やる気のないデュエリストはアカデミアに行く 作:衝動書きする人
『ライトニング・ストーム』の効果説明を間違ってしまいました。デュエル過程に影響はないので説明文だけ変更しました。
ご指摘ありがとうございます。
教室の中は静かだった。教師を含む誰一人としてしゃべることはなく、ただペンが紙を書く音だけが教室内に響いていた。
今日は月に1回のテストの日だ。成績次第で寮の昇格、あるいは降格、下手をすれば退学すらもある大事な試験。とはいえ退学は滅多に起こるようなことはないので、重要なのは寮の昇降格という点だろう。
ただ、個人的にはこの試験に関して全くやる気がない。別に寮の昇格だの好成績だのに興味はない。現状に不満はあれど絶対に抜け出したいと思っているわけでもない。卒業後のことを考えてある程度の成績を取れればそれでいいと思っている。
とはいえ、不真面目にやってても真面目にやっている子に迷惑になるだけだから素直に受けてはいる。
30分が経過し、解答用紙にはあらかた記入し終えたころ。見直しして残った時間を解けていない問題に使おうかと問題用紙を見ていると後ろの方で十代の騒ぐ声が聞こえた。
そういえば、あいつ試験開始の時にいなかったな。騒いでいる内容からすると寝坊したようだが、だからと言って試験中に騒がないでほしい。
「やる気がないなら出ていけ!」
あまりにも十代が騒いでいて気が散ってくるからか、万丈目がキレた。周りも同じことを考えていたからか視界に映る範囲の子がうんうんと頷く。
その後、大徳寺教諭の注意と試験用紙を取りに来るように言われた十代は教卓まで移動して試験用紙を受け取り、そのまま席へと行く。やっと静かになったと思ったら、数分も経たずにいびきが試験会場に響き渡る。別に不真面目であってもいいと思っている俺ではあるが、これはさすがにイラ立ちを隠せそうにない。イラ立ちを吐き出すように深く息を吐いて、けど試験に集中する気力が失せてしまった。
結局、試験が終わってもいびきが聞こえていたから十代は寝たままだったのだろう。解答用紙が回収され、試験の終了がアナウンスされると同時に我先にと試験会場から飛び出していく子がほとんどの中、十代と翔は机にうつ伏せになっていた。
「あ、蓮真。試験どうだった?」
ラーイエローの子に起こされ、翔が試験結果が残念なことになると理解してか涙を流している中、十代が能天気な声を上げる。こいつの態度にもう1度深く息を吐き出し、思いっきり十代の頭を殴りつける。
「あべっ!」
「十代。試験中に騒ぐんじゃない。はっきり言うが迷惑でしかなかったし、万丈目の言う通りだったぞ」
「わ、わりぃ……」
イラ立ちを隠そうとせずに言ったからか、十代は殴られた箇所を押さえながらしょぼくれた声を出す。本当にわかってるんだろうなこいつ、と思いながらまたため息を吐くと、ふとラーイエローの子と目が合う。
「おっと。君とは初めましてだな。俺は三沢大地。よろしく頼む」
「加賀美蓮真だ。よろしく」
翔と十代と仲良さげなラーイエロー、三沢大地と差し出された手を握り、握手する。オシリスレッドと仲良くしようとするなんて珍しい子だ。オシリスレッドと関わろうとする子は少ないのに。
「あれ?みんなは?」
自分たち以外の子がみんないなくなっていることに気づいた翔は俺に聞くように視線を向ける。正直俺も何があるのか知らないので首を横に振ると三沢が答えてくれた。
「購買部さ。なんせ昼休みに新しいカードが大量入荷することになっているからな」
へぇ。新しいパック今日発売だったのか。道理であんな慌てふためいていたのか。正直新しいパックなんて中学に上がる前から剥いていないし、今回もかけらも興味はない。
「三沢くんは行かないの?」
「僕は今のデッキを信頼している。新しいカードなんか必要ない」
翔の質問に三沢は自信満々の様子で答える。
「アニキは?」
「俺は興味ある!どんな新しいカードがあるのか気になって仕方ねぇ!」
そういうや否や十代は翔を連れて購買部へ向かって走っていった。試験終了すぐに購買部ダッシュした子がほとんどなのに、すでに数分経っている今残っているとは思えないんだが、大丈夫だろうか。
「加賀美は買いに行かないのか?」
俺も十代たちと一緒に行くと思っていたのか、三沢は意外そうな声を上げる。
「興味ないからなぁ。というか、封入カード調べてもないのに買っても今の構築を考える暇もないだろうし、そもそも買ったところでデッキに入るカードが当たるとは思えないしな」
そもそもの話、この世界では封入されたカードの情報はほとんど出回らない。OCG環境であれば発売までの時間1日ごとに1枚カードの情報がSNSで出ていたし、発売前には一覧が出るのが当たり前だが、ここでは収録枚数が多いこととカードを提供する会社の数が多いこと、そしてパックを出す頻度が高いこともあって、単純に公式が情報を出すのに時間が足りないのだ。だから新弾パックの情報は有志がそれぞれのホームページで書いているのがほとんどなのだが、需要と供給が合っていない環境なので情報も虫食い状態だったりする。
まぁ、そもそもカードパワーが低すぎるからコレクション以外で買おうとは全く思ってないだけなのだが、ここで言うことでもないだろう。
「ふむ。君も僕と同じなのか」
三沢は俺の言葉に同志と感じたのか、にやりとした笑みを浮かべる。正直なところ新弾を欲しがらないデュエリストがいるのかと意外だったのと、自分のデッキに自信があると断言するのは雪乃以来だし、付け加えるなら今の環境ではどんなデッキが組みあがるのか気になる。
「三沢、よかったら一緒に昼食を食べないか?デッキ構築のことを話してみたい」
「別にいいぞ。俺も、君のデッキのことが気になっていたしな」
俺の提案に三沢は嫌な顔をすることなく、むしろウェルカムだと笑みを浮かべて承諾してくれる。それじゃあさっそくと三沢と一緒に食堂へ向かい、昼飯を食べながらお互いのデッキについて話す。意外と言えば失礼かもしれないが、三沢は理論的というか確率論に即した考え方を主としているようで話していてとても楽しいものだった。
デッキ構築について話しているうちに三沢の持っているデッキについても軽く触れることになった。どうやら三沢は6つの属性を主にしたデッキも構築しており、今はそれらとは全く別の7つめのデッキを作っているのだとか。1つのデッキにこだわることが普通なこの世界で多数のデッキを組んでいる子がいるとは思っていなかったから軽く驚きもした。
結局三沢とは実技試験開始時間ギリギリまで話していたおかげで慌てて会場に向かう羽目になったが、構築のことでここまで楽しく話をできたのも久しぶりだった。
「あ、おーい!蓮真!三沢!」
観覧席、まぁ座る場所はないから観覧所というべきか、にすでにいた十代が俺と三沢を見つけて大きく手を振る。しょうがないなぁと言わんばかりに首を横に振る三沢と一緒に十代のところに向かう。
「新しいパックは買えたのか?」
「いや、売り切れてた」
三沢の質問に十代は残念そうに首を横に振った。むしろあの状況で買えたのなら驚きしかないが。
「それで、蓮真と三沢が時間ギリギリなんて珍しいな」
「蓮真とデッキ構築のことで話してたら思いのほか盛り上がってね」
「へぇ。三沢くんとそういう話ができるなんて、蓮真くんはすごいんスね」
十代の疑問に三沢は何気ないような口調で答える。それを聞いて翔は感心したような声を上げる。まぁ、話と言ってもカードの詳細はあまり覚えていなかったから三沢から主軸となるカードを聞いてどういう構築へもっていくのかを話していただけだからそうすごいことでもないのだけど。
「オシリスレッドの加賀美蓮真くん。デュエルフィールドEまで来てください」
十代たちと何気ない会話をしていると、俺の名前がアナウンスされた。十代たちの応援を受けて指定されたデュエルフィールドへ向かうと、そこには予想とは違う生徒が立っていた。
「ふっふっふ。待ってたぞ、加賀美蓮真!」
そこにいたのは万丈目と一緒にいた眼鏡をかけたオベリスクブルーの生徒だった。
「先生、今日の試験は同じ寮生が相手になるんじゃないんですか?」
ちょうど近くにいたクロノス教諭に確認をするために声をかける。クロノス教諭は質問されることを想定していたのか特に表情を変えることなく答えをくれる。
「入学試験の実技試験での成績、そして授業態度等を鑑みて、オシリスレッドやラーイエローでは相手にならないと判断されたノーネ。ですので、こちらから相手を指定したのデース」
クロノス教諭の言葉に、俺って意外と評価されてるんだ、と場違いな感想が浮かんだ。翔からオシリスレッドの状況を聞いてからてっきり落ちこぼれ判定を受けていたものだと思っていたんだけど、意外とそうでもないのかね。
「ふん!オベリスクブルーの俺とのデュエルは怖いようだな!今ならサレンダーしても、オベリスクブルーに負けたことになるから問題ないぞ?」
やけに自信満々な様子のオベリスクブルーの生徒。よほど自分の実力に自信があるようで、その表情には驕りと侮蔑が感じられる。
「どうしますーノ、シニョール加賀美?サレンダーしますーノ?その場合今回の試験は負けということになりますが」
対して、クロノス教諭の目はどこか真剣味があった。こちらを試しているような様子は感じられない。何かを望んでいるような、期待しているような、そんな目で見ているような気がする。何を期待しているのかはさっぱりわからないが、俺の返答はこれだけだ。
「別にいいですよ。やります」
オベリスクブルーということはデッキレベルも高いのだろう。デッキの完成度は勝率に直結するのだからもしかしたら強いカードを使ってくるかもしれない。とはいえ、OCGに比べてこの世界のカードパワーは圧倒的に低いのだからどっちみち誰が相手だろうと大した差はないだろう。
クロノス教諭は俺の返答を聞いて軽く息を吐く。デュエルフィールドの外側へ離れ、審判するように中央に止まる。
「それでは、オシリスレッドの加賀美蓮真対、オベリスクブルーの取巻太陽!デュエル開始するノーネ!」
「デュエル!」「デュエル」
手札は、悪くない。先攻で動くデッキではないけど先攻でも耐えられる手札ではある。
「先攻は僕がもらう!ドロー!」
先攻は取巻が取る。先攻後攻の判定はデュエルディスクが行うシステムもあるし、今回も試験のルールとしてこのシステムを使うことを条件とすると明記してある。ちゃんとそれに則って先攻で行動しているんだけど、毎度言い方がもぎ取ったような感じなのがなぁ。
「『ブラッド・ヴォルス』を攻撃表示で召喚!」
ATK:1900
「カードを3枚伏せてターンエンド!」
手札:2枚
「ドロー。スタンバイ、メインフェイズ」
伏せが多いな。下級モンスター主体のメタビートの類か?となると、召喚に反応する罠か、攻撃に反応する罠か。しかし明らかになにか企んでますとニヤニヤと表情を浮かべているのはどうかと思うぞ。
「魔法カード『金満で謙虚な壺』を発動。融合デッキから3枚または6枚裏側で除外することで効果を発動。除外した枚数デッキトップを確認し、1枚を手札に加えて残りをデッキボトムに好きな順番で戻す。この効果で6枚裏側で除外してデッキトップから6枚確認する」
EXデッキから6枚ランダムに選んで除外ゾーンに置き、デッキから6枚を見る。オープンされたカード6枚のうち4枚が上級モンスターなこともあって思わず顔をしかめる。
「『強欲で金満な壺』を手札に加え、残りのカードをデッキボトムに戻す」
欲しいカードがなかったためにこのターン使えない『強欲で金満な壺』を手札に加える。できれば盤面を一掃できる『ライトニング・ストーム』が欲しかったが、まだ12枚しか掘ってないし来なくても仕方ない。それに、どうせデュエルスピードはとても遅いのだから悠長も許されるだろう。
「手札の『インヴェルズの魔細胞』の効果発動。自分フィールド上にモンスターが存在しないため、このモンスターを特殊召喚できる。『インヴェルズの魔細胞』を守備表示で特殊召喚」
DEF:0
「特殊召喚成功時、リバースカードオープン!『生贄封じの仮面』!これでお互いに生贄召喚はできない!」
取巻が自信満々にリバースしたのは、縁が刺々しく毒々しい色合いの仮面だった。
「はっはっはっ!どうだ!これでお前の得意な生贄召喚はできないぞ!」
なるほど。やけに自信満々だと思っていたが、生贄そのものをメタってきたのか。融合を使うデッキは増えつつあるとはいえ、生贄召喚するデッキはまだいることを考えたら採用しててもおかしくはないか。とはいえ、まだ『生贄封じの仮面』でよかった。この手札ならまだ時間は稼げる。
しかし、3積みしていると考えても初手で抱えることができているのは運がいいな。生贄召喚ができないとなると、やることも限られてくる。
「モンスターをセットし、ターンエンド」
手札:4枚
「はっはっはっ!この布陣に何もできないか!そりゃそうだよなぁ!お前の得意な戦法が意味を成していないもんなぁ!」
取巻は勝ちを確信しているのか嫌な笑みを浮かべて高笑いをする。まぁ確かに生贄召喚がメインのインヴェルズデッキに『生贄封じの仮面』を使われるとかなりキツイ。このデッキの半分以上の機能が止められているのと同義だからこのままだと負けてもおかしくはない。
まぁ、それでもOCG環境のように何回も妨害できるような布陣ではないから勝てる可能性は十分にあるからいいんだけど。
「僕のターン、ドロー!僕は『ヂェミナイ・エルフ』を召喚!」
ATK:1900
「バトル!『ヂェミナイ・エルフ』で『インヴェルズの魔細胞』、『ブラッド・ヴォルス』でセットモンスターに攻撃!」
『ヂェミナイ・エルフ』が二手に分かれて『インヴェルズの魔細胞』を挟み撃ちにして破壊し、『ブラッド・ヴォルス』は手の斧を裏側のカードへ振り下ろす。カードから現れたのは真っ黒な亀のようなモンスターで背中の甲羅で斧を受け止める。
DEF:1900
「セットされたモンスターは『インヴェルズの門番』。守備力1900なため破壊されない」
「ちぃ!運がいい奴め!僕はこれでターンエンド!」
手札:2枚
「俺のターン、ドロー。スタンバイ、メインフェイズに入り、手札の『強欲で金満な壺』を発動。このカードはメインフェイズ開始時のみ発動できる。融合デッキから3枚または6枚を裏側で除外し、除外したカード3枚につき1枚ドローする。この効果で6枚裏側で除外し、2枚ドローする」
伏せカードは、使わない。『金満で謙虚な壺』を使った時といい、ここで使わないということはドローを阻害するカードないし魔法、罠の発動を無効にするカードではないのか。
となるとあのセットカードは召喚反応か攻撃反応か。とはいえ、引いたカードはモンスターのみ。現状を打開するカードは引けずにいるから使われることはないだろう。
「モンスターをセットしてターンエンド」
手札:5枚
「僕のターン、ドロー!『メカ・ハンター』を召喚!さらに『ブラッド・ヴォルス』に『デーモンの斧』を装備!これでお前の命綱である守備力1900を大きく上回ってるぜ!」
ATK:1850
ATK:1900→2900
へぇ。『デーモンの斧』なんて持ってるのか。めちゃくちゃ高いカードなのによく持ってたな。
「『ブラッド・ヴォルス』で『インヴェルズの門番』を!『メカ・ハンター』でセットモンスターを攻撃!」
DEF:1200
「セットされたモンスターは『ヘルウェイ・パトロール』。戦闘破壊される」
「これでお前のフィールドにお前を守るモンスターはいない!『ヂェミナイ・エルフ』でダイレクトアタック!」
LP:4000→2100
「お前のフィールドにはモンスターはいない!セットカードもない!生贄召喚もできない!これでお前に勝機はない!」
確かにキツイことはキツイ。最上級モンスターと同じぐらいの攻撃力のモンスターがいて、下級モンスターも攻撃力が高い。伏せもちゃんとある。珍しくきちんとメタビートしてるデュエリストに出会ったな。
「メイン2に入るのか?それともバトルフェイズを続けるのか?」
「このままターンエンドだ!この状況で強がりもほどほどにしておきな!」
手札:1枚
「俺のターン、ドロー。スタンバイ、メインフェイズ」
引いたカードは、『闇の誘惑』か。これならまだ可能性があるか。これで『ライトニング・ストーム』が引けなかったら負けだな。
「手札から魔法カード『闇の誘惑』を発動。デッキから2枚ドローし、その後手札から闇属性モンスターを1体除外するか手札をすべて捨てる。この効果でカードを2枚ドロー」
……よし。やっと来たか。
「『闇の誘惑』の効果で手札の『インヴェルズの門番』を除外する」
この状況で『インヴェルズの門番』なんて持っていても意味はない。『闇の誘惑』の効果のコストで除外しても問題ない。
「お前、バカか!この状況で守備力の高いモンスターを除外するなんて、俺には勝てないと判断したのか!」
取巻が笑う。まぁ、確かにこの状況で守備力の高い下級モンスターは欲しいだろう。仮に『サイクロン』が来たのなら『デーモンの斧』を破壊して『インヴェルズの門番』をセットすれば1ターンはしのげる可能性は高い。なんなら『砂塵の大竜巻』はおろか『魔法除去』や『罠はずし』すらも現役なのだから引くとしたらそれしかないと判断しているんだろう。
「手札から魔法カード『ライトニング・ストーム』を発動。このカードは自分フィールドに表側のカードがない場合に発動できる」
「はっ!今更魔法を発動したって無駄だ!この布陣に勝てるはずがない!」
勝ちを確信しているのか取巻は高笑いをやめない。『ライトニング・ストーム』の効果を知らないのか。まぁ向こうでもそこそこ最近のカードだし、こっちになくてもしょうがないか。
「このカードは相手フィールド上の攻撃表示のモンスターをすべて、あるいは魔法・罠カードをすべて破壊する」
「はっ?」
『ライトニング・ストーム』の効果を聞いて信じられないと言わんばかりの表情を浮かべる取巻。
「俺は相手フィールド上の魔法・罠をすべて破壊する効果を適応する」
天井から雷が降り注ぎ、魔法、罠ゾーンのカードをすべて破壊した。破壊されたセットカードは、『炸裂装甲』と『スキルドレイン』か。出していたモンスターが全部高い攻撃力のバニラと良い、完全に使っているのはメタビートだな。
「な、なんだそのカードは!?『サンダーボルト』と『ハーピィの羽箒』の効果を合わせ持つカードだと!?」
取巻は『ライトニング・ストーム』の効果が信じられないと叫ぶ。ここでは『サンダーボルト』も『ハーピィの羽箒』も禁止に指定されている。そんな効果を内包しているんだから叫びたくなるパワーカードではあるのだろう。
とはいえ、発動条件がある分『サンダーボルト』や『ハーピィの羽箒』よりも使いにくい部分はある。盤面が五分五分だった時に使えない上に、永続系カードを使うデッキには入りにくいこともあって使いどころを考える必要があるカードだ。まぁ大抵は今回みたいにフィールドががら空きの時に使うのだからその制約もあってないものだし、関係ないか。
「自分フィールド上にモンスターが存在しないため、手札から『インヴェルズの魔細胞』を特殊召喚。『インヴェルズの魔細胞』を生贄に捧げ、『インヴェルズ・ギラファ』を生贄召喚」
ATK:2600
「『インヴェルズ・ギラファ』の効果。生贄召喚成功時、相手フィールド上のカードを墓地へ送り、1000ライフ回復する。この効果で『ブラッド・ヴォルス』を墓地へ送り、ライフを1000回復する」
LP:2100→3100
「バトル。『インヴェルズ・ギラファ』で『ヂェミナイ・エルフ』を攻撃」
LP:4000→3300
「ターンエンド」
手札:3枚
「くそっ!こんなはずじゃ……!僕のターン、ドロー!」
ドローしたカードを確認した取巻はいいカードが引けたのかニヤリと笑みを浮かべた。
「魔法カード『死者への手向け』!手札を1枚捨ててモンスターを破壊する!この効果で『インヴェルズ・ギラファ』を破壊する!」
『インヴェルズ・ギラファ』の体に包帯が巻き付きはじめ、全身を覆うと絞められているのか『インヴェルズ・ギラファ』が苦しそうな声を上げ、全身から骨が折れたような音が聞こえると同時に『インヴェルズ・ギラファ』が破壊される。
「『メカ・ハンター』でダイレクトアタック!」
LP:3100→1250
「これで僕はターンエンドだ!」
手札:0
「どうだ!他のインヴェルズ上級モンスターは『金満で謙虚な壺』でデッキ下に送られている!『インヴェルズ・ギラファ』も墓地にいる!高い守備力の『インヴェルズの門番』も墓地と除外されている!もう打つ手はないだろう!」
安心して驕っている様子の取巻。なんで手札も伏せもないのにあそこまで自信持てるんだろうか。俺の手札は次のドロー含めると4枚あるし、そもそもどうして『インヴェルズ・ギラファ』が1枚しかないと思っているんだろうか。
「俺のターン、ドロー。スタンバイ、メインフェイズ」
まぁ、確かにあれだけ引いたのに『インヴェルズ・ギラファ』は1枚しか引いていないから上級モンスターは手札にいないのは事実なんだけど。デッキの下の方に固まっているのだろう。
まぁ、そうであってもどうにでもなるんだけど。
「魔法カード『悪夢再び』を発動。墓地の守備力0の闇属性モンスターを2体手札に戻す。この効果で墓地の『インヴェルズ・ギラファ』と『インヴェルズの魔細胞』を手札に加える」
「へっ?」
『悪夢再び』の効果を聞いてポカンとした表情を浮かべる。手札もないし伏せカードもない。いるのはバニラモンスターの『メカ・ハンター』のみ。墓地で発動するカードもないし、好き勝手動かさせてもらおう。
「自分フィールド上にモンスターが存在しないため、手札から『インヴェルズの魔細胞』を特殊召喚する。『インヴェルズの魔細胞』を生贄に、『インヴェルズ・ギラファ』を生贄召喚」
ATK:2600
「『インヴェルズ・ギラファ』の生贄召喚成功時、相手フィールド上のカードを1枚墓地へ送り、ライフを1000回復する。『メカ・ハンター』を墓地へ送る」
LP:1250→2250
「な……あ……!?」
「墓地の『ヘルウェイ・パトロール』の効果発動。このモンスターを墓地から除外し、攻撃力2000以下のモンスターを手札から特殊召喚する。この効果で『インヴェルズの先鋭』を特殊召喚」
ATK:1850
「そんな、そんなバカな、こんなことがあってたまるか!」
取巻は狂ったように『インヴェルズ・ギラファ』を睨みつける。再利用するカードを採用してておかしいと言われても困るし、何ならデッキ堀るカード3枚も使ってるんだから握っててもおかしくないだろう。
「バトル。『インヴェルズの先鋭』、『インヴェルズ・ギラファ』で直接攻撃」
『インヴェルズの先鋭』が羽を羽ばたかせて取巻に突撃し、針を突き刺す。『インヴェルズ・ギラファ』の腕の砲口を取巻に向け、真っ黒なエネルギー弾のようなものを発射する。
「うわぁあああああああ!」
LP:3300→1450→0
「ありがとうございました」
久々に苦戦らしい苦戦をしたな。『生贄封じの仮面』なんてカード久々に見たし、なんなら使っているところを見たのは初めてなぐらいだ。なんせ、『生贄封じの仮面』はお互いの生贄を封じるから自分の上級モンスターも召喚できなくなるカードだ。カードプールは広く、しかし貧弱なこの環境下で生贄召喚ができなくなるのは低ステータスのモンスターで戦うことを強いられるから使われることは滅多にない。そういう意味では取巻のデッキは結構なデュエリストに刺さるだろう。
とはいえ、融合を使うデッキが増えてきていることもあって『生贄封じの仮面』はますます下火になっていくだろう。『生贄封じの仮面』メインだったデッキがこれからどんなメタデッキになっていくのか、少し興味はあるな。
「クロノス先生、本当に良かったのですか?」
ひと月目の試験が終わり、寮の変更通知も終えて一息つけると羽ペンを手にかつての教え子へ手紙を書いている最中、たまたまクロノスの部屋で仕事を行っていた教師が結果表を見てクロノスへ尋ねていた。
「何がデスーノ?」
「あなたを打ち破った63番、加賀美蓮真くんのことです。遊城十代くんとは違って成績も悪くない。今月の試験もオベリスクブルーの生徒相手に危なげなく勝利しています。彼ならラーイエローに入っていてもおかしくない、むしろラーイエローでないとおかしいと思うのですが」
教師は先日行われた試験結果が打ち出されている資料を手に、やや批判的な声色でクロノスに進言していた。というのも、先日の試験の結果で加賀美蓮真はラーイエローに昇格することはできず、オシリスレッドのままであるという決定が下されたのだ。
教師の指摘はおかしいものではなかった。もともと成績も中位クラスであり、さらに実技担当最高責任者であるクロノスを倒しているのだから入学時点でラーイエローに入っていてもおかしくはなかったのだ。それなのに加賀美蓮真がオシリスレッドにいるのは、偏にクロノスが進言したからだった。
「確かに、成績を見ればラーイエローに入っててもおかしくはないノーネ。基本的な知識はもちろん、詰めデュエルの成績も優秀。細かなケアレスミスが多いことが目立っていますが、それを加味しても優秀なデュエリストであるのは間違いないノーネ。デュエルを見ても、癖のあるカードをあそこまで扱えるデュエリストはそういないノーネ」
「でしたら……」
勘違いされがちだが、クロノスは生徒のことが嫌いなわけではない。努力している生徒は応援するし、努力に見合った成績が出れば我がことのように喜ぶ教師だ。クロノスがオシリスレッドの生徒を目の敵にしているのは、彼らが努力をすることもなくただ怠惰に学校にいることが原因だ。オシリスレッドにいても上を目指して努力しているのであればクロノスもちゃんとした評価をつける。ただそれをする生徒が長い年月オシリスレッドにはいなかったために、オシリスレッドの生徒を嫌っているのだ。
そういう意味では加賀美蓮真は評価に値する生徒だ。授業も真面目に受け、提出物も期限を守っている。期限が過ぎてしまいそうになれば教師に報告するし、その時に宣言した日までにちゃんと提出もする。そういう意味ではクロノスの願っているあるべき生徒の姿ともいえるだろう。
「しかーし、あの目だけはいただけないノーネ」
だが、それを鑑みてもなおクロノスは加賀美蓮真をラーイエローへ昇格させる気はなかった。
「目、ですか?」
教師は不思議そうな表情を浮かべて加賀美蓮真の目を思い出そうとする。教師からすれば特に問題があるようには思えない。クロノスには彼の目から邪気のようなものでも感じたのだろうか。その疑問を感じ取ったのか、クロノスは違うノーネ、と言いながら首を横に振った。
「彼の目に悪いものがあったわけではないノーネ。問題を起こすような考えを持っている生徒ではないのは保証するノーネ」
「でしたら、いったい何が気になるのですか?」
教師の質問に、クロノスは答えるべきかわずかに悩んだ。今いる教師はまだ教師としての経験が浅い。デュエリストとしては教師にふさわしいものではあるが、まだ荒波に揉まれている最中であるため自分の感じ取っているものを感じられないのだろう。
それをわかったうえで伝えるべきか。これを伝えてしまったら彼に偏見を持つのではないか。そんな不安が生じたが、しかしここにいるのは栄えあるデュエルアカデミアの教師。そういうことはしないと判断し、加賀美蓮真から感じている、いや、感じていないことを口にする。
「熱意のない目。情熱のない目。彼の目からはデュエリストから感じるはずの熱を感じられないノーネ」
クロノスの言葉を聞いた教師はその言葉の意味を理解しようとし、しかしどういうことなのか想像できないのか首をかしげる。その様子にまだまだ青二才なノーネ、と苦笑を浮かべながらクロノスは口を開く。
「本来デュエルというのは魂のぶつかり合いともいえるものなノーネ。そこには多少なりとも自分の意思、つまりデュエルへの意気込みや感情が混ざるのが普通なノーネ」
通常デュエルを行えば勝ちたい、負けたくない、楽しみたいなどと言った感情が見え隠れするものだ。デュエリストのデュエルはまさにその感情のぶつかり合いであり、そのぶつかり合いが熱意を育み、熱意が緊張感を張り、そして緊張感から感動を与えるのだ。
「彼は相手をちゃんと見てるノーネ。卑怯なことをすることもなく、堂々としてデュエルを行っているノーネ。こういうといいデュエリストに聞こえるかもしれませんが、実態はただデュエルを行っているだけの機械と何ら変わりはないノーネ。淡々とデュエルを行い、粛々と結果を出す。あの目は相手を見ているようで何も映してはいない、デュエルしている相手を全く意識していない目なノーネ」
あの手の目を見るのは随分と久しぶりなノーネ。クロノス教諭の脳裏に、かつてデュエリストとして活動していた時にデュエルした相手に1人だけそういう目をしたデュエリストがいた。こちらに興味を持たず、ただ淡々とデュエルをするだけ。こちらを倒そうという気概もなく、惰性でデュエルをするだけの機械になり果てたデュエリストもどき。こちらをバカにしているのかと怒りを燃やしたが、その実力はとんでもないものだった。クロノスの全力をもってしても絶対に勝てるという盤面はできず、むしろ終始劣勢だった。そのデュエルは切り札を召喚することでギリギリ勝利を得ることができたが、それでも相手の目はデュエルの熱を帯びることはなかった。
結局、そのデュエリストは高い勝率を誇りつつも電撃引退を行い、今ではその名前を知る者はほとんどいない。噂では犯罪に走って留置所に入れられているとの噂もあるが、クロノスは事実を知ろうとは思わなかった。
「あれは何かに諦めている目なノーネ。デュエルアカデミアで活躍できないと諦観したものではない、デュエルそのものを見限ったような目なノーネ」
そこに関してだけはドロップアウトボーイの方がマシなノーネ、とクロノスは十代を思い出してか忌々し気に呟く。
今回加賀美蓮真にオベリスクブルーの生徒を相手させたのは、入学試験の時に打ち破られた鬱憤を晴らそうとしたわけではない。いや、まったくないと言えばウソになるが、加賀美蓮真に対抗できる生徒はオベリスクブルーの生徒しかいないと断定できるほどの実力があるからだ。だからこそ最新のカードをふんだんに使用したデッキを与え、加賀美蓮真を相手にするようにオベリスクブルーの生徒に言ったのだ。まだ実力が近い相手にデュエルをすれば熱意を感じるようになると思っていたのだが、結果はダメだった。
「彼が何を諦めているのか、それは私にもわからないノーネ。しかしあの目をやめるまでは、デュエルに熱意を見せるようになるまでは私は彼を昇進させる気はないノーネ」
受験生と油断していた時とは違い、今なら生徒相手に見せるべきではない切り札を使ってでもデュエルをすれば熱意を持てるかもしれない。今回の試験結果による寮の昇降についてはデュエルアカデミアとしてはやってはいけないことである。教師のさじ加減で昇降を決められる、平等性に欠ける事案であり外に漏れてしまえばバッシングもあり得ることだ。それはクロノスも自覚していることである。
しかし、それでも彼の目に熱意が宿らなかったなら、もしこのまま昇格してしまったら最後、デュエルに絶望して彼のように取り返しのつかないことになる可能性が高い。それはデュエリストとしての、そして教師としての経験がそう言っている。
加賀美蓮真の将来がどうなるかはわからない。しかし、例外を作ってでも、彼の将来のためにもここは引き留めておく必要があると。クロノスは厳しい表情を浮かべてそう言い切ったのだった。