吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い 作:美味しいラムネ
珍しく後編へ続きます。
その依頼を手に取ったのはほんの気まぐれだった。
どこぞの王女サマが、不定期に出している子どもらしいワガママに応えるための依頼。
一部の熟練ハンターなんかは、彼女の依頼を気に入らないと思い、受注を断固拒否する者もいるようだが、私はそうは思わない。
人間を試すだなんだと嘯く赤衣の男や、人類の命運なんて大層なモノを平気で私1人の肩に載せてくるギルドの暗部共と比べれば、可愛らしい物だ。
特殊個体・アトラル・カの討伐及び捕獲。
思い出されるのは、まだ世界は未知と希望に満ち溢れていると信じていたあの頃に受けた依頼。間違いなく、私の人生を大きく変えたターニングポイントになったクエスト。『蠢く墟城』。
ラオシャンロンのような超大型古龍に匹敵する程の大きさを誇る玉座を繰る、高い知能を誇る甲虫種。
ヘビィボウガン片手に、酒場のマスター達の声援を背に挑んだ、廃墟の女王。
その特殊個体。噂は聞いていた。
原種のように撃龍槍を操るのは勿論、オストガロアのように
操るエレメントは火、水、雷、氷、龍の全属性に渡り、大砲やバリスタといった防衛設備はおろか、狩人の武具さえ操り、その技術までもを模倣する、もはや禁忌の領域へ侵入している程の高い知能を有する大厄災。まぁ、あくまで噂は噂。実際に禁忌と相対したことのある身からすれば、どれだけ賢かろうが、禁忌でない物がその領域へ足を踏み入れることが出来るとは思えない。
──アトラル・カ、は自身がその虫生の中で見た一番強い生物を目指して外装の強化を繰り返す、のだったかしら。ギルドの方も情報を絞ってるから、詳しくはわからないのよね。
腰まで伸びる白髪を左手で弄りながら、右手に持った依頼書を眺める。
──あぁ、でも楽しみね。
特殊個体、あぁ、なんといい響きなのだろうか。
怒り喰らうイビルジョー。猛り爆ぜるブラキディオス。鏖魔ディアブロス。通常を逸脱した能力を持つ彼らは、誰もが大自然を感じさせる良い相手だった。
獰猛化個体や、戦った経験は少ないが極限化個体、覇種個体なんかもいい。
命を削りあう戦いほど、心を満たしてくれるものはない。嘗ては、相棒のガオウ・クオバルデを担いで、レオンとアーサーと一緒に多くのモンスターを狩猟したものだ。
──貴女が何をしてくるかわからない。貴女がどんな存在なのかもわからない。
黒龍の甲殻に身を包んだ乙女は、噂の特殊個体に想いを馳せる。
私はきっといつか大自然の中で死ぬ。そして、その死神は貴女かもしれないから。
彼女の背負う武器は『ミラバルカンブレイド』。真紅の刃による一撃は、
♦︎
吾輩である。
古龍級生物の中でも最強クラスの相手に勝利してノリノリな吾輩である。
猛り爆ぜるブラキディオスから手に入れた炉心殼。これがまた本当に素晴らしい!生み出すエネルギーは既存のどの
そんな莫大なエネルギーを秘めた炉心を動力として使えばそれはもう恐ろしいことになる。操作のしやすさは何倍にも上り、速度、パワー、動作の正確さ。その全てが数段上に上昇。それこそ上位とG級ぐらいの差がある。
単純なスペックだけの問題ではない。これと幾つかの兵器を組み合わせて作動させる兵器は、分厚い鉄の壁すら溶かし尽くす。まさに『劫火』である。
炉心は一個しかないので、吾輩の最終兵器に積み込んだが、どう考えてもこれは表に出しちゃいけないタイプのやつである。
素材が手に入るごとにちょくちょく強化はしていたが、炉心が入るとだいぶ違うな。少々熱量が多過ぎて胸付近の金属が溶け出しているのは少々問題だが。あぁ、ハンター人形の一体がそのまま張り付きやがった、勿体ない!
事実上封印されている炉心以外にも、粘菌も又吾輩の取れる手段を増やしてくれる素晴らしい物であった。採取できた量はそう多くないので枯渇が心配されたが、苦戦の末培養に成功したから然う然う枯渇することはないだろう。
粘菌と鬼火を纏った撃龍槍による1撃はかの黒龍と同じ硬度を誇るクンチュウの甲殻すら粉砕する。ついでに撃龍槍も真ん中から折れる。勿体無くて使えるかこんなもん。至近距離で撃ったら吾輩も死んじゃうわ。
基本的には岩石の塊に粘菌と鬼火を纏わせて辺りにばら撒くのが基本の使い方になる。まぁ、これも周囲の環境に与える影響が甚大だから森とかでは使えないのであるが。
他にも、特別硬く作った外装の脚部に粘菌をつけることで、その爆発の威力を推進力に変えて高速で移動したり…まぁ、直線的過ぎるので他の移動方法と組み合わせての仕様が前提となるな。おい待て粘菌やっぱお前使いづらいわ威力が高すぎる。
いやぁ、鉱石の採取だけが目的であった筈なのに、森林地帯ではできない粘菌の実験の為に随分と長い時間を使ってしまったのである。
何ヶ月も同じ地域に滞在したのは久しぶりである。そのせいか珍しい相手にも会った。テオ・テスカトルである。遠目に見たがあれは生物としての格が違うな。流石古龍。一瞬火山の上空を飛行しているのを目撃したが、威厳があった。
古龍級生物と古龍にはやはり隔絶した差があるなぁ。やっぱイビルジョーとは違うなイビルジョーとは。お前人が飯食ってる時に乱入してくるんじゃねーよ怖いだろ?
吾輩は、洞窟の中から大雨の降る外を眺める。
この嵐が過ぎ去ったら、そろそろこの火山地帯を出ようと思うのである。同じところに長く止まっていては、ハンターに見つかる可能性が上がってしまうからな!*1
きっとあの空の中にはアマツマガツチがいるんだろうなぁ、などと言うくだらないことを考えながら、溶岩でいい感じに溶かした鉱石を齧る。
この絶妙な溶け具合が堪らない。火耐性付きの護石なしで食べると口の中を少々やけどしてしまうのが難点だが、ほんのりと溶けたドラグライト鉱石は、言うなれば焼きアイスのような味わいで──
まて。
何か、揺れて、…人?
刹那、古龍を超える強大な気配が、吾輩の目の前で膨れ上がる。
あ、へ、いや、なんで何故!?
白い。人間──ハンター?どこから、どうして?
黒い。赤黒いオーラが…獣宿し【獅子】!?そしてこの構えは震怒…いや、『地衝斬』ッ!
思考が許されたのは、そこまでだった。
「あは」
大地を削り取りながら放たれた一撃は、その刀身から放たれる一撃と衝撃波による二重の破壊力を持って、吾輩の外殻を粉砕する。
遅れて、大剣から漏れ出る爆発性の粉塵が、追撃の爆発を起こす。
──吾輩の、鎧が。ありとあらゆる外敵から吾輩を守ってくる吾輩の要塞がッ!
破壊されたゲネル・セルタス型の装甲をすぐさま脱ぎ捨て、防御力に優れたバサルモス型に乗り換えようとするが、間に合わない。
目の前の少女は、
ラウンドフォース、だが、それは、片手剣の狩技の筈だろう!?
咄嗟に割り込ませたランス持ちの人形を盾に、辛くも吾輩は離脱する。
そして、吾輩は愕然とする。G級相当のランスの盾が、唯の一撃でかち割られている。
「ピギャアアア‼︎(なんだ、何故いきなりハンターが!?)」
衝撃までは抑えきれず、洞窟の天井に叩きつけられながら、下手人の姿を目撃する。
大剣を背負った女ハンター。装備は──ドラゴンシリーズ系統っぽい…
あ、これ吾輩死んだわ。黒龍狩ったヤバい奴が来ちゃった。
嘘だろ、どうして野良のプロハンがたまたまこんな場所にいるんだよ、まさか採取クエか、採取クエなのか!?
どんな確率だよ、まだギルドに発見されてない吾輩のクエストがあるわけないし*2、それこそ道を歩いていたらいきなりバルファルクに襲撃されて吹っ飛んだ先にいたラージャンに思いっきり天に投げ飛ばされたかと思ったらアマツマガツチにさらに天高く持ち上げられて最後は落下しつつラヴィエンテに丸呑みにされるぐらいの超確率だぞ!?
取り出したゲネル・セルタス型外装2号に身を隠しつつ、女ハンターの様子を伺う。
アイルーがいる様子は…ないな。ガルクもいない。まぁオトモがいないからって安心できる要素なんてどこにもないんだけどな!
「ピギャアアア(見逃してくれたりって…しませんかねぇ?)」
「嫌よ、死になさい。」
モンハン語だから何を言ってるか正確には分からないが、なんとなくはわかる。
死ね、的なことを言われているのだろう。え、会話成立してるんだけど。
「ピギャアアア‼︎?(おい、絶対吾輩の言うこと理解してるよな、まさか竜人族!?)」
「あはははははははははは!」
女ハンターは、大声で笑いながら、大剣に似つかない速さで、まるで朧翔けでもしているかのような速さで吾輩の元へ迫る。
高速の抜刀からの縦切り、横殴り、そして放たれる溜め斬り。
思わず咄嗟に振るってしまった鉄骨の一撃は、宙を回るような回避─エア回避で踏みつけられ、そのまま強烈な叩きつけが吾輩の盾とぶつかり合う。
だめだこいつ話が通じない。
まさか、呑まれてしまったのか。傀異錬成もしくはギルクエの闇に呑まれて闇霊になってしまったとでも言うのか!?
ハンターの振るった大剣が、吾輩の盾を両断する。
お前は何スタイルなんだ、エリアルスタイルなら狩技は一個までの筈だろうが、そういやここ現実だからスタイルなんてあるわけ無いよなぁチクショウ!あ、お前大剣が兜割りを使うんじゃねえ!!付き合ってられるか!
吾輩は悟った。
奴が陣取っているのは洞窟の入り口。逃げる為に外に出るにはその横をすり抜けなければならない。これが外だったら空を駆けて一瞬で逃亡できたが、よりによって吾輩がいるのは屋内。覚悟を決めて、突撃するしかあるまい!
吾輩チェーンジ!ウラガンキンモード!体を丸めて、回転の推進力に加えて粘菌の爆発力を加えた超加速で振り切ってやるぞ!
あれ、簡単にすり抜けさせてくれた。いやぁ、流石のプロハンも吾輩の動きには面食らって…あ、不味い。
洞窟の入り口に向けて、ハンターが投げナイフを投擲する。瞬間、仕掛けられていたのか爆薬が起動して、そのまま入口を崩落させる。
「あは、これで私を殺さなくちゃ逃げられなくなっちゃったね、臆病な女王サマ?」
なんか煽られている気がする。
ハンターには手を出さないとか、ギルドに目をつけられる行動は控えるとか言ってらんねえだめだこれ少しでも出し惜しみしたら吾輩明日には加工屋さんに並んでいることになるぞ!
「ピィ…(うわぁ)」
どうして、吾輩何も悪いことしてないのに。別に生態系荒らしたり竜機兵作ったり狂竜症広めたりキュリアが寄生していたりしないのに…何故いきなり降ってきたプロハンに狩られりゃならんのだ…
逃げ場もない、姿も見られた、吾輩は平穏に生きたかっただけなのに。これはもう、覚悟を決めて狩人を狩るしかない!
古龍を超える迫力で迫り来るハンターの姿を見て、その考えは一瞬で消え失せた。
やっぱ無理ぃいいいい!そうだ、だったら動けなくさせて縛って会話できるような状態にして説得するんだ!オペレーション「吾輩悪いアトラル・カじゃないよ」である!いや、下手なことしないで気絶させてそのまま逃亡が正解か?ともかく、動きを封じないことには話が始まらない。なんとか麻痺らせるか眠らせるか拘束するか気絶させるか失神させるかして隙を作るぞ!
いけ、ナルガクルガ、ディノバルド、ブラキディオス、セルレギオス!君たちに決めた!
ついでに竜機装も展開し、ハンター人形を除いた吾輩の武装を展開する。
どうせ兵器に関しては原種だって使ってるし(撃龍槍)、モンスターの死体操るのだってオストガロアがいるから「あー、こいつオストガロアの生態模倣したんだろうなー」ぐらいにしか思われないだろう。いやこれでもギリギリを攻めてはいるがこうでもしないと生き残れねえ、吾輩史上最大のピンチ!これならまだクシャルダオラとデスマッチした方がマシだぞ!
しかも殺したら殺したで「どうしてプロハンが唯の採取クエで死亡した…?」ってなってもっと沢山プロハンが押しかけてくる様になるのは確実である。元人間だから人間を殺したくないってのも多少あるが、やはり殺すことによるデメリットが大きすぎる!
うっそだろナルガクルガが瞬殺された!?
♦︎
うーん。臆病ですぐに逃亡するって言う情報があったから、屋内にいる可能性の高い大嵐の日を狙ったけど正解だったわね。
あらかじめアトラル・カが雨宿りに使いそうな洞窟の入り口全てに爆薬は仕掛けておいたから、無事一騎討ちの状態へ持ち込ませることができた。
あぁ、なんていい気分なのかしら。
しかも、意識してないだろうけど、この洞窟を選んでくれるなんて!
この奥へ進めば、円形のドーム状の広い空間がある。しかも、そこに出口はない。
私と貴女だけの、天然の闘技場!時間制限なんてものはない、どちらかが力尽きるまで無限に殺し合える!
私の背丈を優に超える大剣を振り回しながら迫り来る竜達の連撃をいなし、私の知るものより遥かに小さく、しかし遥かに硬い女王の玉座を抉り壊す。
目の前の彼女は、なんとなくだけど戦いに乗り気じゃない、寧ろ逃がして欲しそうにしているのは伝わってくる。知ったことか。お前も、大自然に生きる者ならいつか殺されるのは理解しているはずだ。
あぁ、勿論私を返り討ちにするのは大歓迎よ?
無理やり高威力な連携を繰り返し、女王を奥へ奥へと押し出す。
「ピギャアアアアアアアアアアア‼︎‼︎(頼むからこれで堕ちてくれえええええ!)」
火竜の翼を使った風圧に乗せて、ホロロホルルの鱗粉と、何かのモンスターの睡眠ガスが放たれる。
成る程、確かにこの閉鎖された空間でそれは最適解ね。でも、それは少し私を舐めすぎじゃないかしら?
鱗粉を吸い込み、前後左右がわからなくなる。
だったら、狂った感覚に合わせて動けばいい。ガスによる眠気は、自傷で覚ませばいい。それに、この呪われた鎧の呟きは、私に眠りを許さない。
遅れて放たれた高熱のガスは大剣を盾にして切り抜け、振り下ろされたライトニングブレードは横へのステップで避ける。
「ピギャアアア(取ったッ!)」
確実に必中コースだと思ったのだろう。アトラル・カから、歓喜の感情が伝わってくる。
ステップで避けた先に置かれるようにして迫るのは、臨界点に達した粘菌の付着した拳による一撃。
「うふ、あはは!残念だったわねぇええええ!」
足の筋肉を断裂させながらも、無理やり動かした体で、その軌道から逃れる。
『絶対回避』と呼ばれる狩技は、一瞬の激痛と引き換えに、私をまだ生きながらえさせる。
そのまま、大剣を軸に急制動を掛けて、その勢いで攻撃を放とうと溜めに入った瞬間、アトラル・カは今までの逃げの姿勢とはうって変わって急激にこちらへ接近してくる。
「ピギャアアア(それだけ得物がデカければ、吾輩に潜り込まれればやりにくいだろう!)」
そして、両の鉤爪が振り上げられ、胸に内蔵された三門の大砲が私にその砲身を向ける。
やっぱりそうくるのね!そうよ、私が初めにしたように、大きな武器は密着されれば取り回しにくい。でも、いつ私の獲物がこれだけだと言ったかしら?
腰に提げていた『龍星ネコ剣ニャール』と『レジェンドネコソード』を引き抜き、双剣のように構えて、突進。
鬼人化しつつ、目の前の存在を思いっきり踏みつける。
鬼人回天連斬が、女王の鎧を超え、その体に傷を刻む。呆けたような顔で呆然と佇むアトラル・カ目掛けて、地面に突き刺した大剣を再度引き抜き、そのまま突進。
真溜め斬りの衝撃が、洞窟を揺らす。
破壊された玉座から落とされた女王が、その瞳を怒りに染める。
「あぁ、怒り状態!漸く本気を見せてくれるのね!貴女は!」
地面に突き刺された糸。
それが地面から離されると同時に、死者が蘇ったかのように、ゆらりとハンターを模した人形が立ち上がる。
それらは意思を感じさせない無表情な連携で、私を刈り取らんと迫ってきた。
あぁ、楽しい。私の体が傷ついていくこの感覚が。きっと貴方たちも、そう願っているのでしょう?いつか私が地獄に落ちるまで、そこに待っているのでしょう?
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もうギルドにバレたって構わない。『今』生き残ることに全力を尽くそう。
そう思って、吾輩は覚悟を決めてハンター人形を使ったが…うっそだろ、いやどういうことだ?
目の前の女ハンター、妙に対人戦に慣れていやがる!
何故モンスターを狩るのが仕事の狩人が、人体の効率的な壊し方を心得ている。何故、複数に囲まれた時の切り抜け方を理解している!
お前マジで何なんだよぉ、勘弁してくれよ!
眠りも効かない、麻痺も効かない、混乱は気合で乗り切られる。
ミラボレアスという現象を超えたハンターは、こんなにも強いものなのか…!
Tips:女ハンターは、別にミラボレアスの『狩猟』には成功してはいない。傷つけ、怒り狂った存在とも戦い、その戦いの末、満足そうに相手が去っていった。それだけである。
それ以降、彼女は大剣を使うようになり、ソロ専門の狩人になった。
かつては、その特徴的な美しい黒い髪に合わせて、なんかいい感じの二つ名で呼ばれていたかもしれない。
ちょうどXX主人公に当たる人物。
次回、黒龍(偽)vs黒龍(人)
感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変励みになっております。
大変申し訳ございません、感想へ全て目を通してはいるのですが、その全てへの返信は難しそうです。
次の番外編で使うかもしれない(エイプリルフールでつかうかも)
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掲示板if②
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擬人化if
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vsアルバトリオン