僕たちの死路   作:にいちゃみ

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ビミョーにかっ飛ばした。


第二話

 

 

 「最近はどうだ?腰が痛いか?」

 「年寄りをなめないでください。いつでも腰は痛いですよ」

 「さらに老いぼれたね」

 「酷くないですか」

 「フリーレンの言う通りだ」

 「酷くないですか」

 

 

 年々、合いの手みたいに罵りが上手くなっていると、自分でも自覚しながらヒンメルは意地悪く笑った。

 ハイターは眼鏡を反射させて乾いた笑い声をあげている。

 机に、小さな手によって三つのお茶が置かれた。湯気の立ったお茶を、お礼を言ってヒンメルは受け取った。

 

 

 「ああ、そういえば見たぞ。ハイター。生臭坊主からロリコンに昇格したみたいじゃないか」

 「犯罪だよ」

 「あはは、私をなんだと思ってるんですか。二人とも」

 「「ロリコン僧侶」」

 「あはは……手痛い」

 

 

 かつての仲間の信頼の無さに、ハイターがポロリと嘘泣きする様子をヒンメルは微笑を称えて眺める。

 勿論、本気でそうだとは思っていない。何か訳があるのだろうと察していた。隣にいるフリーレンも事情説明を求めるように静かに口を閉じる。

 二人の目線に気づいたハイターは、信頼されてますねと自分のことなのに他人のような口振りで苦笑しながら目の前の湯呑みに手をつけた。

 

 

 「あの子は戦災孤児ですよ。たまたま拾ったんです」

 

 

 両親を失くし、あの子が一人になって身を投げかけたときに私が拾ったのですよ。死ぬには少し早すぎるのではと。

 ハイターは口にしつつも、視線をどこか泳がせていた。

 

 

 「らしくないね」

 

 

 隣にいるフリーレンがズバッと言う。ヒンメルは遠慮がないなぁと困ったように続いた。

 自覚はあったのか、ハイターも苦笑をする。

 

 

 「そうですよ。らしくないですね」

 

 

 またも他人事のようにハイターは同意してからお茶を啜った。

 

 

 「ま、いいんじゃないか!」

 

 

 ヒンメルがそこに切り替えるように声を出す。一斉に視線を向けられても動じずにヒンメルは笑みのまま言葉を続けた。

 

 

 「ハイター。お前が、誰かの面倒を見て、育てて、救いになったこと。僕は純粋に嬉しいんだ。確かに生臭坊主にはらしくはないと思うがね」

 「……私も。責めているわけじゃないよ。らしくはないと思ったから言ったけど。いいことだし。生臭坊主だけど」

 

 

 ハイターが優しいのは元からのことだ。冒険ではヒンメルが一番行動的に人助けをしていたが、ハイターだって、僧侶の名の通り、慈悲深く、人の救いを願っている。胡散臭さは否定しないが、それでも妙に人間臭い納得させる芯を持っていた。

 

 

  「二人とも……最後は撤回していただきたいですね」

 

 

 ハイターは困ったように笑窪を作りながらどこか嬉しそうな声色をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「良ければ、あなた方の旅にあの子を同行させてもらえませんか?なにぶん、私には子育てが向いていないので」

 「それは……」

 

 

 一瞬冗談かと思ったが真っ直ぐとブレがなく瞳を見つめられて本気だということが伝わる。言葉を簡単に続けることは出来ずに口を閉じた。横目でフリーレンを確認する。フリーレンも目を見張って多少は困惑しているようだった。

 

 

 「どうする。フリーレン」

 「申し訳ないけど、無理だね。知人から預かった子をみすみす死地に入れることは出来ない。それに、実戦における見習いの魔道士の死亡率の低さ。ハイターだって知らないわけじゃないでしょ」

 

 

 冷静に現実的に、けれど決して無下にしないよう言葉を選び、フリーレンが目線を下ろす。どうして、そんなことをいきなり言ったのかフリーレンは理解していないようだったが、ヒンメルはなんとなくハイターの思考を読めていた。まぁ、残念な結果に終わったわけだが。

 この旅はあくまでフリーレンのものだ。ヒンメルの旅はあの日で終わったし、自分の旅をもう一度続ける気にはならなかった。

 

 

 「そうですか。残念です」

 「ずいぶんとあっさりしてるな」

 「無理なものは仕方ないですからね」

 「あっさり過ぎて怖いぞ。ハイター」

 「ですかね?あはは」

 「フリーレン気を付けろ。こういうときのハイターは何か企んでる」

 「うん」

 「酷くないですか?」

 

 

 ひどいさっきはちょっと感動したのにと言うハイター。まだまだ、元気そうだ。病気の線は薄いようである。ヒンメルはそれにひとまず内心ほっとする。もう100近くになる幼なじみはいくつかの持病を持っていてもおかしくはないからだ。

 

 

 「一つ頼みごとがあるんです」

 

 

 自分だったらどんな年寄りになっていたのだろうと今ではありもしない空想に成り果てた思考を飛ばしているうちに、笑みを浮かべたハイターが二人にそう言葉を投げ掛けた。

 

 

 

 

 

 「五年は掛かりそう」

 「そうですか」

 

 

 フリーレンが分厚い本を閉じる。あ、これ完全に図ったなとヒンメルはそう感じた。ジト目でハイターを見つめる。それに気づいたハイターは眼鏡を上手いこと反射させていやぁー長いですねぇと軽快な笑い声を上げた。幼なじみの行動にヒンメルは仕方ないやつだと口をすぼめる。策略に嵌められたとは気づいていないフリーレンは黙々と本を眺めていた。

 

 

 「五年後かぁ。ちょうど流星群の時期じゃないか?」

 「そういえば、そうだね」

 「懐かしいですね。あれを見ながら酒を酌み交わしたことを思い出します」

 「酒のことしか覚えてないじゃないか…」

 

 

 ヒンメルがひきつるように言うとハイターはアハッとまたもメガネを反射させて笑う。変わらない誤魔化し方に、このヤロウ!と肩を組んで、グリグリと頭を乱暴にならない程度にかき混ぜた。

 

 

 「フリーレン、君が綺麗に見えるところ。連れってってくれるんだろう」

 「ふふ、楽しみですね。期待してます」

 「まぁね。せいぜい期待しといてよ」

 

 

 パタンっと本を閉じて、いまだに嵌められたことも気づかずにフリーレンは自信ありげに胸を張って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーレンは、本を解読している合間でフェルンという子供の指導もするようになった。

 ヒンメルは特にすることがなかったので、のんびりとその様子をハイターと眺めている。勇者の旅以降、廃人真っ逆さまなヒンメルにフリーレンはちょっと呆れているのは内緒だ。

 

 

 「ハイター。なんであの子を拾ったの?」

 「おや…やはり気になりますか?」

 

 

 フリーレンはヒンメルが席を外したうちにハイターにそう聞いた。フリーレンの知るハイターは、理由もなくそんなことをするように思えなかった。勿論、ハイターが優しいことは知っている。けど、進んでヒンメルのように人助けをするような人間ではなかったのは確かだ。

 

 

 「そうですねぇ、気恥ずかしくて彼の前では言えませんでしたが」

 

 

 ハイターが静かに遠くを眺めて話す。

 

 

 「ヒンメルみたいなことをしたくなったんです」

 

 

 そう語るハイターの顔は少し寂しげなような気がした。

 

 

 「ヒンメルは最近……といっても私にとっては随分前ですが人前でマントを被るようになりました」

 

 

 確かに、ヒンメルは勇者の旅以降、マントを被り、身バレを防ぐように行動することが増えたのは事実だ。曰く、変わらない自分の姿を見せてしまえばびっくりさせてしまうだろうという配慮の下にヒンメルが自主的に行っている。

 ただ、無地のマントじゃ味気ないとアロハ柄のマントを買ってきた時は、本気で置いていこうと思ったが…。フリーレンは当時を思い出してあーと目線を泳がす。あのマント、ひっぺがすのめちゃくちゃ大変だった…。

 

 

 「人助けは変わらず続けているようですが、それでも名前を名乗ることはせず去るようになって……」

 

 

 ハイターはそこで言葉を区切って、窓の外を見る。

 外にはヒンメルと特訓から終わって疲れたフェルンが話していた。フリーレンもその姿を見て思考を止めて笑みを浮かべる。外の二人は楽しそうに木漏れ日の下で話していた。

 

 

 「……変わったんだなぁと」

 「そんなに変わったかな」

 

 

 フリーレンには、やはり何も変わっていないように見えた。気儘に笑っている姿だって、前から変わらない。フリーレンの知るヒンメルはいつまでも真っ直ぐで実直な青年だった。

 

 

 「変わりましたよ。ヒンメルは」

 「………」

 

 

 けれど、ハイターは強く再度言った。

 

 

 「私はそれが酷く寂しく思えたんでしょうね。彼と会うたびに変わらない容姿をしていても、もう、私の知る彼ではないのだって気づいてしまった…」

 

 

 ハイターの視線が下がる。

 

 

 「私にはもう、ヒンメルの悩みと苦悩が分かるわけではなくなった。それを誤魔化してしまうほど、随分前からヒンメルは大人になって、遠くになってしまった」

 

 

 ハイターの声色は酷く寂しそうで、フリーレンはここで初めて、漸くハイターがやるせなく思っていることに気がついた。ハイターは、もうヒンメルの悩みを分かち合えることが出来ない。それは、疎遠になったからではなく、ヒンメルはもう”人間”として生きれない現実だった。

 確かに、ヒンメルはまだ人間の部分を残している。けれど、ヒンメルとハイターには決定的に分かち合えないものが目の前に転がっていた。

 

 ー老いだ。

 

 フリーレンですら、人間の老いと流れを理解しきれているわけではない。なんなら欠片とも理解していないかもしれない。それはヒンメルよりもー。

 ただ、それの何が問題なのか。フリーレンには理解出来なかった。

  

 

 「だから、年甲斐もなく示してやりたかったのです」

 

 

 ハイターの視線が上がる。

 目の前のフリーレンの困惑など気づかず、力強く真っ直ぐと前を向いて、自分に語りかけていた。

 

 

 「私が、いまだに知る彼に救われたのだと。変わってしまった彼に私は救われてーまた変わったのだと」

 「そっか…」

 

 

 フリーレンはついに何も言えなくなってそれだけを口にした。これは一度も人間として生きたことがないフリーレンには、分からないことだと察してしまったからだ。

 

 

 「フリーレン。あなたも随分変わりましたね」

 

 

 ハイターは、優しげな穏やかな顔をして向き直る。ハイターの瞳に写った自分を見て絞り出すように呟いた。

 

 

 「そう、かな…」

 

 

 フリーレンはいつも通りの安直な答えしか出せない。そんな自分を何も変わっていないと内心で思いながら、複雑な感情に蓋をした。

 

 

 

 ーーーヒンメルが、変わったってなんだ?

 

 

 

 だって、フリーレンにとっては今でもヒンメルが”勇者”だったから。

 

 

 




11巻読んで悲鳴あげたわい
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