吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い 作:美味しいラムネ
前話の大体一年後の話。
雷を纏いし白き幻獣が嘶くと、瓦礫を纏いし女王へ雨のように雷が降り注ぐ。
木々が薙ぎ倒され、地面は抉れ、広場のようになった密林の中心。
地面には何十もの武具が突き刺さり、辺りには折れ曲がった鉄骨や、瓦礫が散乱している。
「ピギャァアアアッ!!」
アトラル・カは、装甲に取り付けられた三門の大砲と速射砲から弾丸を放ちつつ、瓦礫を雪崩の如く解き放つ。
同時に、金色の糸に操られた3体の人形が、その手に持った太刀、双剣、ハンマーで幻獣へ果敢に襲いかかる。
凡百の
神々しさまで感じる幻想的な龍、人間から『キリン』と呼ばれるそれは、一際強く嘶くと、天から下ろした雷を束ね、迫り来る瓦礫目掛けて叩きつける。
解き放たれた雷のエネルギーは、瞬く間に辺りを蹂躙し、瓦礫の全ては悉く灰と化し、古代の武具に身を包んでいたはずの人形は、その体を保てなくなり、崩壊する。
「ピギャァアアア!」
隙を見せたな、と言わんばかりに、大技を放った後の一瞬の硬直に合わせて、女王『アトラル・カ』は、ドボルベルクの死体を加工して作った小山かと見紛うほどの大きさのハンマーを投擲する。
「────!」
その類稀なる身体能力を生かし、無理やりそれを避けようとするが、足が絡まり、体勢を崩してしまう。
キリンは気づく。いつの間にやら、自身の足には何重にも金色の糸が巻き付けられていた。
いつやられた、そう思案し、気づく。
ついさっきだ。自身が放った豪雷。あの光に紛れるようにして奴は私の足に糸を絡めたのだ。
流石の古龍といえども、あの攻撃を喰らえば流石に軽傷では済まない。
キリンは死を覚悟し、アトラル・カは勝利を確信した。
しかし、決着は訪れなかった。
世界が霜に包まれる。
地面より突き出した氷の柱。それがドボルベルクの軌道を逸らしたのだ。
蹄を鳴らしながら現れたのは、キリンの純白の毛皮とは対照的な、漆黒の毛皮を持つ幻獣。
冷気を操る古龍『キリン亜種』。
彼は、キリンの身を気遣うそぶりを見せながら、自身の能力で生み出した冷気を、アトラル・カ目掛けて解き放った────
♦︎
自身を無敵だと勘違いした転生者の寿命は短い。
どうやら、吾輩は少し調子に乗ってしまっていたようだ。
「ピギャァアアア!(畜生、まだ5分も経ってないのにもうナルガクルガ人形とナルガクルガ亜種人形壊されやがった!まだキリンから逃れてないのに!)」
目の前にいる2体の幻獣。
殺意を漲らせたその瞳に睨まれ、思わず意識が遠くなる。
あぁ、これが走馬灯というものか……
この世界で目覚め、はや一年。前世では得難い多くの体験をしてきた。
拾った肉焼きセットでモンハンプレイヤーなら一度はしてみたい肉焼きをしたし、マグロの中のマグロと呼ばれるキングカジキの一本釣りもした。
火山へ行って、バサルモスと一緒に鉱物の食べ比べをしたし、世界各地で発掘武器の収集もした。廃墟から兵器を拝借したりもした。
時には大型モンスターと戦うこともあった。
そして、その全てに勝利を収めてきた。空はリオレウス、海はラギアクルス。火山へ行けばブラキディオスと殴り合い、果ては古龍級生物であるラージャンにさえ勝利を収めた。その時には初代外装を破壊されてしまったが。
ハンターと出会うこともなく、順調に旅を出来ていたからだろうか、「なんだ、大自然って実は大したことが無いのだろうか…?」などと思い始めていた矢先のことである。
吾輩は突然大自然の洗礼を食らった。
なんかやけに静電気がパチパチするな、それにやけに寒いな、密林の中のはずなのに。そう思った時にさっさと逃げるべきだったのである。
嫌な予感がして立ち止まった瞬間、視界の外からいきなり古龍がダイナミックエントリーしてきた。
キリンである。古龍である。ふざけんな。
いくらなんでもあんまりでは無いか!?一生に一度出会えたら幸運とさえ呼ばれるほどの超希少生物である古龍、それが散歩中にいきなりダイナミックエントリーしてくるとかどんな確率だよ!
とはいえ所詮はキリン。ラージャンのおやつにされる古龍の面汚し風情に負けるわけがない。
そう思っていた時期が私にもありました。
いやぁ、流石は古龍。滅茶苦茶に強い。どう考えてもラージャンがおやつにできる強さでは無い。間違いなく今まで出会ってきた存在の中で最強である。
まず、兵器による攻撃が当たらん。速射砲の弾幕による飽和攻撃ですらまともに当たらん。十丁の鬼ヶ島による弾幕射撃も発砲したのを見てから避けられるし、大砲による範囲攻撃も軽快なステップで避けられる。誰だケルビステップとかいったの、こんなケルビがいてたまるか。
とはいえ、機動力なら吾輩も負けてはいない。大樹に糸を引っ掛け、超高速での立体軌道により、キリンのスピードに追いすがりつつ、なんとか攻撃を与え続けた。
「これならいけるのでは?」と思った次の瞬間、奴はとんでも無いことをしやがった。
周囲の木々を片っ端から破壊しやがったのである。畜生め、機動力を封じて来やがった、流石は古龍、知能が高い!
またもや振り出しに戻されたのである。また攻撃が当たらなくなってしまった。
とはいえ、攻撃が当たらない相手は想定済み。ナルガクルガとの戦闘で既に吾輩は学んでいる。
防御力に特化した外装、『バサルモス型装甲』の中にこもり、その中からひたすら全方位射撃を続け、近寄らせなければいいだけである。
初めは上手くいきそうであった。だめだった。相手が着地した瞬間を狙って全方位射撃を繰り返すことで徐々にダメージを蓄積させることはできた。しかし、何発も雷を喰らううちに、ジンオウガの超帯電攻撃さえ防ぎ切った外装が崩れ始めたのを見て「あ、これ死ぬ奴だ」と思い脱出した瞬間、外装が爆散したのを見て「次は我が身か」と思い知らされた。なんだよこの威力、実はコラボ先から活性源石でも持ち込んでないか?
あの雷を耐えられる素材はこの世界に存在するのだろうか。
何故フルフルの皮を貫通する。何故コスモライト鉱石の装甲を溶かす。
しかもだ、途中でキリン『亜種』まで乱入して来やがった。確実に世界が吾輩を殺しにかかっている。
何故原種と亜種が番を成している。何故古龍が2体もこの場所にいる。
なんとかモンスターの死骸の肉を全て金糸に置き換えたお手製のモンスター人形を使うことで亜種を引き剥がすことには成功したが、大分厳しい。脳の数割はモンスター人形の操作に割かれるし、なんならキリンは怒り状態へ移行してもう手がつけられない。
ここは虎の子のハンター人形、それも数個しか手に入らなかった『封じられし装備』産の装備をきた手持ち最強の駒を使うしか…!
あっだめだぁ、弓使いが一瞬でやられた。
そんなこんなで冒頭に至るのである。
♦︎
「ピィ…(どうしたものか…)」
大氷柱による攻撃と、降り注ぐ豪雷を、瓦礫を束ねて作った盾で受け止める。
古龍の攻撃を何発も受け止めたことで、盾にはヒビが入り、今にも砕け散りそうだ。
己の全てを出し切ってなお、まだ届かない。
白と黒の幻獣は、たとえ苦戦しようとも、吾輩に負けるとは微塵も思っていない様子だ。
そう、それは正しい。
吾輩はまだ一切の傷を負っておらず、それに対して目の前の古龍の身には致命傷には程遠いとはいえ、傷が刻まれている。一見吾輩が有利に見えるな。
しかし、吾輩の手札は次々と消費されていくのに対し、傷を与える速度はあまりにも遅い。
仮に外装が完全に破壊されれば生身の吾輩など、一撃だろう。
それに対して、目の前の幻獣はどうだ。現に、数回だけ攻撃を直撃させたが、まだ倒れる様子はない。それどころか、戦闘が続くにつれて攻撃が当たらなくなってゆく。
これが俺流のエリアルスタイルだ、と言わんばかりに飛びかかった双剣持ちの人形は撃墜され、受け流しを狙った太刀持ちの人形は破壊される。
アオアシラ人形の連撃と、ランス持ちの人形の挟撃はキリン亜種の肉体にわずかな傷を刻んだが、勿論致命傷には程遠く、逃げる隙を作ることすら叶わない。
「ピギャァアアア!!!」
破れかぶれになったかのように、熱を放ったディノバルドの尾剣を回転切りの要領で振るう。
当たり前のようにそれらは飛んで避けられ、反撃として放たれた雷が盾を貫く。
あたりもしないのに、無数の武器や、小石のような塊を辺りにばら撒く。
先の尖った石柱を放ち、鉄骨を投げつける。
まるで理性を失ったかのようにも見える行動。
もはや目の前の竜に撃つ手はない、キリンたちはそう思ったであろう。
「(だが…吾輩を舐めるなよ、幻獣!)」
どこからか拾ってきた廃墟と化したログハウスをそのまま投擲し、それをキリンが破壊する。
木片が中を舞い、灰が視界を塞ぐ。
「ピギャアアアアアアアアアア!(今っ!)」
アトラル・カから、勢いよく金色の糸が辺り一面にばらまかれる。
それは、地面に突き刺さった柱や鉄骨を伝い、広場全体を糸の結界で封じる。
もちろん、幻獣たちの体も例外ではない。
一瞬の油断、その隙に次々と糸が体を絡め取る。
「────────────!」
キリンは嘶き、糸から逃れようともがく。
「ピギャ(あのアトラル・ネセトを支える強度の糸だ、それをわざわざ時間をかけて縄状に編んだんだ、お陰で時間はかかったが、そう簡単には切れんぞ!)」
同時に、金色の糸が先程放った小石のような塊を貫く。
中から煙が溢れ出す。先程放った小石は全てけむり玉と毒けむり玉。
空間が煙で満たされる。
(そして、──いまなら当たる!)
取り出したのは、8本の撃龍槍。
この瞬間まで一度も使わなかった、アトラル・カ最大の切り札。
それが8方向から同時にキリン目掛けて放たれる。
その瞬間、ぶちぶち、と嫌な音を立てて糸が切れる。
(糸が切れたか…だがいい、吾輩の目的は、勝つことではない!撃龍槍の対処にキリンが追われ、亜種は未だ糸の中。今なら
瓦礫を数個、全力で宙へ放り投げる。
そしてそれらに糸を繋ぎ、勢いよく自身の体を空へと打ち上げる。
それを何度も繰り返して、空へと跳ぶ。
(古龍とはいえ、キリンは地上の生き物、まさか空までは追ってこれまい。……うっそだろオイ!)
吾輩は目を疑った。
撃龍槍が掠ったのだろう。体から血を流しながらも、吾輩が放り投げた瓦礫を足場に、キリンは吾輩のいる天空まで上がって来やがった。
全身からバチバチと電気を迸らせ、キリンはこちらを睨みつける。
ここで貴様の命を刈り取る、そう決意した眼だ。
逃亡すら叶わない?否ッ!
吾輩がそれを少しでも予想しなかったと思ったか!
「ピギャアアアアアアアアアア!(なぁ、ダラアマデュラ亜種って知ってるか?)」
吾輩は、足場とする瓦礫を放り投げる側、片腕がもげそうになりながらもより大きな岩を投げていた。
それは、超巨大な火薬岩。
天高く投げられたそれを、糸で引き寄せ、隕石の如く引き寄せる。
これは、吾輩なりにダラアマデュラ亜種のメテオを再現した技。本家の、本物の隕石を引き寄せるそれと比べればあまりにもお粗末ではあるが、その威力は折り紙付。
この空中で身動きの取りにくい状況では、回避は不能とキリンは判断する。
誘い込まれたか──ならば、食い破るまで!
全身全霊を込めた豪雷が、隕石を貫く。
そして、キリンに当たる前の上空で、隕石は爆散する。
「ピギャアア(その体勢から隕石を破壊するのは流石だが…)」
「ピギャァアアア!(そりゃ悪手だろ、ドスケルビ)」
空中で体勢を崩したキリンはそのまま大地へと落下する。
流石に落下して死ぬことはなかったようだが、キリンにはもはや天空へ跳ぶ手段がない。
「ピギャ………」
「ピギャアアアアアアアアアア(生き残った!吾輩は生き残ったぞおおおおおおお!)」
そのまま瓦礫を出しては糸を放ち、天空を駆け回り、キリンから全力で逃げる。ちゃっかり、回収可能範囲外に出る前に武具を回収しながら。
なるほど、たしかにこの蟷螂は生き残った。
しかし、この蟷螂は気づいていない。仮に空を金色の蟷螂が変態軌道で移動していたらめちゃくちゃ目立つことに。
そして翌朝、龍歴院にとある報告がなされた。
密林で、マスターランク相当の歴戦王個体のキリン2頭と激闘を繰り広げたアトラル・カが、意味のわからない軌道で空を飛んでいた、という報告が。
同時に、「この個体はハンターの武器を操る」という特徴も。
あーあ、龍歴院にばれてしまいました。
そんなことはつゆ知らず、この蟷螂、呑気に「どうやって地面に降りよう…」なんか考えているのである。
大型モンスターには勝てるが、流石に古龍には勝てないぐらいのアトラル・カ(転生者の姿)。
戦ってきた個体は下位相当のものもいれば上位〜G級相当までまちまち。
アイテムボックスの範囲内は、基本的には体に触れてている物だけだが、一度アイテムボックスに入れたことがあるものなら、糸で触れていれば視界内なら回収可能。っていう設定です。
ハンターにバレてしまいましたね。あーあ。
ちなみに主人公はそこそこ運が悪いので何かの間違いでそのまま成層圏近くまで飛び上がってたら運悪くシャンティエンに撃墜されてたし、変なタイミングで地上に降りたらイビルジョーに襲われていました。危ない危ない。
感想、評価、誤字報告などありがとうございます。大変感謝しています。
どのモンスターがお好き?(ヌシ化します)
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