僕たちの死路   作:にいちゃみ

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スピード重視運転だから本当に中身が薄くて申し訳ない……


第四話

 

 「綺麗だ」

 「綺麗だね」

 「綺麗です」

 「綺麗だな」

 

 

 折角の光景に全員同じ感想を言うとは…。

 ヒンメルは少し遠い目をした。

 

 

 「綺麗ばっかりですね。品がない」

 

 

 案の定と言うべきかはっきりとハイターが毒舌で言う。こういうときのハイターはわりと正直だ。

 

 

 「仕方ないだろ。頭脳担当は僕たちの中にはいないんだから」

 「バカしかいないな」

 「私は違うよ」

 

 

 流星群を眺めながらヒンメルたちは口々に言い合う。旅の大半は軽口で済ましているような気がする。端から見れば、かつては勇者一行だったと言っても信じないに違いない。

 

 

 「嘘つけ」

 「嘘だな」

 「嘘ですね」

 「ムー」

 

 

 ふて腐れたフリーレンの声を鈴虫の声がじんわりと打ち消す。

 流れる星は落ちているわりに辺りは静寂で、空の目映さだけが取り残されていた。

 

 

 「ありがとうございます。フリーレン。最後にとても楽しい冒険が出来ました」

 「………どういたしまして」

 

 

 ー最後か。

 

 ヒンメルはその言葉を飲み込んで息を吐く。いつか来るであろう最後を思い浮かべることがいまだに出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 「ハイター。いつまでフリーレンを騙すんだ?」

 「さぁ、なんのことでしょう」

 「惚けるなよ。フリーレンは気づいてないが君と僕は旧友だ。すぐ気づくさ」

 

 ヒンメルが肩を竦めて言う。

 まるでいつも通りで変わり映えのしない友人は記憶の通りであってー少し異質だ。

 ハイターはそれに目線を下げて笑った。

 

 

 「そうですね……そうだとよかったんですが」

 「?…なにか言ったか?」

 

 

 ヒンメルが不思議そうに聞き直す。本当に聞き取れなかったようでもう一度と再度言った。その様子はほんの少しだけ必死で余裕がないようだった。垣間見えたそれに、ハイターは瞠目する。

 

 ーああ、動揺しているのですか。

 

 随分と悩みを気取らせないようになった旧友は、ハイターに忍び寄る死に今はじめて“怯え”を見せているのだ。

 

 

 「いいえ、何も。好きな相手に五十年以上告れないやつがよく言ったものだなぁと」

 「ぐはっ」

 

 

 ハイターはヒンメルの気分が切り替えるように敢えて言葉を選んで放った。

 致命傷に達する急な攻撃にヒンメルが大袈裟なリアクションする。それがいつも通りのヒンメルを戻したようで、一先ず落ち着いたようだ。

 自分で咄嗟に放ったわりにそれが寂しくてけれど同時に安心した気持ちもあって、ハイターは誤魔化すようにハハハと笑い声を上げた。

 

 

 「いい加減告げたらどうですか」

 「……それが出来れば拗れてないよ。というか、いつから?いつから気づいてた?」

 「えー、確か、彼女をパーティーに入れてわりとすぐに……」

 「ぐっ」

 

 

 またも致命傷を負ったようにヒンメルがお腹を庇いながら後退る。そんなあからさまな反応をされると気分が乗ってしまうものである。

 

 

 「そ、そんな序盤から…」

 「いやぁ、分かりやすかったですよ。あなた」

 

 

 ー具体的に言うとほにゃららほにゃらら。

 

 悪どい性格がひょっこりと顔を出して、自分の口から出るわ出るわ。当時の焦れったさから来る鬱憤も含まれていたのかもしれない。ハイターは言い切った後、清々しい気持ちで興奮状態の呼吸を改め、額の汗を拭ったが、ヒンメルは赤面して完全にうずくまってしまった。

 

 

 「……僕は死ねる」

 「いや、死ねませんでしょうに」

 

 

 物理的に。

 最早、死の概念がない旧友にハイターは一人突っ込んだ。

 

 

 「そんなに気づいてたなら言ってくれればよかったのに」

 「あなたは、伝えないと心に決めている人に、わざわざそんな無粋なことを聞きますか?」

 「………それも分かっていたのか」

 

 

 ヒンメルはうずくまった顔を少しあげて困ったように笑みを作った。口にこそしなかったが、ヒンメルがフリーレンに好意を抱いていたのは一目瞭然だった。それこそ、立ちよった村の人々でさえ気づいていたときもある。

 けれど、そこに余計な邪推や促進をさせないようハイターは静かに立ち回っていた。

 ヒンメルの想いが少しでも尊重させてやれればいいと思っていたからだ。

 

 

 「あの時のあなたは分かりやすかったんですよ」

 「そんなに?」

 「ええ、私がものの一分で嘘を見破れるぐらいに」

 「…言い過ぎだろ」

 「ええ、言い過ぎです。けど、それぐらい分かってしまうぐらい親しくて近かった…」

 

 

 あの時のヒンメルは勇者だった。遠くもなく近くもなく、弱音を吐くこともなく信じた道を走る青年だった。いつまでも勇者なわけではないのに、ハイターはずっとヒンメルを勇者として見てしまっていた。お陰で随分遠くにいかれた。もうヒンメルは”勇者“ではないのに。

 

 

 

 「ヒンメル。随分遠くに行きましたね」

 「そうか?目の前にいるだろう」

 「いいえ、遠くに行きました。目を凝らさないとわからないぐらいに遠くに行きましたよ」

 

 

 ーヒンメルが何に怖がっているのか気づかないほどに。

 

 確証があるわけではない。だって、ヒンメルはそれぐらい“勇者”らしく保ってしまっていた。

 今でも、ハイターはヒンメルの後ろ姿を見るとあの時の日々を思い出す。それはハイターであってもヒンメルの姿が記憶から一寸とも変わっていないことの証明だった。

 

 

 「仮に本当に僕が遠くに行ったとして、お前はもう僕の幼なじみじゃないのか…?」

 「!…そんなわけないでしょう。どれだけ離れたってこの腐れ縁は切れませんよ。お酒とつまみのような関係です」

 「ぷはっ、お酒のことばっかりだな!」

 「もう流石に飲んでませんけどね」

 

 

 ヒンメルがあんまりに心細そうにするのでハイターは反射的に言い繕ってしまう。けれど、本心であった。

 ヒンメルとハイターの間には切っても切れない縁がある。他人に言わせれば脆い関係でもヒンメルとハイターにとっては固い絆で懐かしい思い出だ。

 だからこそ、分かっていて、もっと早く気づいてやるべきだったのだ。

 

 

 「フリーレンは今日のことですが、気づきましたよ」

 「…そうか」

 「ちょっと嬉しそうでした」

 「だろうな。たまには騙されたいときもあるさ」

 

 

 ヒンメルの手がハイターの手と重なる。

 ヒンメルの柔らかな目線はもう二度と立たなくなった足を慈しんでいるかのようだった。

 

 エイラ流星を見て帰宅して間もなくハイターは、足を動かすことが出来なくなってしまった。

 フリーレンはその場面にちょうど居合わせてハイターを介護してくれたのだ。

 

 その際に、種明かしをしたのである。

 

 フリーレンは言葉では怒っていたが、その口元はどこか嬉しそうだった。

 

 

 「今日はもう寝るよ」

 「そうですか。寂しいですね。ヒンメルのことだから、泣いて踞るのかと思いましたよ」

 「してほしいか?」

 「まさか」

  

 

 頷けば、本気でしそうで冗談も言えなくハイターはそのまま言った。ヒンメルは、それに目を細めるだけだった。

 

 話を聞くべきだろうか。自分から。

 

 ハイターはふとそんな考えが浮かぶ。けれど、それだとヒンメルは何も変わらない態度を示すだろう。少し誤魔化し混じりの困った顔をして何でもない風に笑う姿が容易に想像出来る。

 …そう思うと何も聞けなかった。

 

 

 「おやすみ」

 「おやすみなさい」

 

 

 ー答えてもらえなかったら傷つくのはハイターの方だったからだ。

 

 

 「弱くなりましたね私も…」

 

 

 その後ろ姿が消える前にハイターはボソリと呟く。

 

 

 「……あなたも」

 

 

 世界を救った青年が負った小さな綻びを安易に見逃してしまった自分を悔いながらーーー。

 

 

 

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