カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする   作:Kicks

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第10問

「うー……づがれだー」

 

明久がそう言って机に突っ伏した。

 

今日の午前中、Fクラスの仲間たちは試召戦争で消費した点数を補給するためのテスト四教科を受けた。

 

ちなみに、船越先生とのやり取りで明久と橘と神野は週に二回、放課後に数学の勉強をすることとなった。

 

「うむ。疲れたのう。」

 

秀吉が明久の近くに来て答える。

 

「………(コクコク)」

 

ムッツリーニもいつもより存在が薄い状態でやってくる。

 

「よし、午後の試験に備えて、ラーメンとかつ丼とチャーハンとカレーにすっかな。」

 

雄二は試験の疲れが感じられずに元気だった。

 

「ん?吉井達は食堂に行くの?だったら一緒していい?」

 

「ああ、島田か。別に構わないぞ。」

 

「それじゃ、混ぜてもらうね。」

 

「あ、俺も混ぜて。」

 

神野と美波を連れて、明久は学食に行こうとする。

 

「あ、あの。皆さん。え、えっと……、お、お昼なんですけど、その、昨日の約束の……。」

 

姫路はもじもじしながら僕らの方を見ている。

 

「おお、もしや弁当かの?」

 

「は、はいっ。迷惑じゃなかったらどうぞっ。」

 

姫路は身体の後ろに隠していたバッグを出してくる。

 

「迷惑なもんか!ね、雄二!」

 

「ああ、そうだな。ありがたい。」

 

「そうですか?良かったぁー。」

 

姫路はほにゃっと嬉しそうに笑う。

 

「あ、ウチも用意したわよ。でも、ここまで多くはないけど…」

 

橘は、やや小ぶりなバックを出す。

 

「むー……。瑞希と怜奈って、積極的よね。」

 

美波は親の仇のように姫路と橘を睨んでくる。

 

「じゃあ、せっかくの御馳走じゃし、こんな教室ではなくて屋上でも行くかのう。」

 

「そうしよう。」

 

他のクラスメイトからお弁当を盗られないようにするための対策だ。

 

「そうか。それならお前らは先に行っててくれ。」

 

「ん?雄二はどこか行くの?」

 

「飲み物でも買って来る。昨日頑張ってくれた礼も兼ねてな。」

 

「あ、それならウチも行く!一人じゃあ持ちきれないでしょ?」

 

美波は気遣いを見せた。他の女子がこんなに動いているのに、自分だけ何もしないのでは立場がないと思ったのだろう。

 

「悪いな。それじゃ頼む。」

 

「おっけー。」

 

「きちんと俺達の分を取っておけよ。」

 

「わかった、ちゃんと坂本君たちの分も残しておくよ。」

 

「じゃ、行ってくる。」

 

雄二と美波は財布を持って一階の売店に向かう。

 

「僕らも行こうか。」

 

「そうですね。」

 

明久は姫路の、神野は橘のバッグを受け取り、屋上まで歩く。

 

「天気が良くて何よりじゃ。」

 

「そうですねー。」

 

屋上に向かうと抜けるような青空だった。

 

「あ、シートもあるんですよ。」

 

姫路はバッグからビニールシートを取り出す。

 

神野たちはわいわいと準備を始める。屋上は他に人もいなくて貸し切り状態である。

 

「気持ちいいねー。」

 

「そうだね。」

 

神野たちはビニールシートの上に足を投げ出す。日差しと風が気持ちよく感じる。

 

「まずは、ウチね。」

 

橘さんはお弁当箱を出した。キンピラや肉じゃがなど和食系で、ギャル系の橘のお弁当箱には本人とのギャップが感じ取れた。

 

「和食が多くて、意外じゃな。」

 

「そう?」

 

「うむ、洋食かな?って思ってたからじゃ。」

 

「昨日作ったのが和食で、夕食の残りをお弁当箱で詰めただけだし…。」

 

神野は姫路が用意してくれた使い捨ての割り箸で一口食べる。

 

和食の風味が感じて、なかなか美味しいと神野は思った。

 

「ど、どう?神野君?」

 

「うん、美味しい。」

 

恐る恐る聞いた橘に神野は笑顔で返す。

 

「そうっ!?よかったぁ~。」

 

橘は胸を撫で下ろした。見るからに嬉しそうな雰囲気を出した。

 

皆も使い捨ての割り箸を使って、橘の弁当をつつく。

 

「………美味しい。」

 

「うまいのぅ。」

 

「怜奈ちゃんって、これ全部作ったんですか?」

 

「うん!夕食でたくさん作って、余ったのを詰めただけだけどね。」

 

6割くらい橘のお弁当を食べた後、姫路が自分の重箱の蓋を取る。

 

『おおっ!』

 

明久たちは一斉に歓声を上げた。

 

姫路さんの重箱の中には、から揚げやエビフライにおにぎりやアスパラ巻きなどが詰まっていた。

 

「………(ヒョイ)」

 

「あっ、ずるいぞムッツリーニっ。」

 

ムッツリーニが素早く好物と思われるエビフライをつまみ取って、流れるように口に運んだ。

 

「………(パク)」

 

バタン  ガタガタガタガタ

 

ムッツリーニは豪快に顔から倒れ、小刻みに震えだした。

 

「…………」

 

「…………」

 

明久はムッツリーニで秀吉と顔を見合わせる。

 

神野はムッツリーニの様子に気付かずに、アスパラ巻きを食べる。

 

「(パク)失礼。」

 

神野が信じられない速さで屋上の出入り口の扉に向かった。まるで、陸上部の短距離走者のような速さだ。

 

「…………(ムクリ)」

 

ムッツリーニが何事もなく起き上がった。

 

「…………(グッ)」

 

そして、姫路に向けて親指を立てる。『凄く美味しいぞ』と伝えたいんだろう。

 

「あ、お口に合いましたか?良かったですっ。」

 

ムッツリーニの言いたいことが伝わって、姫路が喜ぶ。

 

しかし、明久は未だに虚ろな目でムッツリーニの足がガクガクと震えていることを見逃さなかった。

 

(……秀吉。あれ、どう思う?)

 

明久は姫路に聞こえないくらいの小さな声で秀吉に話しかける。

 

(……どう考えても演技には見えん。)

 

(だよね。ヤバイよね。)

 

(明久。お主、身体は頑丈か?)

 

(正直胃袋に自信はないよ。食事の回数が少なすぎて退化してるから。)

 

表情は笑顔のまま、明久と秀吉は相談する。姫路に会話と驚愕を悟らせないようにするためだ。

 

「み、瑞希。自分の料理に味見した?」

 

橘は恐る恐る姫路に聞く。

 

「いえ、料理の初めての味は皆に聞いてもらえたくて。」

 

「…………。」

 

橘はみるみると青ざめた。

 

「…ちょっと、トイレ行ってくる。」

 

橘もまた神野みたいにすごい速さで屋上の出入り口の扉に向かう。バスケ部で活躍していたことがわかる速さだ。

 

(((逃げやがったな!!!)))

 

どんどん自分の生命が危険な事態に陥っていることを明久は感じた。

 

(どうする、秀吉?)

 

(…心配いらぬ。ワシは存外頑丈な胃袋をしていてな。ジャガイモの芽程度ならびくともせんのじゃ)

 

見かけによらずタフな秀吉の内臓に明久は驚く。

 

(安心せい。ワシの鉄の胃袋を信じよ。)

 

秀吉は、外見は美少女なのに誰よりも男らしい台詞を小声で言う。

 

「おう、待たせたな!神野と橘がすごい早さで階段を降りて来たから、もうないものかと急いで来たんだ。どれどれ?」

 

雄二が登場し、皆が止める間もなく素手で姫路が作った卵焼きを口に放り込んだ。

 

パク バタン―ガシャガシャン、ガタガタガタガタ

 

雄二はジュースの缶をぶちまけて倒れた。

 

「さ、坂本!?ちょっと、どうしたの!?」

 

遅れてやってきた美波が雄二に駆け寄る。

 

ムッツリーニ同様激しく震える雄二を見る。

 

雄二は倒れたまま明久を見て、目で訴えていた。

 

『毒を盛ったな』

 

『毒じゃないよ、姫路さんの実力だよ。』

 

明久も目で返事をした。

 

「あ、足が…攣ってな…。」

 

雄二は姫路を傷つけないように嘘をつく。

 

「あはは、ダッシュで階段の昇り降りしたからじゃないかな?」

 

「うむ、そうじゃな。」

 

「そうなの?坂本ってこれ以上無い位鍛えられてると思うけど。」

 

美波は事情を分かっていないので、不思議そうな顔をして、アスパラ巻きに口をつける。

 

「「「あっ」」」

 

「きゃぁぁぁぁああ!!」

 

美波は悲鳴を上げて床に突っ伏して、動かなくなった。

 

「み、美波ちゃん!?しっかりして下さい!」

 

姫路は倒れた美波に呼びかける。

 

「う……。な、なによ、あの味……」

 

美波は頭を振りながらゆっくりと上半身を起こした。命に別状は無かったようである。

 

「うぅ……。全く酷い目に遭ったわ…。」

 

美波は、自分が買ってきたジュースを飲んで口直しをする。

 

そうやって美波がある程度落ち着くのを待つ。

 

(ちょっと、どういうことよ。まさかアキがやったの?)

 

(何もしてないよ!)

 

(どーだが…、どっちにしろアキの番ね…。アキ、アーン)

 

(ひぃぃぃっ!)

 

美波は姫路が作ったおにぎりを明久の口元に運んでくる。

 

自分が酷い目にあった腹いせに明久を巻き込んで昏倒させようという魂胆だ。

 

「み、美波、そんな恋人みたいなことしたら誤解されちゃうよ。」

 

「そ、そうですよ!そんなの可哀想ですよ!」

 

姫路が美波の行動を諌めようとする。

 

しかし、明久はこうも思う。それなら、こんな殺人級料理を作らないでほしいと。

 

「ふ、ふぇっ!」

 

美波は明久の予想外の返しで慌てる。

 

「だ、大丈夫よ。そうなったら、アキに人工呼吸をするから…」

 

「み、美波ちゃん、そうなったら私も人工呼吸します!作った原因は私ですし。」

 

流石にこの状況を見て、姫路は自分の料理がまずいことに気づいたのだ。

 

「そうか、それなら安心だ。姫路たちが人工呼吸をしてくれるなら明久は死なないだろう。明久、お前は姫路のお弁当を残さず食べろよ。俺は残りの橘のお弁当を食べるから。」

 

「なんでも人工呼吸をすれば助かると考えるのは間違いだよ!!」

 

明久は必死に抵抗する。自分が死にたくないからだ。

 

「何を言うか。美少女の手作りに加えて、キスまで出来る。これの代償ならどんな物でも惜しくはないと考える男子は少なくないだろう。」

 

「捨てないで!たった一つしかない僕の命を捨てないで!」

 

しかし、明久の抵抗虚しく、ムッツリーニに押さえつけられながら、明久は雄二に弁当を口の中に押し込まれた。

 

吐き出そうとしていたので、雄二は顎を掴んで明久が咀嚼するのを手伝ってあげた。

 

「よし、これでいい。」

 

「雄二、存外鬼畜じゃな。」

 

秀吉が言ってきたけど、雄二は無視した。そもそもの発端は明久がまともに食べていないことが原因で、姫路は明久に食べてほしいと思って作ってきた物だ。ならば、明久が食べるのは筋であると雄二は考えていたのだ。

 

明久が激しく震えていた。

 

「あの、大丈夫ですか、明久君?」

 

「う、うん…。作ってきてくれてありがとう、姫路さん。」

 

明久は目を虚ろにして答える。

 

姫路は男ならときめかざるを得ない程の満面の笑顔を浮かべた。

 

「…瑞希、次作る時は失敗しないように、ウチか怜奈を連れて作ろうね…。」

 

「美波、僕に止めを刺すつもり!?」

 

明久は、必死で抗議する。姫路にまた殺人級料理を作らせて、今度こそ自分の息の根を止めるつもりだと思ったからだ。

 

「違うわよ!?こんなことにならないための配慮よ!!」

 

美波は、姫路の積極的アピールが原因で死人を出さないための配慮と好きな人のための好感度稼ぎという自分と相手の双方を考えた提案だった。

 

「そういえば、おいしいと言えば駅前に新しい喫茶店があってのう。」

 

秀吉が話題を逸らしにかかる。これ以上下手なことを言ってまた作るなんて事態にならない為の配慮である。

 

「ああ、あのお店か。確かに評判がいいね。」

 

「え?そんなお店があるんですか?」

 

「ああ、今度今日のお礼に明久がおごってくれるそうだ。」

 

「雄二、勝手に決めないでよ。」

 

取りとめのないほのぼのとした会話が続く。

 

「あ、そうでした。」

 

姫路がポン、と手を打った。

 

「ん?どうしたの?」

 

「実はですね―。」

 

姫路はごそごそと鞄を探る。

 

「デザートもあるんです。」

 

「ああっ!姫路、アレはなんだ!?」

 

「雄二!今度こそ死んじゃう!」

 

明久が雄二を命がけで止めにかかる。まだ、姫路の料理で明久の体調が万全じゃないからだ。

 

(雄二!僕を殺すつもり!?)

 

(大丈夫だ。万が一があっても、二人が人工呼吸で何とかしてくれるだろ。)

 

(命の代償が美少女たちの唇なんてーーよく考えたら、確かに悪くないね)

 

(分かってくれて何よりだ。)

 

雄二が明久を言いくるめようとすると、秀吉がすっと立ち上がった。

 

「……ワシが食べよう。」

 

(秀吉!?無茶だよ、死んじゃうよ!)

 

(大丈夫じゃ。ワシの胃袋はかなりの強度を誇る。せいぜい消化不良程度じゃろう。)

 

ジャガイモの毒までも無効化する秀吉の胃袋なら大丈夫である可能性はある。

 

(……すまん。恩に着る。)

 

(………感謝する。)

 

(ありがとうね…。)

 

(ごめん。ありがとう。)

 

申し訳なさでうつむく明久達に秀吉は軽く笑いかけた。

 

「別に死ぬわけではあるまい。そう気にするでない。」

 

「そ、それもそうだね!」

 

「ああ!秀吉、頼んだぞ!」

 

「うむ。任せておけ。頂きます。」

 

秀吉は容器を傾け、一気にかきこんだ。

 

「むぐむぐ。なんじゃ、意外と普通じゃとゴバぁっ!」

 

また一輪、命という儚い花が散った。

 

「……明久」

 

「……何、雄二?」

 

「……さっきは無理矢理食わせて悪かった。」

 

「……わかってくれたらいい。」

 

自称『鉄の胃袋』は白目で泡を吹いていた。

 

 




強化フラグ 姫路の料理スキル
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