僕たちの死路   作:にいちゃみ

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第六話

 

 ヒンメルたちは王都を出てからフリーレンを主導にのんびりと旅をしていた。勿論、道中はフェルンの修行も兼ねて行っている。最近は、魔物に対して一歩も臆することがなくなったフェルンをヒンメルは微笑ましく眺めていた。

 

 

 「フリーレン様って本当に魔法を集めるのがお好きですよね」

 「確かにフリーレンはよく変わった魔法を集めてるな」

 

 

 唐突なフェルンの言葉にヒンメルは思い出を振り返りながら同意した。フリーレンの美徳ではあるのだが、いろんなものに無頓着な性格を考えれば、不自然に魔法だけが浮き彫りになる。ーようは、魔法だけがフリーレンにとって特別なように見えるのである。

 

 フェルンが例えば、と例をあげるのをヒンメルは同意するように相槌をうつ。

 

 

 「残念だけど、ほどほどだよ」

 

 

 その光景を振り返らずに前を歩いていたフリーレンは言った。そういえば昔も似たようなことを言っていたことを思い出し、ヒンメルは困ったように眉を寄せた。いまだにフリーレンの心境の変化はないらしい。

 

 

 「そうでしょうか、少し違う気がします」

 「同じだよ」

 

 

 フェルンが少し意地を張って追求していたが、フリーレンはそう言ったきり、結局振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 「ヒンメル様の像を綺麗にしてくださってありがとうね」

 

 

 自分の像の錆がとれるのをヒンメルは嬉しげに眺めていた。

 

 うん、相変わらず僕はかっこいいね。

 

 小学生も考えないだろう思考を浮かべながら満足げに頷く。その様子を見ていたフリーレンが心なしか呆れたように眉を寄せた。

 

 「でも、少し寂しいわね。彩りがほしいわ。後で花でも植えようかしら…」

 「確か、フリーレン様は花畑の魔法を使えましたよね」

 「うん……適当の花でも……いや、蒼月草の方がいいかな」

 「蒼月草…?ですか?」

 「ヒンメルが好きな花だよ。ね?」

 

 

 話を降られてマント越しにヒンメルは頷く。久しぶりに聞いた花を思い出して頬を緩めた。

 

 

 「うん、とても綺麗なんだ」

 「それはどのようなお花なんでしょうか」

 

 

 フェルンが不思議そうにヒンメルとフリーレンに聞く。二人は、ゆっくりと顔を見合わせてから首を降った。

 

  

 「知らない」

 「僕しか見たことないからね」

 「えぇ」

 

 

 確かに、勇者一行の冒険が終わって暫くした頃に、ヒンメルが提案して蒼月草を探しに行くことにしたことがある。けれど、故郷に立ち寄ってもどこに行っても蒼月草は見つからなかったのだ。十年ほどチマチマと探し回ったが一向に見つかる気配もなかった。

 その時は、ちょうどアイゼンに会いに行こうという話になり、そこで自然と中断したのだが……

 

 

 

 

 「折角だし、また蒼月草を探してみようか」

 「ヒンメル様、正気ですか?話に聞けばここにあったのも何十年も前のことですよ」

 

 

 老婆からの情報をもらい、種の盗み食いをしていたシードラットを森に返していた最中、ヒンメルが唐突に言った。

 ヒンメルの言葉を聞いたフェルンが、嫌そうな顔をはっきりと示す。それに、苦笑しつつもヒンメルは言葉を続けた。

 

 

 「何回か、故郷に立ち寄って探したこともあったけどなかったんだ。ここならあるかもしれないだろう?」

 「ないとは言い切れませんが…」

 「そんなに長いするつもりはないよ。フリーレンにも、フェルンにも出来れば見せてあげたいんだ」

 「じゃあ、決まりだね」

 

 

 フリーレンが少しだけ嬉しそうに口角をあげる一方で、フェルンが諦めたように杖を構えた手をおろす。

 

 

 「はぁ、わかりましたよ」

 

 

 ちょっとだけ、ふてくされた声色がハイターの癖に似ていてヒンメルは場を読めずに吹き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒンメルたちが蒼月草を捜索し出してからの、

 ーある晩の話である。

 

 

 

 老婆が月明かりを元に庭先の花を眺める。鮮やかな色をした花は、ふんわりと風に揺られ、元気そうだ。

 

 

 「こんばんは。お嬢さん」

 「!……あら、夢でも見てるのかしら私ったら」

 

 

 鬱蒼とした森から青年の姿が現れる。その姿は、老婆が毎日のように通って磨いていた”勇者ヒンメルの像”と瓜二つだった。

 困った声を出す老婆に”ヒンメル”は少し笑って言葉を紡ぐ。優しい声色は、夜の静かな時間に安寧をもたらすような不思議な声だった。老婆の強張っていた緊張がほぐれていった。

 

 

 「そうだね。これは夢だよ。僕のことを大事に思ってくれてるから化けて出ちゃった」

 「当たり前よ。あなたは私を救ってくれたんだもの」

 「それでもだ。僕のことを覚えていてくれてありがとう」

 「ふふ。嬉しいわ。こちらこそ、あの日この村を救ってくださってありがとうございます」

 

 

 老婆は嬉しそうに笑って眺める。眩しそうに目を細めた。前に立ち止まった”ヒンメル”の手を皺の寄った手で優しく包む。

 

 

 「ヒンメル様は、本当におかわりがないわね。あの日の希望の光のまま…」

 「嬉しいことを言ってくれるね」

 「ええ、いつまでたってもヒンメル様のことはとても…とてもー感謝していましたから」

 

 

 頭を垂れる老婆は敬意を表すように、暫くの間動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヒンメルは小屋の前に向かうと小柄な人影が見える。ヒンメルは少し動揺したがすぐにいつもの調子に戻して小屋の近くまで歩きー立ち止まった。その小柄な人影はヒンメルを前にすると呆れたように眉を寄せた。

 

 

 「ヒンメルって最近姿を表すようになったよね」

 「まぁね、」

 

 

 ヒンメルの帰りを待っていたフリーレンがその返事に息をつく。呆れているようだ。さすがに罰悪くてヒンメルも首の後ろを指で掻く。

 

 

 「大丈夫なの」

 「フリーレンだって隠してないじゃないか」

 「私は……だって、ヒンメルみたいに人の記憶に残ってないよ。ヒンメルよりは像だって立ててもらってないし」

 「それでも、覚えられてるだろ?」

 

 

 フリーレンだって像がないわけではない。ヒンメルは数多く自身の像を残したが、二人の覚えられている数は、”まだ”そうかわりない筈だ。

 

 

 「……今はね。でも、私はエルフだ。不思議に思われることは少ない。呪われてしまったヒンメルと違ってね」

 「…それもそうだ。意地の悪いことを言ってしまったね。なるべく、誤魔化すようにするよ。心配ありがとうフリーレン」

 

 

 フリーレンが辛そうに発言をするのを、ヒンメルは少し肩をすくませて、大人しく心配を受け入れることにした。彼女が不安そうにするのはヒンメルだって本意ではない。

 

 

 「んっ…別に心配はしてないよ」

 

 

 ヒンメルが手を頭に乗せようとするとフリーレンが払い除ける。

 

 

 「ただ、あんまりヒンメルが目立つと旅に支障が出かけないからね。フェルンが可哀想でしょ」

 「ふふ、じゃあ、そういうことにしといてやるさ」

 

 

 無表情のエルフが顔を背けるのをヒンメルは嬉しそうに眺めていた。

 片手を上手く隠しながらーー。

 

 

 

 

 半年を過ぎた頃に、フェルンは近縁種の種を持ってきた。自分の気持ちを少しずつ話すフェルンにヒンメルとフリーレンは黙って聞いていた。

 

 

 「私はいいけど……」

 

 

 フリーレンがゆっくりとヒンメルを見る。

 

 

 「そうだね。そろそろ潮時だ。心配させてしまって、ごめんね。フェルン」

 「ヒンメル様……」

 

 

 ヒンメルはフェルンの頭をやんわりと撫でて言った。

 

 「けど、もう少しだけいいかな」

 「!…いつ、までですか」

 「ふふ、フェルン、そんな暗い顔をしないでおくれ」

 

 

 ヒンメルがフェルンの目線に合わせるように上体を下げる。にっこりと微笑むヒンメルは「ほら」と言葉を紡いだ。すると、フェルンの手元から重みが消える。ヒンメルの向けた目線に沿うようにフェルンが目を向ける。シードラットがそれを持って逃げていた。

 

 

 「あれを追い終わってから終わりだよ」

 

 

 ヒンメルが体を起こす。ヒンメルは自分の感じる確信に楽しげな表情をした。

 

 

 

 

 「長生きするようになってから、見聞が広がってね。シードラットは餌を外敵のいない場所に埋める習性を持つ。ーだから、もしかしたらって思ったんだ」

 

 

 歩きながらヒンメルが言う。ついた場所は低めの塔が立っていた。風に揺られて手元に何かが落ちる。

 

 

 「花弁だ…」

 

 

 フリーレンの驚いた声が耳に入る。

 自分の手のひらにも、明るい青色の花弁が乗った。

 

 

 「それに、シードラットは埋めた場所をよく忘れちゃうんだ」

 

 

 懐かしい花の破片にヒンメルは微笑みを浮かべる。最近の夢は、ハイターと花畑を回る日々を見ていた。何度も、だ。

 まるで、導かれるみたいにー。

 

 

 「フリーレン、随分遅くなったけど君に一番先に見てほしい」

 

 

 振り返ってヒンメルが促すとフリーレンはそのまま空中魔法を使った。ヒンメルの肌にフリーレンの魔法があたる。ふんわりとヒンメルの頬に触れた風はフリーレンが気を使って優しく浮かび上がっているの伝わってきた。

 

 

 「!」

 

 

 ー真っ青だ。

 

 ヒンメルを思わせる明るい青色にフリーレンも自然と目を細めて唇を緩める。それと同時に一時期探していた日々と見せたいと言ったヒンメルの顔を思い出した。 

 

 「………うん、とても綺麗だ」

 

 

 

 

 「フェルンは見に行かないのかい?」

 「…その、私も見てもよろしいのでしょうか?」

 

 フェルンは真っ先に諦め旅の続きを促した。あまりこの事に関心が持てなかったし、あるわけないと思っていた。

 失礼だった自分の態度を思いだしフェルンは自然と目線を下げる。

 フェルンの下げた視線をヒンメルは膝を地面について合わせた。

 

 「前にも言ったと思うけど。フェルン、君にも見てほしいんだ。フリーレンの次に君に見せたかったからね」

 「ですが…」

 

 ー”ハイター”と一緒によく見ていた花なんだよ。

 

 優しげなヒンメルの言葉にフェルンは思わず驚いて見てしまう。

 

 

 「ハイ、ター様と……」

 

 

 懐かしの恩人の名前は、口にするだけで胸を締め付けられた。

 

 

 「そうだよ。だから、見てあげて欲しいんだ。アイツもきっと喜ぶだろうからね」

 

 

 フェルンの手を優しくとりまるで王子様のようにヒンメルは促す。

 

 

 「はい」

 

 

 暖かい温もりに少しだけ泣きそうになったのと、嬉しさとをごちゃ混ぜにしながら、フェルンはヒンメルの手に答えるように力を込めてから、魔法で浮かび上がった。

 

 

 

 「!本当に蒼月草なんですね…」

 「うん。本と一緒だよ。これで蒼月草を咲かせられる」

 

 

 浮かび上がったフェルンはゆっくりと塔の上に立つ。下を見ればヒンメルが嬉しそうに笑って手を降っていた。フェルンもつられて笑みを浮かべる。不思議といまだに感じていた気持ちを吐露した。

 

 

 「フリーレン様は何故そんなに魔法に必死になれるのですか?この花は特別でしたが…やはりよく理解出来ません」

 「本当にただの趣味だよ。けど強いて言うなら、ー…私の集めた他愛もない魔法を褒めてくれたバカが居た。それだけだよ」

 「……そうですか」

 「フェルンだって、理解できないと言うけど、わかるはずだよ」

 「私は…別に、一人で生きていける力があれば、魔法じゃなくたって……」

 

 

 フェルンは目線を下げて言う。フェルンは足元にある花を優しく触った。

  

 

 「ーーーでも、魔法を選んだ」

 「!」

 

 「そう、ですね」

 

 

 過去を思い出しながら一輪を摘んで眺める。

 

 「そうです」

 

 再度フェルンはそう言って頬を緩めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさか、もう一度、蒼月草を見られるなんてね。本当に綺麗」

 

 

 老婆が嬉しそうな声色で、銅像を見上げる。優しくヒンメルの銅像を撫でた。

 

 

 「皆さん、ありがとうね。これならきっとこの像も忘れられずにすむわ」

 

  

 老婆はお礼を言って微笑む。その笑みはとても嬉しそうでヒンメルも自然と笑みを浮かべた。

 

 

 「あ、忘れてた」

 「どうしたフリーレン?」

 「折角なら乗っけようと思って……作る?」

 「…ああ、あれだね。僕も、久しぶりに作ろうかな」

 「?何をですか?」

 

 「「花冠」」

 

 

 フェルンが不思議そうに聞くとヒンメルとフリーレンは不敵に笑ってしゃがみこんで花に手をつけた。

 

 

  

 

 「あら、可愛らしい」

 「ムフー」

 

 

 勇者ヒンメルの像に、花冠がのせられる。正直ちょっぴり複雑だ。本人を差し置いて好きな子に飾り付けるなんて…。なんとも言えない微妙な表情を一瞬しつつ、ヒンメルは自分の作った花冠を優しく”被せた”。

 

 

 「じゃあ、”お嬢さん”も」

 「まぁ!フフフ、嫌だわ。年甲斐もなくとっても嬉しいわ。ありがとうございます”ヒンメル様”」

 

 

 

 フェルンが動こうとしたのをフリーレンが手を出して止める。フリーレンの目線は何もするなと訴えていた。いまだに心配していたがフリーレンにそうされればフェルンは杖を下ろすしかない。佇んでヒンメルとお婆さんを眺めていた。

 

 

 「僕と次、会うときまで元気でいてくれよ」

 「困るわ、生きているかしら。ヒンメル様ってとっても遅いんですもの」

 「アハハ、否定できないなぁ」

 

 

 困ったように笑うヒンメルは正体がばれているのにとてもあっさりとしていて、どこか嬉しそうに笑っていた。

 

 

 「じゃあ、せめて幸せに安寧に生きてくれ。君が幸せであることが僕が”勇者である”価値だからね」

 「ふふ、もう十分幸せですよ。ヒンメル様」

 

 

 最後の二人の会話は別れのような寂しさはなく、ただ二人とも幸せそうに互いの幸福を願っているようだった。

 

 

 

 

 村を出てからヒンメルが声をかけて、手招きするの不思議そうにフリーレンとフェルンが近づく。ヒンメルがマントからゆっくりと取り出した。

 

 「じゃーん!フリーレンにも、フェルンにも、可愛い花の腕輪だよ」

 「え」

 「?フェルンどうかしたの?」

 

 フェルンが戸惑った声をあげたので、フリーレンは聞く。ヒンメルも不思議そうだ。フェルンはその視線に、落ち着かないように目線を下げた。

 

 「…実は私も。お二人に作ってました。不器用なので少し形は歪んでしまったのですが…」

 

 

 頬を少し染めてフェルンは二つの腕輪を見せた。ヒンメルと比較すれば確かに形は歪んでいるが綺麗に編めている。

 ただ、それはつまり、二人にそこまで作れるほど、フリーレンが作るのが遅かったということだ。ヒンメルがフェルンを褒めている間にうっとフリーレンは後ずさる。

 

 

 「それ、って、私が作るのとても遅かったってこと…だよ、ね。ヒンメルなんて普通に花の飾り作ってたし…」

 「えっ!?あ!い、いや、大丈夫さ!フリーレンが一番綺麗だったよ!」

 「そ、そうですよ!フリーレン様が一番お上手でした!」

 「しゅん…」

 

 

 言葉ではそう落ち込みつつもフリーレンは両腕に着ける腕輪を見ると自然と頬を緩ませた。

 

 

 

 

 




ヒンメルの故郷と孤児院ってそこまで離れてなさそうだしハイターと一緒に一度は見に行ってそうと思った…以上ッッ!


独自解釈とか考察とかつけた方がいいのかな……(ー_一)
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