天才
東京の郊外に位置するこの学校は卒業後も多くの呪術師が高専を拠点に活動しており、呪術師の育成のみならず任務の斡旋・サポートまで行っている呪術界の要。
そんな特殊な学校である呪術高専は特別な人間が集まる。その中でも今年度の新入生は更に特別な4人の人間が集まった。
まず1人目は呪術界で多大な権力を持つ呪術の名門
2人目は一般家庭出身でありながら単独での任務遂行が許される2級術師の階級を与えられた夏油傑。呪霊を取り込み操る【
3人目は同じく一般家庭出身であり、【
最後も同じく一般家庭出身である神原千里。家入硝子と同じく高等技術である反転術式を習得しており、類稀なる術式と眼を所持している。五条悟と同じく特異体質に属するもので【
呪術高専創立初となる、今まで一番の天才達が集まった代であり、黄金世代とも呼ばれた。彼らは呪術界の新たな風となるだろう、これからの呪術界が大きく変わる第一歩となると誰もが考えた。だが、そんな考えはすぐさま消えることとなる。彼らは文字通り天才でエリートであるのは間違いない、しかしそれを台無しにするほど彼らの性格に問題があり、学生一の問題児集団とも呼ばれた。
◇◆◇
「諸君、入学おめでとう。この度、呪術高専にとても優れた者達が入学してくれたことを大変嬉しく思う。君達の担任をすることになった1級術師の
「「「「...」」」」
反応無し、全員無言である。
夜蛾は早速頭を痛めた。呪術師は良くも悪くも自我及び癖が強く、プライドが高い。等級が高くなるほどその節は強くなり、特級ともなればまず言う事を聞こうとしない。唯一の特級術師である
今、夜蛾の目の前には4人の生徒が居る。彼らが一筋縄ではいかない面々であることは夜蛾は重々承知していた。
「まずは悟、君から自己紹介をしなさい」
「は"ぁー?何で俺が雑魚どもなんかに名乗らなきゃいけねぇの?」
「...」
夜蛾は内心ため息を吐いた。やはり、今年の生徒は癖が強い。先程、夜蛾が名指しした悟と言う生徒は呪術界御三家の一つ五条家の出身であり、次期当主だ。雪のように真っ白い髪を持ち己の特長的な眼である光輝く瑠璃色の瞳を隠す為、丸型のサングラスを付けている。高校生だというのに既に身長は180cmを超え、恵まれた体躯を持っている。おまけに五条家相伝の術式【無下限呪術】と【六眼】を併せ持った何百年ぶりの逸材である。
「...五条悟。呪術界の御三家の一つである五条家が出身の呪術師だ」
「おい、何勝手に紹介してんだよ」
明らかな殺気が滲み出る。常人なら過呼吸を引き起こしそうな圧と殺気を出すが、夜蛾含め、五条を除いた3人の生徒は平然としている。主に夜蛾に殺気が向けられているのが大きいのかもしれない。夜蛾も呪術師の等級としては規格外の特級を除いた最高ランクに位置する1級である。1級の呪霊はもちろん。たった数回だが特級の呪霊も祓ったこともある(他の術師と協力して)夜蛾はこの程度で臆することはない。
そもそも、御三家とは言わずともそこそこ名の知れた呪術師の名家であれば呪術高専に通わせる必要がないのだ。それが御三家ともなれば尚更である。
では何故、五条家の次期当主が呪術高専に通っているのか。呪術高専に通わせるべきと判断したのは五条悟の教育係を担当していた呪術師の提案である。その教育係は五条家子飼いの専属の呪術師であり、呪術界でも指折りの実力者であった。彼は元々、一般家庭出身であったが修行に余念がなく、日々研鑽に明け暮れていたそうだ。そして1級まで上り詰め、特級を祓うまでになったのだと言う。
そんな彼が五条家の現当主に高専に通わせるべきと提案したときはもちろん反対されたそうだ。だが「将来、有力な術師と悟様が懇意になればその有力な術師とパイプを持て、五条家専属の術師に出来るかもしれない」と言い納得させた。そして彼が東京校の高専に挨拶と報告の為に来訪したことがあったが実際は友達作りの為に高専に来るように仕向けたと言った。
『あの坊主は典型的な箱入りだ。世界を知らねぇ。今の実力だと準1級がギリだ。その上...とくに特級と相対したら確実に死ぬ。だからあんたの所に入学させたい』
『高専に通わせるとして此方である必要はあるのか?彼は御三家出身だろう?』
『だからだよ。
『それは勘か?』
『あぁ、勘だ』
この会話が夜蛾には根強く残っている。彼がどれだけ悟のことを考えているかよく分かった一面でもあった。
「五条くんと言ったかな?君は自分で自己紹介も出来ないのかい?」
粗暴で自分勝手な性格の五条に異を唱える男子生徒。
「はぁ?雑魚が俺に指図すんなよ」
「じゃあ君は幼稚園生でもできることが出来ないのかい?」
「...ちっ。五条悟だ。雑魚とよろしくするつもりはねぇから」
自己紹介の内容は最悪だが、諭すように言ったこの男子生徒は肝が座っている。初対面の相手でも相手を威圧する五条に真っ向からものを言える精神性は呪術師として見習うべきだろう。
「次、自己紹介しなさい」
「夏油傑です。よろしく」
夏油傑と名乗った男子生徒は切れ長で涼やかな目、高い位置で団子状にまとめた黒髪が特徴的だ。五条と同じくらいの体躯に恵まれ、カスタマイズしたぼんたん型の制服がよく似合う。世にも珍しい【呪霊操術】を扱う少年で自由自在に呪霊を操れるのだと言う。
「では次...」
何をやっているんだと...夜蛾は純粋にそう思った。同時にマイペースな奴らだと思った。残る新入生2人は机をくっつけ、絵しりとりをやっていた。男子生徒と女子生徒の組み合わせで男子は神原千里、女子は家入硝子と言う。
家入硝子。気だるげな雰囲気を纏う少女である。右目の下にある泣き黒子が特徴的で滑らかな茶髪を首元で揃えたショートカットにし、タイトスカートに上着は2人の男子生徒と相違ない制服となっている。高等技術である【反転術式】をマスターしており、自他共に反転術式を施すことが出来る稀有な存在である。
神原千里。術師一の呪力量に珍しい【吸収】の術式と【千里眼】の眼を持って生まれた少年。上着をコートのように丈を長くしているのが特徴的な制服だ。中性的な顔立ちをしており、右目にかかるように前髪を分けて、首元まで髪が伸ばされている。また、家入硝子と同じく反転術式を習得しており、自他共に反転術式を施すことが可能であるそうだ。
「君達、遊ぶのは後にして今は自己紹介をしなさい」
「「はーい」」
非常に息が揃っている。とても仲が良いことが見て取れる。
「神原千里。一応2級術師だよ」
「家入硝子。怪我したら私の所に来いよ~」
至って普通の自己紹介だ。
全員が自己紹介を終えると夜蛾は4人の生徒に目を配り、息を吐いた。
「君達はこれから共に呪術を学んでいく同士だ」
「は"ぁー!こんな雑魚共が同士とか俺嫌なんだけど」
途中、横やりが入ったが気にせず、言うべきことを告げる。
「数少ないクラスメイトだ。全員、仲良くするように。今日はこのまま自由時間とする」
それだけ告げると夜蛾は教室から退室した。
「ちっ!こんな雑魚共と一緒かよ」
「君は人に喧嘩を売ることしかできないのかい?」
「けっ!弱い奴が俺に指図すんなよ」
担任である夜蛾が退出したら早速言い争いを始める悟と傑。バチバチと火花を散らし、今にも喧嘩が勃発しそうである。
「しょーこ、俺の後ろに居な。多分やばいことになる」
「オッケー」
一方で硝子は千里の後ろに避難しており、何か起きてもいいようにいつでも術式を発動出来るようにしている。
「君の言動はいちいち小学生レベルだな。小学校からやり直したらどうだい?」
「あ"ぁ"ん!」
煽りに煽る。穏やかな物言いをしているが彼も内心、悟の雑魚呼ばわりが頭にきていたのだろう。2人は既に一触触発の状態で火山の火口部分がマグマでグツグツと煮え滾っているようなものだ。
((面倒くせぇー))
硝子と千里は内心ため息を吐いた。何が好き好んで入学初日に同級生の喧嘩に巻き込まれなくてはいけないのだろうか?
─────ドゴッ!
案の定、喧嘩は起きた。大きな爆発音と共に机と椅子が吹っ飛び、木製の床が割れ、埃が舞った。千里は爆発音が鳴ったと同時に硝子をお姫様抱っこし教室の窓を蹴破って外に出た。
教室内で喧嘩が収まるわけもなく。悟と傑は高専のグラウンドで大喧嘩していた。互いの呪力が入り乱れ、轟音が止まらず鳴り響いている。轟音のせいでよく聞こえないが耳を澄ませばお互いに罵詈雑言の言葉を浴びせ、微かにアラーム音が聞こえてくる。
高専に張られた結界は未登録の呪力を感知した際、アラームが鳴る仕組みだ。大方、傑が未登録の呪霊を出したのだろう。
「しょーこ、コーヒー飲む?」
「貰う」
「アイスコーヒーしかないけど勘弁してね」
千里はコートの懐から2本のアイスコーヒーのペットボトルを取り出し、1本を硝子に渡した。2人はそのままグラウンド近くの芝生に腰掛け、悟と傑の喧嘩を傍観しつつアイスコーヒーを飲み始めた。
「入学初日に問題を起こしたなアイツら」
「こっちにも迷惑は掛けてほしくないな」
「ははは、波乱万丈な高校生活になりそうだ。改めてよろしく、硝子」
「こっちこそよろしく、千里」
2人の間は和やかな空気が流れているのとは裏腹に喧嘩は苛烈を極め、遠くから夜蛾の怒号が聞こえてきた。
この日、高専に4人の問題児が入学した。高専に多大な被害を出した問題児。五条悟と夏油傑。後に別ベクトルで問題がある問題児。家入硝子と神原千里。
最も多くの天才達が入学した代である。