吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い   作:美味しいラムネ

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吾輩はアトラル・カである。ハンターとは怖い生き物である。

 

 

 

初め、その少女は英雄と呼ばれるにふさわしい証を持っていた。

元々狩猟を好む気質はあったが、それは目的ではなく問題解決の手段に過ぎなかった。人々を脅かす竜を狩り、時には国を滅ぼしかねない龍を狩り、多くの人々を救ってきたその姿は英雄と呼ぶに相応しかった。骸龍に喰らわれた人々の無念を晴らし、赤き災厄の彗星を墜とし、文明そのものを喰らう蠢く墟城を越えた。

その後も、多くの災害を、人々の声に応えるために狩り続けた。そしてある日、彼女は自身の所属する龍歴院ではなく、ハンターズギルド上層部から直々にある一つの依頼を受けた。

 

黒龍『ミラボレアス』の討伐。

彼女は、シュレイド城にて彼の現象と相対し、互いに少なくない傷を負いながらも、相手が撤退することで決着と相成った。

そして、傷つき、怒り狂った黒龍と、溶岩島にて再度相対した。

 

今でも鮮明に思い出せる。あの日の記憶は。

 

「待て、逃げるな…私を見ろ、ミラボレアス!」

 

全身が煤に塗れ、破裂した水膨れからは体液が流れ、全身を隈なく見ても傷の無い部位を見つけることが難しいほどに満身創痍になりながらも、目の前の紅く染まった黒龍を睨みつける。

砲身が歪み、弾を撃ち出すことも難しくなったヘビィボウガンを血が滲むほどの力で握りしめて、大地に倒れ伏した体を起こす。

 

そばに転がるのは、2つの家族だったものの残骸。

 

「───────────」

 

あぁ、何故私は壊れれば使えなくなるボウガンなどを使っているのだろうか。

これが刃なら、柄が折れ、刀身が砕けたとしても、その破片をあの体に突き立てることが出来たのに。

 

地面に転がった、人用の物ではない2本の武器を拾い、不慣れながらも双剣のように構えて、黒龍目掛けて突進する。

ああ、憎い憎い憎い憎い、目の前の存在が憎い。

 

抵抗虚しく、黒龍の尾が振るわれるだけで、死にかけの私の体は吹き飛ばされる。

 

「あは」

 

でも、あの子たちの怒りは通じた。

黒龍の尾。その先端が綺麗に切断され、そこから奴は夥しい量の出血を始める。出血はすぐに止まったが、黒龍の血が、私の全身を覆い尽くす。

でも、そこまでだった。

体が崩れ落ちる。私は睨む。睨みつける。

 

その顔は、どこまでも歪んでいて、醜悪で、まるで幽鬼のようなその表情に、英雄と呼ばれた面影はどこにもなかった。

 

「ま、て…」

 

意識が薄れてゆく。

黒龍は、芋虫の様に這いつくばりながらも、己に迫ろうとする私を見て、満足そうに鼻を鳴らした後、何処へと飛び去っていった。

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

かつて英雄と持て囃された少女は、ある存在と出会ってから変わってしまった。

黒龍を狩るために黒龍の鎧に身を包み、黒龍を狩るためにその剣を手に持った。常人では考えられない量のクエストを、オトモも連れずに一人でこなし、人が変わったかの様に、どこまでも苛烈に龍を刈り続けた。

 

彼の黒龍と相対したものは、皆揃えて戦いの内容を話そうとはしない。その場にいた痕跡すら残さずに消えるか、発狂の末に狂死するか。

黒龍と相対するだけの力を持つものでさえ、その呪いには耐えられない。何処からか感じる視線に、自らの体が黒龍そのものへと変わっていくかの様な感覚に、死ぬその時まで使用者を苛ませる悪夢に、常に黒龍に捕らえられていくかの様な感覚にその心を壊され、最後には亡者の様に変貌し、人として死に至る。

 

勿論、彼女はそんなこと知る由もない。黒龍を狩るには黒龍の力を使うしかない、そう思っただけ。それが失敗だった。

 

しかし、彼女はその強靭な精神力で、呪い相手に不完全ながらも抵抗してしまった。

黒龍、あの存在を殺すまでは何としても生き続けると。

 

『黒龍の討伐依頼』を以ってしても消すことができず、その後に狂い、何処までも強大な存在へと変貌して行くその少女に畏れを抱いたギルド上層部は暴走して、直接的な手段に出たこともあった。しかし、その悉くは失敗した。

ギルドナイトは、確かに人を殺すことに関してはあらゆるハンターを越えるだろう。しかし、その相手が人の皮を被った古龍だったとしたらどうだ。

間違いなく、彼女はこのままでは『ミラボレアス』と呼ばれる存在の一種へと成り果てるだろう。

そして、彼女自身もそれは何となく理解していただろう。ミラボレアスを殺す前に、自分は自我を失った厄災へ変わり果てると。

 

だから、無意識のうちに自分を殺す様な依頼を選ぶ様になっていた。

もう、自死することさえ思いつけなくなった自分を、誰かに殺して貰うために。大自然の多くを喰らってきた私を、大自然へ還す為に。

しかし、私の中の黒龍は、傷ついた体を動かして、無理矢理生き延びさせる。同胞の誕生を祝福するように。

 

だから、もう限界だった。

アトラル・カ。貴女しかもう私を殺せる相手はいない。

 

私が、気まぐれで取ったこの依頼。偶然の出会いに全てを託すだなんて、随分と愚かだけれども

 

私の刃が、守るべき人々に振るわれる前に

 

 

 

「私を、私を殺してご覧なさい!あはははははははははは!」

 

 

私を貫こうと繰り出されるランスの全てを切り飛ばし、返す一撃でボウガンを持った人形を、原型を残さず破壊する。

暴虐の嵐が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

吾輩である。

突然襲来したプロハンに、理不尽にも消し飛ばされそうな吾輩である。

どうしてハンターがハンターを狩る術を持っているんでしょうね、ハンターを狩るハンターってそれモンスターハンターじゃなくてハンターハンターじゃねーかよ念能力でも使えるのかよ!

 

明らかに奥へ奥へ押し込まれているのは吾輩にもわかる。わかるからといってどうしようも無い、もう吾輩に手札は殆ど残ってないぞ!

 

「ピギャアアア(吹き飛べ!)」

 

横向きに放った隕石は、身を掠める様なギリギリの回避で避けられる。

ちくしょう、仮にも現実に生きる生物ならビビって多少は余裕を持って避ける筈だろう!

 

「ピギャアアアアアアアア(お前そろそろいい加減にしてくれよ吾輩死んじゃうって!!)」

 

中空に飛び上がったハンターは、そのまま体を捻ると月の軌跡を描く様にして大剣を振るう。

あっぶねえ盾の中にランスの盾仕込んでなきゃ即死だった。吾輩は一体何と戦わせられているんだ。一撃一撃が喰らったら痛いじゃ済まなそうな威力しているぞ!

 

だが、宙に飛び上がった今こそが好機!

 

横一文字に振るわれるライトニングブレードに、胴体からは計5門の大砲から粘菌の入った砲弾を放ち、上からは矢の様に降り注ぐ武器の雨。左右からは爆発的に冷気を拡散するハンマーと、ドボルベルクハンマーの挟み撃ち。加えて閃光玉と音爆弾、鱗粉にガスによる撹乱も合わせた今の吾輩に出来る最高の連携技だ!

 

……ハンターって怖いね。

流石にこの連撃だから何発かは直撃したよ。流石に一発で失神はさせれないとは吾輩わかっていたけど…まさか笑いながら受け切るとは想像してなかったぞ。追い詰められて笑う…まさか火事場ハンターなのか!?おいマジかよプロハンの中でもヤバい部類じゃねえかよ。

 

地を滑りながら迫る斬撃を回避する為に、吾輩は糸で思いっきり体を引っ張り後方へと跳ぶ。

長い洞窟の通路も、どうやら終着点へ着いてしまった様だ。

 

火竜が飛べてしまえそうなほどに広い大空洞。

溶岩の仄かな灯だけが、ぼんやりとこの天然の闘技場を浮かび上がらせる。

 

「うふふ、あはは!もう鬼ごっこは終わりよぉ!女王サマぁ!」

 

ぶんぶんと大剣を振り回して、マガイマガド人形とセルレギオス人形と激闘を繰り広げながら女ハンターは叫ぶ。

随分と吾輩を守ってくれた2体も、ここで役目を終えることになるのだろう。

 

 

 

…もう、やめだ。

 

 

吾輩は怒った。激おこである。

激昂状態といっても過言では無い。

 

 

吾輩の最終兵器。吾輩の誇る最強の()()()で構成された最強の鎧。最強の『竜機装(クロスドラゴンウェポン)』。

一生使うことが来ないだろうと考えてきたこれを、使う日が来るとは思っていなかったが…お前は、それに値する。

 

ほんの少しだけ、ワクワクする吾輩がいるのも事実だな。

だって、吾輩の積み上げてきた全ての集大成を、ぶつけることができるのだから。まぁそれ以上に死にたく無いのでさっさと倒れてくださいお願いしますこれ壊されたら今度こそ後がないんです。あとは炉心自爆生存チャレンジするしかなくなるんです。

 

糸に引っ張られ、地面から迫り上がってきたのは、鉄と肉、甲殻と鎧で構成された、通常の飛竜よりも巨大な1匹の機械龍。

知る者が見れば、間違いなく同じ感想を抱くであろう。

 

黒龍ミラボレアス。その紛い物だと。

 

龍の外装に女王が乗り込んだ瞬間、命が吹き込まれたかの様に胸に仕舞われた炉心が鼓動を始め、ギョロリ、と瞼に当たる部分が開く。

ぶぉおおおおおおんと、錆びたラッパを鳴らしたかの様な音が鳴り響く。

 

 

「あは、あはははは!ミラボレアス、貴女はこんなところにいたのね!あは、あははははははは!」

 

焦点の定まらなくなった目で、女ハンターは吾輩のことを睨みつけてくる。

ドラゴン装備を身につけているのだから、勿論これの存在は知っているのだろう。だがなぁ…吾輩のこの兵器を、ミラボレアスと全く同じモノだと見ると、痛い目見るぞ?

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

黒き翼を広げ、地面スレスレを滑空しつつ、ハンターの体に噛み付く。

腕を握り潰し、火薬岩へ叩きつけようとした瞬間、身を翻したハンターに拘束から抜け出され、お返しの斬撃を喰らう。

 

だが、吾輩は無傷である。仮にも黒龍を再現しようとした兵器。紛い物とはいえ、そう簡単に打ち破れると思うなよ!

口から吐き出された、大砲以上の速さの火炎を纏った岩石が連続で着弾すると、連鎖的に爆発が発生する。

爆風に揺られながらも倒れることだけは避けたハンター目掛けて、追加の火炎のブレスを放ち、同時にセルレギオスの刃鱗や、バゼルギウスの爆鱗で強化された大木の如き尾の薙ぎ払いをお見舞いする。

 

最初から、最初からこうすればよかったのだ!強靭、無敵、最強!

他の外装なら、こんな風にプロハンと正面切って殴り合うことなんてできやしない!

みろ、あのプロハンが手も足も出て…無いわけないわ、なんなら動きの勢いも上がってるぞこれ!翔蟲ないのに翔蟲アクションみたいなことしてるんじゃねーよ、クラッチクロー無いのに鎧の装飾で無理矢理傷つけるんじゃ無いよ、お前本当に人間かよ!

 

バルファルクも斯くやといった速度での突進に合わせて蹴りを放ち、そのまま空間の天井にハンターを叩きつける。

普通ならそのまま落下して気絶でもするのだろうが、目の前のこいつは違う。

 

どんな攻撃で吹き飛ばそうと最短距離で復帰して、再度攻撃を繰り返す。

上へ弾こうと、回転をかけようと、炎で炙ろうと、臆することなく突撃を繰り返す。

 

これでは、この鎧もいつかは砕けるな…だが、そんなことは折り込み済み。

次、吾輩の正面にハンターが降り立った瞬間、最後の勝負に打って出る。それが吾輩の生存を賭けた、一世一代の大博打だ!

 

翼でハンターを横へ吹き飛ばし、尻尾を叩きつけ、徐々に、徐々にその軌道を誘導する。

そして、切り結んで幾百合。

いい知らせと悪い知らせがある。いい知らせは、遂に、ハンターを吾輩の正面に捉えたこと。そして悪い知らせは──そのハンターが、獣宿しをしつつ、武技を放つ寸前であるということ。

 

 

「砕ケ散レ!!!」

 

ファーストコンタクトと同じ、獣宿しを併用した地衝斬。しかし、その威力は初めのモノの数倍を優に超える。

 

「ピギャアアアアアアアアアアアア‼︎(耐えきれ、吾輩の翼あああああああ!)」

 

盾の様に広げた翼と、その前に展開した盾とが、ハンターの放った、本日最大の一撃とぶつかり合う。

その衝撃は、黒龍を模した翼を端から徐々に削り取る。金属と金属の擦れ合う嫌な音が響く。バキバキと何かが折れる音がする。

翼が根本から完全に消失する。それと同時に、衝撃の進行も止まる。

 

「ピギャアアアアアアアア‼︎(捉えたぞ、ハンター!)」

 

炉心が輝く胸が開く。

その中に鎮座していたのは、金属製のリオレウスの頭を模した彫像。

その兵器の名は『滅龍砲』。

これは、散歩中に吾輩が見つけた、まるでラオシャンロンが散歩をしたかの様な荒れ具合の森林跡地の、巨大な足跡の横に落ちていた超兵器。火竜の延髄がふんだんに使われているらしいそれは、吾輩の改造により僅かだが小型化、そして強化が施されている。

鉄の火竜の口から、火に耐性を持つ飛竜さえ一撃で火だるまにする人類が作り上げた至高の一撃が放たれる。

 

──あくまで吾輩の切り札は、黒龍外装という『兵器群』。この肉体だけが切り札だとでも思ったか!

 

圧縮された大火球は、絶対回避の力でギリギリ回避される。

瞬間、着弾。石を一瞬で融解させる威力の豪炎が、産声を上げる。遅れて到達した風圧が、無理矢理回避したハンターの体勢をさらに崩す。

 

「ピギャアアア!(システム起動──『劫火』ッ!!)」

 

あくまで滅龍砲はサブ。

本命は、吾輩の火力の全てを注ぎ込んだ、世界を焼き尽くすとされる黒龍の息吹を再現した超常の火炎。

翼を壊され空に飛び上がるのは無理なので、金の糸に吊り下げられるというなんとも間抜けな絵面ではあるが、吾輩は宙に浮かび上がる。

点火。そして解放。

体勢を崩したハンター目掛けて、追い討ちの劫火が放たれる。

 

地面が、大気が、空間を構成する岩石そのものが発火する程の灼熱。

ここにはお前を守る防護壁なんて無いぞ!さぁ、そのまま死んでしま…いや殺したら不味いんだった!

 

一度発動した劫火は止められない。

数秒間に渡る超高熱のブレスが終わると、そこには大地に倒れ伏し、動かないハンターの姿が。

 

「ピギャアアア(あれこれ吾輩やったか、殺ったか!?)」

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

動かない、心臓ももう動いていない。はずなのに。

どくん、外部にも聞こえる程の音で、目の前の彼女の心臓が鼓動する。

 

どくん。黒い命が脈動する。

黒い焔を纏って、彼女は立ち上がる。それは、『最期ノ閃黒』。黒龍の力が、無理やり彼女の体を蘇らせる。ミラボレアスが、「殺せ」と頭の中で呟き続ける。

怨念を秘めた大剣を構えた彼女は、一言も発することなく、ただただ全身全霊を込めて大剣を振り下ろす。

 

 

 

それを迎撃するのは、粘菌と鬼火、そして僅かだが採取できたテオ・テスカトルの粉塵と、劫火の残り火を束ねた撃龍槍。

 

 

大剣の切先と、回転しながら迫る撃龍槍がぶつかり合う。

瞬間、刀身にヒビが入る。そのヒビは徐々に拡大し始め、次にその刀身は硝子の様に砕け散り、その勢いは鎧まで波及すると、最後には全身を覆っていた黒龍の鎧、そのものが完全に砕け散る。

 

 

頭の中の靄が晴れる。

彼女を蝕み続けていた、黒龍の呟き声が消える。

 

 

呟き声が聞こえた。

 

「ありがとう。」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吾輩である。

さて。

 

 

 

 

 

目の前で失神してるハンターはどうするべきなんだろうかっ…………!一時のテンションに任せて生き残ったはいいけど後処理がっ!

 

 

 

 

 

 

 

 









アトラル・カくんちゃんは、四天王bgmのアレンジから始まり、無限の勇気を持ちてが流れて、最後のXX仕様の英雄の証が流れるタイプのボスだけど大体一曲目の途中で逃げられるからクソモンスの部類だね。

Tips:ちなみに王女さまの依頼が通ったのは9割白い衣を着た誰かさんの所為。

感想、評価、誤字報告などありがとうございます、大変励みになっております。


次の番外編で使うかもしれない(エイプリルフールでつかうかも)

  • 掲示板if②
  • 擬人化if
  • vsアルバトリオン
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