吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い 作:美味しいラムネ
前話から大体半年後のお話。不規則に世界旅行するおかげで、龍暦院やらハンターズギルドやらの追跡は撒けている、そんな半年後です。
本人は撒いていることにさえ気づいていませんが。
「え?例のアトラル・カの話が聞きてえって?あぁ、いいぞ。つっても信じてもらえるかは分からないがな。」
険しい山々の間に切り開かれた街、ドンドルマ。
その立地上、古龍という名の大災害に度々見舞われながらも、それに打ち勝ってきた強き人間たちの街。
そんな街の中。ハンターが集う酒場にて、1人の男が語る。
「あれは丁度──1ヶ月前のことだったかな?ハンターズギルドと龍歴院の合同で、近隣で存在を捕捉したアトラル・カ、名称未定の特殊個体の観察を依頼されたんだ。そう、狩猟でも捕獲でも撃退でもなく観察。」
どん、とエールの注がれたジョッキを机に置く。
「あまり聞かない種類の依頼だが、まぁ、一応俺は元研究者でもあるからな。そういうこともあって俺に回ってきたんだろう。特に訝しむこともなく受託したが…、まぁ、後悔したな。あのアトラル・カを見た瞬間、恐ろしさを感じたよ。」
「先輩、それは昔出会ったっていう、テオ・テスカトルよりもっすか?」
ペッコシリーズに身を包んだ少女が、男に不思議そうに問いかける。
イビルジョーを狩った証であるバンギス装備に身を包んだ、いかにも歴戦の戦士といった装いの大男。それが、少し珍しいだけの甲虫種に恐れをなしているのが不思議でならないと言った様子だ。
「不思議か?…だろうな。俺ぁこれでもそこそこ長くやってるハンターだ。古龍と出会ったこともあるが…古龍みたいな圧倒的存在を見た時の恐ろしさとは違うな。何というか、得体の知れない恐ろしさを感じたよ。」
男は、過去を回想する。
あれは、依頼書に書かれていたエリアに到着して数刻。見晴らしの良い場所に陣取って、双眼鏡片手に件のアトラル・カを探していた時のことだったか──
支給品として出発前に貸し出された、新大陸から取り寄せたという隠れ身の装衣。
それを被り、さらに木々の中に自らの身を隠しながら、双眼鏡越しにアトラル・カの姿を探す。
丁度、崖の上となっているここからは、眼下に広がる大森林を見渡すことができるのだ。
(情報によると、古龍に匹敵するほどの高い知能を誇り、またモンスターの死骸や文明の痕跡、果てはハンターの武器まで使う、か…まるで御伽噺に出てくる怪物みたいだが、ギルドの出した情報だ。少なくとも虚偽ではないはず。)
双眼鏡には、ドスランポスが群れを連れて狩りをする様子や、ケチャワチャがオルタロスと戯れる様子が映る。
(平和だなぁ。…たまにはこんな依頼もいいかも知れねえな。研究者の頃を思い出す。…そういや、獰猛化現象の調査のためにベルナ村へ行ったあいつは今どうしているかな?)
モンスターと命の奪い合いをする依頼と比べ、長閑な時間が流れる依頼に、思わず気が緩んでくる。温かな陽気が体を暖める。樹々のざわめきが心地いい。
そうして、半刻ほどした頃だろうか。
森の端から、煙がうっすらと登っていることに気づいた。
(何だ、野火…にしちゃあしょぼい。他のハンター、いや、密猟者か?)
双眼鏡を煙の出所へ向ける。
「……なっ!?」
いた。金色の蟷螂が。
自分で作ったのだろう。焚き火の前に座り、何かをしている。
瓶、だろうか。何かを混ぜ合わせているようにも見えるが、流石に遠すぎて詳細はわからない。
「…くそっ、見えねえ。」
より遠くが見える望遠鏡を取り出して、レンズ越しにアトラル・カを視認して気づく。
見られている。
アトラル・カは、金色の女王は間違いなくこちらを睨んでいる。
気づけるわけのない距離でありながらも、間違いなくこちらを認識している。
(不味い、不味い不味い不味い!これ以上の深追いは危険だ、撤退する!)
そう判断し、乗っていた大樹から飛び降りると、そのままアトラル・カから距離を取るようにして、男は駆け出した。
そして、男は何としてもこの情報を持ち帰らなければと決意する。
(間違いねえ、あいつ
「調合」してやがった!)
♦︎
紅蓮石を火種に着火させた焚き火の前に、金色の蟷螂が佇む。
橙色の灯に照らされた甲殻が、ゆらゆらと揺らめく。
♦︎
吾輩である。
キリンからやっとの思いで逃げ切れたと思ったら今度は着地した場所でイビルジョーに襲われ、なんとか討伐したと思ったら今度はやけに鋭い犬歯を持った白と黒の狼型モンスターの番に襲われ、武装の残りも怪しかったので逃亡した吾輩である。
しかもそのあとレウス夫妻(希少種)にもあわや襲われるところであった。隠れてやり過ごしたが、吾輩、何故か番のモンスターと縁が多いな。しかも全員漏れなく殺意が高いという。
そういえば、あんな狼型のモンスターは知らないな。吾輩が転生した後の作品に出てくる種族なのだろうか?番外作品だったら流石に分からないが……
で、だ。流石にこのままだと吾輩いつか死んじゃう!と悟り、己を強化しようと今日この日まで半年ほど世界中を旅していたのである。
別にいつもと何も変わらないじゃないかとか言ってはいけない。
今まで以上に頑張って発掘武器も集めたし、襲いかかってくる大型モンスターは積極的に討伐し、なんなら新しい種類の外装も幾つか作った。
ゲネル・セルタス型、バサルモス型に続き、多少の滑空を可能にしたリオレウス型に、とにかく周辺の地形を薙ぎ倒しながら逃げることだけを考えたパンジャ…ウラガンキン型である。これであのキリンからも逃げ切れるぞ!勝てるとは言っていない。
他にも、吾輩の持つ全技術と兵器を結集して作った黒龍型もあるが…まだ未完成だしこれ使ったらいよいよハンターズギルドにバレて殺意を爆発させてきそうだから封印している。まだ吾輩死にたくないのである。ギルドとか龍歴院とかにばれるような行為は避けなくては。*1
とはいえ、何かが足りない。まだ、もっと取れる手段があるはずだ。そんな引っ掛かりを覚えながら、2ヶ月ほど旅を続け、気づいた。
それはケルビを乱獲する密猟者を討伐した時のことである。
あ、吾輩は基本的にモンスターも人間も、襲いかかってこない限り殺さない。なんならハンターは、殺したらわんこ蕎麦形式で強いハンターがやってきて、最終的に
しかし、密猟者、それも度を越した奴らは別である。やめてくれ、貴様らがモンスターを殺しすぎて生態系のバランスが大崩壊したら世界がシュレイドしちゃうでしょ。吾輩まだ死にたくないよ。
閑話休題。
そんな密猟者をしばき倒した時のことである。
うち一人が面白いものを持っていた。調合書のような何かである。吾輩は文字が読めないので調合書のような何かとしかいえないが、挿絵的に多分そうである。
調合。何故吾輩はこんな簡単な答えに辿り着かなかったのだろうか。
あくまで矮小な生物である人間が、圧倒的な存在であるモンスターを狩猟できるのは何故か。そもそもこの世界の人間は矮小じゃないだとか、そう言った人外要素は無視すると、その武具の性能、そして回復薬を始めとした数々の調合により生み出されたアイテムが理由として上げられるだろう。
そう。回復薬。薬草とアオキノコを混ぜたアレ。
他にも秘薬やら丸薬やらルーン石…はコラボイベントのアイテムだから例外か。ハンターが魔法を使い出したらいよいよ誰も手がつけられなくなる。というか調合アイテムですらない。
人類の叡智が結集された多くの調合アイテム、これを使えば吾輩の戦闘能力も大きく向上するのは間違いがないのである!
ふははは、吾輩は最強の力を手に入れたのだ!…そこ、ようやく駆け出しハンターと同じラインに立ったとか言ってはいけない。
調合という奥義に気付けばあとは実践するのみ。
前世の記憶を頼りに、拾った瓶を使って多くの薬を作成した。
回復薬に始まり、秘薬に怪力の丸薬、強走薬に活力剤と、用意できる素材を使い、次々と便利なアイテムを調合していく。
とはいえ、師匠がいるわけでもないので調合の分量は全て手探り。今のレベルのものが出来上がるまで一体どれだけの素材が無駄になったことか。それに、使える水準になった今でも、多分ハンターが使っているそれよりも品質は低い。
とはいえ、ある程度の傷なら回復薬グレートですぐ回復するし、半死ぐらいなら秘薬で回復する!吾輩、もはや不死身では?…まぁ、秘薬は一日2本より多く飲むと全身が割れるように痛くなるから2本までしか飲めないのだが。
そこ、吾輩の素の耐久力は高くないんだから薬作ったところで無駄とか言ってはいけない。密猟者から奪い取った、違法に入手したであろう守りの護符から作った守りの護爪のおかげでちょっと硬くなったから。
調合することを覚えたおかげで、同時に料理をする精神も思い出した。危ない危ない、文化的な生活は最低限守らなくては。この世界の食べ物、焼いて調味料かけただけで充分美味しいから忘れていた。まぁ、料理を始めたのは調合の影響だけではなく、落ちてた鍋を拾ったから、というのもあるのだが。
そんなこんなで、今吾輩は大森林のど真ん中で、焚き火を焚きつつ料理をしているのである。
捕まえた米虫に、上質なポポノタンを乗せ、岩塩を振りかけて高級肉寿司。女王エビに霜降りトマト、千年米を纏めて炊き上げて、千年クイーンパエリア。おまけにハニーバターを乗せた生肉を肉焼きセットで焼いて、こんがり肉G。一手間として、センリョウミカンをかけるのも忘れない。デザートには、氷結晶にメロンベリーの身を潰したものをかけて作ったアイス擬き。
いやぁ、健康で文化的な最低限度の生活である。米類が多い気もするが、まぁ前世日本人だし仕方がない。というかなんなら米虫は米みたいな見た目で米の味だが虫である。米ではない。
自作料理の素晴らしい出来栄えに満足し、いざ実食へ行かんとするが、その前に千里眼の薬を錬金して飲むのは忘れない。
この前、食べようとした料理をメラルーに掻っ攫われたのは今でも忘れないぞ。吾輩のリュウノテールのステーキ返せ。
千里眼の薬は本来なら調合できないが、密猟者が持っていた本がたまたま錬金書だったようで、そのおかげで不完全ながらも作れたのである。感謝の代わりに冥福を祈っておこう。大地に還れば密猟者もまた兄弟。どう考えてもやばそうな吾輩に奇声を上げながら襲いかかってきたその根性は忘れないだろう。
千里眼の薬を飲んだ瞬間、少し遠くの切り立った崖の上から、微弱な反応を感じる。
さてはこの前のメラルーだな、失せろっ!
吾輩は赤髪もかくやといった迫力の視線を崖の上へ送る。
よかった。諦めてくれたようだ。
……さーて、実食と行こうじゃないか!
お、これはなかなか。吾輩、ひょっとして料理の才能があるのかもしれないな!
とまぁ、この間抜け、幸せそうな顔して料理を食べているわけだが、今この瞬間にも「このアトラル・カ、ハンターの装備どころか調合まで使いこなすかもしれない」という特大の地雷情報が拡散していることには気づいていないのである。
しかも、もちろんこんな特大の重大情報はトップ層のハンターに共有されないわけもなく、世界の頂点たちに認識されてしまっていることなんか想像すらしていない。
そんなことよりも、食事の匂いにつられてやってきた野性のアイルーと、料理と交換にアイテムを貰うのに夢中なのである。もっと強力な武器を使えるのに投げナイフなんて貰ってどうするつもりなのだろうか。
この様子では、どこぞのモンスターなハンターに消される日も遠くないかもしれない。
設定的には、調合アイテムの効能は、大体本来の完成品の8割ほど。
ただし、秘薬は、大体最大耐久値の半分ぐらいの傷を回復してくれる、ぐらいの効果になっています。そりゃぁハンターより体大きいし効能は多少薄まります。
なお、このアトラル・カ、この世界では秘薬の調合法は、相当上位のハンターへ至らなければ噂レベルの、教えてもらうには対価が必要なレベルの希少な情報であることには気づいていない。なんならいにしえの秘薬はさらに希少であることにさえ。
その上、自分の作るいにしえの秘薬がST性能になっていることにさえ気づいていない。まぁ、ほんの数本しか作れていないから実験ができていないこともあり、しょうがないのだが。
感想、評価などありがとうございます。大変励みになります。
次の番外編で使うかもしれない(エイプリルフールでつかうかも)
-
掲示板if②
-
擬人化if
-
vsアルバトリオン