カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする 作:Kicks
「4対3でAクラスの勝利です。」
視聴覚室になだれ込んだ明久達に高橋先生が今回の戦争の結末を締めた。
「……雄二、私の勝ち。」
床に膝をつく雄二に霧島が歩み寄る。
「……殺せ」
「いいだろう。殺してやる!歯を食い縛れ!」
明久が拳を振り上げて、雄二の顔面に殴りつけようとする。
雄二の立てた作戦は『テストに大化の改新が出題される』ことが必須条件である。
今回の一番の敗因はその条件が達成されなかったらどうするのかを考えなかったことだ。
「吉井君、落ち着いて下さい。」
「アキ、落ち着きなさい!アンタだったら満点取れないでしょうが!」
「それについて否定はしない!」
「それなら、坂本君を責めちゃダメですっ!」
「くっ!なぜ止めるんだ姫路さんに美波!この馬鹿には責任取って腹を切らせて介錯させる必要があるのに!」
「それは処刑です!」
姫路と美波が体を張って必死に明久を止める。
神野はAクラス敗北の結果に天を仰いで反省した。
雄二の意見を無視して無理やりにでもBクラス設備を奪還させるべきだった。次の戦争ではAクラスは狙わず何が何でもBクラス設備を奪おうと。
「……でも危なかった。もし私がミスしていたら負けてた。」
霧島の言い分は正しかった。もし雄二の狙い通り『大化の改新』の問題を出していたら、Aクラスは負けていた。
「……ところで、約束」
「…………!(カチャカチャカチャカチャ)」
何でも言うことを聞くって約束を思い出し、ムッツリーニは必死で準備を始めた。
明久もムッツリーニの準備の手伝いを始めた。
「わかっている。何でも言え。」
雄二が格好つけて潔く返事する。
「……それじゃあ」
霧島が姫路と橘に一度視線を送り、再び雄二に戻して言い放つ。
「……雄二、私と付き合って」
霧島の告白に、全員が茫然とする。
「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか。」
「……私は諦めない。ずっと雄二のことが好き。」
「その話は何度も断っただろ?他の男と付き合う気はないのか?」
「……私には雄二しかいない。他の人なんて、興味無い。」
霧島が今まで告白を断ってきた理由は、一途に雄二を思っていた結果だった。
他の女子を見ていたのは、雄二の近くにいる異性を警戒していたからである。
「拒否権は?」
「……ない。約束だから。今からデートに行く。」
「ぐぁっ!放せ!やっぱこの約束は無かったことにーー」
霧島は雄二の首根っこを掴み、教室を出て行った。
「「「……………」」」
教室にしばしの沈黙が訪れる。
余りの出来事に言葉が出なかったのだ。
「さて、Fクラスの皆。お遊びの時間は終わりだ。」
神野達の耳に野太い声がかかる。
声の方を見やると、そこには鉄人と呼ばれる生活指導の西村先生が立っていた。
「あれ、西村先生。僕らに何か用ですか?」
「ああ。今から我がFクラスに補習についての説明をしようと思ってな。」
「おめでとう。お前らは戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担当が変わるそうだ。これから1年死に物狂いで勉強できるぞ。」
『なにぃっ!?』
Fクラスの男子生徒全員が悲鳴を上げる。
鉄人は『鬼』の二つ名を持つほどの厳しい教育をする先生だ。
「いいか。たしかにお前らはよくやった。Fクラスがここまで結果を出すとは正直思わなかった。でもな、いくら『学力だけが全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の1つなんだ。全てではないからと言って、ないがしろにしていいものじゃない。」
鉄人は、勉強の大切さを説く。
「吉井と坂本は念入りに指導してやる。なんせ開校以来初の『観察処分者』と『元神童』だからな。」
「どうして、僕と雄二を念入りにするのですか!他にも指導する人だっているでしょうが!」
「…誰の成績を伸ばせば、Fクラスが今後の試召戦争で勝てるようになるのかを考えたら、そうなっただけだ。」
お前らが類を見ない問題児だからだと言いたい衝動を抑えて、鉄人は返す。
もっとも、鉄人の発言は的を得ていた。
明久は雑用で鍛えられた召喚獣の操作技術は学年トップである。
Bクラスの成績だったら、先ほどの久保との一騎討ちで勝つ可能性はあっただろう。
試召戦争の実績から、雄二のポテンシャルには期待できる上に、Fクラス代表である。
代表が強ければ、負ける可能性は下がる。
「とりあえず明日から授業とは別に補習の時間を2時間設けてやろう。」
「次の試召戦争で勝って、西村先生から逃れて見せます!」
「……お前が勉強する気になっただけよしということにしておこう。」
明久が意気込んでいる時に、美波が歩み寄ってきてこう言った。
「アキ、補習は明日からみたいだし、今日はクレープでも食べに行きましょうか?」
「え?美波、それは週末って話じゃ……」
2回奢らせようとする美波の発言に慌て始める。
そんなことになってしまったら、次の仕送りまで毎日塩水確定になってしまうからだ。
「だ、ダメです!吉井君は私と映画を観に行くんです!」
「え、姫路さん、2回観に行くってことなの!?」
姫路の誘いで明久は更に慌てる。
そうなると、塩水すら危うくなる。
「西村先生!明日からと言わずに、今日から補習をやりましょう!思い立ったが仏滅です!」
「『吉日』だ、バカ」
「そんなことどうでもいいですから!」
明久は自分の命を守るため、鉄人に提案する。
「うーん、お前にやる気が出たのは嬉しいが……」
鉄人は言葉を区切って、明久と美波と姫路を見る。
「無理することはない。今日だけは存分に遊ぶといい。」
鉄人はニヤニヤと嫌な笑顔で返す。
「おのれ鉄人!僕が苦境にいると知った上での狼藉だな!こうなったら卒業式には伝説の木の下で釘バットを持って貴様を待つ!」
「斬新な告白だな、オイ」
明久が卒業式で鉄人の復讐を誓う。
「アキ!こんな時だけやる気を見せて逃げようったって、そうはいかないからね!」
「吉井君!その前に私と映画です!」
「いやぁぁっ!生活費が!僕の栄養がぁっ!」
明久は明日から公園の水が主食になる事実に悲鳴を上げた。
そんな中、神野は橘に声をかけられていた。
「神野君、今日はどうするの?」
「授業とかなさそうだから、最寄りの図書館で自習する予定だけど?」
「そっか、ファミレスで一緒に勉強教えてくれない?数学とか化学とか。」
「うん、いいよ。」
神野は快諾した。
今回の敗戦で、自分の成績が良いだけじゃダメで、クラスメイトの成績を上げる必要があると思った。
「橘さん。」
「何?」
「次の試召戦争は、成績上げて上位クラスの設備を取ろうね。」
神野の発言に、橘はクスリと笑った。
「頑張る」
その笑顔がとても可愛らしくて、神野は思わず見惚れた。
原作1巻分終了しました!
読んでくださり、ありがとうございます。
いかがでしたか?
本作書いている中で一番反省したのは、原作のジャンルはラブコメなのに、本作はラブ要素がほとんどなかったことです。
一応ヒロインの橘を活躍させる機会が少なかったですし…。
また、バカテスの最大の強みであるテンポのいいギャグを再現できませんでした。
自分が書くことで、井上先生の偉大さを知ることができました。
続編も考えておりますので、これからも応援していてください。
よろしくお願い致します。