術式 『アイドルオタク』 作:まこーらいつもありがとう!
とりあえずは週一投稿を目安にしようと思います。
穏やかな陽射しの差し込む、少しばかり年季を感じさせる廊下をゆったりと進む。今時は珍しくなった木造建築の廊下は、歩く度にギシギシと音を立てるものの、その度に安心感を与える柔らかい樹の香りが広がり鼻腔を撫でる。
――――呪術高専東京校
日本に二校しか存在しない呪術専門の4年制教育機関であり、今まさに廊下を歩く男――
1000年をゆうに越える呪術の歴史を支えてきた日本独自の独立機関であり、その歴史と権威を象徴するかの如く、敷地内を都内とは思えないほどの広大な森林地帯と荘厳な木造建築が占めている。しかしながら、そんな莫大な敷地面積を誇っているにも関わらず、在籍する生徒・教員数が極端に少ない本校は常に閑散としており、まるで現代日本から隔絶された異空間なのでは無いかと錯覚してしまう。
しかしながら、今日の呪術高専東京校には――――普段ではありえない程の静かな熱気が充満していた。
全呪術師にとって年に一度の一大イベントであり、学生の術師にとっては今後のキャリアを大きく左右する事になる年間行事――姉妹校交流会。普段は地理的にも政治的にも疎遠な京都校と東京校の学生が一同に集結し、己の呪いを駆使して競い合う。互いの意地とプライドを賭けた『公式に認められた呪術戦』である。
そんな交流会において、昨年は東京側が勝利をおさめたため、通例通り今年は東京にて交流会が開催される運びになった。そのため、京都校の教員・生徒、そして大会をサポートする少数の優秀な呪術師までもが集合し、待機している。
業界最大規模の呪術戦が幕を開けようとしていた。
◇◇◇◇◇◇◇
お〜ん(泣)
久しぶりに愛しい歌姫先生に会えるとワクワクしていたら、交流会に強制参加させられそうでござる(白目)
……まぁ、別に身体を動かす事は嫌いでは無いし、大会自体に文句がある訳でも無いのでござるが。
ただ、自分の同級生が軒並み停学を食らっている上に、一つ下の2年生との交流はほとんど無く、今年の1年に限っては完全な初対面。
……うん、考えただけでも心が死にそうでござるね?
いや、それだけならまだ良かったでござるよ?一番の問題は去年の交流会でござる。
去年はスケジュールの都合上、東京側で交流会に参加出来る生徒がほとんど居なかったゆえ、同じ陰キャ友達の乙骨氏と拙者のたった2人で参加する羽目になったのでござるが……。
「たった2人カ……楽勝だナ」
「この俺を舐めてんのか!殺すぞ!!」
「東京校って、こんなキモいのしか居ないの?……真希も大変ね」
次々と浴びせられる心無い罵声に、飛ばされる煽り。完全アウェイな京都校という立地。
お互い初参加だった上に対人能力が低く、呪術師の中では気弱の部類に入る拙者と乙骨氏(解呪前)の精神はズタボロにされたでござる。……互いに身を抱き合い、ガチ泣きして、ちょっとだけゲロ吐いたりしながらも試合開始までの待ち時間を励まし合って過ごしたでござる…………。正直、あの時にリカ氏が暴れ出さなかったのは奇跡に近いと思ってるでござる。
かくして、そんなこんなで始まった本番交流会。試合自体はなんと10分程度で終結した。
――――東京校による圧倒的な蹂躙によって。
特攻する乙骨氏にそれをサポートする拙者。もはや、京都校になす術など無かったでござる。一方的な試合、言い訳の余地すら無い完全な敗北。あれだけ試合前にイキっていた連中が、まともな抵抗すら出来ずに次々とボロ雑巾になっていく。え?どんな惨状だったか気になるって?どうやろ、真依ちゃんに聞いてみよか?(暗黒微笑)
愛情深く、手塩にかけて育ててきた生徒達の――あまりに悲惨な様子を見て、思わず涙目になる
その中でも唯一、学名ゴリラ・ゴリラ・ドルオタこと東堂氏は最後まで粘っていたものの、それも長くは続かなかったでござる。満足気な笑みを浮かべながら気絶し、試合は終了した。
多分、
しかし、本当の地獄はここからでござった。半泣きの歌姫先生に、人数差でイキっていたにも関わらずボロ負けした京都組、苦虫を噛み潰したような顔で呻る楽巌寺学長、気まず過ぎて押し黙る乙骨氏と拙者に、何故かテンションの高い五条氏と東堂氏。もはや交流?何それ美味しいの状態である。
正直、お通夜がエレクトリカルパレードに思えるくらいキツかったでござる。
その日、拙者の中で交流会が『完全なるトラウマ』として脳に刻み込まれ、乙骨氏は拙者の大切な親友になったでござる。
◇◇◇◇◇◇◇
「あっ!じゃあ俺は自分トコの人と待ち合わせてるんで、一旦失礼しますね!」
爽やかな笑みを浮かべた新田新が、こちらに手を振りながら走り去っていく。恐らく、既に到着している京都組の生徒と合流するのだろう。手を振り返しながらも、陰鬱さを全身から滲ませる末永は教員室への道を1人トボトボと歩む。
つい先程、校門付近に待機していた補助監督達に厳重な拘束を施した呪詛師2名の身柄を引き渡した際、任務に関する報告は済ませている。道中でも簡易的な報告と東京校に向かっている旨は説明しているので、末永が教員室に顔を出す必要性は無い。
しかしながら、ここまで来て歌姫先生の顔を見ずに帰るという選択肢を取れるはずも無く、己の中のトラウマと格闘しながら歩いていた。
(正直、このまま逃げ帰っちまいたいのでござるが……そんな親不孝出来る訳無いだろ!!いい加減にしろ!!(豹変)……はぁ、五条氏に見つかったら交流会は強制参加になるでござろうなぁ…………)
考えに没頭していたせいか、いつの間にか目の前に教員室が見える。一つ深呼吸をして、勢い良くドアを開ける。
「……ヴンッ、ゴホッ!……エット……アッ、アノソノ……。さ、3年の末永です。歌姫先生はいらっしゃいますか?」
ドアが開く音と同時に大きくむせる声がした方向を向く。するとそこには、見覚えのある――自分に対して何故か懐いてくれている――変わり者ではあるものの、可愛らしい生徒の1人でもある少年が立っていた。
私――庵歌姫からしてみれば、目の前の少年である末永に対して最初はあまり良い印象を持っていなかった。初めて会ったのはちょうど去年の今頃、交流会がきっかけだった。当時、
というのも彼らに対して最初にケンカを吹っ掛けたのは
それを理由にするのも可哀想だけれど、だからか少し苦手意識があった。そして何より、あれだけの実力がありながら、それを隠して2級術師に居座っているという事実に不満があった。
しかし、それは結局私の勘違いだった。彼は2級に居座っているのではなく、
去年の交流会が終わった直後、気になった私は彼に関する資料を閲覧した。
そこに記載されていたのは、夥しい数の任務の完了報告。高専を卒業し、任務に専念している大人でさえ達成が困難であろう物量だった。そして、それらの一つ一つに目を向けて見れば、明らかに『単独の学生、それも2級術師』に対して与えられる難易度とは思えない様な任務がチラホラとあった。
そこから分かる事は単純だ。あの子は上層部からの
そういった事自体、この業界においては特に珍しい訳では無い。それでも、学生相手にここまで極端な嫌がらせをしたという話は今まで聞いた事がなかった。
思わず胸が痛くなる。呪いを扱っている以上、この業界は常に悲劇で満ちている。任務で命を落とす者もいれば、腐りきった大人の政争に巻き込まれる者、自ら道を踏み外してしまう者もいた。そういった経験を経て、自分の中で割り切ったつもりだった。しかしそれでも尚、割り切れない思いが歌姫にはあった。子供は子供らしく、大人達の苦しみを押し付けられる事なく生きて欲しいと思っていた。
それに気付いてしまった以上、歌姫に見て見ぬふりは出来なかった。それとなく五条から話を聞き出し、何かと気にかけていた。
(昨年の百鬼夜行での功績によって、1級に昇格してからは嫌がらせも少し減ったみたいだけど…………結局また頼っちゃったわね。……なんとか交流会には間に合ってくれて良かったわ)
どうやら向こうも歌姫の存在に気付いた様子で、まるで子供みたいに嬉しそうにしているのを見て思わず苦笑してしまう。
(あんまり時間もないけど……せっかく来てくれたんだしね。……少しお喋りでもして、労ってあげないとね)
さて何を話そうかしらと考えていると、歌姫よりも先に末永に話しかける者がいた。
「フフフッ、やぁ久しぶりだね。末永君。てっきり今年の交流会には出ないものだと思っていたからね。会えて嬉しいよ」
長い前髪を暖簾の様に顔が隠れるほどに前に垂らし、薄紫色のワンピースを着こなす長身でミステリアスな女性――――フリーの1級術師である冥冥が割り込む様にして会話に入ってくる。
「……えっ?……アア……スゥゥゥ……ウッス」
「こうして会うのは数ヶ月だね。少し背が伸びたかい?」
「……エッ、アッ……ソ、ソウスカ?」
「ところで君、高専を卒業した後の事は考えているのかな?……末永君さえ良ければ、私の紹介でフリーとして働いてみる気はないかい?」
「エッ……アッ……アッ……」
「なに、心配する必要はないよ。君なら今の10倍は軽く稼げるだろう。もっとも、その分の紹介料はしっかりと頂くけどね。……それに何より、コチラの世界は実力が全てだ。今の君が抱えている様な――呪術界のゴタゴタとも距離を取れると思うんだが?」
「わぁ……アッ……ワァァァ……」
冥冥から矢継ぎ早に話しかけられ、人間耐性0・女性耐性0の末永は今にも泣き出しそうになっている。もはや会話の内容が理解出来ているかすらも怪しい。
「とはいえ、私は他人相手に借りを作るのが嫌いでね……。差し当たって、
「あ、それは結構です。間に合ってるんで(キッパリ)」
「…………ふむ。残念だね。お互い、術式の相性だって良いというのに。…………特級術師と違って、1級術師の我々には行動に制限が掛けられる事も少ない。それに加えて
「そう言ってくれるのはありがたいでござるが、
「そうか。まぁ、この話はいつ受けて貰っても構わないよ。……それに君が18歳を越えれば
どこか蠱惑的な笑みを浮かべながら末永を見つめる冥冥。そこで何やらおかしな方向に話が飛んで行きそうな予感を感じ、教育者として慌てて注意する。
「ちょっ、ちょっと冥さん!」
「おっと、済まない。末永君は君に用があって来たんだったね。……また何かあったら、前に渡した連絡先を使って連絡してくれて構わないよ。(私の)言い値で請け負うからね」
それだけ言うと、冥冥はヒラヒラと後ろ手に手を振りながら歩き去っていった。なぜかどっと疲れた様な気がして思わずため息をついてしまう。
(全く、子供相手にする話じゃないでしょうに……)
相変わらずの先輩の様子に少しだけ呆れつつも、改めて末永に話し掛けようとする。しかし、さらにそれを妨げるような、じっとりとした視線を感じる。
視線の主は、呪術高専の京都校学長――
「……なぜお前がここに居る?」
まだ誰も知る由はないが――――楽巌寺嘉伸こそが、数日前に歌姫を利用して末永に高難度の任務を与え、末永の
そして、これも誰も知る由はないが――――親子の再会を邪魔された末永はキレていた。
まさかの冥冥ヒロイン(?)。あぁ〜、お金と時間が搾られる〜。
末永は1年の時、任務の影響で交流会は不参加でした。
ちなみに末永は一般家庭の出身で、普通に両親も健在です。
親子仲も普通に良いですし、毎年正月は家族で箱根旅行に行ってます。