硝子とは幼馴染ですよ   作:ノワールキャット

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第四話 vs土地神_参

「千里!?」

 

硝子は焦っていた。

 

千里の咄嗟の機転によって生存者2名と一緒に領域外から逃れることが出来たものの代わりに千里が領域内に閉じ込められてしまった。いくら【吸収】の術式を持つ千里でも脱出は困難を極めるだろう。

 

領域展開は自身の生得領域を体外に結界を用いて創り出し、相手を閉じ込める呪術の極致である。領域内では『術者の環境要因によるステータス上昇』、『術式を基とした攻撃の絶対必中』の二つの効果がある。だが、強力な反面、デメリットも大きく『莫大な呪力消費』、『術式の一定時間の使用困難』が領域の解除後、この二つのデメリットが術者に襲いかかる。

 

もちろん領域展開に対しての対処法もいくつか存在する。

 

一つは自身も領域を展開すること。この場合、より洗練された領域が押し勝ち、その場を制するのだ。

 

二つ目は呪力で攻撃を受けること。この場合は【落花(らっか)の情(じょう)】と言ったカウンター技などで対処出来るが、対応出来るのは単純な攻撃のみである。状態異常を付与する術式などの場合は呪力で受けることが出来ないのだ。

 

三つ目は簡易領域を展開することである。簡易領域を展開することで領域を中和し、領域に付与された必中効果を防ぐのである。

 

四つ目は領域外へ脱出すること。まず不可能である。理由としては領域は閉じ込めるのに特化している為だ。外→中は弱いが中→外に強いのが領域の特徴である。その為、外部からの領域の侵入は比較的容易である。しかし、領域は必中必殺の攻撃が入り乱れており、領域に引き摺り込まれた時点で勝ちが確定する領域の場合は尚更である。

 

(どうする!?どうする!?千里のことだからそう簡単に死にはしない。だけどいつやられてもおかしくない!)

 

硝子は頭を巡らせる。戦闘能力は皆無だが、医療知識は学生一で呪術に関しても五条ほどではないが知識は1年にしてはかなり有している。だが、知識を有していても実行が出来ない。帳程度の結界なら降ろすことが出来るが硝子が出来るのはあくまでも簡単な呪力操作の範疇のみである。

 

頭を巡らせる中、硝子はあることが思いついた。

 

(抜け道なら作れるんじゃないか?)

 

硝子が考えたことは領域の性質を使い穴を開けることだ。穴を開ければ領域が崩壊せずとも、千里なら異変を察知し、そこから脱出できるだろうという考えだ。千里の持つ【千里眼】なら硝子の空けた穴も問題なく捉えることが出来るだろう。

 

指先に呪力を集中させ、領域を突く。

 

─────ピシッ!

 

思った通り領域にはいとも簡単に穴が空いた。空いた穴がそこから広がっていき...

 

─────カシャアァァン!

 

領域を突き破り、千里が飛び出して来た。

 

「ナイスだ!硝子!」

 

領域外へ脱出した千里は火傷を負い、頭から出血をしていた。

 

「千里!大丈夫か!」

 

硝子はすぐさま反転術式を施し、傷を治癒する。千里の傷と火傷はみるみるうちに治っていった。

 

「調や滅は使わなかったのか?」

 

「滅は術式が使えないし、調でも術式の発動は遅れるからな。一番リスクなく使えるのが簡易領域だったんだ」

 

千里が領域を突き破ったことで呪霊の領域が崩壊していき、崩れ去る。呪霊は佇んでおり、その顔にはいくつもの青筋が立っている。怒っているのだろう...仕留められると思っていた獲物が極上の餌が後一歩の所で邪魔者が乱入したことで逃す破目になったのだから。獲物を逃し、憤慨しない生き物はいない。それは呪霊にも当てはまることであった。知能の無い呪霊は本能に従って行動し、理性を得た呪霊は本能を抑え込み、獲物を選ぶ。確立した自我と知性を持つ呪霊は自身の強さに絶対的な矜恃(プライド)を持つ。

 

「ジャッマ!スルナァー!」

 

呪霊が再び襲い掛かるが大した脅威ではない。術式は焼き切れ、領域展開によって呪力は枯渇した状態。呪力が少ない今だと身体を破壊された場合、身体を修復するための呪力も無いだろう。

 

「邪魔はお前だよ」

 

千里は焦らず術式反転で...

 

─────ドギャッ!

 

呪霊の上半身を穿った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

領域に閉じ込められた千里には呪霊の術式が襲い掛かってきた。簡易領域で対抗する千里だが、瞬く間に簡易領域を剥がされていく。

 

(早い!みるみるうちに簡易領域が剥がされてく!長期戦は絶対不利だ!一刻も早く呪霊を狩る!)

 

千里は駆け出し、呪霊ヘ攻撃を仕掛ける。

 

─────バキッ!

 

呪力を纏った打撃は呪霊の骨を砕く。しかし、その程度で呪霊は死なない。呪霊はニタニタと笑みを浮かべたまま、平然としている。蹴り上げ、頭を破壊しようとするが呪霊は仰け反り、簡単に避ける。

 

─────ジュッ!

 

「ッ!」

 

簡易領域が全て剥がされたのだろう領域の必中効果により術式が千里へと襲い掛かった。まず、火で炙られるように体が熱に包まれた。炎を発生させずに熱のみを千里に当てた。

 

(落ち着け!呪力で体を守るんだ!)

 

千里は厚みのある呪力で体を多い、守りに入った。炙られる感覚が消え、幾分か楽になった。しかし、呪霊の攻撃はまだ終わらない。呪霊が突撃してきたと同時にズバンッ!と体を斬撃のような何かで斬られた。呪力で体を守っているのにも関わらずだ。

 

(熱を糸のように細めやがったな!呪力の密度も高いから俺の呪力を貫通しやがった!)

 

─────【燦燦熱死糸(さんさんねっしいと)

 

限界まで細めた熱の塊が千里に襲い掛かった。領域内は術師のホームグラウンド、呪霊の術式精度が上昇し出力も高くなったことで千里の呪力も突破したのだ。

 

─────【シン陰流・簡易領域】

 

再び簡易領域を展開する千里。呪霊は問答無用で襲い掛かり猛攻を仕掛けて来る。鋭利に尖った爪を振り下ろし、呪力で強化した手で受け止め、振り上げて爪を叩き折る。そのまま頭を引き寄せ、がっちりと掴む。言わばヘッドロックだ。千里はそのまま首をへし折ろうとするが、ミシミシと音が出るだけで折れる気配はなかった。首を掴まれた状態だと言うのに呪霊は依然として笑みを浮かべている。

 

(コイツの余裕はなんだ!?いくら呪霊でも頭を捥ぎ取られたら終わりだぞ!)

 

千里は何か違和感を感じていた。根拠は無い。ただそう感じているだけで違和感の正体には気付けなかった。

 

(ん?何だ?この呪力は...!)

 

「まさか」

 

─────【熱死細線(ねっしさいせん)

 

運が良かったことと千里眼で呪力の違和感に気付いていたことが千里の命を救うことになった。その一撃は間違い無く千里の命を奪う一撃だった。【熱死細線】は熱を限界まで圧縮し、呪力で強化した熱の糸を放つ。一点集中型でどれだけ、呪力の壁を厚くしたとしても容易に貫通する。

しかし、千里は千里眼の動体視力で見切り、最小限の動きで回避した。それでも、動体視力が高くても体が追い付かなければ意味は無く、回避出来たがそれでも頭部の肉を裂いた。奇跡的にも頭蓋骨にまで達していないのが不幸中の幸いだろう。

 

(危ねぇ!後一瞬遅れてたら間違いなく死んでいた!それにコイツ、あえて必中効果を付与しなかったな!簡易領域はあくまでも結界を中和する。術式効果そのものの中和は出来ない!)

 

「クエル!クエル!」

 

─────バキッ!

 

首を捻り、90度に呪霊の首を曲げ、力一杯蹴り飛ばす。もちろん、この程度で祓えるとは到底思っていない。距離を取り、剥がされかけていた簡易領域を再び展開しなおすために時間を稼いだのだ。

 

(このままだとジリ貧だ。どうにかして呪霊が領域が保てなくなるほどのダメージを与えないと)

 

─────ピシッ!

 

「!?」

 

振り返るとそこにはみ知った人間の呪力。確認してからすぐさま行動に移る。綻びが生じた結界の縁を呪力を纏わせた拳で殴り付ける。

 

─────カシャアァァン!

 

領域は崩壊を起こし、千里は領域外へ脱出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「身体に異常は無いか?どこか痛む箇所は?」

 

「問題ない。やっぱ領域使える奴は一筋縄じゃいかないな」

 

呪霊の体は塵となって消えていき、消失した。

 

「補助監督に連絡は?」

 

「もう呼んだ。後数分で来るよ」

 

「そうか。じゃあ、神社の境内まで運んで来るのを待つか」

 

パンパンと制服に付いた砂や埃を落とすと生存者2人を担ぎ上げ、運んで行く。

 

「やっぱ強かった?」

 

「強いの一言で済めば良かったけどな。初めて領域を体験したがやばかったな。あそこまで早く簡易領域を削られるとは思わなかった。硝子が領域に穴を空けてくれなかったらまずかったかも。滅と調だと咄嗟のことに反応出来ないし、それにあの術はまだ開発したてだ」

 

「黄龍は使わなかったのか?」

 

「それも良かったかもしれないけど...祓われたら嫌だからな」

 

「だからか。相変わらず慎重だな」

 

「相手が相手だからな。警戒はしていた。おっ、着いたぞ」

 

会話をしているうちに神社に着くと2名の補助監督が到着していた。

 

「命に別状はないけど一応病院で診てもらって。俺たちは自分で帰るから」

 

「はい、分かりました。お疲れ様です」

 

「じゃ、頼んだよ」

 

補助監督が2人の生存者を連れて行くと近くに停めていた車に乗せて近くの病院へと連れて行った。

 

「俺たちも帰るか」

 

「そうだね。てか、千里。私に心配かけさせたのと私のおかげで助かったかんだから貸し二ね」

 

「いいよ。両方とも事実だからね。じゃあ食べに行く?寿司」

 

「もちろん。千里の全額奢りだからね」

 

「あんま高いの頼むないでくれよ。俺の金だって無限にあるわけじゃないんだからさ」

 

千里と硝子はお互い軽口を叩きながら神社を後にした。

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