セイアちゃんに転生したけどうろ覚え知識だけで予言者ムーブをするのはさすがに限界がある 作:空色インクライン
目を覚ますと美少女だった。
いや幼女かもしれない。
起きあがって見回せばやたらと豪華な部屋。
どこの国の何世紀頃のスタイル~とかは全く分からない。何となくイギリスっぽい気がするくらい。勘だけど。
とりあえずパジャマ姿の胸を触り(揉むほどには無い)、「あ、あー…」とソプラノボイスを発し、とTS転生序盤の定番イベを順調にこなしたところで壁に据え付けられた大きな鏡に気がついた。
映画でも今どき見ない天蓋付きベッドから降りると、狭い歩幅で鏡の正面まで歩いて、いよいよ今世の顔とご対面の時間だ。
さっき顔を撫でてみた感覚だと、純ロリ系ではなく大人びた部分もあるタイプの幼女っぽい。
髪はサラサラの金髪ロング。割と大きめのケモ耳もある。金髪ケモ耳ロリ! なんと素晴らしい響きだ、ろう…か……?
……………………え?
鏡の中で呆然とこちらを見ているのは。
「セイア、ちゃん……?」
えっ。
セイアちゃんに転生したけどうろ覚え知識だけで予言者ムーブをするのはさすがに限界がある
ブルーアーカイブというソシャゲがある。
詳細は各々で検索していただくとして…ともかく、百合園セイアはそのゲームの登場人物なのだ。しかも割と重要な役割を持った。
メインストーリーVol.3『エデン条約編』の主な舞台となるトリニティ総合学園、その3人の生徒会長の一人であり、率いていた派閥はフィリウス……いやサンクトゥスだっけ? パテルじゃないのは知ってる。
モデルは……ええと、ウリエル? ミカがミカエルなんだから……いや分かんないなもう。
所詮は記憶を攻略Wikiと掲示板に外部委託していた現代人である。
小さな首をいくら捻っても「へぇ~考察班はすごいねぇ」で聞き流した知識は戻ってこない。
それでも好みのキャラなのもあって、セイアちゃんに関してある程度のことは覚えていた。
この世界――学園都市キヴォトスでも珍しい『予言者』であること。
エデン条約編では、暗殺者の使用した『ヘイローを破壊する爆弾』によって開幕前から昏睡していたこと。
その状態でも、夢を通じて主人公にしてプレイヤーである『先生』を要所で導いていたこと。
……先生の活躍でエデン条約を巡る騒動は収まったものの、彼女は――私は、百合園セイアは、『色彩』との接触でその予知能力を失うこと。
「……いや、それは問題ない…はず」
一瞬だけ世界を改変すべきかと思ったが、この世界には先生がいる。である以上はハッピーエンドであることは確定しているのだ。
基本的には原作通りに進行するのが無難だと思う。というか変に触ると最終編のBADスチルになる可能性があるから怖すぎて改変なんてできない。
「そう、問題…問題は」
それができるのかどうか。
「…予知能力」
今の私は予知をできるのか?
フカフカのカーペットの上を歩き回りながら考え込む。
というかセイアちゃんってどうやって予知してたんだっけ…? お告げ…違う、タロット…絶対違う、セイアちゃんそんなキャラじゃないだろ。
……予知夢?
予知夢だったような、気がする。
違ったっけ? 夢を渡る能力と混ざってるか?
…とりあえず予知夢だと仮定して。
部屋にはなんかの占い道具みたいなものもないし…てか豪華には豪華な部屋なんだけど、なんか妙にセイアちゃんの私物は少なくないこの部屋?
女の子の標準が分からないからこんなもんなのかもしれないけど。
ともかく仮定して、予知夢となると試せないのが面倒だ。
時計(当然のように豪華な振り子時計)を見るにどうやら現在時刻は日が昇ったばかり。
「今夜次第として…でも夢を見れなくても確定はできないのか…んー」
うん。今の私に予知はできない前提で考えよう。
よくよく考えてみれば別にそれでも問題はない――なにせ私が未来を知っていることには変わりないのだから。前世知識サイコー。
ただ大筋はともかく細かい会話の内容はさすがにうろ覚えなんだよな…まあ多少ズレても先生なら大丈夫だとは思うけど。
パヴァーヌ編のゲーム開発部のストーリーが終わって…プロローグ。エデン条約編は、セイアちゃんと先生が夢の中で出会って話すところから始まる。
…あっ。夢の中で会えるかも分かんないじゃん。
これできないとガチ目に詰む可能性も出てくるか? 先に一回リアルで会っておいた方がいいかな…
ええと、ともかくそこでしてた話は…
ここから先は今までの物語とはちがう…ってのは最終編のゲマトリアのあいつだし…
確か…確か、『七つの古則』か? 数は微妙だ。もしかしたら八つか九つだったかも。
その中の…『楽園の証明』。よしだんだん思い出してきた。入ったら出られない楽園は存在するか? みたいな話だった気がする。なんか違うか。なんか違うな。
あああ今ならミカの気持ちもよくわかる。
セイアちゃんお願いだから無駄に回りくどくて難解な言い回しするのやめて…
うんうんと頭を捻ってから、そもそも今がストーリー上のどの時点かわからないことに気がついた。
もしもエデン条約編が終わった後なら、悩みの大半は解決したことになる。
窓に歩き寄って閂を外し、大きく開ける。
…トリニティの景色だ。ゲーム中の背景で何度も描かれ、PVやアニメで動いていたあの景色。
「…ッ」
トリニティのあの制服を着た生徒やシスターが連れ立って歩いているのを見て、なぜか涙が出そうになった。風が強いせいだ。そういうことにした。
それよりも気温…朝ということを考慮しても、夏真っ盛りではないと思う。
初夏か秋…百鬼夜行ならあのご神木の大桜で判別できたんだろうけど、トリニティはあんまり季節感がない。
ただ感覚というか空気で言うなら初夏っぽい。梅雨が明けた後の雰囲気によく似ている。…ああ、木だ。街路樹がまだ青くない。初夏でほぼ確定した。
初夏。
ブルアカのメインストーリーは基本的に正確な日時は明記していない。
でも推測はできる。カルバノグ1章は台風で公園が水没するから秋だろうとかね。
エデン条約編ならば、補習授業部の4人がプール掃除をして遊ぶシーンがあったことから初夏から夏にかけての出来事だろう。…いや補習授業部ってそもそも夏休み限定で作られたんだっけ? 夏空のウィッシュリストがどっかに挟まってたことは覚えてるけど…
なんにせよ、今がエデン条約編の直前である可能性は極めて高い。
ちょっと本気で考えよう。
先生の視点だと夢がプロローグだけど、セイアちゃんは開始前の時点で昏睡していたはず。だから暗殺者の襲撃が私からみたエデン条約編の始まりになる。
アリウスの支配者である赤い百目巨人みたいなあの大人…名前ど忘れしちゃった。アンジェリカだっけ?
ともかく彼女から送り込まれてきた暗殺者、白洲アズサによって殺害された――とストーリーでは語られるが、実際には生存していた。
救護騎士団の蒼森ミネ団長に匿われて…でも昏睡していたのは本当なんだよな。じゃあ暗殺されかけたところをギリギリ生き延びた感じなのか。
まずはミネ団長に連絡を取るのが良さそう。
私はベッドに戻ってきていた。
この身体、動いているとやたらと疲れるのだ。病弱設定もあったからあんまり動けない感じなのかな。
確かセイアちゃんの立ち絵には銃が描かれてなかったけど、その理由もだいたい察した――普通に重くて持てない。
頑張ればやれないこともないかもしれないけど疲れるくらいのバランス。スマホが1kgくらいあるのを想像して貰えればそれに近い。
たぶん常時携帯できる銃なんてデリンジャーかコリブリくらいしかないんじゃないかな…
ん?
何かが脳裏に引っかかった。
デリンジャー…コリブリ…銃…ハチドリ…あ。
部屋をもう一度見回す。さっきは気づかなかったが、分かって探せば。
「Pi」
「シマエナガくん!」
隅に置かれたテーブルの上に、こちらをじっと見つめる白い小鳥の姿を見つける。
セイアちゃんの相棒ポジ兼マスコットだったシマエナガくん。
初の原作キャラ(?)の登場に破顔した私が駆け寄り、応じたシマエナガくんも飛び立つと、
ぱふっ
「え?」
私の差し出した手をガン無視して顔面に衝突した。
跳ねたシマエナガくんは、さっき私が開けたまま閉め忘れていた窓の縁に止まる。
こちらを睥睨し、何事か…鳥の言葉は分かんないけど、何事かを叫ぶ。
…まるで「お前は誰だ?」とでも言うかのように。
そのまま、彼は振り向きもしないでどこか見えないところまで飛んでいってしまった。
「あ…」
何も言えずにそれを見ていた私が再起動したのは、シマエナガくんが出ていってしまってから数分が経ったころだった。
鏡で確認したところ、特に怪我とかはしていない。
セイアちゃんの顔にキズでも付けていたなら、あんな鳥畜生なぞ地獄の底まで追いつめて焼き鳥にする覚悟を決めていたが、その必要はなさそうだ。
…中身が違うとはいえ、やっぱりセイアちゃんの身体は傷付けたくないのかな。
……中身が違う。
いや、気にしない。私は、私にできることをするだけだ。
まずは…正確なエデン条約締結式までのタイムスケジュールの把握。そしてミネ団長とナギサ様に会いに行く。始めよう。