ!」
「あぁ!あのインヴェルズとかいうデッキを使っていた!お前もオシリスレッドだったのか!」
翔の言葉に十代も思い出したかのように声を上げる。成績は普通ぐらいで目立つ要素はないと思っていたんだけど、やっぱり試験とはいえ実技担当最高責任者のクロノス教諭を倒したというのはやはり有名になるのか。
「成績も60番台なのに、どうしてオシリスレッドなんスか?」
「知らない。というか成績でオシリスレッドとか決まるのか?」
あまりにもやる気がなかったからこの学校の教育方針とかほとんど調べてない。せいぜいが寮で生活するということぐらいしか知らないからこの2人にいろいろと聞いてみると、どうも成績によって寮が変わってくるということらしい。オシリスレッドはレッドゾーンのレッドとか落ちこぼれ集団とか言われているらしい、ということも親切に教えてくれた。
なるほど。どういう基準で寮を決めているんだろうかと思っていたけどそういう感じなのか。まぁ最新の設備があると言っても複数人部屋であると思ってたから別に現状に文句はないし、卒業できるなら別に成績上位とか狙う気はないし至極どうでもいい。
というかオベリスクが一番上なのが海馬社長の趣味が如実に出てるな。確か神のランクとしてはラーが一番上なんじゃなかっただろうか。原作やアニメはほとんど見てない上に知っていることも有名なMADのことしか知らないからあやふやだが、まぁ紙の知識はそこそこあるし大丈夫だろう。
「なぁ、俺とデュエルしないか?」
自分と同じくクロノス教諭を倒したということもあってかデュエルの誘いをしてくる十代。クロノス教諭を倒したのだから実力自体はそれなりにあるだろうことはわかる。けどあんまりデュエルはしたくはない。
「悪いけど、あんまデュエルやる気ない」
「えぇ。いいじゃん、やろーぜー!」
デュエル大好きっ子なのか、やりたいと駄々こね始める。翔とやればいいじゃないかというと強い奴とデュエルしたいと言われたが、デュエルアカデミアに入学できた時点である程度の実力はあるだろうに。俺に話を振られた翔もアニキとデュエルするなんておこがましいだのと言いだす。
なんだかんだとやり取りをしているうちに、結局やる気のない奴とデュエルをやって楽しいのか、というと下唇を出してやっとあきらめた。
「そうだ。もしよかったら一緒にこの島探索しないか?」
買いたいものがあるから購買に用事があったし、デュエルでもないしどうせだから十代たちと一緒に散策してもいいだろう。後でもいいから購買に寄る時間が欲しいと伝えるとそれぐらい大丈夫だと笑顔で返される。
お互いに準備を終えた後で部屋を出ていたからそのまま寮を出る。十代が楽し気に話題を振り、それに俺が相槌を打つ。地元だといろいろとやったからか関わってこようとする子もいなかったから割と新鮮な感じはした。
「でも、オシリスレッドかぁ……」
寮の話になると元気そうにしていた翔は落ち込んだように肩を落とし始める。
「まだ引きずってるのか?」
「だってぇ……」
十代の元気づけようとする言葉に翔はまだ落ち込んでいる。話を聞いた限りオシリスレッドであることに劣等感を感じているようなのはわかるが、少なくともデュエルアカデミアに入学出来ている時点でそれなりに優秀ではないのか?とは思うんだけど。
「そんなに気にすることか?」
「でも、このままだと学校にいることもままならないことになるんじゃないかって……」
「まだ入学したばかりだろ!何も始まっちゃいない!今から頑張ればいいじゃないか!」
十代の言うことは間違っていない。成績が下位であるというのは仕方ないとして、現状はまだ学校に入ったばかりだ。いくら何でも1回失敗したら即退学なんてことになるはずもないし、なんなら昇格するチャンスはいくらでもあるのだ。ここで嘆いていてもどうしようもない。
というか基本的に高校で留年や退学になることは少ないだけで制度としてはどの学校にもあるのだし、ここがラインがある程度厳しいだけでやっていることは間違っていない。
「うん。そうだよね。これから頑張ればいいんだよね……!」
翔もそれを理解したのか、さっきとは打って変わってやる気を燃え上らせている。頑張りが完全に報われるとは言わないけど、デュエルアカデミアに入学出来ているんだからそれなりには結果は出るはずなんだから頑張ってもらいたい。
「ん?」
翔が燃え上っている中、十代は何かに気づいたかのように視線を逸らす。視線の先には校舎があり、何かを嗅いでいるかのように鼻を鳴らしていた。
「どうした?」
「向こうからデュエルの気配がする!」
「は?お、おい十代?」
突然わけのわからないことを言い出したかというと楽しそうな笑みを浮かべながら校舎の方へと走っていく。突然の行動に困惑を隠せない俺と翔はとりあえず十代を追いかけて十代と一緒に校舎の中に入る。
「匂う、匂うぞ~。デュエルの匂いがする!」
「デュエルの匂いってなんだよ」
十代の言葉に思わず呆れた突っ込みを出す。デュエル大好きっ子なのは寮でのやり取りで理解していたつもりだったが、まさかデュエルの後にバカが付くほどのものだとは思ってもいなかった。
「ここだ!ここからデュエルの匂いがする!」
そういって十代は待ちきれないと言わんばかりに駆けていく。どこに行くんだと呆れを感じつつ追いかけると、大きな部屋の中で十代が辺りを眺めているのが見えて文句でも言ってやろうかと部屋に入ると、太いケーブルが刺さっている楕円形に近い壇上のようなものが見える。
「デュエルフィールドか」
「すごい!しかも最新設備のデュエルフィールドだ!」
翔が興奮してデュエルフィールドの性能を語っているが、正直あまり興味はないので適当に相槌を打つ。それよりも十代が勘でここまでたどり着いたことに驚きが隠せない。デュエルバカも極まればここまでのことができるのか。
「よし!じゃあデュエルしようぜ!蓮真!」
「やりません」
「えぇ~!いいじゃんか~!」
最新設備のデュエルフィールドを見て興奮している十代はデュエルを誘ってくるが、俺はデュエルをやる気はないので拒否をする。さっきもやったやり取りを繰り返しているところに、嫌な笑みを浮かべている青い制服の男子が2人こちらに来た。
「残念ながらオシリスレッドのドロップアウトボーイが来る場所じゃないぞ」
「上を見てみろ。オベリスクの紋章が見えないか?」
そういわれて指さされたところを見ると、確かにそこにはオベリスクの巨神兵の顔を模ったエンブレムがあった。これをオベリスクブルー専用と主張するのも、まぁ、別にオベリスクブルーの施設があってもいいし否定もする気はないんだけど、最新設備を1つの寮にしか使わせないということがあるのかという疑問が湧く。
「ん~。なぁんかしっくりこないなぁ」
十代も同じ考えなのか難しそうな表情を浮かべている。正直言い合いをする気はないので適当に相槌を打って帰ろうかと思っていると、十代がいいこと思いついたと言わんばかりに笑みを浮かべる。
「あ、オベリスクブルー専用なら俺とデュエルやらないか?それなら問題ないだろ」
うん。まぁ、間違ってはいないとは思う。オベリスクブルーの施設を他の寮生が勝手に使うことがダメならオベリスクブルーの子が使っているのを一緒にするという発想は間違ってはいないと思う。けど、それも違うと思うぞ十代。
「……あっ!誰かと思ったら、お前ら入学試験の!」
「万丈目さん!こいつらクロノス教諭に勝った、110番と63番ですよ!」
十代の顔と、なぜか俺の顔を見て思い出したかのように声を出すオベリスクブルーの生徒。その声に応えてか観客席の方からセッティングに時間がかかりそうな髪型のオベリスクブルーの子が現れた。
「あ、俺、遊城十代。よろしく。んで、あいつは?」
「お前、万丈目さんを知らないのか!?中等部でも生え抜きの超エリート!」
「決闘王に近いと名高い、万丈目準様だ!」
称えるように、同時に自慢するように万丈目のことを説明するオベリスクブルーの2人。決闘王に近いと言われているのなら座学の方もデュエルの方の腕も優秀なのだろうけど、さすが高校生だなぁという感想が出てくる。確かに決闘王となった武藤遊戯は現役高校生という若さで決闘王になっていることを考えれば自分もなれると思ってもおかしくはないが、こうも真面目に決闘王が出てくるのを見ると若いっていいなぁと思ってしまう。
「う~ん。おかしいなぁ」
3人に生暖かい視線を送っている俺とは対照的に、十代はまた難しそうな表情を浮かべて唸っている。
「なにがだ?」
「決闘王って一番強い奴のことだろ?この学園で一番強いのは俺だから、その称号は俺にふさわしいはずだろ!」
十代の言葉を聞いたオベリスクブルーの2人は何を言ったのか理解できなかったのかポカンとしていたが、それも理解するとバカにしたかのような笑いを上げる。
「Be quiet。手を抜いていたとはいえ、仮にもクロノス教諭を破った男だ。その大口も叩けるだけの実力はあるだろうさ」
笑う2人を洒落た口調で落ち着かせ、十代の実力を認めるかのような物言いをする万丈目。てっきり2人と同じように笑い飛ばすかと思っていたのだが、多少の実力は認めている様子だったのは正直意外だった。
「もっとも、運だけでクロノス教諭を破った可能性の方が高いと思うがな」
「なら、試してみるか?」
挑発じみた言葉に乗るように、楽しそうな顔を隠そうともせずに十代は万丈目を見る。さっきは自分が一番だと言い切っていたが、1年生の中でも確実に上位に入る実力者とデュエルができることに、十代の表情に喜びが垣間見える。万丈目も負けるとは思っていないのか侮蔑を含んだ笑みを浮かべ、口を開こうとすると別の場所から声が響いた。
「あなたたち、何をしてるの?」
声のした方を見ると、思わぬ顔が見えて体が硬直する。警戒するかのような表情を浮かべている金色の長い髪をたなびかせた少女と、薄く笑った笑みで逆に表情がわからない薄紫色の髪を二つで括った少女がこちらに向かっていた。
「そろそろ寮で歓迎会が始まる時間よ。寮に戻った方がいいんじゃないの?」
天上院の言葉に万丈目は忌々しそうに舌打ちする。その後チラリと十代と俺を見るとオベリスクブルー2人を連れてデュエルフィールドから去っていった。
「あなたたち、万丈目くんの挑発には乗らないことね。あいつら、ろくでもない連中なんだから」
去っていった万丈目を追うように視線を送るが、その視線は非難の色が色濃く出ている。十代たちはのんきな返事を返していたが、俺は天上院の隣からくる視線に耐えられずにいた。
「忠告どうも。十代、翔。俺は購買行って帰るわ」
「え?もう行くのか蓮真?」
「蓮真くん?」
知り合いからの視線に耐えられなくなった俺は十代たちに一言伝えてそそくさとデュエルフィールドから退散する。それにつられてか、2人は俺を追いかけるように同じくデュエルフィールドから出てきたのを感じるのと同時に、デュエルフィールドが見えなくなるまで視線を感じてとても気まずい気持ちになっていた。
「……嫌われちゃったのかしら?」
3人が去っていくのを見送った少女、天上院明日香は少し傷ついたかのような表情を浮かべていた。十代と翔は好意的な態度であったのはわかったが、蓮真は居心地が悪そうにしているのは目に見えてわかった。自分の忠告が終わると用事を優先するかのように去っていったが、どう見ても居心地が悪かったが故に去っていったようにしか見えなかった。
「にしても、雪乃が一緒に行くって言うなんて珍しいこともあるのね」
明日香は視線をいまだに3人が去っていった方向に向けている少女、藤原雪乃へと向ける。明日香と藤原は中等部からの付き合いだ。雪乃は入学してからわずか数か月で3年生のほとんどに勝ったと噂され、さらにはあのカイザーこと丸藤亮にも勝ったとすら噂されていたほどだった。その噂を聞いた明日香はどんな修羅なのだと恐怖すら感じたが、授業で交流した際に自分と大きく変わらない少女だとわかり交流を深めていった。
交流を深めていくうちに、雪乃のデュエルの腕はすさまじいものであることがわかっていった。表情があまり変わらないこともあってか召喚が困難なはずの上級、最上級モンスターをいとも簡単に召喚して相手を蹂躙していく様は、帝王と名高い丸藤亮と対の存在である雪の女帝の名を持っている。明日香もオベリスクブルーの女王と呼ばれているが雪乃とのデュエルは今でも勝てるとは思いにくいほどの実力差があるとは感じているほどだ。
「えぇ。ちょっと見たい顔があったのよ」
そんな雪乃は3人が去った後を見つめながらデッキケースを触る。それは普段使っているデッキではなく、明日香が1度も使ったところを見たことがないデッキケースだった。
「変わってない、いえ、あの時から大きく変わったのね、蓮真」
カタカタとかすかに音を鳴らすデッキケースを慰めるかのように、雪乃はゆっくりとデッキケースをなでる。3人を、加賀美蓮真を追うように送る視線は懐かしくもあり、同時に悲しくもあるように天上院明日香は見えた。
ちなみになぜアニメを見てないのにリリースを生贄と言っているのかというと、リリースと言っても通じなかったので生贄で統一しているだけです。アニメでも生贄呼びしてますしね。