そのかたは私たちが差し上げた少しの食料と寝床と引き換えに、じょうずな獲物の捕り方を、つらい病を治す薬を、吹きすさぶ嵐の中でも凍えない家の作り方を与えられました。
すばらしいかたなのです。あんまりすばらしいから、かけがえのない方だから、皆ずっとここに居てもらいたいと願ったのです。
そのかたが私たちに与えられた多くの光のなかに、その実はありました。うずまき模様の不思議な実は、ある娘にこう語りかけました。
わたくしめをお食べなさい。そのあとあなたの脚の肉をほんの少しだけ、差し上げなさい。そうしたならば、あなたは永遠にかのおかたといっしょにいられますよ。
娘は喜んで食べ、そのお方はずっとこの島にいることになりました。
けれど、その身を全部たいらげてしまったのに、少ししかそのお方に成ることができなかったので、のこりは
[以下解読不能]
著者・成立年不明 ■■■■■■島中央部の石板に記述
船から降りると、爽やかな潮風が頬を撫ぜた。
あの会話を耳にしてから数ヶ月が経ち、私はやっとの思いでこの島に辿り着いた。
「魚人を継いで接いで作った謎の死体」の真相を求め、誇張ではなく海という海を駆けずり回った先に辿りついたのが、世経に寄稿した記事で取り上げたことのある島だったのだから、何か運命的なものを感じざるを得ない。あの時取材した一家はまだ息災だろうか。
「もし、そこのお方」
港でぼんやりと立っていると、小さく背中を丸めた老婆に肩を叩かれた。
「私ですか?荷物でしたら持ちますよ、どこまでですか?」
「いえ、いえ、滅相もございません……長い船旅でお疲れでしょうから、これを召し上がって頂こうと思ったのです」
そう言っておもむろに差し出したのは、焼いた肉の入った小さな紙の容器であった。屋台か何かで買ったのだろう。
突然のことに面食らった私はお気持ちだけで、と断ろうとしたのだが、あまりにもその老婆が受け取れとしつこく食い下がるので仕方なく頂戴することにした。これでいくらか持っていかれてしまっても、まあ、高くついた勉強代だと思うことにしよう。
が、意外なことに、老婆は手のひらを返して法外な金銭をせびるわけでもなく、私が容器を受け取るとあっさりと去っていった。
ありがとうございます、召し上がってください、と何度も呟きながら嬉しそうに坂道を下ってゆく丸い背中を見送りつつ、私はこの善良な老婆の心を疑ったことを恥いるような思いがした。
辺りを見たところ他の観光客にも私と同じ肉が配られているようで、ますます自らの邪推が心やましく思えて、誰に見られているわけでもないのに隠れるようにして肉を口にした。
その味はなんとも言い難い、魚肉のようでもあり、同時に牛肉のような筆舌に尽くしがたいものであった。昔親に連れられて訪れたレストランで食べた、エレファントホンマグロのステーキに近いだろうか。
その後私は島中を巡り、ウワンネ神について、そして件の事件について聞いて回った。
大体の島民はおぞましい事件に眉を顰めるが、それでも知っている限りの情報を提供してくれた。これほど素直な島民性は、私が取材してきた中でも初めてのことだった。
不思議なもので、私は時間が経つにつれて
笑う時は皆が共に笑い、悲しむ時は皆が悲しんだ。その場の全員が、心の波長を同じくしているようであった。それは、激動の時代においてなんとも居心地の良いものだった。
あまりにも居心地が良いものだから、私は忘れているのにも気づかなかった。もっと言うならば、不愉快なものから恣意的に目を背けていたのかもしれない。
そのうち、訪れた酒場で島民の一人がこんなことを言った。
「お兄さん、そんなにウワンネ様について興味があるんなら今日は『取り継ぎ』があるから見てったらどうだい。勉強になるんじゃないか?」
「ああそうだな、それがいい。夕暮れ時に神殿においでよ」
これまでの取材では耳にしなかった単語に、「ついに来た」という興奮とわずかな緊張を覚える。が、あくまで平静を装い応える。
「『取り継ぎ』と言うのは、儀式か何かですか?」
すると男たちはしまった、というように互いの顔を見合わせる。が、すぐに言ってもいいか、と笑ってこう続けた。
「実の力を取り継ぐのさ。あれがなきゃウチの島はやっていけないし、実がどっかいっちまっても困るしな」
「実…というのは悪魔の実のことですか?実の力を直接継承するなんて、どうやってそんなことが?」
悪魔の実の継承は、基本的に不可能だ。先のマリンフォード頂上決戦において”黒ひげ”マーシャル・D・ティーチが“白ひげ”エドワード・ニューゲートからグラグラの実の能力を強奪した例以外には、私は実の継承の事例を知らない。その事例についても、手口については全くの不明としか伝えられていなかった。
「そりゃ、まあ、食べるわな。ちょっと痛ェけど、生き物ってのはそうやって回っていくもんなのさ」
男は何かにかぶりつくような動作をおどけてして見せるだけで、後には何も言わなかった。
私も、それ以上には詮索する気にはなれなかった。なにか、–––––今思えば全くありえない思考なのだが、輪を乱すような行動を取るのが、