カンニングの濡れ衣を着せられた秀才が試召戦争で大暴れする 作:Kicks
「おっはよーう、ってまだ誰もいないか」
「よ、吉井君!?」
「あれ?姫路さん?」
清涼祭数日前、明久が準備の手伝いをするために、いつもより2時間ほど早起きして教室に入ったのだが、いかんせん早すぎてFクラス教室には姫路以外いなかった。
「どどどどうしたんですが?」
姫路は何か慌てていたので、明久は姫路のミカン箱を見る。
ミカン箱の上には可愛らしい便箋と封筒が置いてあった。
「あ、あのっこれはっ」
明久にはまるで神野に宛てる為のラブレターに使うような便箋と封筒が用意されているように見えた。
『現実を見ろ。明らかにラブレターだ』
明久の脳内悪魔が明久に話しかける。
しかし、これはラブレターであるという証拠がないと明久は自分の脳内悪魔に言い聞かせる。
「これはですね、そのっ」
「うんうん。わかってる。大丈夫だよ」
「えっと———ふあっ」
姫路さんはミカン箱につまずいて転ける。
その拍子に隠そうとしていた手紙が明久の前に飛んできて、その一文が目に入る。
≪あなたのことが好きです≫
「…………」
『……これ以上ない物的証拠だと思うが』
「……」
『わかっただろう?これが現実だよ』
「……」
『さ、諦めようぜ?』
明久は飛んできた手紙を綺麗にたたみ、姫路に返す。
そして、姫路を気遣うように笑顔で返す。
「替わった不幸の手紙だね」
『コイツ認めない気だ!』
明久は自分の脳内悪魔の考えを否定した。
ただの現実逃避だ。
「あ、あの、それはそれですごく困る勘違いなんですけど……」
「そんなことをしないでも、言ってくれたら僕が直接手を下してあげるのに。ああ大丈夫。スタンガンなら隣のクラスの山下君に借りてくるから」
「吉井君。これは不幸の手紙じゃないですから」
「嘘だ!それは不幸の手紙だ!実際に僕はこんなにも不幸な気分になっているんじゃないか!」
「吉井君」
明久が子供のように手を振り回していると、姫路が彼を抑えようとして彼の手を握った。
明久は心が落ち着き、望まない現実が彼の中に浸透し始める。
「仕方ない。現実を認めよう……」
明久はがっくりと膝をついた。
宛名は神野か気になって、明久は姫路に聞いてみる。
「その手紙、相手はウチのクラスの———」
「……はい。クラスメイトです」
姫路は顔を真っ赤にしながら迷いなく答える。
姫路が想っている相手は神野だろうと明久は勘違いしてしまった。
性格も成績もいい上に、召喚大会で姫路のペアになったのだから明久がそう考えても仕方ない。
「……そっか。でも、あいつのどこがいいの?そりゃ確かに、外見は悪くないと思うけど」
「あ、いえ。外見じゃなくて、あっ、勿論外見も好きですけど!」
「憎いっ!あの男が心底憎い!」
「そう、ですか……?」
「うん。外見に自信のない僕には羨ましくて」
「え?どうしてですか!?とっても格好いいですよ!私の友達も結構騒いでいましたし!」
「え?ホント?」
「はい。よくわからないですけど、坂本君や神野君と2人でいる姿を見ては『2人が歩いているのって絵になるよね』ってよく言っていました」
「良い友達だね。仲良くしてあげてね」
「『やっぱり吉井君が受けなのかな?』とも」
「前言撤回。その友達とは距離をおこう。姫路さんにはまだちょっと早いと思う」
明久は同性愛のネタにされていることを知り、吐き気を覚えた。
「それにしても、外見もってことは、中身がいいの?」
「あ、えーっと……はい……」
「そうだね。確かにいい奴だよね……」
勉強を教えてくれたり、クラスメイトの転校を阻止するために動いてくれる神野は確かにいい奴だと明久は認めた。
「優しくて、明るくて、いつも楽しそうで……私の憧れなんです」
姫路の真剣な口調からは、茶化すなんてできそうにもない程の強い想いが感じられた。
「その手紙」
「は、はい」
「いい返事が貰えるといいね」
明久はとても邪魔なんてできなかった。
むしろそこまで好きになった相手なら、クラスメイトとして応援してあげたいくらいだ。
「はいっ!」
嬉しそうに笑う姫路は本当に魅力的で、明久は神野を心の底から羨ましく思った。
☆
「……大輝」
「どうしたの?明久」
清涼祭3日前。
神野は鉄人に許可をもらったため、明久と協力して清涼祭で使う机と椅子を取りに行ったのだ。
テーブルクロスを用いて汚いミカン箱で立派なテーブルにするという秀吉の案も出ていたが、万が一ばれた時の風評被害を考えると空いている机や椅子を借りた方がいいと思ったのだ。
重いテーブルは鉄人の監督の元、明久が召喚獣を喚び出して運んでいる。
「姫路さんの事をどう想っている?」
明久は姫路が想っている相手が神野だと考えているので、神野が姫路の事をどう想っているか確認したいのだ。
「勉強が出来て、すごいなと思っているけど」
神野は明久の真意に気付かずに、無難に返す。
「そうじゃなくて、可愛いかどうかという事だよ?」
それを聞いて、神野はどう返すか悩んだ。
かつて、恋バナでえらい目に遭ったことがあったからだ。
クラスメイトに可愛いか?って聞かれ、可愛いと素直に返したら、その女の子の事が好きなんだと有る事無い事言いふらされた。
仕方がないので次は可愛くないと返したら、今度は可愛くないと本人に伝えられてしまいその女の子に死ぬほど睨まれた。この時に可愛い女の子は怒ると迫力があるという事を身を持って知った。
考え抜いた結果、神野は回答する。
「姫路さんは、俺よりも身長が低いので、身長が可愛いなとは思っているよ」
ぼかした回答をした神野に明久は業を煮やし、ストレートな質問をする。
「……じゃあ、姫路さんと付き合いたいって思っている?」
「付き合うのは無理だと思う」
「なんで!?あんなに可愛いのに!?」
「…………」
神野は明久の質問を聞いて思わず困った顔をした。
なぜなら、姫路が想っている相手は明久である為、たとえ姫路に告白したとしてもフラれるのがオチと考えているからだ。
しかし、その事を伝えるのは姫路に悪いと思っているので明久に伝えられない。
仕方がないので、神野は別の切り口で返すことにする。
「付き合ったら、Fクラスの皆に殺されるからね」
「…………そうだね、確かに無理だね」
「姫路さんだからという以前の問題だよ」
神野の回答に明久は納得してしまった。
もし神野に彼女が出来たら、間違いなくFクラスに処刑されるのは事実だからだ。
「だから、彼女を作ることはできないよ。それよりも明久、召喚大会の事は大丈夫?決勝まで勝ち上がらないといけないと聞いているんだけど」
「うーん。まあ、何とかするよ。雄二が」
「そんな人任せにして良いのか……」
「雄二が作戦立ててくれるからね。それに、ほとんどの週末に大輝達と勉強しているので、成績が上がっているから、何とかなるよ」
「そうであることを願うよ」
神野はお菓子を餌に、明久を巻き込んで橘と一緒に図書館で勉強しているため、明久の成績は上がっていた。
「とりあえず、俺と姫路ペアは何とか勝ち進めるから、そっちはそっちで頑張ってね。必要なら可能な限り協力するから」
「わかったよ、大輝」
明久は神野と雑談しながら、清涼祭の準備作業を進めていった。