吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い   作:美味しいラムネ

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お久しぶりです。初投稿です。






吾輩はアトラル・カ。キリンの馬刺しって美味しいのであろうか?

 

 

 

 

 

 

砕けた氷の破片が舞う。

 

「ピギャアアアアアア(2対1は卑怯だろ!お前ら(ワイバーン)相手に(ドラゴン)が本気出してるんじゃないよ!)」

 

 

「──────────────!」

 

キリン亜種が嘶くと、女王の足元目掛けて巨大な氷柱が突き出す。

それをドボルベルクのハンマーで破壊した直後、その隙を狙って雷速の突進が女王を穿つ。

 

2体の幻獣と女王が、月下の元、死の舞踏を繰り広げる。

どこからともなく吹き荒れ始めた吹雪はその強さを増してゆく。

 

どことなく剣に似た形状の氷が空から降り注ぎ、竜骨と黒鉄の剣がそれを迎え撃つ。

氷を受け止めれば雷が、雷を受け止めれば氷が。

絶対零度と致死の雷が、文字通り一切の休む暇もなく女王へ降り注ぐ。

 

糸に引かれた大剣の群れが、矢のように放たれ、雷の壁に弾き飛ばされる。

 

ライゼクスの人形と、ジンオウガの人形が雷をその身体で受け止め、果敢にキリンへ襲い掛かろうとするが、その体は絶対零度の冷気に当てられ、一瞬で制御を失ってしまう。

 

一体であればどうとでもできた。しかし、属性の異なる二体が同時である、そのことが事態を悪化させる。

 

 

仮に吾輩があの『バルファルク』や『猛り爆ぜるブラキディオス』であったのならば、その圧倒的な肉体能力に物を言わせて、連携など何するものぞ、と貫けたのかもしれない。しかし、残念なことに吾輩の肉体はそこまで強くはない。

どれだけ武装を揃えようと、知恵を身につけようとも、強敵たちの外殻を纏おうと、彼らのその圧倒的なパワーが手に入るわけではない。

 

(いや、吾輩にはひとつだけ手がないわけではない…が、二体一の現状で()()を切って、どちらか一方でも倒しきれなければいよいよどうしようも無くなる…)

 

知恵は時に種族の絶対的な差を上回る。それを吾輩は散々経験してきた。

大丈夫。やる事は今までと変わらない。

 

「ピギャアアアアアア(さぁ、古龍ども。吾輩の『狩り』を見せてやろうじゃないか!)」

 

よし、じゃあ…一狩り行こうぜ!

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

吾輩である。いきなり古龍の番に襲われた吾輩である。綱渡りではあるがなんとか生きている。なんかこう、最近、世界が吾輩を殺そうとしているんじゃないかと思うのである。

振り返ってみると、この世界で目覚めてから、キリン夫婦、臨界ブラキ、師匠、バルファルク、吾輩の同族と、レイドボスみたいな奴らと出会い過ぎではないか?クシャとネロにも歩いてたら出会ったし、実は古龍って珍しくないのか…?そんな訳があってたまるか。仮にそうなら今の文明は一瞬で滅びるわ。いくらハンターが肉体的に屈強だからといって、アマツが穀倉地帯に陣取って、ヴァルハザクが水源に陣取って…とやられたら終わりである。

 

ギャリギャリと、吾輩の身体を隠す盾の表面が削れる。

機関銃もかくやと言った速度で放たれた氷の礫が、フルクライト-コスモライト合金の盾を削り取る。

 

脆い氷も、古龍に使わせればこれだけの威力になるのか…というかこんな攻撃してきたっけ、キリン亜種。間違いない。これ吾輩の攻撃方法学習されているな。

大雑把に放っていた冷気は、より殺意の強い形状へ。露出していた柔らかい肉体は、より硬い氷の装甲へ。

あくまで落雷の操作に過ぎなかった雷は、己を加速させる加速器へ。

 

前回の戦いの時、ふと思ったことがある。

この番、キリンと比べてキリン亜種はひょっとすると戦闘能力が低いのではないか、と。

実際、前回逃げようとした吾輩に限界まで喰らい付いてきたのはキリン原種の方であるし、再び見えた今回、キリンの方は吾輩じゃ絶対に追いきれない絶望的な速度を提げてきたのに対して、キリン亜種が用意してきたのは、氷の鎧という、多少頑張れば貫ける防御手段のみ。

何度か仕掛けたフェイントにも、引っかかる回数がキリン亜種の方が多かった。いや、それはただ単にフェイントに引っかかったところで大したダメージを受ける事はないと理解していたからなのかもしれないが。

 

しかし、キリン亜種の脅威度は、徐々に上がりつつある。

時間をかけるのは不味いな。

キリン亜種。原種と比べれば驚異度は低かったのであるが…だんだん動きが洗練されつつあるな。吾輩の手に負えなくなる前に、何処かで仕留めなければ、吾輩は確実に死ぬ。

 

瞬間、視界からキリンの姿が消える。

それと同時に、全身を十六発の衝撃が打ち据える。

 

「ピギャアアアアアア(ぐ…あぁ!糞が!瞬間移動してるんじゃないよナルガ希少種じゃないんだから!)」

 

またこれだ。

通常時のキリンの動きは、なんとか目で追い切れる。しかし最高速まで加速されると、吾輩では全く追いきれない。

連続で使ってこないのがまだ救いであるな。

 

「ピギャアアアアアア(ま、それでもそもそも通常時も速すぎてほとんど吾輩の攻撃当たらないのであるがな!)」

 

せめて一対一の状況を作り出したい。

ならばどうするか。簡単なことだ。対処できるうちに、弱い方から潰す!

 

『トラップツール』という素材アイテムがある。

各種罠系アイテムの素材になる便利なアイテムであるが…特にすごいのは、ある程度柔らかい地面であれば一瞬で大型モンスターが埋まるだけの穴を掘れる謎の掘削技術である。分解してみたが仕組みは本当によくわからない。頑張っていくつか技術を応用したアイテムを作れるようにはなったが。そして、その素材から作った『落とし穴』それがここにざっと100個近くある。もちろん、改造によって穴を掘る力は何倍にも増しているよ。まぁその所為で捕獲用の罠、としての性能は落ちているが。

ハンターは持ち込み数に制限があるが、吾輩には関係が無いからな。この場で100個全部使い切るつもりだ。

 

なんとかキリンたちの猛攻を捌きつつ、無理やり作った隙の中で、落とし穴を大量に地面にばら撒く。

『古龍は罠にかからない』なるほど、それは常識だ。彼らは知能が高すぎて罠を避けてしまうし、『生態に不明な点が多く、捕獲が困難である』というのも罠が無効化される理由だ。だから、吾輩の行動は一見無意味。

 

実際、キリンたちは吾輩の置いた罠を全部避け、或いは雷で破壊している。

しかし、だ。幾ら古龍でも、落とし穴によって空いた穴、それ自体は無効化できないだろう。浮遊しているわけでもないんだし。

地面に穴が空き、足場が少なくなれば自然と取れる軌道も減ってゆく。まぁ、それは吾輩にとっても同じことなんだがな。

 

そうやって、キリンたちの機動力を削ぐ、それが目的…そんな訳があると思うか?

 

落とし穴に隠されるようにして、複数設置された、吾輩オリジナルの罠。

捉えるためではなく、殺すために作られたトラップ。

 

殺すのならば、弱い方から。

まずは相手の、数の利を削ぐ。

 

吹雪は激しさを増す。身を裂くような冷気が、刃となって女王の盾を刻む。

貴女の目には、私しか映らない。私の目には、貴女達しか映らない。不埒な観察者は空の向こうに消えた。

 

ならば、吾輩も本当の切り札を出そう。思う存分殺し合おう。

 

「ピギャアアアアアア(覚蟲強化ッ!)」

 

外装の四脚に踏みつけられた地面から雪煙が上がる。雷速に追いつくことは諦めた。無理に追うのではない。相手の行動を理解し、パターンを組み上げ、未来予知にも近い予測で回避する。

多少の被弾は想定内。致命傷になりそうな攻撃だけ避ければ良い。

大砲から榴弾が放たれ、四方八方から打ち上げタル爆弾を撃ち出す。

 

火薬の匂いがあたりに満ちる。

 

ぼろぼろと、砂の落ちる音が聞こえた。

白い幻獣が角を振り下ろすと同時に、その軌跡をなぞる様に雷が放たれる。それをジンオウガ型の盾で受け止める。僅かな遅延(ディレイ)の後に、黒い幻獣の後ろ蹴りが吾輩の身体を僅かに後退させる。…これでも数トンの重さはあるんだけどな、吾輩の外装。

反撃として振り下ろした撃龍槍は、空を切る。先端に付着した粘菌が、地面を揺らす。

 

そして、後方へ飛び退いたキリンが地面に接地した瞬間、轟音と爆発が大気を揺らした。

 

やっとかかったぞ!トラップツールを応用して作った兵器、『対龍地雷』。踏んだ時点でアウトなタイプの地雷で、その爆発の威力は、大タル爆弾G八発分に相当する!

幾ら素早いお前でも、動き出しの前に発動した攻撃は避けられまい!普段なら、幾ら小さいとはいえこんなちゃちなブービートラップにかかる訳ないだろうが、鉄と火薬の匂いで麻痺した鼻じゃ気づけなかったか!

 

流石に足を吹き飛ばすことはできなかったが、転倒したキリンを金色の糸で絡めとり、吾輩は飛ぶ。

それと同時に、無事だったキリン亜種が吾輩目掛けて血相を変えて突進する。

 

あぁ、そうだよな。流石に番を守ろうとするよな。まぁ、でも我輩の狙いはお前の方なんだけどな!

キリン亜種の突進を盾で受け止め、あえてその衝撃に逆らわずにそのまま吹き飛ばされる。

 

この瞬間、吾輩だけが少し遠くに、そしてキリンと吾輩に挟まれるようにしてキリン亜種がいる、という位置関係になった訳だ。

 

 

ヒィィィィィィィィ………ンッ!

 

キリン亜種は思いっきり地面を踏みしめ、そのまま半ば飛ぶようにして、女王目掛けて駆け出す。

キリン亜種が吠える。彼は、この瞬間で決め切ろうとした。「速く決着をつければ、自分の番はこの後も生き延びることができるかもしれない」という焦りもあったのかもしれない。ラージャンを喰らう中で、力を増してゆく反面、寿命を削っていた番への想い故の焦りだ。

 

それが裏目に出た。

 

 

♦︎

 

なんとか金色の糸を外し、なんとか起きあがろうとするキリン目掛けて、天から一本の大剣が落ちてくる。

なんとか脳天への直撃は避けたが、純白の体に一筋の切り傷が刻まれる。

 

そして、()()()()()()()()()()から放たれた小規模な爆発が、とどめになったのだろう。

限度を超えた数の落とし穴により緩んでいた地盤に、幾度となく降り注いだ衝撃、そして数トンの重さが高速で上で飛び回る戦闘が負荷を与え続けていた。

この瞬間、地面は限界を迎えた。

 

 

崩落する地面に巻き込まれながら、キリンは考える。

この大剣は一体どこからきたのか…ッ!

 

─── 糸に引かれた大剣の群れが、矢のように放たれ、雷の壁に弾き飛ばされる。───

 

あの時か。

他の大剣の殆どは消し炭になっていたのに、何本かは消えず、そのまま吹き飛んでいた。

糸でそれを空中で待機させていたのか!

 

地面が崩壊する。

土煙が、女王を覆い隠す。

 

 

キリンが「やられた」と苦々しげに吠える。

吹き飛ばされた女王は、崩落する圏内から既に離脱済み。

そして女王目掛けて駆け出したキリン亜種は、踏むべき足場を失い、不安定な瓦礫を踏むことになる。

なんとか転ばないで済んだが、後ろに下がれば間違いなく体勢を立て直す間に番は殺される。故にキリン亜種は止まれない。

 

もう止まれない。止まるわけにはいかない。

半分も加速しきれていない状態だが、もはや後には引けないと、絶対零度の冷気を放ちながらキリン亜種が突進する。

土煙が晴れた瞬間、キリン亜種が驚愕する。

 

伝説が、舞い降りた。

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

出し惜しみはなしだ。黒龍外装、一番火力の出るこれで一撃で仕留める!

 

「ピギャアアアアアア(そんなボロボロの体幹で、吾輩を殺せると思ったか!)」

 

キリン亜種が吾輩とぶつかるその瞬間、一瞬を見極めろ。ここを逃せば二度とチャンスはやってこない。コンマ1秒。盾を繰る糸に、全神経を集中しろ。

漏れ出る冷気に当てられた地面が凍りつく。蹄が礫を踏みつける振動を感じる。まだだ、まだだ…今だッ!

 

大楯と頭部がぶつかり合い、鐘の音のような、重厚な音が鳴り響く。

キリン亜種の決死の突進は盾に弾かれ、幻獣は体勢を崩す。

 

 

ぐしゃり

 

 

 

肉を貫き、腑を撃龍槍がズタズタに引き裂く。古龍の血が溢れる。

 

 

「ピギャア(パリィからの内臓攻撃は狩人の基本だよ、キリン亜種)」

 

 

心臓を潰した。

なんとか死に体の状態ながらもキリンの元まで亜種は後退し、最後の力を振り絞って金色の糸を引き裂き、そのまま絶命する。

その行動を吾輩は止めることはできなかった。キリン亜種のはなった絶対零度空間。それは一瞬ではあるが吾輩の身体を凍りつけ、行動を封じてきた。

身を捩り、全身を覆っていた薄氷を砕く。

血でできた道を辿れば、その先にはじっと佇むキリンがいた。

 

 

起き上がったキリンは、少し哀しそうな眼でキリン亜種の屍を見る。

そして、そっと。持ち主が死してなお輝く角に口づけをし、それを砕き、飲み込んだ。

 

 

吾輩は、立ち止まっているキリン目掛けて、滅竜砲による砲撃を放つ。

何をしているのかはわからない。わからないが…不味い、とにかく不味い。あれを目覚めさせては駄目だ。

放たれた砲撃の後を追うようにして、吾輩はキリン目掛けて突進する。

 

 

瞬間、視界が一瞬暗転する。

 

 

 

「ピギャアアアアアア(ぁ…があああ!?)」

 

突如として、全身に灼熱に焼かれたかのような感触が走る。

あの一瞬、吾輩の心臓は止まっていた。口内に忍ばせていた気合のカタマリがなければそのまま死んでいた。

一瞬何が起きたかは分からなかったが、理解する。灼熱の砲弾を避けるでもなく、撃ち破ったキリンは、そのままの勢いで吾輩に突進。

だが…黒龍外装を貫くほどの力は無かった筈。

 

「ピギャアアアアアア(がっ!クッソ、どこにいる、キリン!)」

 

吾輩死んじゃうって!偶々盾に当たってくれたおかげで今度は防げたけど、まるで見えねえ…っ!

何かが高速で飛び回り、吾輩にぶつかっている音だけが聞こえる。全身が痛い。キリンとも、キリン亜種とも違う。赤い軌跡だけが見える。

苦し紛れに振るった尾が、偶々()()に当たったおかげで、漸くキリンの姿を捉えることができた。

 

純白の体毛には、うっすらと黒のラインが入り、その角は捻れ、2本の角が絡み合うようにして一本の太い角になっている。

あぁ、そうか。亜種の角を喰らって力を増したのか。いやナルハタタヒメじゃないんだから!

 

無理に二属性分の力を取り込んだ反動だろうか。

うちに秘められたエネルギーが漏れ出るようにして表皮は弾け、血が吹き出す。それを埋めるようにして冷気が傷跡を覆い隠す。

 

 

「ピギャアアアアアア(キリン…まさかお前、ここで吾輩と心中するつもりか!?)」

 

 

吾輩にぶつかるたびに、鮮血が吹き出す。

死ぬのが怖くないのか。そこまで吾輩を想うか、殺したいか!吾輩死んじゃうって!

 

キリンの影に、亜種の姿が重なって見える。

 

劫火で焼き払おうにも、一か八かアトラル・ネセトを吹きとばした砲撃を放とうにも、溜めの隙がない。

それに、当たるわけもない。地雷の爆発すら突破しながら走り抜ける走力を得たキリン相手に溜めのある攻撃が当たるわけがない。

肉弾戦。攻撃が吾輩に命中した直後へのカウンター。吾輩に命中した直後だけ、一瞬速度が弱まる。それでも音速を超えて衝撃波が出るぐらいには速いから、今の黒龍外装ですら追いつけない。

 

あまりにも強い衝撃に、外装に守られているはずの我輩の体が軋む。

落雷を放ってこないのは、落雷を操る器官がいかれたからか?

 

今のままでは追いつけない。ならばどうする。簡単なことだ。現状を越えればいい。

バルファルクの竜機装と、炉心を直列に接続する。臨界点まで溜まったエネルギーを、砲撃として放つのではなく、外装の内部で循環させる。黒龍の姿が、赤熱し、紅蓮に染まる。

出来るとは思っていた。

制限時間付きの出力解放。もって3分と言ったところか。それを越えれば、超過加熱で外装自体が機能を失うだろう。

デメリット付きの強化は浪漫だろう?この3分だけ、吾輩は最強になれる。この瞬間で、全てを終わらせる…!

 

あぁ、熱い。漏れ出る熱が、体に走る高圧の電圧が。胸の高鳴りが抑えられない。気分が高揚する。

戦うのが好き、って訳じゃないんだけどな。吾輩は死にたくない。それでも、この高揚は本物だ。

 

 

 

生物が許容できる量を超えたエネルギーは、紅き雷となってその体から漏れ出る。

()()の誕生を祝福するように、吹雪が晴れる。満月が何かに覆い隠され、空にポッカリと穴が開く。皆既月食の下、冷気が白い綺羅星のように舞い散る。

さぁ、最期の時(ラストダンス)は私と踊りましょう?退屈なんてさせないんだから…

 

差し出された手を取り、女王は答える。

雷に焼かれ、極炎の地と化した大地に女王は立つ。最期の招待状を破り捨て、吐き捨てるように叫ぶ。

 

ここで果てるのはお前だけだ。

 

終焉は未だ来ず。

祖へ近づいた幻獣は、甘き終焉を歓喜の内に迎え、紅へ近づいた女王はそれを否定する。

 

ヒィィィィィィン!/「ピギャアアアアアア(さぁかかってこい、キリン/アトラル・カっ!)」

 

 

何度も、何度もキリンの突進が身体を打ち据える。

360°、あらゆる場所からの衝撃を、翼を繰り、盾を繰り、全身を使って何とか防ぐ。

 

残り一分。

前脚の振り下ろしが、僅かにキリンの身体を掠める。その代償に、黒龍の右翼が吹き飛ぶ。

 

捉えろ、相手の姿を。目に頼るな。気配を探れ。五感の全てを研ぎ澄まし、幻獣へ追いつけ。千里眼の薬で拡張された認知能力の糸を伸ばし、一瞬を、刹那より短い一瞬を手繰り寄せる。

 

残り三十秒。

足音から軌道を理解する。

 

 

感覚でわかる。残り十秒。

心臓を狙った一撃。あぁ、

 

──捉えたッ

 

キリンを抱きしめる。あぁ、やっと捕まえたぞ!

残り一秒。そして──抱きとめていた黒龍外装の右半身が半壊し、吾輩の右鎌が千切れ、吹き飛ぶ。緑色の体液が吹き出す。

 

終わった。

力を失い、元の黒に外装の色が戻る。今の吾輩ではもうキリンを捕らえることは出来ない。

 

否。

 

まだ終わりじゃない、何も終わってなんかいない!

 

 

外装を脱ぎ捨て、裸になった吾輩は、左腕でキリンの首をホールドし、四つ脚で絡みつく。吾輩ごと、アイアンソードでキリンを貫き、身体を縫い付ける。

そしてキリンの角目掛けて、思いっきり噛み付いた。

 

「ヒィィィィィィン!?」

 

吾輩から逃れようと、キリンは必死にもがく。全身から紅雷を迸らせ、吾輩を吹き飛ばそうとする。

高圧の電流で傷が解け、右腕からの出血が止まる。

雷が全身を震わせる。

 

金剛身、鉄鋼身。おまけに今の吾輩の護石は防御特化だ!

絶対に離さない。このまま角を砕く。ここでエネルギーを操ってるんだろう?だったらここを壊せばお前はもう戦えまい!

ここから先は我慢比べだ、言っておくが、吾輩は相当タフだぞ!

 

女王を振り払おうと放った雷は、アイアンソードを伝い、キリン自身さえ傷つける。

互いに傷つきながら、お互いはお互いの意地をぶつけ合う。

『死んでも殺す』『絶対に生き残る』

 

角がミシミシと軋む。

 

半ば絶叫のような雷が、絶対零度の冷気が互いの身体を蹂躙する。

声にならない叫び声をあげ、女王は込める力を強める。

 

 

「──────────── (こんなところで、死んでたまるか!)」

 

 

 

角が折れた。

 

 

 

「ピギャアアアアアア(あ、まって勢い余って飲み込んじゃっ…痛い痛い痛い!雷は吾輩の弱点ひゃああ!)」

 

無理やり属性を制御していた器官が吹き飛び、暴走したエネルギーがキリンを蹂躙した。

同時に、膨大な雷属性のエネルギーに蹂躙された女王の体が吹き飛ぶ。

 

何とか起き上がった両者は、共に最初の力強さは無く、あまりにも弱々しい。しかし尚も闘志は衰えず。

 

キリンが駆ける。

正真正銘生涯最期の一撃。属性すら纏わなくなったそれを迎え撃つは、隻腕の女王。

 

──絶対回避《臨戦》!

 

スレスレで攻撃を避けた女王は、金色の糸の腕でディノバルドの剣尾をただ全力で振り下ろす。

キリンの体が、縦に両断される。

 

満足げな表情を浮かべ、幻獣は倒れ伏す。

 

(あぁ、生き残った。吾輩の、吾輩の勝ち…だ…)

 

意識が朦朧としてきた。

何とか起き上がらなければ。このまま吾輩も死んだら世話がない。

 

あぁ、どこからか飛竜の羽ばたきが聞こえる。

 

 

 

暗転する意識の中、最後に目に映ったのは、白だった。

少女の笑い声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!


またしばらくお休みします。
ネタ自体はあるのに続きを書く時間がないのが歯がゆい……掲示板ネタもやってみたいし。もしこの世界に掲示板(一部研究員専用)があったら、みたいな。「この蟲やべえぞ殺せ」がメインになりそうですが


兵器解説:黒龍外装(出力解放)

本来なら砲撃として外部に放出するべき龍気のエネルギーをそのまま体内で循環させた状態。
三分も経てば炉心がオーバーヒートして動かなくなる。強化状態の間、外装の表面は紅蓮に染まる。

ちなみにギリギリ黒龍外装は人間たちに見られずに済んだ。もっと不味いものは見られたけど。



連載へ変更しました。

次の番外編で使うかもしれない(エイプリルフールでつかうかも)

  • 掲示板if②
  • 擬人化if
  • vsアルバトリオン
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