カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする   作:Kicks

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神野は明久達と仲良くなり、下の名前で呼び合うようになりました


第2問

「さて。そろそろ春の学園祭、『清涼祭』の出し物を決めなくちゃいけない時期が来たんだがー」

 

異端審問会が終わった後、Fクラス代表の雄二は床にござを敷いて座る明久達を見下ろした。

 

「とりあえず、議事進行並びに実行委員として誰かを任命する。そいつに全権を委ねるので、後は任せた。」

 

雄二は、心の底からどうでもよさそうな態度でそんな宣言をした。

 

試召戦争と違って、興味が無いので人に押し付けて寝ることを計画していたのだ。

 

「吉井君。坂本君って学園祭はあまり好きじゃないんですか?」

 

姫路が明久に話し合いの邪魔にならない程度の小声で明久に話しかけてきた。

 

「直接聞いたわけじゃないからわからないけど、楽しみにしているってことはなさそうだね。興味があるのならもっと率先して動いているはずだから。」

 

「そうなんですか……。寂しいです……。吉井君は興味無いでしょうか?」

 

姫路が一瞬だけ寂しそうな顔をして、明久に上目遣いでのぞき込んでくる。

 

「うーん、どうだろう?別にそこまで何かをやりたいってわけでもないしなぁ。」

 

「私は……吉井君と一緒に、学園祭で思い出を作りたいです。」

 

「ほぇ?」

 

姫路は自分が転校するかもしれないので、転校前に明久と楽しい思い出を作りたいのだ。

 

そんな姫路の発言に、事情を知らない明久は間抜けな声が出てしまった。

 

「その吉井君は知っていますか……?うちの学園祭ではとっても幸せなカップルが出来やすいって噂がーケホッケホッ」

 

姫路が急に口元に手を当てて咳をし始めた。

 

「大丈夫?」

 

「は、はい。すいみません……。」

 

腐った畳から更に設備のランクを落とされた今、この教室内は傷んだござとミカン箱しかない。

机と椅子に比べて格段に疲れるし、不衛生でもある。

身体の弱い姫路が体調を崩してしまうのも当然だった。

 

「そのうち、何とかしないとなぁ……。」

 

姫路が倒れる前に、衛生的な環境と身体に負担をかけない設備を用意しないといけないと明久は思った。

 

「んじゃあ、学園祭実行委員は大輝ということでいいか?」

 

「俺?……悪い、俺は姫路さんと召喚大会に出るからちょっとキツイ。」

 

神野は突然の指名に驚きながらも、難色を示した。

姫路の為にも、召喚大会に優勝する必要があるからだ。

 

「え?大輝、姫路さんと一緒に出場するの?」

 

「はい。神野君と組んで出場するつもりなんです。」

 

姫路は小さな手をぎゅっと握りしめる。

 

「学園の宣伝みたいな行事なのに、二人とも物好きだなぁ。」

 

明久達が通うこの文月学園には、世界的にも注目されている『試験召喚システム』というものがある。

今年はその注目されているシステムを世間に公開する場として、清涼祭の期間中に『試験召喚大会』という企画が催される。

 

「姫路さんに優勝したいと言って誘われてね。」

 

「へー、姫路さんが優勝したいなんて、珍しく燃えてるね。」

 

「はい、お父さんを見返したいのです。皆のことを何もわかっていないくせに、Fクラスっていう理由だけでバカにするんですよ?許せませんっ。」

 

「……。」

 

皆をよく知っている明久もFクラスはバカの集まりだと思っているので、何も言い返せなかった。

 

「だから、Fクラスの俺と組んで、召喚大会で優勝して姫路さんのお父さんの鼻をあかそうってわけだ。」

 

実力学年2位の姫路と実質Aクラス上位の大輝と組めば十分召喚大会で優勝が狙えるので、明久は行動に納得した。

 

「3人とも、こっちの話を続けていいか?」

 

「あ、ごめん雄二。大輝が実行委員になる話だったよね?」

 

「俺は召喚大会でキツイと言ったよね?」

 

「なら、サポートとして副実行委員を選出しよう。それならいいだろう?」

 

雄二が神野を推した理由は、今朝の異端審問会の対応で神野なら問題なくまとめることができると考えたからだ。

 

「それなら、ウチが参加するよ。」

 

橘が立候補する。橘も友達である姫路の転校を阻止したいので、実行委員になって頑張ろうと思ったのだ。

 

「橘さん板書をお願い。俺は議事進行をやるから。」

 

「ん。了解。」

 

橘はボロボロの黒板の前に立ち、かなり短くなったチョークを手に取る。

 

「じゃあ、決めるよ。クラスの出し物でやりたい物があれば挙手してくれる?」

 

神野が告げると、数名が手を挙げた。

 

「はい、土屋君。」

 

「……(スクッ)」

 

名前を呼ばれて立ち上がったのは、ムッツリーニだ。

 

「……写真館」

 

「…土屋の言う写真館って、かなり危険な予感がするんだけど。」

 

橘が思いっきり嫌そうな顔をする。

女性の露出が出るような写真が出てくると思ったのだ。

他のFクラスの女子達も同様の表情をする。

 

「橘さん、一応意見だから黒板に書いてくれない?」

 

「わかったー。」

 

橘は黒板に【写真館『青春の日々』】と書いた。

 

「次は、横溝君。」

 

「メイド喫茶ーと言いたいけど、流石に使い古されていると思うので、ここは斬新にウェデング喫茶を提案します。」

 

「ウェデング喫茶?それってどういうの?」

 

「別に普通の喫茶店だけど、ウェイトレスがウェデングドレスを着ているんだ。」

 

『斬新ではあるな。』

 

『憧れる女子も多そうだ。』

 

『でも、ウェディングドレスって動きにくくないか?』

 

『調達するのも大変だぞ?』

 

『それに、男は嫌がらないか?人生の墓場、とか言うくらいだしな。』

 

横溝の意見に、クラスの中が少しざわめく。

 

「橘さん。今の意見を黒板に書いて。」

 

「うん。」

 

橘は黒板に【ウェディング喫茶『ブライダル』】と書いた。

 

「さて、他に意見はーはい、須川君。」

 

「俺は中華喫茶を提案する。」

 

そう言いながら須川が立ち上がる。

 

「中華喫茶?チャイナドレスでも着せようっていうの?」

 

「いや、違う。俺の提案する中華喫茶は本格的なウーロン茶と簡単な飲茶(ラムチャ)を出す店だ。そうやってイロモノ的な格好をして稼ごうってワケじゃない。」

 

須川の言葉の節々に熱い思いが伝わってくる。

 

「橘さん。それじゃあ、須川君の意見も黒板に書いてくれる?」

 

「りょーかい。」

 

橘は黒板に【中華喫茶『チャイナ』】と書いた。

 

「他に意見は無いよね?ないなら、この3つの中から1つだけ選んで手を上げるように。」

 

神野は決を採りにかかった。

学園祭まであまり時間が無いので、早めに決める必要があると考えたからだ。

 

「まず、写真館に賛成の人。次はウェディング喫茶。最後、中華喫茶。」

 

神野は挙げられた手の本数をカウントして決定する。

 

「Fクラスの出し物は中華喫茶にします。」

 

決定した所で教室の扉がガラガラと音を立てて開き、鉄人が現れた。

 

「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」

 

「決まりました。出し物は中華喫茶になりました。」

 

「それはよかった。」

 

すぐに出し物が決まって、鉄人が軽く頷いていた。

 

「西村先生、質問があります。」

 

「何だ、神野?」

 

「俺は清涼祭で稼いで設備を向上させようと考えているのですが、それってアリですか?」

 

週末で姫路と橘と一緒に考えたことを、神野は聞いてみる。

 

「学園長に聞かないといけないが、まず通るだろう。」

 

鉄人の台詞を聞いて、Fクラスの皆の目が輝き出した。

 

『そうか!その手があったか!』

 

『何も試召戦争だけが設備向上のチャンスじゃないよな!』

 

『いい加減この設備にも我慢の限界だ!』

 

Fクラスの教室内が一気に活気づいた。

 

「み、皆さんっ!頑張りましょう!」

 

姫路は立ち上がって胸の前でグーを握り、やる気を表現していた。

自分の転校を阻止するために、皆の士気を上げようとしているのだ。

 

『出し物はやっぱり変えた方がいいのでは?中華喫茶では目新しさに欠けるしな。』

 

『それなら、初期投資の少ない写真館の方が』

 

『けど、それだと運営委員会の見回りで営業停止処分を受ける可能性もあるぞ。』

 

『ウェデング喫茶は?』

 

『初期投資が大きすぎる。たった2日じゃあ儲けは出ないんじゃないか?』

 

『リスクが高いからこそリターンも大きいはずだ。』

 

皆がやる気になってくれたけど、まとまりがなくなってしまった。

 

「時間があまり無いので、中華喫茶で進めます。」

 

出し物決めになっていきそうな空気の流れを神野が無理矢理変えた。

清涼祭までの残り時間を出し物の準備に当てて、クオリティを上げた方が利益を出る可能性が高いと判断したためだ。

 

「それなら、お茶と飲茶は俺が引き受けるよ。」

 

須川が立ち上がる。

 

「……(スクッ)」

 

須川だけでなくムッツリーニも立ち上がる。

 

「ムッツリーニ、料理なんてできるの?」

 

「……紳士の嗜み。」

 

明久が聞いてきたので、ムッツリーニは返答する。

実際は、チャイナドレス見たさで中華料理店に通っている内に見様見真似でできるようになっただけだが。

 

「まずは厨房班とホール班に分かれるよ。厨房班は須川君と土屋君の所。ホール班は橘さんの所に集まってね。」

 

「それじゃあ、私は厨房班に入ります。怜奈ちゃんと美波ちゃんの特訓の成果を発揮させます!」

 

「瑞希!アンタはホール班よ!」

 

姫路が厨房班に入ろうとしたので、橘は全力で阻止した。

食中毒で終わらせるわけにはいけないからだ。

 

「橘さん、グッチョブ!」

 

「……!(コクコクコク)」

 

破壊力について身を持って知っている明久とムッツリーニが感謝のジェスチャーが飛んだ。

 

「怜奈ちゃん、流石に大丈夫ですよ。あれだけ特訓しましたし。」

 

「先週のお弁当作りの味見で悶絶してたのに、どうしてそんなに自信があるの!?」

 

橘の監視の下で作っても、まだまだ姫路は料理がダメダメだった。

 

「とりあえず、女子全員と木下君はホール班ね。」

 

こうして多少のバタバタはあれど、Fクラスの清涼祭準備が幕を開けることになった。

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