カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする 作:Kicks
明久と雄二が新校舎の一角にある学園長室の前まで来ると、扉の向こうから誰かが言い争っている声が聞こえてきた。
「どうした、明久」
「いや、中で何か話をしているみたいなんだけど」
「つまり中には学園長がいるというわけだな。
無駄足にならなくて何よりだ。さっさと中に入るぞ」
「そうだね…。失礼しまーす!」
明久は学園長室の立派なドアをノックして、雄二を連れて中にずんずんと入っていった。
「本当に失礼なガキどもだねぇ。普通は返事を待つもんだよ」
学園長室内で明久達を迎えたのは、長い白髪が特徴の藤堂カヲル学園長だ。
試験召喚システム開発の中心人物でもある。
研究をしていた人間だからか、随分規格外な所が多い人で有名だ。
「やれやれ。取り込み中だというのに、とんだ来客ですね。
これでは話を続けることもできません。
……まさか、貴女の差し金ですか?」
眼鏡を弄りながら学園長を睨み付けたのは教頭の竹原先生だ。
鋭い目つきとクールな態度で一部の女子生徒には人気が高い。
「馬鹿を言わないでおくれ。どうしてこのアタシがそんなセコイ手を使わなきゃいけないのさ。
負い目があるというわけでもないのに」
「それはどうだが。学園長は隠し事がお得意のようですから」
生徒の明久達にはよくわからない学園の経営と思しきやり取りが行われている。
もし学園の経営ならば生徒達のいる前で話を続けることはできないので、出直した方がいいのか明久は判断に悩んだ。
「さっきから言っているように隠し事なんて無いね。アンタの見当違いだよ」
「……そうですか。そこまで否定されるならこの場はそういうことにしておきましょう。
それでは、この場は失礼させて頂きます」
竹原先生は部屋の隅に一瞬視線を送り、踵を返して学園長室を出て行った。
「んで、ガキども。アンタらは何の用だい?」
学園長は竹原先生との会話を中断されたことを気にする様子もなく、明久達に話を振る。
「今日は学園長にお話があって来ました」
雄二が学園長の前に立ち、話を切り出す。
「私は今それどころじゃないんでね。
学園の経営に関することなら、教頭の竹原に聞きな。
それと、まずは名前を名乗るのが社会の礼儀ってモンだ。覚えておきな」
横柄な態度を取っている学園長に礼儀を説く資格はないと明久は思う。
「失礼しました。俺は2年F組代表の坂本雄二。
それでこっちが2年生を代表するバカです。」
「ほぅ……。そうかい。アンタたちがFクラスの坂本と吉井かい」
「ちょっと待って学園長!僕はまだ名前を言ってませんよね!?」
雄二のあんまりな紹介で明久の名前が連想された事実に明久は泣きそうになった。
「気が変わったよ。話を聞いてやろうじゃないか」
学園長はまるで映画の悪役のように口の端を吊り上げる。
教育者としてあるまじき表情である。
「ありがとうございます」
「礼なんか言う暇があったらさっさと話しな、ウスノロ」
「わかりました、Fクラスの設備について改善を要求しに来ました」
「そうかい。それは暇そうで羨ましいことだね」
「今のFクラスの教室は、まるで学園長の常識のように穴だらけで隙間風が吹き込んでくるような酷い状態です」
雄二の言動が綻び始めた。
「学園長のような戦国時代から生きている妖怪老いぼれならともかく、今の普通の高校生にこの状態は危険です。健康に害を及ぼす可能性が非常に高いと思われます」
キレた雄二の丁寧な口調の中には危険な言葉がちりばめられている。
「要するに、隙間風の吹き込むような教室のせいで体調を崩す生徒が出てくるから、さっさと直せクソババア、というワケです」
慇懃無礼な雄二の説明を受けて、学園長は思案顔になって黙り込んだ。
「あの、学園長……?」
黙り込んだ学園長を見て、明久は腹を立てて雄二の要請が却下されることを恐れた。
「……ふむ、丁度いいタイミングさね……」
「よしよし、お前達の言いたいことがよく分かった」
「え?それじゃ、直してもらえるんですね!」
雄二の直訴が受け入れてくれそうで、明久は安堵する。
「却下だね」
「雄二、このババアをコンクリに詰めて捨ててこよう」
「……明久。もう少し態度には気を遣え」
「まったく、このバカが失礼しました。
どうか理由をお聞かせ願えますか、ババア」
「そうですね。教えてください、ババア」
「……お前達、本当に聞かせてもらいたいと思っているのかい?」
学園長があきれ顔で明久達を見る。
「理由も何も、設備に差をつけるのはこの学園の教育方針だからね。
ガタガタ抜かすんじゃないよ、なまっちろいガキども」
「それは困ります!そうなると、僕らはともかく身体の弱い子が倒れて」
「——と、いつもなら言ってるんだけどね」
明久の台詞を遮り、学園長が顎に手を当てて続きを話し始める。
「可愛い生徒の頼みだ。こちらの頼みも聞くなら、相談に乗ってやろうじゃないか」
「……」
その発言を聞いて、雄二が口元に手を当てて考え始めた。
「その条件って何ですか?」
雄二が黙り込んだので、明久が前に出て話を促す。
「清涼祭で行われる召喚大会は知ってるかい?」
「えぇ、まぁ」
「じゃ、その優勝賞品と準優勝賞品は知ってるかい?」
「え?賞品?」
明久は大会に出場する気が無かったので、商品があること自体知らなかったのだ。
「正賞として、優勝者には『白金の腕輪』、準優勝者には『白銅の腕輪』。
副賞には『如月ハイランド プレオープンプレミアムペアチケット』が容易してあるのさ」
ペアチケットの話を聞いて、雄二がピクッと反応した。
「はぁ……。それと交換条件に何の関係があるんですか?」
「話は最後まで聞きな。慌てるナントカは貰いが少ないって言葉を知らないのか?」
「知らないです。」
即答する明久に、学園長は思わずため息をつき、説明をする。
「この副賞のペアチケットなんだけど、ちょっと良からぬ噂を聞いてね。
できれば回収したいのさ」
「回収?それなら、商品に出さなければいいじゃないですか」
「そうできるならしているさ。
けどね、この話は教頭が進めたとは言え、文月学園として如月グループと行った正式な契約だ。
今更覆すわけにはいかないんだよ」
「契約する前に気付いてくださいよ。学園長なんだから」
「うるさいガキだね。腕輪の開発で手一杯だったんだよ。
それに、悪い噂を聞いたのはつい最近だしね」
口調とは裏腹に若干責任を感じているらしく、学園長は眉をしかめながら話した。
「それで、悪い噂ってのは何ですか?」
つまらない内容なんだけどね、と学園長は前置きして口を開いた。
「如月グループは如月ハイランドに1つのジンクスを作ろうとしているのさ。
『ここを訪れたカップルは幸せになれる』っていうジンクスをね」
「そのジンクスを作る為に、プレミアムチケットを使ってやって来たカップルを結婚までコーディネートするつもりらしい。
企業として、多少強引な手段を用いてもね」
「な、何だと!?」
雄二が突然大声を上げた。
「どうしたのさ、雄二。そんなに慌てて」
「慌てるに決まっているだろう!
今ババアが言ったことは、『プレオープンプレミアムペアチケットでやってきたカップルを如月グループの力で強引に結婚させる』ってことだぞ!?」
「う、うん。言い直さなくてもわかってるけど」
雄二は思いっきりうろたえている。
「そのカップルを出す候補が、我が文月学園ってわけさ」
「くそっ。うちの学校は何故か美人揃いだし、試験召喚システムという話題性もたっぷりだからな。
学生から結婚までいけばジンクスとしては申し分ないし、如月グループが目を付けるのも当然ってことか」
雄二が悔しげに唇を噛む。
「ふむ。流石は神童と呼ばれただけはあるね。
頭の回転はまずまずじゃないか」
学園長は雄二の独白を受けて頷く。
「雄二、とりあえず落ち着きなよ。
如月グループの計画は別にそこまで悪い事でもないし、第一僕らはその話を知っているんだから、行かなければ済む話しじゃないか」
「……絶対にアイツは参加して、優勝を狙ってくる……。
行けば結婚、行かなくても『約束を破ったから』と結婚……。
俺の、将来は……!」
この前、雄二は霧島にプレオープンチケットが手に入ったら一緒に行ってやるって約束したのだ。
しかも、もし破ったら婚姻届に判を押してもらうという条件で。
霧島がチケットを入手したら、雄二は霧島との結婚が確定してしまう。
「ま、そんなワケで、本人の意思を無視して、うちの可愛い生徒の将来を決定しようっていう計画が気に入らないのさ」
「つまり交換条件ってのは———」
「そうさね。『召喚大会の賞品』と交換。
それができるなら、教室の改修くらいしてやろうじゃないか。
無論、優勝者達から強奪や譲渡はダメだよ。お前達に召喚大会で優勝しろっていう意味だよ」
「学園長、つまりそれは優勝と準優勝を2年Fクラスが独占しろっていうことか?姫路と大輝と協力して」
「そう。それも優勝者はお前らがやれってことだよ。
言い出しっぺが優勝するっていうのが筋だからさね」
この発言を聞いて、雄二が顎に手をあて考え始めた。
雄二が話せそうにないので、明久が対応することにする。
「……僕たちが優勝したら、教室の改修と設備の向上を約束してくれるんですよね?」
「何を言ってるんだい。やってやるのは教室の改修だけ。
設備についてはうちの教育方針だ。変える気はないよ」
ある意味当然の対応だった。
こんな取引で設備を導入したら、他のクラスの人達は納得しないからだ。
「ただし、清涼祭で得た利益で何とかしようっていう話は別だよ。
特別に今回だけは勝手に設備を変更することに目を瞑ってやってもいい」
本来なら学園の方針だから自分達でお金を出して設備を変えることすら許さないが、取引に応じるなら目を瞑ってくれるという学園長からの提案だ。
「わかりました。この話、受けます」
「そうかい。それなら交渉成立だね」
雄二の返答を聞いて、学園長は『計画通り』といった顔をしてニヤリと笑った。
「ただし、こちらからも2つ提案がある」
話がまとまったので、明久が教室に戻ろうと思った所で雄二が学園長に話しかける。
「何だい?言ってみな」
「まず1つ目、俺・明久ペアと大輝・姫路ペアが決勝戦に当たるようにしてほしい。
じゃないと、俺達Fクラスが優勝と準優勝を独占なんてできないからな」
ある意味当然の条件だった。
決勝以外で戦うことになったら、優勝・準優勝の独占は不可能だからだ。
「まあ、当然の条件さね。いいだろう。2つ目は?」
「対戦表が決まったら、その科目の指定を俺にやらせてもらいたい」
雄二は何故か学園長の反応を試しているかのように鋭い目つきをしていた。
「ふむ……。いいだろう。
点数の水増しとかだったら一蹴していたけど、それ位なら協力しようじゃないか」
「……ありがとうございます」
雄二の目つきが更に鋭くなった。
まるで、自分の考えが当たったような顔をしていた。
「さて。そこまで協力するんだ。当然召喚大会で、優勝するんだろうね?」
「無論だ。俺達を誰だと思っている?」
学園長が念を押してきたので、雄二が不敵な笑みで返した。
この雄二の表情は試召戦争の時にも見た、やる気前回の表情だ。
「絶対に優勝して見せます。
そっちこそ約束を忘れないように」
明久もやる気は全開だ。
問題解決の手段がはっきりして、やるべきことをやるだけだからだ。
「それじゃ、ボウズども。任せたよ」
「「おうよっ!」」
かくして、文月学園最低コンビが誕生することになった。