世界経済新聞 第■■■■号より一部抜粋
各国において深刻な魚人族差別の絶えない今日、魚人島の外で暮らす魚人族が次々と移住している島がある。海にぽつんと浮かぶ人口一万人にも満たないその島に、今月だけでも数百の魚人族が港に押し寄せているという。何が起こっているのか。
「■■■■■■島は、昔から魚人差別が“ない”ことで有名なんです。」
■■■■■■への移住を決めた■■■■一家の父親である■■さんは、記者にこう語っていた。
(中略)
■■さんは最後に、はにかみながらこう言った。
「こんど、娘が生まれるんです。どこの国も私ら魚人に対してこんな状態でしょう。それでも、僕は生まれてくる娘にはできるだけ差別なんか受けずに育ってほしくて。■■■■■■の方々にそのことを伝えたら、もう今からたくさん食料なんかを送って頂いていて……」
ふと水平線上を眺めると、ぽつんと島が見えた。
「陸だ、陸が見えたぞ!」
そう叫んだのは、いったい誰が先であったか。
麦わらの一味は、深刻な食糧難に悩まされていた。先の上陸で仕入れた食料が、どこから忍び込んだのかネズミにおおかた食い荒らされてしまったのだ。
このタイミングでようやく見えた島と窓の明かりに、もうこれで食糧庫と睨めっこを続ける日々も終わりかと思えば、皆喜びもひとしおであった。
「おう、今帰ったぞ!」
早朝島に上陸したルフィたちが船に帰ったのは、その日の夕暮れのことだった。
両手いっぱいに食料の詰まった木箱を抱えて、市場で売られていた見たこともない魚の話、路地裏に貼られていたサンジの手配書がデュバルのままであった話などその日の土産話をめいめい話している。
皆長らくの食糧難から解放され足取り軽くサニー号に乗り込んでゆく中、ブルックは一人サンジが浮かない顔をしていることに気がついた。
「サンジさん、何かあったんですか?」
「おいクソコック、手配書一枚でいつまでメソメソしてやがる」
見かねたゾロがいつものように軽口を叩いてもそんなんじゃねえ、と小声で返すのみでまた大きなため息をつくサンジを見て、ますますブルックはうろたえるばかりである。
「サンジくんは親分さんを守ろうとしただけよ、気にすることないわ」
「そうじゃ、おまえさんが気を落とすようなことは何もない」
かたわらには、いつの間にやら荷物を置いたロビンとジンベエが近寄ってきていた。
「ジンベエさんを?」
聞けば、船に帰る道の途中でジンベエに土産を持たせたいと言う娘に会い、それをジンベエに変わってサンジが断ろうとしたのだと言う。ジンベエの置いた荷物の方を見やれば、なるほど他の仲間より一つ多く積まれている。白い布に包まれた小さな箱は、確かに市場で買ったものとは思えなかった。
「そうでしたか! ジンベエさんたら、結構モテるんですねえ」
「しかし、いくらお嬢さんからのプレゼントとはいえ、もらってきてしまって良かったんですか?」
ブルックはサンジが女性からの贈り物を断ろうとしたことよりも、それを持ち帰ってきたことが訝しく思えた。心からの好意からの行動に見えたとしても、中身もわからない貰い物をするなどサンジやジンベエ、ましてや仲間内でも人一倍思慮深いロビンが理由もなくするだろうか?
すると、ロビンがおもむろに口を開いた。
「普通は断るべきなのかもしれないけど、この島なら安心していいと思うわ」
ロビンは夕日に照らされる街の方を振り返り、続ける。
「この島は、古来からウワンネという魚人の神を信仰しているの」
「ウワンネ神は“お腹を空かせた島民たちに永遠の命を得られるという自らの肉を分け与えて救った“とされている」
「その信仰もあって、この島の人たちは魚人族が島に訪れた時は食料を渡して歓迎することで知られている、だから……」
今回はありがたくもらうことにしたの。と続けようとした時、ずっと黙っていたサンジが甲板の隅で頭を抱えてうめきはじめた。突然のことに市場で買った綿飴を頬張っていたチョッパーも、口の端に綿飴をつけたままサンジの周りを右往左往している。
「危うくおれは麗しいレディからの親切も、食いモンも一度にダメにしちまうところだった……!」
不可抗力とはいえあらぬ失態を冒しかけすっかり意気消沈といった面持ちのサンジを尻目に、ナミが階段を駆け下り、港を発つ準備を急ぐよう催促しにきた。どうやら居場所を嗅ぎつけた海軍の追手が近づいてきているらしい。
甲板に集まっていた一同は、その言葉に皆弾かれたように散り散りに持ち場へと戻って行った。
「しかし、あのサンジさんが女性からの贈り物を一度でも断ろうとするなんて」
「ああ?いや、あのレディはなんだか、その」
「目が……」
結局、その続きをブルックは聞くことができずにいた。