カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする 作:Kicks
「では、両名共に準備は良いですか?」
今回のAクラス戦で立会人を務めているのは、Aクラス担任かつ学年主任の高橋先生だ。
知的な眼鏡とタイトスカートから伸びる脚がとても綺麗である。
「ああ。」
「……問題ない。」
広いし、腐った畳のFクラスでは締まらないので、一騎討ちの会場はAクラスで行うことになった。
「それでは1人目の方、どうぞ。」
「頼んだぞ、ムッツリーニ。」
「……(スック)」
雄二の指示で、ムッツリーニが立ち上がる。
「じゃあ、ボクが行こうかな。」
Aクラスからは色の薄い髪をボーイッシュにした女の子が出てきた。身体の凹凸が少なく、パッと見た所少年のようだ。
「1年の終わりに転入してきた工藤愛子です。よろしくね。」
工藤がFクラスの皆に簡単な挨拶をする。
「教科は何にしますか?」
高橋先生がムッツリーニに尋ねる。
「……保健体育。」
代表同士の戦いだけでなく、この戦いでも科目選択権が活きてくる。
なぜなら、ムッツリーニは総合科目の点数の内、80%を保健体育で獲得する猛者である。
その単発勝負ならAクラスには負けないだろう。
「土屋君だっけ?随分と保健体育が得意みたいだね?」
工藤がムッツリーニに余裕のある口調で話しかける。転校生なのに、ムッツリーニから名字を言い当てたことから詳しく知っているようだ。
「でも、ボクだってかなり得意なんだよ。……キミとは違って、実技で、ね?」
工藤が爆弾発言をして、明久は凄くときめき始める。
「そっちのキミ、吉井君だっけ?勉強苦手そうだし、勉強苦手そうだし、保健体育で良かったらボクが教えてあげようか?もちろん実技で。」
動揺していることに気付いたのか、工藤は明久に指名する。
「フッ。望むところ―」
「アキには永遠にそんな機会なんて来ないから、保健体育の勉強なんて要らないのよ!」
「そうです!永遠に必要ありません!」
「………」
「島田に姫路。明久が死ぬほど哀しそうな顔をしているんだが。」
美波と姫路の酷な発言に、明久は泣きそうな顔をしていた。
「神野君はどう?Aクラスの同級生に教えてもらうことは悪いことじゃないと思うけど」
明久には無理だと判断したのか、工藤は神野君を誘う。
「Aクラスの同級生に教えてもらえるのはうれしいけど、遠慮するよ。剣道やっていたこともあり、スポーツは苦手ではないんで。」
『…………。』
神野は保健体育の実技をスポーツだと勘違いし頓珍漢な発言をしたので、これを聞いていた人達はバカじゃないのか?コイツって顔をした。
「そろそろ召喚を開始して下さい。」
「はーい。
「……
2人に似た召喚獣が、それぞれ武器を持って出現する。
「何だあの巨大な斧は!?」
工藤の召喚獣は巨大な斧で、明久は驚愕する。
「実践派と理論派、どっちが強いか見せてあげるよ。」
工藤は艶っぽく笑いかけるのと同時に、腕輪を光らせながら召喚獣が動いた。
自分の巨大な斧に雷光を纏わせ、あり得ないスピードでムッツリーニの召喚獣に詰め寄る。
「それじゃ、バイバイ。ムッツリーニくん。」
「ムッツリーニッ!」
工藤の召喚獣がムッツリーニの召喚獣を両断しようとしたので、明久は叫び声を上げた。
「……加速。」
しかし、ムッツリーニは慌てずに腕輪を使用した。
そしたら、ムッツリーニの召喚獣の腕輪が輝き、姿がブレた。
「…え?」
「……加速終了。」
ムッツリーニがボソリと呟く。
一呼吸置いて、工藤の召喚獣が全身から血を噴き出して倒れた。
『保健体育
Aクラス 工藤愛子 446点 VS
Fクラス 土屋康太 572点』
「そ、そんな……!この、ボクが……」
実技派と理論派どっちが優れているのかにおいては、判断基準がテストである以上理論派に分があるのは自然である。
それに気づかず、工藤は余程ショックなのか床に膝をつく。
「では、次の方どうぞ。」
「俺が出るよ。科目は化学でお願いします。」
Fクラスからは、神野が出る。
「なら、私が出ます。」
Aクラスからは佐藤美穂が出る。ボブカットで眼鏡がトレードマークな女子生徒で、理系科目ならトップクラスの成績で有名だ。
『
神野の召喚獣は、いつも通りの刀を構えて登場している。
これに対し、Aクラスの佐藤の召喚獣はネイティブアメリカン風の衣装に鎖鎌だ。
佐藤の召喚獣は鎖鎌を目にも止まらぬ速さで投擲した。
武器のリーチの差を活かす戦い方だ。
しかし、神野の召喚獣は躱して、佐藤の召喚獣に近づく。
佐藤の召喚獣は慌てて、鎖で鎌を引き戻して、距離を取った。
ここで、お互いの点数が表示される。
『化学
Aクラス 佐藤美穂 364点 VS
Fクラス 神野大輝 421点』
「信じられん…。」
「神野の実力は本物だったんだ…。」
「神野の不正行為は、濡れ衣だったんだな…。」
Fクラスにあるまじき神野の点数にAクラスの人達はどよめく。
「て、点数勝負ではなく、召喚獣で勝負だから点数差で覆します。」
佐藤は動揺しつつも己を鼓舞する。
神野の召喚獣が刀の間合いに入ろうとさらに近づいたら、今度は佐藤の召喚獣が鎖鎌を投げて、近づかれないように鎌を投擲する。
命中しそうになったので、神野の召喚獣が慌てて刀で防御したら、さらに佐藤の召喚獣との距離が開く。
「おいおい、耐久戦かよ…。」
「このままだと神野が攻撃できないからまずいぞ…。」
佐藤の戦い方は武器のリーチを活かして、点数を消耗するという長期戦だ。
そのやり方自体は間違っていない。
神野の召喚獣に腕輪が無ければ。
神野の召喚獣は足を止めて刀で突きの構えを取る。
佐藤の召喚獣は距離を取った上で、鎌を神野の召喚獣に向けて投擲する。
神野の召喚獣は回避も防御をせずに腕輪の力を発動した。
鎖鎌が神野の召喚獣に届く前に、刀が伸びたのと同時に神速の突きが佐藤の召喚獣の喉を貫いた。