吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い   作:美味しいラムネ

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まだ6月2日なので初投稿です


吾輩はアトラル・カである。別に吾輩は死を纏ってはいないのである。

 

「!!!...!!!!!」

 

 1匹のテトルーが、瘴気の中必死に走っていた。

 「谷のぶんどり族」、瘴気の谷に住まう部族に属するテトルーは、いつも以上に濃い瘴気に身を蝕まれながらも、培われた野生の技で何とか逃げ続けていた。

 

 赤い、龍を見た。時々住処の近くにやってくる、水と雷を操る龍と戦い、その肉を喰らう龍を見た。

 少し用事があって陸珊瑚の方まで登ろうとした時。その戦いに巻き込まれて、気づけば谷の底に落ちていた。

 

 「谷の底には恐ろしい怪物がいる。だから近寄ってはいけない」

 

 それは親から何度も言い聞かされていた。御伽話のようなものだと思っていた。違った。怪物は現実のものとなった。

 黄色い怪しげな光を宿し、死肉を被った死霊の主。破れた外套のような翼を纏い、周囲のそれよりも濃い、悉くを死に至らしめる瘴気が渦を巻く。

 

「!!!!」

 

 咄嗟に横に飛び込み、木を陰にして攻撃を避ける。ギルオスだ。瘴気に飲まれ、その意識を完全に掌握された谷の主人の兵隊。目を血走らせ、口から涎を垂らして駆ける姿から、自意識というものを感じることはできない。

 

 瘴気の谷の主──ヴァルハザクは古龍だ。

 その行いに、善も悪もない。古龍であるが故にただそこにあるだけで天災である。ヒトは、操られたモンスター達を見て、恐怖を感じるだろう。その貶められた尊厳に恐怖を抱くだろう。だが、彼は誰かを陥れようとしてそれを行なってはいない。ただ、瘴気とはそういうものであるだけである。

 今、テトルーを追いかけているのも、ただただ「縄張りに侵入者がいたから」。「たまたま目についたから」。それだけである。言ってしまえば、運が悪かっただけだ。

 

「!!!」

 

 追いかけっこもそろそろ限界が来る、そう悟りながらも走る。仲間が助けてくれる?それはない。古龍に襲われた時点で諦められているだろう。

 ついにギルオスの攻撃が体を掠め、テトルーの体がゴロゴロと転がる。漸く侵入者を排除できる、そう思いトドメを刺そうとした瞬間。

 

 ヴァルハザクの動きが止まった。こんな塵芥に構っている暇は無くなったと。

 

 古龍の力が、意図して振るわれることはない。偶然偶々、それがいいように働いているだけだ。だが、意図して振るわれる例外的瞬間が存在する。それは、自身の命に迫る脅威と出会った時。その瞬間、今まで無造作に放出されていた天災は、最強の兵器となる。

 

 他の古龍であれば、戦い始めるまでその脅威に気づかなかったであろう。見た目も、感じる気配も。完全にただの蟲だ。これならばまだ空を飛ぶ飛竜の方がよっぽど脅威。

 しかし、ヴァルハザクはそのなんてこと無い蟲に底知れぬ恐ろしさを覚えていた。

 

 瘴気が逆に喰われているのだ。そして、その側に侍らせた2体の龍。鋼鉄の甲殻を纏った錆びた龍に、見たこともない純白の龍。間違いない、両者共に生命の息吹を感じない。

 

 そこで、ヴァルハザクは思い至る。

 死肉を操り、瘴気を喰らう...まさかこいつも俺と同じヴァルハザクなのか!?

 

「ピギャアアア(いや違いますけど!?)」

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 瘴気の谷、実はいい場所なのかも知れないと思い始めた吾輩である。あぁ、川の向こう側から手を振るモンスター達がってやっぱここいい場所じゃないのであるよ。すっごいジメジメするのである。洗濯物も乾かなそう。

 

 でも、隠れる場所も多いし、外から見つかりにくいのは魅力であるなぁ。問題があるとすれば、どうやって脱出したらいいのかわからないことであるが。

 

「ピギャアアア(まぁ、隠れて何かをするのには最適であるな)」

 

 金属を溶かし、球形の関節部で繋ぎ合わせ、龍型の人形を作る。その上に錆びたクシャルダオラが脱皮していった外殻を被せ、パオウルムーの呼吸器官を利用して空気砲を発射する機構を喉に取り付ける。まぁ、威力はそこそこなので遊び要素であるな。

 

「ピギャアアア(うむ。耐久性も抜群。シャガルマガラと一緒に並べたら威圧感凄いのであるよ)」

 

 客観的に見なくても今の吾輩って魔王ではなかろうか。まぁ、誰も見ていないし大丈夫であろう。瘴気のお陰で今の吾輩は隠密に有利判定が乗っているのであるよ。ヴァルハザクに感謝である。でも吾輩の肉を食べようとするのはやめようか瘴気くん。

 

 さて、瘴気の谷といえば腐肉である。天を見よ、そこには落下してくる黒焦げのレイギエナがぁあっ!?あ、危うく下敷きになるところだったのであるよ。

 閑話休題、腐敗...ではなく折角だし発酵させた肉を使った料理でも、という次第である。豚の肉やら皮やらに唐辛子とか砂糖とかもち米とかを突っ込んで発酵させた奴を作ろうと思うのである。ネームってやつであるな。

 モスの肉をミンチにして、ダンスパイスやら火山椒の実を香辛料に、岩砂糖、野生のもち米っぽい何かを突っ込んで混ぜ混ぜして、バナナっぽい植物の葉っぱで包んで発酵させたものがこれである。

 

「ピギャアアア(世界中旅してきたのであるが、このバナナっぽい植物、いまだに一回しか見かけてないのであるよなぁ)」

 

 幻の果実ことアイルー印の果物である。色々弄っていたらライトボウガンになったのであるが、この世界の食材はマグロといいトウモロコシといい、生命力が強すぎではないか?

 

 瘴気の谷に入ってから3日。そろそろ発酵もいい感じになって来たので食べようと思うのである。野菜と合わせてサラダにして食べるのであるよ。エプロン風の外装を着て、他に付け合わせを作ったり、ご飯を炊いたりする。瘴気の中だから匂いがよくわからん!

 

「ピギャアアア(いただきます。...美味しいのではあるが、好みが分かれる味であるな。吾輩はこういうの好きであるよ)」

 

 もしゃもしゃと肉をぱくつく。谷底だと時間感覚がなくなるが、多分夜ご飯の時間なのであるよ。

 あー、静かでいいのである。不吉な空間だけど。珍しくギルオスの襲撃もないし。で、どうやってここから脱出するの?

 

 半分ぐらい食べ終えた頃だろうか。

 急に遠くから何かが迫ってくる音が聞こえて来た。一つは軽い足音。一つは重い足音。他に四足歩行の足音が沢山?

 

 まぁ、何はともあれ。

 

 「ピギャアアア(吾輩はまたご飯を全部食べられないのね!?)」

 

 ゴロゴロと吾輩の目の前に転がって来たのは、1匹のテトルー。そして、その先にいたのは、屍を纏う龍。ヴァルハザクである。一つ言わせて欲しい。

 

 「ピギャアアア(また古龍であるか!?)」

 

 しかも吾輩にヘイト向いてるではないか!?吾輩を現大陸に帰して!!!

 

 吾輩とヴァルハザクは睨み合う。互いの間合いを図るように、次の一手を見極めるように。

 ジリジリと後退りする。あれ、これって吾輩のこと見逃してくれ...

 

 

 ないですよねわかってましたよこの野郎!!!

 

 

 ヴァルハザクの口から吐き出された瘴気の吐息を横飛びに避ける。

 吾輩にはお前と戦う理由が無いんだ!逃げさせてもらうのである!いつもと違って逃げれるだけの広さはあるのであるよ!

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 吾輩の勝利条件は一つ。逃げ切ること。だが、そう簡単に逃げさせてくれそうにも無い。だったら、多少ダメージを与えて、これ以上追いかける旨みがないと理解らせる!!

 

 何故か吾輩の隣を並走するテトルーのことは一旦意識の外に置き、ヴァルハザクの通り道めがけて対龍地雷を設置、さらに整列させたライトボウガンから弾丸を放つ。

 テトルーが吾輩と並走しているのは、まぁ古龍と比べたらマシそうだと思われたのであろうか?確かに、古龍に追われている状態で近くの小さいネコにわざわざ興味を向けるモンスターは居ないのであるよ。

 

 「ピギャアアア(...やっぱり、その翼でその速さは反則であるよ)」

 

 一見ボロボロに見える翼で何故それだけの速さが出るのか。不思議である。地雷をひょいと飛んで避け、ボウガンは瘴気に狂わせられたギルオス達が肉盾になって受け止めた。

 その瞬間、間髪入れずに大地を捲り上げる様に振るった燃え盛るディノバルドの剣尾を叩きつける。地衝斬の一撃をもろに喰らったかに見えたが、どこからか飛び出して来たオドガロンがそれを受け止めてしまう。

 

 いや、瘴気ってそういうものであったっけ!?モンスターがモンスターテイマーやってるよ、いやどっちかというと寄生虫で操ってるタイプの奴だけど!

 

 ヴァルハザクは、無理に攻めようとせずに此方の出方を伺っている状態だ。...初めてかも知れぬな。初めから油断というものが一切ない。

 

 「!!!」

 

 並走していたテトルーが地面から突き出た竜骨に足を引っ掛けて転ぶ。

 ...あぁもう!

 

 「ピギャアアア(乗る!わたしが、たすける!)(あぁもう、乗るのであるよ!偶々一緒に逃げてるのである、折角だし一緒にこのまま生き残るのであるよ!)」

 

 吾輩の糸でテトルーを手繰り寄せる。その瞬間は、「え、俺ヴァルハザクじゃなくてこの蟲に喰われんの」みたいな顔をしていたテトルーも、一度外装の中に放り込まれたら大人しくなったのである。

 

 その一瞬の隙に、吾輩目掛けてヴァルハザクの瘴気の吐息が迫る。幾ら吾輩が瘴気に耐性を持っているとはいえ、まともに喰らったら不味そうだ...!

 城壁の如き大楯で吐息を防ぐが、上から回り込んで吾輩達のことを蝕まんと瘴気が迫る。

 

 物理的障壁じゃダメか...だったら、早速こいつの出番であるよ!

 

 「ピギャアアア(吹き飛ばせ、クシャルダオラ!)」

 

 クシャルダオラ型の鋼鉄の人形の口から、圧縮された空気が吐き出される。さらにそこめがけて修復した義手からアイスサイクロンを放ち、その2種類の防風で一瞬だけ瘴気を散らす。

 

 「ピギャアアア(幾らお前が生物に対する特攻を持っていても、鉄までは喰らいつくせないであろう!)」

 

 吾輩は鉱石もパクパクいけちゃうのであるがな!全ての生物を喰らう瘴気?お前の前にいるのは、鉄だろうが何だろうが食べる大蟷螂だ!

 発掘武器とは他に、加工屋の武具作成技術を真似て再現した、劣化版の武具を機関銃のように放つ。

 

 最近、発掘武器とは別にハンターたちの武具を再現できたら便利そうだと思ってまた研究を始めたのであるよ。竜機装の技術を転用しても、あの大きさに属性エネルギーを圧縮するのは大変であるが、劣化版であれば大量生産可能になったのである。素材が無いからやらないけど。

 

 加工屋が見れば、人類の叡智である装備加工技術が、モンスターの手によって犯され、尊厳を破壊されたかの様な感覚を覚えるであろう歪な武具。それが様々な属性の軌跡を描きながらヴァルハザクの体に突き刺さる。

 

 2匹と1匹、そして互いの兵隊が織りなすチェイスは続く。

 大地を巻き上げ、腐肉と血液が舞う。

 

 

 ──1人、それを遠目に観察している者がいた。

 

 「あれは、なんだ」

 

 その日、そこにいたのは別の事象に対する調査の為だった。本来なら、彼が──大団長が出ることはないはずだが、その案件が火急かつ放置できない案件な上、現状アステラ、セリエナ合わせた中で、早急に単独でその案件に当たれるだけの実力を持った人材が彼しかいなかっただけだ。

 

 そこで、出会ってしまった。

 大自然の脅威も、御伽話の禁忌でさえも知っている。しかし、目の前のあれはなんだ?自然では無い。不自然の塊だ。

 ハンターズギルドや龍歴院が何故あんなにもあの存在を恐れていたのかが理解できた。あいつが仕損じた理由が分かってしまった。

 

 撃龍槍が突き出され、ヴァルハザクがそれを潜り抜けるように回避する。お返しと言わんばかりの突進を受け止め、その盾が砕かれた瞬間、近距離で速射砲──あれはカムラの技術だったはずだ──をお見舞いする。

 

 僅かにヴァルハザクが押しているようにも見える。歴戦王個体とまではいかなくとも、瘴気の扱いが尋常じゃ無いほどに上手い個体だ。

 

 だが、それ相手に拮抗するあれは何だ?

 大砲から花火が放たれ、その火の粉が腐肉を焼く。有効な攻撃手段を探り、それを叩きつける。まるで人間じゃないか。

 

 チェイスはまだまだ続く。瘴気の谷を横断する超大型古龍の亡骸、その頭部に当たる部分で、蟲と龍とを模した外装に身を包む蟲が立ち止まる。

 

 爆発的な属性の解放、それと龍属性が合わさり、直後に別の属性へと変化する。その瞬間に発生する圧倒的なエネルギーを攻撃へ転用する。

 一瞬で、あたりは焦熱地獄と化す。間違いない。本家と比べたら天と地ほどの差があるが、間違いなくあの技だ。

 

 彼から伝え聞いた、煌黒龍のあの現象。

 

最後の審判(エスカトンジャッジメント)!!」

 

 それを喰らったヴァルハザクが、他のモンスターを囮に何処かへと撤退してゆく。野郎、縄張り争いになりやがった。

 拙いな、1人で狩れる相手じゃない。

 

「頼むから大人しくしていてくれよ?」

 

 例の案件と、龍結晶の地へ向かっていると思わしきこいつが無関係とは思えない。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

「ピギャアアア(へくちっ!うーむ、誰かが吾輩のことを噂しているのであろうか...)」

 

 ヴァルハザクを撃退し、テトルーを住処まで送り届けた吾輩は、彼らに教えてもらった出口に向かっているのである。おまけにオトモダチの証としてぶんどり刀を貰ったのであるよ。感謝されるのは嬉しいことである。

 

「ピギャアアア(で、外に出た訳であるが...)」

 

 目の前に広がるのは、天を貫く大結晶群と、足元を流れる溶岩の川。

 うん、海どころかもっとやばい場所に出ちゃったね。ここ、龍結晶の地ではないか!?いつになったら現大陸に帰れるの吾輩!吾輩死んじゃうっ!

 

 

 

 






感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています!

アトラル・カの裸エプロン

どうしよう、新大陸編のあと何するか何も考えてないや

次の番外編で使うかもしれない(エイプリルフールでつかうかも)

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